71 / 90
だって、ホントのことなんだから
しおりを挟む
「勿論いいよ!」
「え?」
そりゃあ二人の友達だし、タツミさんはとても良い人だから、この前だってたくさん俺達のことをおもてなししてくれたし。だから、精一杯お願いすれば、無下にされることはないだろう、と心のどこかで期待してはいたんだけれど。
ここまであっけなく、満面の笑みで即答されてしまうと、さっきまでの張りつめていた空気との落差に間の抜けた声も出てしまうわけで。
「ごめんねぇ、びっくりさせちゃって。君の本気の度合いを知りたくてね。それに……」
ゆるりと目元を緩ませたタツミさんは、俺達を出迎えてくれた時の、ふにゃふにゃした声にころりと戻ったかと思えば……
「僕ごときの威圧に怖じ気づいてちゃ、人神の前に立つことすら出来ないだろうからね」
また、さっきと同じ身体の芯まで凍ってしまいそうな雰囲気をちらつかせてくるもんだから……勝手に肩の力が抜けたり、跳ねたりしてしまう。
「確かに……呪いは俺達の加護ではねのけられても……恐怖心には、サトル自身が打ち勝つ必要があるからな」
「それはそうだけどさぁ……もうちょっと、やり方ってもんがあるじゃん?」
渋い顔をしながらも、納得して頷くセイに対してソウはどこか不満気みたい。長い尻尾の先でペシペシ畳を叩きながら、俺の頭を労るみたいによしよし撫で回してくれる。
「まーまー君達さえ側に居れば、サトルちゃんの気持ちが折れないって分かったんだからさ」
あそこまでやたらめったら怖がらせなくてもさぁ……とブツブツ呟いていたソウも、
「本当に君達愛されてるよね」
と自分のことのように嬉しそうな笑顔を向けられてしまえば、悪い気はしないみたい。
「えへへーそんなの当たり前でしょ? 俺達ラブラブだもん! ね?」
「ああ、勿論だ! サトルへの愛は、誰にも負けるつもりはないからな!」
すっかり上機嫌になったのか、弾んだ声で赤い尻尾を俺の腰の辺りに巻きつける。続けて握った俺の手に力を込めた青い尻尾も、しゅるりと巻きついた。
「へぇ……照れないんだね、サトルちゃん」
「なにがですか?」
タツミさんが意外そうに、海を閉じ込めたような瞳をぱちぱちさせる理由が分からなくて素直に尋ねたんだけど……
「いや、さっき二人がのろけてた時は、顔真っ赤にしてもじもじしてたからさ。てっきり今回も、可愛らしくはにかむ君が、見られると思っていたんだけど」
聞いてみてもいまいちよく分からなかった。単純に、俺の理解力が足りていないだけなのかもしれないけど。
「だって、ホントのことですから」
残念そうに下がっていた眉がぴょんと跳ねる。もしかして、驚いているのかな?
「ホントのことって?」
今度はタツミさんの方が分からなかったみたい。俺の言葉をそのまま返され首を傾げられてしまった。
「え? 勿論二人の、セイとソウのことを、俺が愛してるってことですけど……」
じゃあ、思っていることをそのまま言っちゃった方が早いかな? って心の内を全部話したんだけど……
「だから、別に照れることもないというか……」
ますます目を丸くしちゃったんだ。何でだろう? 頭を捻っていると突然、俺の両側から凄まじい打撃音が鳴る。慌てて左右を見ると何故か、二人がテーブルに向かって顔面から倒れこんでしまっていた。
「だ、大丈夫? セイ、ソウ」
「あー……大丈夫大丈夫。嬉しすぎて悶えてるだけだから」
「いやそれ、大丈夫じゃないですよね?」
悶えるってさ、苦しんでるってことだよね? 実際、二人とも小さい声で唸りながら小刻みに震えてるし。顔どころか、少し尖った耳の先まで真っ赤になっちゃってるしさ。
「しばらくしたら自然と治るよ。だからさ、一緒にメロンでも食べて待ってよーよ、ね?」
真珠色のテーブルに頬杖をつき、なんだか楽しそうに口の端を持ち上げているタツミさんが、瑞々しいメロンを俺にすすめてくる。
とくに焦った素振りを見せることのない落ち着いた様子に、だったら大丈夫なのかな? と上げていた腰を下ろし、クッションの上に座り直した。
「だったら俺、待っててもいいですか? みんなで食べた方が美味しいから……その、良ければタツミさんも……」
「ふふ、勿論構わないよ。まぁ、その必要も無さそうだけどね」
意味ありげに目を細めた彼に、どういうことですか? と尋ねる間もなく、温かくて弾力のあるものに左右からむぎゅっと挟まれ、そのまま逞しい腕の中に閉じ込められる。セイとソウだ。
「あ、治ったんだね? 良かった。大丈夫?」
返事の代わりなのかぎゅうぎゅう抱きしめられ、なんだか胸の辺りがくすぐったくなってしまう。つい吹き出してしまった俺に釣られたのか、クスクスと両側から笑い声がこぼれてきた。
「ほらほら君達、いつまでそうしてるつもりなんだい?」
食べないんだったら僕が全部食べてもいいんだよ? と俺達を急かすように、銀のフォークでお皿を鳴らすタツミさんは、呆れたように軽く息をついていたけど。なんとなく、その表情は、俺達に向けられた眼差しには、優しい光が宿っていた気がしたんだ。
「え?」
そりゃあ二人の友達だし、タツミさんはとても良い人だから、この前だってたくさん俺達のことをおもてなししてくれたし。だから、精一杯お願いすれば、無下にされることはないだろう、と心のどこかで期待してはいたんだけれど。
ここまであっけなく、満面の笑みで即答されてしまうと、さっきまでの張りつめていた空気との落差に間の抜けた声も出てしまうわけで。
「ごめんねぇ、びっくりさせちゃって。君の本気の度合いを知りたくてね。それに……」
ゆるりと目元を緩ませたタツミさんは、俺達を出迎えてくれた時の、ふにゃふにゃした声にころりと戻ったかと思えば……
「僕ごときの威圧に怖じ気づいてちゃ、人神の前に立つことすら出来ないだろうからね」
また、さっきと同じ身体の芯まで凍ってしまいそうな雰囲気をちらつかせてくるもんだから……勝手に肩の力が抜けたり、跳ねたりしてしまう。
「確かに……呪いは俺達の加護ではねのけられても……恐怖心には、サトル自身が打ち勝つ必要があるからな」
「それはそうだけどさぁ……もうちょっと、やり方ってもんがあるじゃん?」
渋い顔をしながらも、納得して頷くセイに対してソウはどこか不満気みたい。長い尻尾の先でペシペシ畳を叩きながら、俺の頭を労るみたいによしよし撫で回してくれる。
「まーまー君達さえ側に居れば、サトルちゃんの気持ちが折れないって分かったんだからさ」
あそこまでやたらめったら怖がらせなくてもさぁ……とブツブツ呟いていたソウも、
「本当に君達愛されてるよね」
と自分のことのように嬉しそうな笑顔を向けられてしまえば、悪い気はしないみたい。
「えへへーそんなの当たり前でしょ? 俺達ラブラブだもん! ね?」
「ああ、勿論だ! サトルへの愛は、誰にも負けるつもりはないからな!」
すっかり上機嫌になったのか、弾んだ声で赤い尻尾を俺の腰の辺りに巻きつける。続けて握った俺の手に力を込めた青い尻尾も、しゅるりと巻きついた。
「へぇ……照れないんだね、サトルちゃん」
「なにがですか?」
タツミさんが意外そうに、海を閉じ込めたような瞳をぱちぱちさせる理由が分からなくて素直に尋ねたんだけど……
「いや、さっき二人がのろけてた時は、顔真っ赤にしてもじもじしてたからさ。てっきり今回も、可愛らしくはにかむ君が、見られると思っていたんだけど」
聞いてみてもいまいちよく分からなかった。単純に、俺の理解力が足りていないだけなのかもしれないけど。
「だって、ホントのことですから」
残念そうに下がっていた眉がぴょんと跳ねる。もしかして、驚いているのかな?
「ホントのことって?」
今度はタツミさんの方が分からなかったみたい。俺の言葉をそのまま返され首を傾げられてしまった。
「え? 勿論二人の、セイとソウのことを、俺が愛してるってことですけど……」
じゃあ、思っていることをそのまま言っちゃった方が早いかな? って心の内を全部話したんだけど……
「だから、別に照れることもないというか……」
ますます目を丸くしちゃったんだ。何でだろう? 頭を捻っていると突然、俺の両側から凄まじい打撃音が鳴る。慌てて左右を見ると何故か、二人がテーブルに向かって顔面から倒れこんでしまっていた。
「だ、大丈夫? セイ、ソウ」
「あー……大丈夫大丈夫。嬉しすぎて悶えてるだけだから」
「いやそれ、大丈夫じゃないですよね?」
悶えるってさ、苦しんでるってことだよね? 実際、二人とも小さい声で唸りながら小刻みに震えてるし。顔どころか、少し尖った耳の先まで真っ赤になっちゃってるしさ。
「しばらくしたら自然と治るよ。だからさ、一緒にメロンでも食べて待ってよーよ、ね?」
真珠色のテーブルに頬杖をつき、なんだか楽しそうに口の端を持ち上げているタツミさんが、瑞々しいメロンを俺にすすめてくる。
とくに焦った素振りを見せることのない落ち着いた様子に、だったら大丈夫なのかな? と上げていた腰を下ろし、クッションの上に座り直した。
「だったら俺、待っててもいいですか? みんなで食べた方が美味しいから……その、良ければタツミさんも……」
「ふふ、勿論構わないよ。まぁ、その必要も無さそうだけどね」
意味ありげに目を細めた彼に、どういうことですか? と尋ねる間もなく、温かくて弾力のあるものに左右からむぎゅっと挟まれ、そのまま逞しい腕の中に閉じ込められる。セイとソウだ。
「あ、治ったんだね? 良かった。大丈夫?」
返事の代わりなのかぎゅうぎゅう抱きしめられ、なんだか胸の辺りがくすぐったくなってしまう。つい吹き出してしまった俺に釣られたのか、クスクスと両側から笑い声がこぼれてきた。
「ほらほら君達、いつまでそうしてるつもりなんだい?」
食べないんだったら僕が全部食べてもいいんだよ? と俺達を急かすように、銀のフォークでお皿を鳴らすタツミさんは、呆れたように軽く息をついていたけど。なんとなく、その表情は、俺達に向けられた眼差しには、優しい光が宿っていた気がしたんだ。
25
お気に入りに追加
267
あなたにおすすめの小説

【完結】泡の消えゆく、その先に。〜人魚の恋のはなし〜
N2O
BL
人間×人魚の、恋の話。
表紙絵
⇨ 元素🪦 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定です
※◎は視点が変わります(俯瞰、攻め視点etc)

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど
野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。
愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。
それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。
ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。
イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?!
□■
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!
完結しました。
応援していただきありがとうございます!
□■
第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる
琴葉悠
BL
十六夜時雨は諸事情から橋の上から転落し、川に落ちた。
落ちた川から上がると見知らぬ場所にいて、そこで異世界に来た事を知らされる。
異世界人は良き知らせをもたらす事から王族が庇護する役割を担っており、時雨は庇護されることに。
そこで、検査すると、時雨はDomというダイナミクスの性の一つを持っていて──
【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。


非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします
muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。
非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。
両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。
そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。
非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。
※全年齢向け作品です。

【完結】我が侭公爵は自分を知る事にした。
琉海
BL
不仲な兄の代理で出席した他国のパーティーで愁玲(しゅうれ)はその国の王子であるヴァルガと出会う。弟をバカにされて怒るヴァルガを愁玲は嘲笑う。「兄が弟の事を好きなんて、そんなこと絶対にあり得ないんだよ」そう言う姿に何かを感じたヴァルガは愁玲を自分の番にすると宣言し共に暮らし始めた。自分の国から離れ一人になった愁玲は自分が何も知らない事に生まれて初めて気がついた。そんな愁玲にヴァルガは知識を与え、時には褒めてくれてそんな姿に次第と惹かれていく。
しかしヴァルガが優しくする相手は愁玲だけじゃない事に気づいてしまった。その日から二人の関係は崩れていく。急に変わった愁玲の態度に焦れたヴァルガはとうとう怒りを顕にし愁玲はそんなヴァルガに恐怖した。そんな時、愁玲にかけられていた魔法が発動し実家に戻る事となる。そこで不仲の兄、それから愁玲が無知であるように育てた母と対峙する。
迎えに来たヴァルガに連れられ再び戻った愁玲は前と同じように穏やかな時間を過ごし始める。様々な経験を経た愁玲は『知らない事をもっと知りたい』そう願い、旅に出ることを決意する。一人でもちゃんと立てることを証明したかった。そしていつかヴァルガから離れられるように―――。
異変に気づいたヴァルガが愁玲を止める。「お前は俺の番だ」そう言うヴァルガに愁玲は問う。「番って、なに?」そんな愁玲に深いため息をついたヴァルガはあやすように愁玲の頭を撫でた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる