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父さんを救う鍵

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 見計らっていたかのようなタイミングで、皮だけになったメロンのお皿を運んでいく魚達を眺めていると、わざとらしい咳払いが部屋に響いた。

「さて、小腹も満たしたところで……そろそろ本題に入ろうか?」

 穏やかな笑みが浮かんでいた口元が引き締まり、透き通った瞳に真剣な光が宿った途端。和やかな空気が嘘だったかのように、肌がピリピリとする張り詰めたものへと変わっていく。

「まずは祟りを鎮め、君のお父さんの魂を解放する方法だけどね」

 瞼を閉じ、呼吸を整えるように小さく息を吐く薄い唇から発せられた言葉は思いがけないもので、

「愛だよ」

 俺も、両隣に居る二人も、ただただ彼が紡ぐ言葉の続きを待つことしか出来なかった。

「君の想いが届くかどうかに、全てが懸かっているといっても過言じゃない」

「俺の想い……ですか?」

 小さく頷くタツミさんを見て、黙ったまま俺の手を握っていたソウが口を開く。

「それってつまり、サトルちゃんのお父さんに自我を取り戻してもらうってこと?」

「成る程……とてつもない恨みを力に変えることで、サトルの父親は神としての存在を保てているのだから……」

「恨むのを止めてもらえれば、元の父さんに戻るってこと……ですか?」

 続けて補足するように、顎に指を当てながら呟いたセイの言葉を、自分なりに噛み砕いてからタツミさんに尋ねる。

「その通り! サトルちゃんは賢いねぇ」

 すると、ころりと笑顔に変わった。さっきまでの、ひやりと悪寒が走る真剣な表情がウソみたいだ。ふにゃふにゃした声で褒められて、背中が擽ったくなっちゃうや。

「たーつーみー」

「はいはい、分かってるって」

 ペシペシと長い尻尾が畳を叩く音をはねのけるみたいに、ひらひらと青白い手を振ったタツミさんが、もう一度仕切り直すみたいに咳をする。

「あー……特に今回の場合、君への愛故に彼は人神に成ってしまったからね」

「それってもしかして……父さんが俺を守ろうとして?」

 父さんが村を……俺を生け贄に捧げようとした村人達ごと滅ぼしたから、俺は逃げることが出来たらしい。人神に成ってしまったら自我を無くし、全てを呪おうとするって話だったけど。

 まさか……父さんは、今も俺を守ろうと戦い続けているのかな?

 もう、全部滅ぼし尽くした村で、一人ぼっちで。

「ああ。だから、君が彼の魂に語りかければ、どうにか説得することが出来れば、力の根本を絶つことが出来るはずだよ」

「だが、どうやって魂と会話するんだ?」

「直接話しかけても……ムリだよね? やっぱり」

「ああ、それなら問題ないよ。これを使うといい」

 タツミさんが手を叩く。その呼びかけに応えるみたいに、彼の後ろで控えていたピンクの魚がふわりと泳いできて俺達の前に木箱を一つ、そっと置いていく。

 青白い手でどうぞ、と促され蓋を開けば、乳白色の大きな丸い石が、部屋の明かりを受け、色を赤、オレンジ、緑、青と様々な色に変わっていく。小さな銀の鎖と同色の装飾に縁取られたそれは、紺色のソファーみたいなモコモコしたクッションに囲まれ、真ん中にちょこんと収まっていた。

「首飾り……ですか? 綺麗ですね」

「そいつを付けていれば、魂に直接自分の想いや記憶を伝えることが出来るんだよ」

「え……なにそれ、メッチャ準備がよくない?」

「なんとかする方法を探してくれるとは言っていたが……」

 あっけらかんとした態度に俺と一緒で二人もびっくりしたのか。切れ長の瞳を大きく見開き、煌めく水面のような髪をくるくる細い指で弄ぶタツミさんをじっと見つめている。

「それは、サトルちゃんの協力が得られていない場合のやり方のことだよ」

 ピタリと指を止めれば、キラキラ光る長い髪が絡まることもなくするりと指を滑るように落ち、肩にサラリと広がっていく。

「君達なら、極力彼に危険が及ばない手段を取ると思っていたからね。僕が同じ立場でもそうするし」

 ふと、ガラス玉みたいな瞳が俺を捉え、

「だから意外だったよ。君達のお嫁さん、見た目は可愛いのに存外逞しいんだなってね」

 ゆるりと目尻が下がっていく。褒めてくれるのは嬉しいんだけど……なんだか少し恥ずかしくて、柔らかい視線から逃れるように二人の顔を見上げる。

 だけど……二人は二人で得意気に鋭い歯を見せ、当然だ! と言わんばかりにタツミさんに向け、逞しい胸を張るもんだから、余計に顔が熱くなってしまったんだ。
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