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たとえ、どんなに怖くても……二人が、みんなが居れば進めるんだ
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最初に感じたのは、気持ちの悪い生ぬるさだった。
全身にまとわりつくような、不快な空気と肉が焦げたような、錆びた鉄のような……とにかく嫌な臭いが鼻先にくっついて離れない。
白い光のせいで、まだ目が慣れていないせいなのかも。余計にそれらを強く感じちゃって、気分が悪くなりそうだ。
「サトルちゃん、大丈夫? お顔、真っ青だよ」
「うん……ちょっと、気持ち悪いかな……」
ふらついた俺の身体を筋肉質の腕が抱き上げ、黒く尖った爪が生えた赤い指先が、額から滲んだ変な汗で張りついた髪をそっとはらって頬を撫でてくれる。
「加護を強めにするぞ。みんな、手伝ってくれ」
「おう、遠慮しないでどんどん持ってけ」
「つったくよぉ、たかが呪いのくせに俺様に対抗するとはいい度胸だぜ」
「本当にね、こっちは五人がかりだってのにさ」
慌てたセイの呼びかけに、ジンさんが胸の前で勢いよく手を合わせ、声に苛つきを滲ませたカミナが威嚇するみたいに、緩く束ねた髪からバチバチと音を鳴らす。
軽く息を吐いたタツミさんが俺の頭を一撫でした時、じんわりと心の奥に染み渡るような温かさが、
全身を覆っていた嫌な感覚を弾き飛ばしてくれたお陰で、ようやく呼吸が楽になった。
「どう? 少しは良くなった?」
「ん……ありがとう、みんな。もう、大丈夫だよ」
「よかった……なにか有ったら、我慢しないですぐ俺達に言うんだぞ?」
心配そうな表情で、俺の頭や背中を撫で回す赤と青の手を取り重ねると、強ばっていた二人の頬がふにゃりと緩む。
「まだ離れているから、この程度で済んでるけど……あそこに近づけば、余計に呪いによる負荷が強くなってしまうからね」
ようやくはっきりしてきた目で、タツミさんが向けた鋭い視線の先を追う。
そこには、真っ黒な雑草が一面に生い茂る中、黒いモヤが蔦のように絡みつき、それを支えにしなければ、今にも崩れ落ちてしまいそうなくらいにボロボロの大きなお屋敷があった。広く大きな壁には至るところに亀裂が入り、屋根の瓦も殆どが割れ落ちてしまっている。
「ひでぇ有り様だなぁ……」
「随分、人神の神域が広がってるね……想像以上に手強そうだ」
肺の中身を全部出し切るような溜め息を吐いたジンさんのぼやきに、じとりと目を細めたタツミさんが青白い指を顎に当て頷く。
「それって……やっぱりマズいんですか?」
「ああ、見てごらん? まだ昼間だってのに酷い空だろう」
あのお屋敷から感じる、身の毛がよだつような不気味さのせいで気づかなかったけど……
空が、見えない。
真っ黒だけど夜空みたいに澄みきったものとは違う。なにか、どろどろとした……咄嗟に目を逸らしたくなるような、嫌な気配が形になって宙にこびりついているみたいだ。
そのせいなんだろうな……周りの木々は枯れちゃってて、土も灰色で……この辺り一帯が、生きていないって感じがする。
カミナの操る小さな黒雲が、俺達の周りを照らしてくれているから。セイとソウが、みんなが側にいてくれているから、まだ、落ち着いていられるけど。一人ぼっちでこんなところにいたら……怖くて、不安で、頭がおかしくなってしまいそうだ。
ゆるゆると温かい手が俺の背中を、頭を、優しく撫でてくれる。
見上げれば俺の大好きな、セイとソウの笑顔があって、強ばっていた身体から力が抜けて。不思議だな、俺も自然と笑顔になれたんだ。
「……普通、感情ってのはね。時が経てば、徐々に風化していくものなんだよ」
淀んだ空を睨みつけていたタツミさんが、ぽつりと呟く。
「だから人神が現れても、俺達は基本的に手出しはしないんだ」
「放っておけば、勝手に弱ってっちゃうからね」
どこか肌寒そうに、細長い腕を撫で擦っている彼の言葉の続きを、セイが俺の手を温めるように包み込みながら、ソウが俺を抱える腕に力を込めながら補足してくれた。
「んで、弱りきったとこで適当にボコして、魂を回収するんだがよぉ」
「周囲を侵食するまで広がってんのは初めて見たぜ」
「僕もだよ。とにかく警戒を怠らない方がいいね……慎重に進もう。サトルちゃん、準備はいいかい?」
ゆっくり息を吸って、吐いて、俺を静かに見守ってくれている四つの金色を見つめる。
小さく頷く二人の大きな手を握っていると、じくじくと俺の胸を覆っていた暗いものが晴れていく気がして、
「うんっ。行こう、みんな」
たとえどんなに怖くても、目を逸らさずに進めるんだ。
全身にまとわりつくような、不快な空気と肉が焦げたような、錆びた鉄のような……とにかく嫌な臭いが鼻先にくっついて離れない。
白い光のせいで、まだ目が慣れていないせいなのかも。余計にそれらを強く感じちゃって、気分が悪くなりそうだ。
「サトルちゃん、大丈夫? お顔、真っ青だよ」
「うん……ちょっと、気持ち悪いかな……」
ふらついた俺の身体を筋肉質の腕が抱き上げ、黒く尖った爪が生えた赤い指先が、額から滲んだ変な汗で張りついた髪をそっとはらって頬を撫でてくれる。
「加護を強めにするぞ。みんな、手伝ってくれ」
「おう、遠慮しないでどんどん持ってけ」
「つったくよぉ、たかが呪いのくせに俺様に対抗するとはいい度胸だぜ」
「本当にね、こっちは五人がかりだってのにさ」
慌てたセイの呼びかけに、ジンさんが胸の前で勢いよく手を合わせ、声に苛つきを滲ませたカミナが威嚇するみたいに、緩く束ねた髪からバチバチと音を鳴らす。
軽く息を吐いたタツミさんが俺の頭を一撫でした時、じんわりと心の奥に染み渡るような温かさが、
全身を覆っていた嫌な感覚を弾き飛ばしてくれたお陰で、ようやく呼吸が楽になった。
「どう? 少しは良くなった?」
「ん……ありがとう、みんな。もう、大丈夫だよ」
「よかった……なにか有ったら、我慢しないですぐ俺達に言うんだぞ?」
心配そうな表情で、俺の頭や背中を撫で回す赤と青の手を取り重ねると、強ばっていた二人の頬がふにゃりと緩む。
「まだ離れているから、この程度で済んでるけど……あそこに近づけば、余計に呪いによる負荷が強くなってしまうからね」
ようやくはっきりしてきた目で、タツミさんが向けた鋭い視線の先を追う。
そこには、真っ黒な雑草が一面に生い茂る中、黒いモヤが蔦のように絡みつき、それを支えにしなければ、今にも崩れ落ちてしまいそうなくらいにボロボロの大きなお屋敷があった。広く大きな壁には至るところに亀裂が入り、屋根の瓦も殆どが割れ落ちてしまっている。
「ひでぇ有り様だなぁ……」
「随分、人神の神域が広がってるね……想像以上に手強そうだ」
肺の中身を全部出し切るような溜め息を吐いたジンさんのぼやきに、じとりと目を細めたタツミさんが青白い指を顎に当て頷く。
「それって……やっぱりマズいんですか?」
「ああ、見てごらん? まだ昼間だってのに酷い空だろう」
あのお屋敷から感じる、身の毛がよだつような不気味さのせいで気づかなかったけど……
空が、見えない。
真っ黒だけど夜空みたいに澄みきったものとは違う。なにか、どろどろとした……咄嗟に目を逸らしたくなるような、嫌な気配が形になって宙にこびりついているみたいだ。
そのせいなんだろうな……周りの木々は枯れちゃってて、土も灰色で……この辺り一帯が、生きていないって感じがする。
カミナの操る小さな黒雲が、俺達の周りを照らしてくれているから。セイとソウが、みんなが側にいてくれているから、まだ、落ち着いていられるけど。一人ぼっちでこんなところにいたら……怖くて、不安で、頭がおかしくなってしまいそうだ。
ゆるゆると温かい手が俺の背中を、頭を、優しく撫でてくれる。
見上げれば俺の大好きな、セイとソウの笑顔があって、強ばっていた身体から力が抜けて。不思議だな、俺も自然と笑顔になれたんだ。
「……普通、感情ってのはね。時が経てば、徐々に風化していくものなんだよ」
淀んだ空を睨みつけていたタツミさんが、ぽつりと呟く。
「だから人神が現れても、俺達は基本的に手出しはしないんだ」
「放っておけば、勝手に弱ってっちゃうからね」
どこか肌寒そうに、細長い腕を撫で擦っている彼の言葉の続きを、セイが俺の手を温めるように包み込みながら、ソウが俺を抱える腕に力を込めながら補足してくれた。
「んで、弱りきったとこで適当にボコして、魂を回収するんだがよぉ」
「周囲を侵食するまで広がってんのは初めて見たぜ」
「僕もだよ。とにかく警戒を怠らない方がいいね……慎重に進もう。サトルちゃん、準備はいいかい?」
ゆっくり息を吸って、吐いて、俺を静かに見守ってくれている四つの金色を見つめる。
小さく頷く二人の大きな手を握っていると、じくじくと俺の胸を覆っていた暗いものが晴れていく気がして、
「うんっ。行こう、みんな」
たとえどんなに怖くても、目を逸らさずに進めるんだ。
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