77 / 122
何だか全部夢だったみたいだ
しおりを挟む
「見たところ問題なさそうですけど、念のため保健室で詳しく調べましょう」
保険医の先生がサルファー先輩を促す。
「すみません、ちょっとだけいいですか?」
サルファー先輩が先生に断りを入れて俺の側へやって来た。
「シュン、俺達が最初に出会った場所、覚えているか?」
「はい。練習場ですよね」
「放課後、そこのベンチで待っていてくれないか? 渡したいものがあるんだ」
大きな手が俺の手を包み込むようにそっと握る。真剣な光を宿した黄色の瞳に胸がとくりと跳ねた。
「……分かりました。待ってます、俺」
「シュン……」
「はいはーい。その為にもちゃんと治療しようねー」
陽気な声が俺とサルファー先輩の間に割って入る。ソレイユ先輩だ。引き締まった長い腕が先輩の肩をガシリと掴み、無理やり二人三脚の状態で引き摺っていく。
「ちょっソル! 一人で歩けるぞ俺は! おいっ聞いているのか!?」
「元気だなー……先輩達」
ダンが俺を後ろから抱き締めながら呟いた。
放課後、俺はダンとグレイ先生と別れて練習場のベンチに一人座っていた。
ダンは俺が一人でいることにあまりいい顔をしていなかったが、何かあったら連絡する、と説得するとしぶしぶ了承してくれた。
障壁が壊れてしまった事を先生に謝ると、真っ青な顔をして抱き締められ逆に何度も謝られてしまった。
もっと強固な術を施す為、ブレスレットは一時的に先生が預かることとなり、次はもっと早く駆け付けるからね、と約束してもらえた。
ぼんやりと赤く染まっていく空を眺めていると……今日あったことが、まるで夢でも見ていたかのように錯覚してしまう。
「すまない、遅くなってしまったな」
待ち人の声が頭上から降ってきた。サルファー先輩が俺の隣に腰掛ける。
その額には、やはり先程と同じ……いや、それ以上に厳重に包帯が巻かれていて、否が応でも現実だったのだと思い知らされる。
「先輩、その頭……」
「あぁ、これか。少し切れただけだというのに大げさだろう?」
あっけらかんと笑う先輩が俺の頭を宥めるように撫でてくれる。安心させてくれようとしてる……それは、分かる。でも俺は、聞かずにはいられなかったんだ。
「……本当に大丈夫なんですか?」
返ってきたのはまたしても爽やかな微笑みだった。内容は、とてもじゃないが笑えなかったけど。
「これくらいの怪我、俺達にとっては日常茶飯事だよ。昔ソルと一騎討ちした時なんか吹っ飛ばされてうっかり壁に激突したこともあったからな」
「大丈夫だったんですか!?」
「今日と同じだ。少しふらついたが、かすり傷ですんだよ。それ以来、ソルが俺に手心を加えることはなくなってしまったがな」
先輩が遠い目をしながら苦笑する。
「だからもうそんな顔をするな。君の笑顔が俺は好きだ。だから笑ってくれないか?」
保険医の先生がサルファー先輩を促す。
「すみません、ちょっとだけいいですか?」
サルファー先輩が先生に断りを入れて俺の側へやって来た。
「シュン、俺達が最初に出会った場所、覚えているか?」
「はい。練習場ですよね」
「放課後、そこのベンチで待っていてくれないか? 渡したいものがあるんだ」
大きな手が俺の手を包み込むようにそっと握る。真剣な光を宿した黄色の瞳に胸がとくりと跳ねた。
「……分かりました。待ってます、俺」
「シュン……」
「はいはーい。その為にもちゃんと治療しようねー」
陽気な声が俺とサルファー先輩の間に割って入る。ソレイユ先輩だ。引き締まった長い腕が先輩の肩をガシリと掴み、無理やり二人三脚の状態で引き摺っていく。
「ちょっソル! 一人で歩けるぞ俺は! おいっ聞いているのか!?」
「元気だなー……先輩達」
ダンが俺を後ろから抱き締めながら呟いた。
放課後、俺はダンとグレイ先生と別れて練習場のベンチに一人座っていた。
ダンは俺が一人でいることにあまりいい顔をしていなかったが、何かあったら連絡する、と説得するとしぶしぶ了承してくれた。
障壁が壊れてしまった事を先生に謝ると、真っ青な顔をして抱き締められ逆に何度も謝られてしまった。
もっと強固な術を施す為、ブレスレットは一時的に先生が預かることとなり、次はもっと早く駆け付けるからね、と約束してもらえた。
ぼんやりと赤く染まっていく空を眺めていると……今日あったことが、まるで夢でも見ていたかのように錯覚してしまう。
「すまない、遅くなってしまったな」
待ち人の声が頭上から降ってきた。サルファー先輩が俺の隣に腰掛ける。
その額には、やはり先程と同じ……いや、それ以上に厳重に包帯が巻かれていて、否が応でも現実だったのだと思い知らされる。
「先輩、その頭……」
「あぁ、これか。少し切れただけだというのに大げさだろう?」
あっけらかんと笑う先輩が俺の頭を宥めるように撫でてくれる。安心させてくれようとしてる……それは、分かる。でも俺は、聞かずにはいられなかったんだ。
「……本当に大丈夫なんですか?」
返ってきたのはまたしても爽やかな微笑みだった。内容は、とてもじゃないが笑えなかったけど。
「これくらいの怪我、俺達にとっては日常茶飯事だよ。昔ソルと一騎討ちした時なんか吹っ飛ばされてうっかり壁に激突したこともあったからな」
「大丈夫だったんですか!?」
「今日と同じだ。少しふらついたが、かすり傷ですんだよ。それ以来、ソルが俺に手心を加えることはなくなってしまったがな」
先輩が遠い目をしながら苦笑する。
「だからもうそんな顔をするな。君の笑顔が俺は好きだ。だから笑ってくれないか?」
10
お気に入りに追加
222
あなたにおすすめの小説
彼の至宝
まめ
BL
十五歳の誕生日を迎えた主人公が、突如として思い出した前世の記憶を、本当にこれって前世なの、どうなのとあれこれ悩みながら、自分の中で色々と折り合いをつけ、それぞれの幸せを見つける話。
スキルも魔力もないけど異世界転移しました
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
なんとかなれ!!!!!!!!!
入社四日目の新卒である菅原悠斗は通勤途中、車に轢かれそうになる。
死を覚悟したその次の瞬間、目の前には草原が広がっていた。これが俗に言う異世界転移なのだ——そう悟った悠斗は絶望を感じながらも、これから待ち受けるチートやハーレムを期待に掲げ、近くの村へと辿り着く。
そこで知らされたのは、彼には魔力はおろかスキルも全く無い──物語の主人公には程遠い存在ということだった。
「異世界転生……いや、転移って言うんですっけ。よくあるチーレムってやつにはならなかったけど、良い友だちが沢山できたからほんっと恵まれてるんですよ、俺!」
「友人のわりに全員お前に向けてる目おかしくないか?」
チートは無いけどなんやかんや人柄とかで、知り合った異世界人からいい感じに重めの友情とか愛を向けられる主人公の話が書けたらと思っています。冒険よりは、心を繋いでいく話が書きたいです。
「何って……友だちになりたいだけだが?」な受けが好きです。
6/30 一度完結しました。続きが書け次第、番外編として更新していけたらと思います。
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
人生イージーモードになるはずだった俺!!
抹茶ごはん
BL
平凡な容姿にろくでもない人生を歩み事故死した俺。
前世の記憶を持ったまま転生し、なんと金持ちイケメンのお坊ちゃまになった!!
これはもう人生イージーモード一直線、前世のような思いはするまいと日々邁進するのだが…。
何故か男にばかりモテまくり、厄介な事件には巻き込まれ!?
本作は現実のあらゆる人物、団体、思想及び事件等に関係ございません。あくまでファンタジーとしてお楽しみください。
運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました
十夜 篁
BL
初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。
そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。
「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!?
しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」
ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意!
「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」
まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…?
「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」
「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」
健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!?
そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。
《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》
【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています
Q.親友のブラコン兄弟から敵意を向けられています。どうすれば助かりますか?
書鈴 夏(ショベルカー)
BL
平々凡々な高校生、茂部正人«もぶまさと»にはひとつの悩みがある。
それは、親友である八乙女楓真«やおとめふうま»の兄と弟から、尋常でない敵意を向けられることであった。ブラコンである彼らは、大切な彼と仲良くしている茂部を警戒しているのだ──そう考える茂部は悩みつつも、楓真と仲を深めていく。
友達関係を続けるため、たまに折れそうにもなるけど圧には負けない!!頑張れ、茂部!!
なお、兄弟は三人とも好意を茂部に向けているものとする。
7/28
一度完結しました。小ネタなど書けたら追加していきたいと思います。
真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる