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今度こそ、救ってみせる

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 何か、ほどよく温かくて弾力のあるものが、頬に当たっている。その懐かしくて落ち着く感触に、思わずすり寄ると大きく明るい歓声が俺を包み込む。

 釣られて開いた視界には、俺の大好きな二人の笑顔が。金色の瞳を潤ませ、少し高めの声で俺の名を何度も呼ぶソウと、彼とお揃いの瞳を細め、少し低めの声を震わせ、青い鱗を纏った手で俺の手を握りしめるセイの笑顔があって、

「おはよう……セイ、ソウ」

 気がつけば俺も、左右からぎゅうぎゅう抱き締められながら二人と一緒に三人で、泣いて、笑っていた。




「みんな、本当に大丈夫なの?」

「大丈夫だよ、ちょっとピリッてしただけだし。ねぇ、セイ」

「ああ、全く問題ないぞ」

 赤い鱗に覆われた手で、俺の白い髪をすくように撫でてくれているソウの健康的な色をした頬には、大きなホクロみたいな染みが一つ。筋肉質の青い腕で俺を軽々抱え、背中をよしよしと撫で回してくれているセイの白い頬にも、同じ大きさの染みが浮かび上がってしまっている。

「そもそも、そんなに呪われてなかったしなぁ」

「君が飲まれてしまった時は、生きた心地がしなかったけどね」

 腕を組み、背中から生えている三本目の手で、浅黒い頬をかくジンさんは、赤くなっている目元に。少し乱れた、水面みたいにキラキラしている長い髪を、青白い指で整えているタツミさんにも、への字に曲げた口の近くに。みんなと同じ、俺が受けた呪いを移してくれたせいで、出来てしまった染みが滲んでいた。

「まぁ、俺様の弟子だからなっ運のよさもピカイチに決まってんだろ」

「……カミナが一番心配なんだけど。ごめんね、俺のせいで」

 いつも通りお腹にずんずん響いてくる声で、豪快に笑うカミナの上半身には、至るところに黒い染みが模様のように浮かんでしまっている。

 これでも治った方らしいんだけど……右目を覆い隠しちゃいそうなくらいの大きさの染み。それから、両腕全体に爪の先っちょまで満遍なく、浮かんでいるいくつもの染みを見ていると……どこも痛くないのに、胸が苦しくなってきてしまう。

 ぼんやりとしか覚えていないんだけれど……二人が言うには、黒い根に飲まれかかっていた俺を命懸けで助けてくれたんだって。カミナは、俺様だけじゃぁムリだったぜ? こいつは全員の勝利だ! って自慢気に笑っていたけど。

「気にすんなっつてんだろ? 俺様は頑丈なんだからよぉ。今も絶賛浄化中だぜ」

 鋭い八重歯を見せ、ゴツい拳で分厚い胸板を叩いたカミナの瞳に、不意に真剣な光が宿る。

「それより今は、お前の親父さんの方が大事だろうが」

「……ありがとう、カミナ」

「おう」

「それに関して僕から一つ提案があるんだけど……いいかい?」

 少し躊躇いがちに、そう、切り出したタツミさんの表情は険しく、なにか意を決しているようだ。みんなも俺と同じように感じたのか、表情を引き締め、続きを促すように口を閉じる。

「対話ではなく、このまま力ずくで鎮めないか?」

 それは、つまり依代を……父さんの身体を傷つけ、無理矢理魂を取り出すということで。

 もう、死んじゃっているけど。父さんの形をしているだけで……もう、父さんじゃなくなってしまっているけど。もう一回、今度はセイとソウに、カミナに、ジンさんに、タツミさんに……

 父さんを、殺させてしまうということで。

「今なら大分弱っているし、多少傷つくかもしれないけど魂さえ回収できれば、後はどうとでも……」

 俺の為に言ってくれているって、俺のことを心配してくれているって、頭では解っている。だけど……

「ありがとう、タツミさん…でも、ごめんなさい」

 大切な人達に、嫌な役目を押しつけて、自分はただ見ているだけなんて……そんなこと、したくない。だから……

「もう一度だけ、チャンスをくれませんか?」

 ただの我が儘だって分かっていたけど、口を出さずにはいられなかったんだ。

「しかし、また君が危険な目にあったりしたら……」

 渋い顔で言葉を濁す、彼の不安そうな眼差しに、言葉が詰まってしまう。

 俯きかけていた俺の頭を、背中を、二色の大きな手が優しく撫でてくれる。俺の右手に赤い手が、左に青い手が、そっと重なりぎゅっと強く繋いでくれた。

「お願い、タツミ。今度こそ俺達が守るから」

「俺からも頼む。俺達にもう一度力を貸してくれないか」

「……万が一ってこともあるだろう?」

 二人から真っ直ぐな眼差しを向けられても、意思を曲げることなく、安全を第一に考えてくれているタツミさんに、

「まぁ、そいつは最終手段ってことにしといたらどうだ? さっきは試すことすら出来なかったんだからよ」

「おいおい、俺様が二度も同じ手を食らうと思ってんのか?」

 ジンさんが少し申し訳なさそうに、カミナは自信満々に。俺の意思を尊重してくれようと、俺達に続けて言葉を重ねてくれた。

「タツミさん……」

「あーもー分かったよ! 分かりました! なんだか僕が意地悪してるみたいじゃないか」

「ありがとうございますっ」

 唇を尖らせ、髪をぐしゃぐしゃかき混ぜているタツミさんを励ますようにジンさんが、ちゃんと分かってっから拗ねんなって、と肩を叩き。昔っから心配性だよなぁ、おめぇは、とカミナが反対の肩に肘を置き、笑う。

「その代わり、ちょっとでも君に危険が及ぶようなことがあったらその時は……」

「はい、分かってます」

「大丈夫だって、俺達がぶっ飛ばすからさ!」

「もう、覚悟は出来ているぞ」

 握り返してくれた、一回り大きな手の温もりが、俺に勇気をくれる。

 大丈夫だって、みんなとなら出来るって心の底から信じることが出来るんだ。

「……だったらいいんだ。じゃあ、始めようか」

 もう、二人を泣かせない。みんなの顔を曇らせない。必ず、やり遂げてみせる。

「今度こそ、君のお父さんを救おう。みんなで」

 重なり、響いた俺達の声に応えるみたいに。俺の胸元にある乳白色の石が、淡い虹色の光を帯びた。
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