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俺達、一蓮托生でしょ?
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鼻先まで迫っていた、黒くぬらりと輝く先端が
、激しい音と共に弾かれる。ぶわりと俺達の周りに立ち塞がった、いくつもの菱形に折られた紙で構築された壁によって。
「やらせるかよッ……タツミ!」
少しとして怯むことも、止むこともない黒い根の襲撃。その猛攻をたった一人、四本の腕で操る折り紙の盾で、守り続けてくれているジンの後ろから、
「ああ、お陰で準備は出来たよ。サトルちゃんのお父さんには悪いけど……」
宙に何本もの、巨大な氷柱を作り出していたタツミが、
「少し、大人しくしていてもらおうかッ!」
黒い根を生み出し続けている人神の依代。サトルの父親だったモノに青白い手を向け、放った。
鋭利な氷柱が、群がる根を蹴散らし、依代の手足を壁へと縫いつけていく。
力の源である父親の魂が宿った依代が、透き通った氷の杭によって拘束されたお陰か。俺達を囲んでいた根の群れが力なく床へと落ち、一気に風化してしまったかのように黒い粒子となって降り積もった。
◇
「みんな、無事か?」
いまだに祭壇の上で、依代を取り出した時のままの状態で固まっている、黒い根によって形成された繭。それから氷柱によって、部屋の奥で磔になっている依り代から遠く離れた位置に、ジンが折り紙で壁を形成する。
強度を上げるべく、俺達の力も合わせて込めておいた。だから、もし、先ほどのような急な襲撃があったとしても、ほぼ確実に防ぎきれるだろう。
「俺達は大丈夫だけど、サトルちゃんとカミナが……」
依然として呼吸、脈拍ともに異常はなく、顔色もそれほど悪くはなっていない。
だが、身体の一部に呪いを受けてしまっているせいだろう。ソウの胸元にもたれ掛かっているサトルは、ぴくりとも動かず、いまだにその真っ赤な丸い瞳に俺達の姿を映してはくれない。
「俺様のは大したこたぁねぇよっ」
カミナがいつものようにカラカラと笑い、言い放つ。その上半身のほとんどは、頭から墨を引っ被ったように、黒く穢れた染みに覆われてしまっている。
右目なんて、酷いものだ。呪いのせいで全く開くことが出来なくなってしまっている。だというのに、俺達を心配させまいと振る舞うんだ。
真っ黒に染まった拳で自分の分厚い胸板を、ほら大丈夫だろう? と俺達に示すようにドンと叩いて笑うんだ。得意気に口の端を持ち上げて。
「それよりサトルを…………ッ、ぐぅ……」
「おいおい、大丈夫か? ほら、少し横になってろよ、な?」
口元を歪ませ、短く呻いたカミナ。彼の大きな身体をジンの腕が、背中から生えている二本と合わせて合計四本の腕が支え、横たわらせる。
不満げに唇を尖らせてはいるものの、彼にしては珍しくされるがままになっている。俺達のことを気遣ってくれる余裕はあれど……状態としては、やはりあまりよくはないんだろう。
「もー……バカじゃないの?」
頬を膨らませたソウが、サトルを俺にそっと手渡してからカミナの側でしゃがみこむ。
わしゃわしゃと彼の紫に光る髪をかき混ぜるように撫で回しても、切れ長の瞳でじとりと見るだけだ。逞しい四肢を投げ出したまま完全に受け入れてしまっている。この無抵抗な態度が、何よりの証拠だろう。
「あまり無理はするな。浸食は収まっているが、呪われていることに変わりはないんだぞ?」
「……おう」
知らず知らずの内に頬が綻んでいた。こんな時に不謹慎なのは分かっている。分かっているんだが、いつもの俺達ならばあり得ない珍しい光景に、ささくれ立っていた心が少しだけ軽くなったんだ。
「すまない、僕のせいだ……」
「タツミ?」
掠れた声でぽつりと呟き、俺達の輪の外で立ち尽くす彼の瞳に、普段の澄んだ煌めきはない。深い水底のように、暗く沈んでしまっている。
「対話の為とはいえ、依代に一人で近づかせるべきではなかった……近づかせるならば、もっと念入りに弱らせておくべきだった」
「だったら俺達にだって……」
「いや、僕が悪いんだ。事前に奴の危険性を理解していたというのに……」
血が滲んでしまうほど薄い唇を噛み締め、懺悔する彼は、ジンの言葉を遮り、
「サトルちゃんの呪いは、全て僕が請け負うよ」
俺達のことも無視して、全ての責任が自分一人だけのものであると勝手に決めつけている。背負い込もうとしている。
「……二人の大事なお嫁さんを傷つけておいて」
そんなタツミの水臭さに。思った以上に俺は、いや、俺達は、腹が立ってしまったんだろう。
「それで償いになるとは思ってな……いたぁっ?!」
短いタツミの悲鳴に、我に返った時には俺の尻尾が高い位置にある彼の腰を、赤い尻尾と一緒に軽く叩いてしまっていた。
おまけによくよく見れば彼の額を、紙飛行機の先端が、何かを訴えているように、つんつんとつついている。さらには、いつの間にか彼の顔の近くを漂っている黒い小さな雷雲。そこから伸びた手が、彼の頬を摘まみ、むにむにと引っ張っている。
「いきなり何をするんだよっ君達っ!」
甲高く叫んだタツミが、切れのある手刀で紙飛行機を叩き落とし、虫を払うようにしっしっと黒雲を退ける。少し赤くなった頬に手を添え、腰を擦りながら、ガラス玉のように透き通った瞳で俺達を睨みつけた。
「おめぇが勝手にどんどん話を進めっからだろうがっ」
「ねー。そもそもここに来たときから俺達、一蓮托生でしょ」
上半身だけを起こし、目を三角にして腕を振り上げるカミナに同意して、うんうんと頷くソウ。その瞳は、不満だと言わんばかりにぎゅっと細められていた。
「おう。それによ、四人で分けちまった方がリスクが小せぇだろ」
「おい、五人だろうがっ! 俺様を仲間外れにすんなっ」
冷静に事実を述べたジンの袖を、駄々っ子みたいにぐいぐい引っ張っているカミナは、
「ダメに決まってんでしょ?」
「気持ちだけ貰っといてやっから大人しくしてろ。な?」
赤い腕と褐色の腕に宥められ、再び横たえられたものの、おめぇらより俺様の方が頑丈だろうがっ!! と二人に向かって、ぶつくさぼやき続けていた。
「……というわけだ。何か異存はあるか?」
「あーうん……ないよ。全くありません」
降参だと軽く腕を上げ、みんなの元へと向かうタツミは眉をひそめ、口を真一文字に結んでいたが。俺にはそんな彼の表情が、どこか嬉しそうに見えた。
、激しい音と共に弾かれる。ぶわりと俺達の周りに立ち塞がった、いくつもの菱形に折られた紙で構築された壁によって。
「やらせるかよッ……タツミ!」
少しとして怯むことも、止むこともない黒い根の襲撃。その猛攻をたった一人、四本の腕で操る折り紙の盾で、守り続けてくれているジンの後ろから、
「ああ、お陰で準備は出来たよ。サトルちゃんのお父さんには悪いけど……」
宙に何本もの、巨大な氷柱を作り出していたタツミが、
「少し、大人しくしていてもらおうかッ!」
黒い根を生み出し続けている人神の依代。サトルの父親だったモノに青白い手を向け、放った。
鋭利な氷柱が、群がる根を蹴散らし、依代の手足を壁へと縫いつけていく。
力の源である父親の魂が宿った依代が、透き通った氷の杭によって拘束されたお陰か。俺達を囲んでいた根の群れが力なく床へと落ち、一気に風化してしまったかのように黒い粒子となって降り積もった。
◇
「みんな、無事か?」
いまだに祭壇の上で、依代を取り出した時のままの状態で固まっている、黒い根によって形成された繭。それから氷柱によって、部屋の奥で磔になっている依り代から遠く離れた位置に、ジンが折り紙で壁を形成する。
強度を上げるべく、俺達の力も合わせて込めておいた。だから、もし、先ほどのような急な襲撃があったとしても、ほぼ確実に防ぎきれるだろう。
「俺達は大丈夫だけど、サトルちゃんとカミナが……」
依然として呼吸、脈拍ともに異常はなく、顔色もそれほど悪くはなっていない。
だが、身体の一部に呪いを受けてしまっているせいだろう。ソウの胸元にもたれ掛かっているサトルは、ぴくりとも動かず、いまだにその真っ赤な丸い瞳に俺達の姿を映してはくれない。
「俺様のは大したこたぁねぇよっ」
カミナがいつものようにカラカラと笑い、言い放つ。その上半身のほとんどは、頭から墨を引っ被ったように、黒く穢れた染みに覆われてしまっている。
右目なんて、酷いものだ。呪いのせいで全く開くことが出来なくなってしまっている。だというのに、俺達を心配させまいと振る舞うんだ。
真っ黒に染まった拳で自分の分厚い胸板を、ほら大丈夫だろう? と俺達に示すようにドンと叩いて笑うんだ。得意気に口の端を持ち上げて。
「それよりサトルを…………ッ、ぐぅ……」
「おいおい、大丈夫か? ほら、少し横になってろよ、な?」
口元を歪ませ、短く呻いたカミナ。彼の大きな身体をジンの腕が、背中から生えている二本と合わせて合計四本の腕が支え、横たわらせる。
不満げに唇を尖らせてはいるものの、彼にしては珍しくされるがままになっている。俺達のことを気遣ってくれる余裕はあれど……状態としては、やはりあまりよくはないんだろう。
「もー……バカじゃないの?」
頬を膨らませたソウが、サトルを俺にそっと手渡してからカミナの側でしゃがみこむ。
わしゃわしゃと彼の紫に光る髪をかき混ぜるように撫で回しても、切れ長の瞳でじとりと見るだけだ。逞しい四肢を投げ出したまま完全に受け入れてしまっている。この無抵抗な態度が、何よりの証拠だろう。
「あまり無理はするな。浸食は収まっているが、呪われていることに変わりはないんだぞ?」
「……おう」
知らず知らずの内に頬が綻んでいた。こんな時に不謹慎なのは分かっている。分かっているんだが、いつもの俺達ならばあり得ない珍しい光景に、ささくれ立っていた心が少しだけ軽くなったんだ。
「すまない、僕のせいだ……」
「タツミ?」
掠れた声でぽつりと呟き、俺達の輪の外で立ち尽くす彼の瞳に、普段の澄んだ煌めきはない。深い水底のように、暗く沈んでしまっている。
「対話の為とはいえ、依代に一人で近づかせるべきではなかった……近づかせるならば、もっと念入りに弱らせておくべきだった」
「だったら俺達にだって……」
「いや、僕が悪いんだ。事前に奴の危険性を理解していたというのに……」
血が滲んでしまうほど薄い唇を噛み締め、懺悔する彼は、ジンの言葉を遮り、
「サトルちゃんの呪いは、全て僕が請け負うよ」
俺達のことも無視して、全ての責任が自分一人だけのものであると勝手に決めつけている。背負い込もうとしている。
「……二人の大事なお嫁さんを傷つけておいて」
そんなタツミの水臭さに。思った以上に俺は、いや、俺達は、腹が立ってしまったんだろう。
「それで償いになるとは思ってな……いたぁっ?!」
短いタツミの悲鳴に、我に返った時には俺の尻尾が高い位置にある彼の腰を、赤い尻尾と一緒に軽く叩いてしまっていた。
おまけによくよく見れば彼の額を、紙飛行機の先端が、何かを訴えているように、つんつんとつついている。さらには、いつの間にか彼の顔の近くを漂っている黒い小さな雷雲。そこから伸びた手が、彼の頬を摘まみ、むにむにと引っ張っている。
「いきなり何をするんだよっ君達っ!」
甲高く叫んだタツミが、切れのある手刀で紙飛行機を叩き落とし、虫を払うようにしっしっと黒雲を退ける。少し赤くなった頬に手を添え、腰を擦りながら、ガラス玉のように透き通った瞳で俺達を睨みつけた。
「おめぇが勝手にどんどん話を進めっからだろうがっ」
「ねー。そもそもここに来たときから俺達、一蓮托生でしょ」
上半身だけを起こし、目を三角にして腕を振り上げるカミナに同意して、うんうんと頷くソウ。その瞳は、不満だと言わんばかりにぎゅっと細められていた。
「おう。それによ、四人で分けちまった方がリスクが小せぇだろ」
「おい、五人だろうがっ! 俺様を仲間外れにすんなっ」
冷静に事実を述べたジンの袖を、駄々っ子みたいにぐいぐい引っ張っているカミナは、
「ダメに決まってんでしょ?」
「気持ちだけ貰っといてやっから大人しくしてろ。な?」
赤い腕と褐色の腕に宥められ、再び横たえられたものの、おめぇらより俺様の方が頑丈だろうがっ!! と二人に向かって、ぶつくさぼやき続けていた。
「……というわけだ。何か異存はあるか?」
「あーうん……ないよ。全くありません」
降参だと軽く腕を上げ、みんなの元へと向かうタツミは眉をひそめ、口を真一文字に結んでいたが。俺にはそんな彼の表情が、どこか嬉しそうに見えた。
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