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かつての誰かの昔話
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青白い指が、弾いて鳴らした乾いた音を合図に、枷となっていた、透き通った氷注が消え。壁にもたれ掛かってずるずると、父さんの身体が降りてくる。
眠っているみたいに相変わらず瞼は固く閉ざされているのに。一瞬あの時の、大きく見開いた瞳と、津波のように押し寄せてくる黒い根の光景が頭に過って、繋いでくれている二人の手に力を込めてしまっていた。
「サトルちゃん……」
「サトル……」
「大丈夫だよ、セイ、ソウ」
息を大きく吸って、吐いて。俺を心配そうに見つめる四つの金色に微笑みかける。
「みんな、よろしくね」
頬を綻ばせ、握り返してくれた二色の手をゆっくり離し、静かに頷いてくれたみんなに背を向ける。氷みたいに冷たくなっている白い手を、今度は離さないようにしっかり握った。
途端に漂い始めた、胸がざわざわする空気に、いち早く反応した紫色の雷が、俺に向かって伸ばされていた黒い根を焼き払う。
「だからよぉ……二度目はねぇって言ってんだろうがッ!!」
俺と、すぐ後ろに居てくれている二人の周りにはすでに、折り紙で出来たひし形の盾がいくつも浮かんで、襲いかかってくる根を弾き。透き通った水の玉から放たれる水流が、援護するように、根の群れを塊と化す前に吹き飛ばしていく。
「こっちは俺達に任せなっ」
「君達は必ず僕達が守りきってみせる!」
三人の頼もしい叫びを背に受け。胸が、目の奥が熱くなってきて、あふれそうになっている俺を、
「俺達がついてるからね」
「信じているぞ、サトル」
二人の温かい言葉が、そっと背中を押してくれた。
こぼれ落ちかけていた滴を拭い、目を閉じ、意識を集中させる。俺の想いが、言葉が、父さんに届くように。伝わるように。
その時だ。瞑っているはずなのに、視界が真っ白に染まっていく。
同時に、なにかドロドロとした黒いものが、胸の中に直接流れ込んできて……見たことがないはずなのに、どこか見覚えのあるような、懐かしい光景が、頭の中をぐるぐると駆け巡り始めた。
◇
髪の長い女の人が笑っている。彼女の笑顔を見ているだけで、俺……いや、私の胸は温かくなっていく。
新しい命を授かった、私と彼女の子供だ。真っ白で天使のように愛らしい。
日々、すくすくと成長していくこの子の将来が、今から楽しみで仕方がない。彼女の他にもう一人、私の生き甲斐が増えた。
笑った顔が彼女にそっくりなこの子は、きっと、思いやりのある優しい子に育つに違いない。
私達と同じ、温かい家庭を築くはずだと彼女に言ったら、照れたように、気が早いわね……と笑われてしまった。
最近は、彼女が折った折り鶴がお気に入りなのか。眠るときもずっと大事そうに、小さな両手で握ったままだ。本当に可愛らしい。
あの子が奪われた。私達の宝物が。
彼女は笑わなくなった。朝も昼も、夜通し泣き続け、そして倒れた。私を置いて旅立っていってしまった。
せめて、あの子だけは。もういない彼女の為に、願いを込めて鶴を折り続けている、優しいあの子だけは。
私が必ず助け出してみせる。そう、思っていたのに。
また、目の前であの子を奪われた。もう、身体に力が入らない。何も見えない、聞こえない。
あの子が殺されてしまうのを、このまま指をくわえて見てろというのか? そんなこと……
絶対に、許さない。
憎い、憎い、憎い……全て滅んでしまえばいい。あの子を奪った連中も、あの子を殺そうとしている村も。彼女を奪った世界も、全て……
滅んでしまえばいい。
眠っているみたいに相変わらず瞼は固く閉ざされているのに。一瞬あの時の、大きく見開いた瞳と、津波のように押し寄せてくる黒い根の光景が頭に過って、繋いでくれている二人の手に力を込めてしまっていた。
「サトルちゃん……」
「サトル……」
「大丈夫だよ、セイ、ソウ」
息を大きく吸って、吐いて。俺を心配そうに見つめる四つの金色に微笑みかける。
「みんな、よろしくね」
頬を綻ばせ、握り返してくれた二色の手をゆっくり離し、静かに頷いてくれたみんなに背を向ける。氷みたいに冷たくなっている白い手を、今度は離さないようにしっかり握った。
途端に漂い始めた、胸がざわざわする空気に、いち早く反応した紫色の雷が、俺に向かって伸ばされていた黒い根を焼き払う。
「だからよぉ……二度目はねぇって言ってんだろうがッ!!」
俺と、すぐ後ろに居てくれている二人の周りにはすでに、折り紙で出来たひし形の盾がいくつも浮かんで、襲いかかってくる根を弾き。透き通った水の玉から放たれる水流が、援護するように、根の群れを塊と化す前に吹き飛ばしていく。
「こっちは俺達に任せなっ」
「君達は必ず僕達が守りきってみせる!」
三人の頼もしい叫びを背に受け。胸が、目の奥が熱くなってきて、あふれそうになっている俺を、
「俺達がついてるからね」
「信じているぞ、サトル」
二人の温かい言葉が、そっと背中を押してくれた。
こぼれ落ちかけていた滴を拭い、目を閉じ、意識を集中させる。俺の想いが、言葉が、父さんに届くように。伝わるように。
その時だ。瞑っているはずなのに、視界が真っ白に染まっていく。
同時に、なにかドロドロとした黒いものが、胸の中に直接流れ込んできて……見たことがないはずなのに、どこか見覚えのあるような、懐かしい光景が、頭の中をぐるぐると駆け巡り始めた。
◇
髪の長い女の人が笑っている。彼女の笑顔を見ているだけで、俺……いや、私の胸は温かくなっていく。
新しい命を授かった、私と彼女の子供だ。真っ白で天使のように愛らしい。
日々、すくすくと成長していくこの子の将来が、今から楽しみで仕方がない。彼女の他にもう一人、私の生き甲斐が増えた。
笑った顔が彼女にそっくりなこの子は、きっと、思いやりのある優しい子に育つに違いない。
私達と同じ、温かい家庭を築くはずだと彼女に言ったら、照れたように、気が早いわね……と笑われてしまった。
最近は、彼女が折った折り鶴がお気に入りなのか。眠るときもずっと大事そうに、小さな両手で握ったままだ。本当に可愛らしい。
あの子が奪われた。私達の宝物が。
彼女は笑わなくなった。朝も昼も、夜通し泣き続け、そして倒れた。私を置いて旅立っていってしまった。
せめて、あの子だけは。もういない彼女の為に、願いを込めて鶴を折り続けている、優しいあの子だけは。
私が必ず助け出してみせる。そう、思っていたのに。
また、目の前であの子を奪われた。もう、身体に力が入らない。何も見えない、聞こえない。
あの子が殺されてしまうのを、このまま指をくわえて見てろというのか? そんなこと……
絶対に、許さない。
憎い、憎い、憎い……全て滅んでしまえばいい。あの子を奪った連中も、あの子を殺そうとしている村も。彼女を奪った世界も、全て……
滅んでしまえばいい。
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