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【番外編】灯台は気づけない(後編)
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そもそも俺が言い出しっぺだし、勝負にだって負けちゃったんだし。だから完全に自業自得っていうか、仕方がないんだけどさ。
いつもは一日の大半を、二人と居間で過ごしているから狭く感じるはずなのに。久々に一人っきりで過ごす自室はとても静かで、何故か広く感じてしまう。
小さめだけど、真っ赤な色が気に入ったから買ったこのソファーさえも。
「……十分って、こんなに長かったっけ」
手のひらにぽつんと収まっている、セイとお揃いの金の懐中時計にどんなに睨みをきかせても、真剣に念を込めても一切速く進むことなく。正確に刻み続けている秒針は、まだ2周しか回っていないっていうのに、もう、後悔してる。
胸が潰れてしまいそうな寂しさで、心が折れてしまいそうになっている。
なんなら、心配そうにしていた二人の姿が、扉の向こうへと見えなくなってしまっただけで、少し泣いてしまいそうだったし。
……俺達の為に、料理をしてくれるサトルちゃんを待っている時間は何時間だって、思わず鼻歌を歌っちゃうくらい楽しく過ごせるのになぁ……だから、十分くらい楽勝じゃんって思ってたのにな。
「……あ、そっか。一人じゃないじゃん」
いつも隣に居てくれているのが、声を掛ければすぐに返ってきてくれるのが当たり前だったから。当たり前すぎたから、気づかなかった。
「バカだなぁ……俺」
「え、ソウはすっごく物知りだよ?」
「絵も上手いし、足も速いな」
聞こえるはずのない、可愛らしい声と穏やかな低めの声。思わず勢いよく顔を上げた先には、会いたくて仕方がなかった二人がいて。あふれそうになっていたものを、うっかり、こぼしそうになってしまった。
「っ……なんで? 二人とも……まだ、時間……過ぎてないじゃん」
目元にじわりと滲んでしまっていたものを、慌てて拭った俺を、きょとんと見つめていた赤と金色の瞳が、どこか照れくさそうに細められる。
俺を挟むみたいに、右にちょこんとサトルちゃんが、左にどっしりとセイが腰掛けて、あんなに広かったはずのソファーが一気に狭くなった。
「やっぱりなんか、寂しいってゆーか、落ち着かないってゆーか……ねぇ?」
小さな手が俺に重なり、繋いでくれて、ふにゃりとはにかむ。
「ああ、3人一緒が当たり前になっているからな」
少しだけ俺より大きな手が、頭をぽん、ぽんっと撫でてくれながら、微笑みかけてくれる。
「えー…………ふふ、なにそれ」
ほんのさっきまであったはずの寂しさが、二人の温もりに挟まれ溶けて、消えていく。
「仕方がないなぁ……セイも、サトルちゃんも、寂しがり屋さんなんだから」
恥ずかしさが邪魔をして素直になれず、自分のことを棚に上げてしまった俺を、
「うんっ! だからさ、二人ぼっちは止めにしない?」
「少し早いが、おやつにしないか? 今日はお饅頭らしいぞ」
広いはずなのに何故か狭い、温かく賑やかな場所へと、手を繋いで連れて行ってくれた。
◇
「で? いつまで僕は、君達の仲良しこよし話を聞かされてなきゃいけないわけ?」
俺達の頭の中に直接響く、腐れ縁の声は何故かとても呆れた様子で。今にもヤツの悪癖である、指の先で小刻みに、執拗にテーブルを叩く音が聞こえてきそうだ。
「だって大事なことじゃんっ! ビッグニュースじゃんっ! 俺達いつの間にか、3人で一つになれてたんだよっ!!」
生まれた時から一緒にいるセイは当然だけど、俺達の大事なお嫁さんであるサトルちゃんとも。3人で一緒に居ることが当たり前になっていただなんて、それだけ仲良くなれていただなんて。
とても素敵で、飛び上がっちゃうくらい嬉しいことなのにっ!!
「あーうん……そうだね、よかったね」
あからさまに棒読みで、面倒くさそうなその声色から、念話だっていうのに。黙ってさえいれば、そこそこ綺麗な顔をくしゃりと歪めているタツミの姿が、目に浮かんできてしまう。
「もっとこう、ないの? おめでとうっとかさぁー」
「はいはい……おめでとう、おめでとう。ほら、満足したかい? じゃあ、またね」
「あっ、ちょっ……たーつーみー」
「切れちゃったな」
あしらうように突然、切られてしまった念話に無意識のうちに、頬を膨らませてしまっていたみたい。ぐっすり眠っているサトルちゃんを、撫でていたはずの青い指が、相変わらずふぐみたいだな、とくすくす笑いながらつついてくる。
「なんなの? セイまでさー」
サトルちゃんを起こさないように注意して、お返しに逞しい腕を尻尾でぺしぺし叩いても、
「はは、ごめんな、悪かったって」
くすぐったそうに笑うだけで、びくともしない。
ホンっとなんで、生まれた時は同じはずだったのに、いつの間にか俺より少しだけ。ほんのちょっぴりだけ、縦にも横にもガッシリ大きくなっちゃったかなぁ……
「もー……」
「ん……セイ? ソウ?」
少し掠れた、ぽやぽやとした声が俺達の名前を呼んで、まだちゃんと開けていない真っ赤な瞳に俺達が映る。
「ああ、ごめんな。起こしちゃって」
「さーとーるーちゃんっ! おはようっ! 今日もとびきり可愛いね」
たったそれだけのことが、太陽みたいに眩しい笑顔と一緒におはようって返ってきてくれることが。
心も身体も、弾んじゃうくらいに嬉しくて……このこともタツミに報告しないと、とセイに言ったら。ちょっと困ったように、でも、とても嬉しそうに笑っていた。
いつもは一日の大半を、二人と居間で過ごしているから狭く感じるはずなのに。久々に一人っきりで過ごす自室はとても静かで、何故か広く感じてしまう。
小さめだけど、真っ赤な色が気に入ったから買ったこのソファーさえも。
「……十分って、こんなに長かったっけ」
手のひらにぽつんと収まっている、セイとお揃いの金の懐中時計にどんなに睨みをきかせても、真剣に念を込めても一切速く進むことなく。正確に刻み続けている秒針は、まだ2周しか回っていないっていうのに、もう、後悔してる。
胸が潰れてしまいそうな寂しさで、心が折れてしまいそうになっている。
なんなら、心配そうにしていた二人の姿が、扉の向こうへと見えなくなってしまっただけで、少し泣いてしまいそうだったし。
……俺達の為に、料理をしてくれるサトルちゃんを待っている時間は何時間だって、思わず鼻歌を歌っちゃうくらい楽しく過ごせるのになぁ……だから、十分くらい楽勝じゃんって思ってたのにな。
「……あ、そっか。一人じゃないじゃん」
いつも隣に居てくれているのが、声を掛ければすぐに返ってきてくれるのが当たり前だったから。当たり前すぎたから、気づかなかった。
「バカだなぁ……俺」
「え、ソウはすっごく物知りだよ?」
「絵も上手いし、足も速いな」
聞こえるはずのない、可愛らしい声と穏やかな低めの声。思わず勢いよく顔を上げた先には、会いたくて仕方がなかった二人がいて。あふれそうになっていたものを、うっかり、こぼしそうになってしまった。
「っ……なんで? 二人とも……まだ、時間……過ぎてないじゃん」
目元にじわりと滲んでしまっていたものを、慌てて拭った俺を、きょとんと見つめていた赤と金色の瞳が、どこか照れくさそうに細められる。
俺を挟むみたいに、右にちょこんとサトルちゃんが、左にどっしりとセイが腰掛けて、あんなに広かったはずのソファーが一気に狭くなった。
「やっぱりなんか、寂しいってゆーか、落ち着かないってゆーか……ねぇ?」
小さな手が俺に重なり、繋いでくれて、ふにゃりとはにかむ。
「ああ、3人一緒が当たり前になっているからな」
少しだけ俺より大きな手が、頭をぽん、ぽんっと撫でてくれながら、微笑みかけてくれる。
「えー…………ふふ、なにそれ」
ほんのさっきまであったはずの寂しさが、二人の温もりに挟まれ溶けて、消えていく。
「仕方がないなぁ……セイも、サトルちゃんも、寂しがり屋さんなんだから」
恥ずかしさが邪魔をして素直になれず、自分のことを棚に上げてしまった俺を、
「うんっ! だからさ、二人ぼっちは止めにしない?」
「少し早いが、おやつにしないか? 今日はお饅頭らしいぞ」
広いはずなのに何故か狭い、温かく賑やかな場所へと、手を繋いで連れて行ってくれた。
◇
「で? いつまで僕は、君達の仲良しこよし話を聞かされてなきゃいけないわけ?」
俺達の頭の中に直接響く、腐れ縁の声は何故かとても呆れた様子で。今にもヤツの悪癖である、指の先で小刻みに、執拗にテーブルを叩く音が聞こえてきそうだ。
「だって大事なことじゃんっ! ビッグニュースじゃんっ! 俺達いつの間にか、3人で一つになれてたんだよっ!!」
生まれた時から一緒にいるセイは当然だけど、俺達の大事なお嫁さんであるサトルちゃんとも。3人で一緒に居ることが当たり前になっていただなんて、それだけ仲良くなれていただなんて。
とても素敵で、飛び上がっちゃうくらい嬉しいことなのにっ!!
「あーうん……そうだね、よかったね」
あからさまに棒読みで、面倒くさそうなその声色から、念話だっていうのに。黙ってさえいれば、そこそこ綺麗な顔をくしゃりと歪めているタツミの姿が、目に浮かんできてしまう。
「もっとこう、ないの? おめでとうっとかさぁー」
「はいはい……おめでとう、おめでとう。ほら、満足したかい? じゃあ、またね」
「あっ、ちょっ……たーつーみー」
「切れちゃったな」
あしらうように突然、切られてしまった念話に無意識のうちに、頬を膨らませてしまっていたみたい。ぐっすり眠っているサトルちゃんを、撫でていたはずの青い指が、相変わらずふぐみたいだな、とくすくす笑いながらつついてくる。
「なんなの? セイまでさー」
サトルちゃんを起こさないように注意して、お返しに逞しい腕を尻尾でぺしぺし叩いても、
「はは、ごめんな、悪かったって」
くすぐったそうに笑うだけで、びくともしない。
ホンっとなんで、生まれた時は同じはずだったのに、いつの間にか俺より少しだけ。ほんのちょっぴりだけ、縦にも横にもガッシリ大きくなっちゃったかなぁ……
「もー……」
「ん……セイ? ソウ?」
少し掠れた、ぽやぽやとした声が俺達の名前を呼んで、まだちゃんと開けていない真っ赤な瞳に俺達が映る。
「ああ、ごめんな。起こしちゃって」
「さーとーるーちゃんっ! おはようっ! 今日もとびきり可愛いね」
たったそれだけのことが、太陽みたいに眩しい笑顔と一緒におはようって返ってきてくれることが。
心も身体も、弾んじゃうくらいに嬉しくて……このこともタツミに報告しないと、とセイに言ったら。ちょっと困ったように、でも、とても嬉しそうに笑っていた。
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