上 下
89 / 90

【番外編】灯台は気づけない(前編)

しおりを挟む
 どんなものでも必ず仲良く二人で分ける。

 その約束は、俺達にとってごく自然に交わされたもので。今となっては、朝起きて歯磨きをすることと同じように一種のルーティーンになっていることで。

 だから、言われるまで気づかなかったのは勿論のこと、そういった考えにすら及んでいなかったんだ。


「君達ってさぁ……お互い、たまにはサトルちゃんと二人っきりになりたいとか思わないわけ?」

 俺達の頭の中に直接響く、昔馴染みの声はあからさまに呆れたご様子。今にも彼の手癖の音が、細長い爪でコツコツと真珠で出来たテーブルを、一定のリズムで叩く音が聞こえてきそうだ。

 サトルの両親の件で彼、タツミと密かに連絡を取り合うようになり。それからなんとなく定期的に続いている、早朝の情報交換。

 もとい他愛もない雑談の中でも、今しがた投げかけられた疑問はトップクラスに突拍子もないというか、見当もつかないというか。

 それは片割れも一緒だったらしい。俺と同じ金色の瞳を丸くして、俺達の間ですやすやと可愛らしい寝息を立てているサトルをちらりと見てから、俺へと。困ったような、戸惑っているような視線を向けてきた。

「俺達は二人で一つだからな。そもそも互いに離れるという選択肢が存在していないというか……」

「あーそれそれっ俺もセイと同じこと考えてたっ」

 自分の思いに当てはまる所があったのだろう。はいはいと元気よく筋肉質の腕を上げたソウに対して、

「いや、君は彼の意見に乗っかっただけだろう」

 さっきよりも低くなったタツミの声が、頭の中でピシャリと響く。相変わらず切れのいいツッコミだ。

「ちーがーいーまーすー咄嗟に言葉で表現出来なかっただーけーでーすー」

「やっぱり乗っかったんじゃないか」

 わいわい、ぎゃーぎゃーと盛り上がっている、仲がいい二人のやり取りに耳を傾けつつ。いまだ夢の中にいる、愛しい俺達のサトルの髪を撫でていると突然、もの凄い力で裾をぐいぐいと引っ張られる。

 ベッドの上には俺達3人だけ。となれば該当者は一人しかいないわけで……

「いつだって俺達一緒だもんっ! だから当然、思ってることも一緒に決まってんじゃん、ね? セイ」

 案の定、視線を向けた先でかち合ったのは、無邪気に細められた金色だった。

「ああ、いついかなる時も俺達は一緒だ」

 今更、当たり前のことを聞いてきた片割れに、俺の気持ちをそのまま伝える。

 念話なのだから、俺達の姿は向こうには見えていない。だから、意味を成さないのだが……上機嫌な片割れは、鮮やかな赤い鱗に覆われた尻尾を振り、ほらねっと胸を張って見せた。

「あー……うん。なんていうかさ、相変わらず君達が幸せそうで僕は嬉しいよ……」

 どこか疲れたようなタツミの声を最後に今朝の雑談も、彼から投げかけられた疑問の件も。すっかりおしまいになっていたと思っていた。思っていたんだが。

「折角だから、試してみない? かわりばんこにさ」

 という好奇心旺盛な、高めの声から発せられた提案と、いつもの真剣勝負という名のジャンケンの結果。

 今、俺の目の前には、白く柔い頬を染め、か細い身体をもじもじと揺らしているサトルが、ちょこんと膝の上に居る。

 普段の俺達にとって、いや、サトル自身にとってもこれは、ごく普通のことだ。それなのに……何故だろう、気まずい。とてつもなく気まずい、それから妙に気恥ずかしい。

 ソウと一緒に、3人で居るときは何とも思わないんだが。いや寧ろ、此処が俺の居場所だと、安心できるといのに……どういうことなんだ、これは。

「……あのさ、セイ」

「な、なんだ?」

 おずおずと可愛らしい口から紡がれた自分の名前に、呼ばれ慣れているはずなのに。俺の意思に反して肩が跳ねたどころか、声がひっくり返りそうになってしまう。

「その……さ、なんか…………変にドキドキしちゃって落ち着かないね」

 はにかみながらそっ握ってくれた、小さな手から伝わってくる震えに。ああ、そうか……と。なにも緊張しているのは自分だけではないんだ、と気づけた瞬間。胸の辺りがふわりと軽くなる。

「ああ、俺も同じ気持ちだ」

「本当に? ふふ、お揃いだね」

「ああ、お揃いだな」

 心の底から嬉しそうにふにゃりと、口元を綻ばせる彼の表情は、陽だまりみたいで。その温かさが俺の胸いっぱいに、ほっこりと染み渡っていく。お陰でようやくいつも通り、真っ赤な丸い瞳を見つめることが出来た。

 それと同時にふっと、しょんぼりと下がった赤い尻尾が、十分経ったら交代だからねっと滲んだ金色が頭に過ぎる。

「……あのさ、セイ」

 それは彼も同じだったらしい。ちらちらと落ち着きなく部屋の外へと視線を向ける赤色に、

「行こうか、ソウのところに二人で」

 微笑みかけながら提案すると、またお揃いだねっと太陽のような笑顔を浮かべた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

旦那様と僕・番外編

三冬月マヨ
BL
『旦那様と僕』の番外編。 基本的にぽかぽか。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

天涯孤独になった少年は、元兵士の優しいオジサンと幸せに生きる

ir(いる)
BL
ファンタジー。最愛の父を亡くした後、恋人(不倫相手)と再婚したい母に騙されて捨てられた12歳の少年。30歳の元兵士の男性との出会いで傷付いた心を癒してもらい、恋(主人公からの片思い)をする物語。 ※序盤は主人公が悲しむシーンが多いです。 ※主人公と相手が出会うまで、少しかかります(28話) ※BL的展開になるまでに、結構かかる予定です。主人公が恋心を自覚するようでしないのは51話くらい? ※女性は普通に登場しますが、他に明確な相手がいたり、恋愛目線で主人公たちを見ていない人ばかりです。 ※同性愛者もいますが、異性愛が主流の世界です。なので主人公は、男なのに男を好きになる自分はおかしいのでは?と悩みます。 ※主人公のお相手は、保護者として主人公を温かく見守り、支えたいと思っています。

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~

朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」 普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。 史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。 その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。 外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。 いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。 領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。 彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。 やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。 無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。 (この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】 「聖女様が降臨されたぞ!!」  から始まる異世界生活。  夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。  ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。  彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。    そして、必死に生き残って3年。  人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。  今更ながら、人肌が恋しくなってきた。  よし!眷属を作ろう!!    この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。    神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。  ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。    のんびりとした物語です。    現在二章更新中。 現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします

muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。 非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。 両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。 そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。 非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。 ※全年齢向け作品です。

父親に会うために戻った異世界で、残念なイケメンたちと出会うお話【本編完結】

ぴろ
BL
母親の衝撃の告白で異世界人とのハーフであることが判明した男子高校生三好有紀(みよしあき)が、母と共に異世界に戻り残念なイケメン達に囲まれるお話。 ご都合主義なので気になる方にはオススメしません。イケメンに出会うまでが長いです。 ハッピーエンド目指します。 無自覚美人がイケメン達とイチャイチャするお話で、主人公は複数言い寄られます。最終的には一人を選ぶはずだったのですが、選べないみたいです。 初投稿なので温かく見守って頂けたら嬉しいです。

処理中です...