上 下
74 / 90

みんなが一緒なら、大丈夫……きっと

しおりを挟む
 赤、青、黄色、ピンクに紫。色とりどりの珊瑚礁がお花畑みたいに広がっている庭の奥に、それは有った。真っ赤で大きくて立派で、俺が二人のところへ来たときにくぐったんであろう、古びた小さな社とは到底同じものに見えない建物が。

 海をそのまま閉じ込めたようなタツミさんの瞳と、鳥居に向かって伸ばした青白い指先が淡い光を帯びる。それに応えるみたいに社の全体がぼうっと輝き、白い光が俺達を照らした。

「ここを通れば現世の、サトルちゃんの生まれた村まで一気にひとっ飛びってわけさ」

 くるりと振り返ったタツミさんがキラキラした水面みたいな長い髪をかきあげ、ニッと笑う。

「……そこに、父さんが居るんだよね」

「ああ……恨みによって人神へと成ってしまった君のお父さんがね」

 さっきまでのはつらつとした声とは違う、冷たく抑揚のない声が紡ぐ事実に。胸に、重たい石が乗っかったみたいに息が詰まって苦しくなる。

「サトルちゃん……」
「サトル……」

 俺の不安が伝わっちゃったのかな? 左右から呼びかけてくれる高めの声と低めの声には、心配そうな響きが宿っていた。

 赤と青の鱗で覆われた二本の尻尾が、俺の腰辺りにしゅるりと巻きつく。繋いだ二色の大きな手が、俺の手をぎゅっと握り直してくれる。大丈夫だよって言ってくれているみたいに。

 不意に、ぽん、ぽんっと俺の背中や頭を優しく叩く感触に後ろを向けば、ゆるりと細められた緑色の瞳とかち合う。ジンさんだ。ガッチリとした褐色の腕を組み、背中から生えた二本の腕で俺の白い髪をわしゃわしゃと撫で回してくれる。

「ありがとうジンさん……大丈夫だよセイ、ソウ」

「まっお前には俺様達がついてっからな! 呪いだろうが、祟りだろうが一捻りだぜっ」

 紫の瞳を輝かせ、意気揚々と言い放つカミナは相変わらずだ。いつの間にか俺を軽々と浅黒く太い腕で抱き抱え、額をこつんと合わせて白い歯を見せる。

「うんっ頼りにしてるよ、カミナ」

「おう、やっとこさイイ面になったな、その調子だ!」

 高い高いするみたいに俺を抱き上げてから、青い鱗が散りばめられた分厚い胸板へと俺をぽすんっと押しつける。しっかり抱き止めてくれたセイの腕の中にいる俺の頬を、大きな手で包み込んだかと思えば無遠慮にムニムニと、太い指で摘まみ始めてしまった。

「なんせ今日は、おめぇらにとって一世一代の大舞台なんだからよぉ」

「おおぶふぁい?」

 カミナから好き勝手に遊ばれているせいで、上手く喋れない。

「まぁ……確かに、サトルの親父さんを救おうってんだからなぁ」

 そんな俺の疑問に、大舞台つぅか大勝負か? と応えたジンさんの、左側だけ長く丁寧に編まれた黒髪が、首の傾きに合わせて揺れる。続けて耳に下がった飾りが小さな音を鳴らす。

「そいつは当然としてよぉ。もっと大事なのはその先だぜ」

 ぺちぺちと腰を叩き続ける赤く長い尻尾からの訴えにびくともしないし。俺を抱えるセイの、ソウとお揃いの金の瞳が向ける抗議の視線にも、物ともしないカミナが唇を尖らせる。いまだに太い指で俺の口元を、無理矢理笑顔の形で固定しながら。

「もしかして、魂の浄化のことかい? それなら恨みさえ鎮めてしまえばどうとでも……」

「ちげぇよ、報告すんだろうがっ! 結婚の!!」

 尖った水色の爪の先で組んだ自分の二の腕を、とん、とんと一定のリズムで叩いていたタツミさんの言葉を遮り。お腹にずんずんと響く大声を放ったカミナのごつごつした手が、ようやく俺の頬を解放した。

 みんな、きょとんと目を丸くしたのも一瞬で、

「勿論、俺様はサトルの料理の師匠として、挨拶させてもらうからなっ」

「だったら俺は友人だなぁ」

 逞しい胸を張り、得意気に笑うカミナに続き、ジンさんが、がっしりした彼の肩に肘を置き、目尻を下げ。

「じゃあ僕は仲人だね。あれだけ長い間付き合ったんだ、当然だろう?」

 細い腕で大柄な二人を押し退け、俺の視界に入ってきたタツミさんがフフンと鼻を鳴らす。

「ははっ、随分騒がしい挨拶になりそうだね」

「いいんじゃないか? 俺達らしくて。賑やかなのはいいことだぞ」

「……だね」

 明るいざわめきに包まれながら、クスクスと目配せしていた大好きな四つの金色が。

 力強く輝く紫が、温かい光を湛えた緑が、穏やかに見つめる青が。

 みんなと違ってなんの力もないちっぽけな俺に、溢れそうなくらいの勇気をくれる。

 きっと上手くいくって、大丈夫だって……そう、強く信じることが出来るんだ。

「みんな……よろしくね」

 震えそうな喉から声を振り絞り、熱い目元を拭った俺に、頼もしい五人の声が力強く応えてくれた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18BL】世界最弱の俺、なぜか神様に溺愛されているんだが

ちゃっぷす
BL
経験値が普通の人の千分の一しか得られない不憫なスキルを十歳のときに解放してしまった少年、エイベル。 努力するもレベルが上がらず、気付けば世界最弱の十八歳になってしまった。 そんな折、万能神ヴラスがエイベルの前に姿を現した。 神はある条件の元、エイベルに救いの手を差し伸べるという。しかしその条件とは――!?

やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。 短編用に登場人物紹介を追加します。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ あらすじ 前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。 20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。 そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。 普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。 そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか?? ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。 前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。 文章能力が低いので読みにくかったらすみません。 ※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました! 本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

甥っ子と異世界に召喚された俺、元の世界へ戻るために奮闘してたら何故か王子に捕らわれました?

秋野 なずな
BL
ある日突然、甥っ子の蒼葉と異世界に召喚されてしまった冬斗。 蒼葉は精霊の愛し子であり、精霊を回復できる力があると告げられその力でこの国を助けて欲しいと頼まれる。しかし同時に役目を終えても元の世界には帰すことが出来ないと言われてしまう。 絶対に帰れる方法はあるはずだと協力を断り、せめて蒼葉だけでも元の世界に帰すための方法を探して孤軍奮闘するも、誰が敵で誰が味方かも分からない見知らぬ地で、1人の限界を感じていたときその手は差し出された 「僕と手を組まない?」 その手をとったことがすべての始まり。 気づいた頃にはもう、その手を離すことが出来なくなっていた。 王子×大学生 ――――――――― ※男性も妊娠できる世界となっています

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

処理中です...