【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ

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奪われて、なるものか!!

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「ふざけるなよッ! 人神風情がァ!!」

 野太い雄叫びと共に、凄まじい突風が俺達の間を駆け抜けた瞬間。建物を揺らすほどの轟音がとどろき、目映い閃光が弾け、広い室内を覆いつくすように紫色の光が包み込む。

 長いようで一瞬のようだった数秒後、光に慣れた目に映ったのは……

 黒い根の塊に、厳つい上半身のほとんどを飲まれながらも、必死にサトルの腕を掴み、引っ張り出そうともがいているカミナの姿だった。

 ……まだ、間に合う……いや、間に合わせるッ……俺達のたった一人の宝物を、奪われてなるものか! 絶対に!!

 僅かに差した希望の光が、目の前を明るく照らし、縫いつけられ、動けなくなってしまっていた俺の身体を突き動かす。

 力一杯床を蹴った視界の先で、二人を飲み込まんとしているものとは別の、鋭く尖った黒い根がゆらりと頭をもたげ、カミナの背を目掛け襲いかかろうとしていた。

 懸命に伸ばした腕でそれらを打ち払った俺に続くように、赤い鱗に覆われた指先が、黒い爪で俺の死角から伸びてきていた根を切り裂く。

「わりぃな、おめぇら……助かったぜっ」

 紫色の瞳でこちらを一瞥したカミナの浅黒い肌は、すでに人神の呪いによって浸食されつつあるようだ。丸太のように太い両腕は、そのほとんどが真っ黒に染まり、首の辺りにまでも穢れた染みが這い上がってきてしまっている。

 いくらカミナが、俺達の中で一際優れた神力を持つ雷神とは言っても……このまま呪われ続け、魂にまで至ってしまえば、サトルの父親と同じ祟り神に成り果ててしまうというのに……

 俺達を、心配させまいとしてくれているんだろう。鋭い牙が生え揃った口を大きく開き、カラカラと笑っていた。

「助かったって……それは、こっちの台詞だよっ……」

 金色の瞳に涙を滲ませ、顔をぐしゃぐしゃにしたソウが、黒い根が絡みつく広い背中に向かって、ごめんねとありがとうを何度も繰り返しながら爪を振るう。再びカミナに目掛けて伸ばされかけていた鋭い根を、俺と同時に薙ぎ払った。

「ソウの言う通りだ……ありがとう、カミナ」

「気にすんなって、俺様達の仲だろうが」

 いつものように、なんでもないことのように、得意気に口の端をニッと持ち上げたカミナが、

「ちっと待ってな……俺様が、ちょちょいとサトルを引っ張り出してやっからよぉっ」

 とびきり明るく大きな声で、俺達に向けて言い放つ。そして、その頼もしい言葉の通りになった。

 無造作に束ねた髪を発光させ、側にいるだけで鱗がざわつくほどの空気を纏う。腹の奥底が震えるような雄々しい咆哮を上げたカミナが、がんじがらめになった真っ暗な根の底から俺達の元へと、サトルを救い上げてくれたんだ。

「サトルちゃんッ!!」
「サトルッ!!」

 俺達の腕の中で目を閉じたまま、重力に従って力なく、か細い四肢をだらりと伸ばす。真っ白な彼の肌には、ところどころにカミナと同じ黒い染みが滲んでいる。

 だが、あれだけ強い呪いの渦中にいたにも関わらず、浸食はほとんど進んではいなかった。まるで、ただ眠っているだけかのように、静かにゆっくりと呼吸を繰り返している。

 ……奇跡だ。きっと、みんなの加護が、サトルを守ってくれたに違いない。

「うぅっ……よかった、ぐすっ……よかったよぉっ……」

 サトルの手を包み込むように握りしめ、両の目からボロボロと止めどなく涙をこぼす片割れに。耳に届いた、一定のリズムを刻み続けている腕の中の小さな鼓動に。突っ張っていた心が緩み、俺の目からも滴があふれ、こぼれ落ちる。

 しかし、そんなつかの間の安堵すら、アレは許してくれないらしい。

 カミナの神力によって、完全に沈黙していたはずの根の群れ。奴らが俺達を取り囲み、容赦なく、その尖った切っ先を突き刺してきた。
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