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【番外編】灯台は気づけない(前編)

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 どんなものでも必ず仲良く二人で分ける。

 その約束は、俺達にとってごく自然に交わされたもので。今となっては、朝起きて歯磨きをすることと同じように一種のルーティーンになっていることで。

 だから、言われるまで気づかなかったのは勿論のこと、そういった考えにすら及んでいなかったんだ。


「君達ってさぁ……お互い、たまにはサトルちゃんと二人っきりになりたいとか思わないわけ?」

 俺達の頭の中に直接響く、昔馴染みの声はあからさまに呆れたご様子。今にも彼の手癖の音が、細長い爪でコツコツと真珠で出来たテーブルを、一定のリズムで叩く音が聞こえてきそうだ。

 サトルの両親の件で彼、タツミと密かに連絡を取り合うようになり。それからなんとなく定期的に続いている、早朝の情報交換。

 もとい他愛もない雑談の中でも、今しがた投げかけられた疑問はトップクラスに突拍子もないというか、見当もつかないというか。

 それは片割れも一緒だったらしい。俺と同じ金色の瞳を丸くして、俺達の間ですやすやと可愛らしい寝息を立てているサトルをちらりと見てから、俺へと。困ったような、戸惑っているような視線を向けてきた。

「俺達は二人で一つだからな。そもそも互いに離れるという選択肢が存在していないというか……」

「あーそれそれっ俺もセイと同じこと考えてたっ」

 自分の思いに当てはまる所があったのだろう。はいはいと元気よく筋肉質の腕を上げたソウに対して、

「いや、君は彼の意見に乗っかっただけだろう」

 さっきよりも低くなったタツミの声が、頭の中でピシャリと響く。相変わらず切れのいいツッコミだ。

「ちーがーいーまーすー咄嗟に言葉で表現出来なかっただーけーでーすー」

「やっぱり乗っかったんじゃないか」

 わいわい、ぎゃーぎゃーと盛り上がっている、仲がいい二人のやり取りに耳を傾けつつ。いまだ夢の中にいる、愛しい俺達のサトルの髪を撫でていると突然、もの凄い力で裾をぐいぐいと引っ張られる。

 ベッドの上には俺達3人だけ。となれば該当者は一人しかいないわけで……

「いつだって俺達一緒だもんっ! だから当然、思ってることも一緒に決まってんじゃん、ね? セイ」

 案の定、視線を向けた先でかち合ったのは、無邪気に細められた金色だった。

「ああ、いついかなる時も俺達は一緒だ」

 今更、当たり前のことを聞いてきた片割れに、俺の気持ちをそのまま伝える。

 念話なのだから、俺達の姿は向こうには見えていない。だから、意味を成さないのだが……上機嫌な片割れは、鮮やかな赤い鱗に覆われた尻尾を振り、ほらねっと胸を張って見せた。

「あー……うん。なんていうかさ、相変わらず君達が幸せそうで僕は嬉しいよ……」

 どこか疲れたようなタツミの声を最後に今朝の雑談も、彼から投げかけられた疑問の件も。すっかりおしまいになっていたと思っていた。思っていたんだが。

「折角だから、試してみない? かわりばんこにさ」

 という好奇心旺盛な、高めの声から発せられた提案と、いつもの真剣勝負という名のジャンケンの結果。

 今、俺の目の前には、白く柔い頬を染め、か細い身体をもじもじと揺らしているサトルが、ちょこんと膝の上に居る。

 普段の俺達にとって、いや、サトル自身にとってもこれは、ごく普通のことだ。それなのに……何故だろう、気まずい。とてつもなく気まずい、それから妙に気恥ずかしい。

 ソウと一緒に、3人で居るときは何とも思わないんだが。いや寧ろ、此処が俺の居場所だと、安心できるといのに……どういうことなんだ、これは。

「……あのさ、セイ」

「な、なんだ?」

 おずおずと可愛らしい口から紡がれた自分の名前に、呼ばれ慣れているはずなのに。俺の意思に反して肩が跳ねたどころか、声がひっくり返りそうになってしまう。

「その……さ、なんか…………変にドキドキしちゃって落ち着かないね」

 はにかみながらそっ握ってくれた、小さな手から伝わってくる震えに。ああ、そうか……と。なにも緊張しているのは自分だけではないんだ、と気づけた瞬間。胸の辺りがふわりと軽くなる。

「ああ、俺も同じ気持ちだ」

「本当に? ふふ、お揃いだね」

「ああ、お揃いだな」

 心の底から嬉しそうにふにゃりと、口元を綻ばせる彼の表情は、陽だまりみたいで。その温かさが俺の胸いっぱいに、ほっこりと染み渡っていく。お陰でようやくいつも通り、真っ赤な丸い瞳を見つめることが出来た。

 それと同時にふっと、しょんぼりと下がった赤い尻尾が、十分経ったら交代だからねっと滲んだ金色が頭に過ぎる。

「……あのさ、セイ」

 それは彼も同じだったらしい。ちらちらと落ち着きなく部屋の外へと視線を向ける赤色に、

「行こうか、ソウのところに二人で」

 微笑みかけながら提案すると、またお揃いだねっと太陽のような笑顔を浮かべた。
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