【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ

文字の大きさ
上 下
81 / 90

俺達、一蓮托生でしょ?

しおりを挟む
 鼻先まで迫っていた、黒くぬらりと輝く先端が
、激しい音と共に弾かれる。ぶわりと俺達の周りに立ち塞がった、いくつもの菱形に折られた紙で構築された壁によって。

「やらせるかよッ……タツミ!」

 少しとして怯むことも、止むこともない黒い根の襲撃。その猛攻をたった一人、四本の腕で操る折り紙の盾で、守り続けてくれているジンの後ろから、

「ああ、お陰で準備は出来たよ。サトルちゃんのお父さんには悪いけど……」

 宙に何本もの、巨大な氷柱を作り出していたタツミが、

「少し、大人しくしていてもらおうかッ!」

 黒い根を生み出し続けている人神の依代。サトルの父親だったモノに青白い手を向け、放った。

 鋭利な氷柱が、群がる根を蹴散らし、依代の手足を壁へと縫いつけていく。

 力の源である父親の魂が宿った依代が、透き通った氷の杭によって拘束されたお陰か。俺達を囲んでいた根の群れが力なく床へと落ち、一気に風化してしまったかのように黒い粒子となって降り積もった。




「みんな、無事か?」

 いまだに祭壇の上で、依代を取り出した時のままの状態で固まっている、黒い根によって形成された繭。それから氷柱によって、部屋の奥で磔になっている依り代から遠く離れた位置に、ジンが折り紙で壁を形成する。

 強度を上げるべく、俺達の力も合わせて込めておいた。だから、もし、先ほどのような急な襲撃があったとしても、ほぼ確実に防ぎきれるだろう。

「俺達は大丈夫だけど、サトルちゃんとカミナが……」

 依然として呼吸、脈拍ともに異常はなく、顔色もそれほど悪くはなっていない。

 だが、身体の一部に呪いを受けてしまっているせいだろう。ソウの胸元にもたれ掛かっているサトルは、ぴくりとも動かず、いまだにその真っ赤な丸い瞳に俺達の姿を映してはくれない。

「俺様のは大したこたぁねぇよっ」

 カミナがいつものようにカラカラと笑い、言い放つ。その上半身のほとんどは、頭から墨を引っ被ったように、黒く穢れた染みに覆われてしまっている。

 右目なんて、酷いものだ。呪いのせいで全く開くことが出来なくなってしまっている。だというのに、俺達を心配させまいと振る舞うんだ。

 真っ黒に染まった拳で自分の分厚い胸板を、ほら大丈夫だろう? と俺達に示すようにドンと叩いて笑うんだ。得意気に口の端を持ち上げて。

「それよりサトルを…………ッ、ぐぅ……」

「おいおい、大丈夫か? ほら、少し横になってろよ、な?」

 口元を歪ませ、短く呻いたカミナ。彼の大きな身体をジンの腕が、背中から生えている二本と合わせて合計四本の腕が支え、横たわらせる。

 不満げに唇を尖らせてはいるものの、彼にしては珍しくされるがままになっている。俺達のことを気遣ってくれる余裕はあれど……状態としては、やはりあまりよくはないんだろう。

「もー……バカじゃないの?」

 頬を膨らませたソウが、サトルを俺にそっと手渡してからカミナの側でしゃがみこむ。

 わしゃわしゃと彼の紫に光る髪をかき混ぜるように撫で回しても、切れ長の瞳でじとりと見るだけだ。逞しい四肢を投げ出したまま完全に受け入れてしまっている。この無抵抗な態度が、何よりの証拠だろう。

「あまり無理はするな。浸食は収まっているが、呪われていることに変わりはないんだぞ?」

「……おう」

 知らず知らずの内に頬が綻んでいた。こんな時に不謹慎なのは分かっている。分かっているんだが、いつもの俺達ならばあり得ない珍しい光景に、ささくれ立っていた心が少しだけ軽くなったんだ。

「すまない、僕のせいだ……」

「タツミ?」

 掠れた声でぽつりと呟き、俺達の輪の外で立ち尽くす彼の瞳に、普段の澄んだ煌めきはない。深い水底のように、暗く沈んでしまっている。

「対話の為とはいえ、依代に一人で近づかせるべきではなかった……近づかせるならば、もっと念入りに弱らせておくべきだった」

「だったら俺達にだって……」

「いや、僕が悪いんだ。事前に奴の危険性を理解していたというのに……」

 血が滲んでしまうほど薄い唇を噛み締め、懺悔する彼は、ジンの言葉を遮り、

「サトルちゃんの呪いは、全て僕が請け負うよ」

 俺達のことも無視して、全ての責任が自分一人だけのものであると勝手に決めつけている。背負い込もうとしている。

「……二人の大事なお嫁さんを傷つけておいて」

 そんなタツミの水臭さに。思った以上に俺は、いや、俺達は、腹が立ってしまったんだろう。

「それで償いになるとは思ってな……いたぁっ?!」

 短いタツミの悲鳴に、我に返った時には俺の尻尾が高い位置にある彼の腰を、赤い尻尾と一緒に軽く叩いてしまっていた。

 おまけによくよく見れば彼の額を、紙飛行機の先端が、何かを訴えているように、つんつんとつついている。さらには、いつの間にか彼の顔の近くを漂っている黒い小さな雷雲。そこから伸びた手が、彼の頬を摘まみ、むにむにと引っ張っている。

「いきなり何をするんだよっ君達っ!」

 甲高く叫んだタツミが、切れのある手刀で紙飛行機を叩き落とし、虫を払うようにしっしっと黒雲を退ける。少し赤くなった頬に手を添え、腰を擦りながら、ガラス玉のように透き通った瞳で俺達を睨みつけた。

「おめぇが勝手にどんどん話を進めっからだろうがっ」

「ねー。そもそもここに来たときから俺達、一蓮托生でしょ」

 上半身だけを起こし、目を三角にして腕を振り上げるカミナに同意して、うんうんと頷くソウ。その瞳は、不満だと言わんばかりにぎゅっと細められていた。

「おう。それによ、四人で分けちまった方がリスクが小せぇだろ」

「おい、五人だろうがっ! 俺様を仲間外れにすんなっ」

 冷静に事実を述べたジンの袖を、駄々っ子みたいにぐいぐい引っ張っているカミナは、

「ダメに決まってんでしょ?」

「気持ちだけ貰っといてやっから大人しくしてろ。な?」

 赤い腕と褐色の腕に宥められ、再び横たえられたものの、おめぇらより俺様の方が頑丈だろうがっ!! と二人に向かって、ぶつくさぼやき続けていた。

「……というわけだ。何か異存はあるか?」

「あーうん……ないよ。全くありません」

 降参だと軽く腕を上げ、みんなの元へと向かうタツミは眉をひそめ、口を真一文字に結んでいたが。俺にはそんな彼の表情が、どこか嬉しそうに見えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。 妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。 ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。 しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。 父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。 父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。 ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。 野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて… そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。 童話の「美女と野獣」パロのBLです

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】泡の消えゆく、その先に。〜人魚の恋のはなし〜

N2O
BL
人間×人魚の、恋の話。 表紙絵 ⇨ 元素🪦 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定です ※◎は視点が変わります(俯瞰、攻め視点etc)

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」 すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。 王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。 発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。 国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。 後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。 ――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか? 容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。 怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手? 今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。 急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…? 過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。 ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!? 負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。 ------------------------------------------------------------------- 主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。

処理中です...