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だって、ホントのことなんだから

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「勿論いいよ!」

「え?」

 そりゃあ二人の友達だし、タツミさんはとても良い人だから、この前だってたくさん俺達のことをおもてなししてくれたし。だから、精一杯お願いすれば、無下にされることはないだろう、と心のどこかで期待してはいたんだけれど。

 ここまであっけなく、満面の笑みで即答されてしまうと、さっきまでの張りつめていた空気との落差に間の抜けた声も出てしまうわけで。

「ごめんねぇ、びっくりさせちゃって。君の本気の度合いを知りたくてね。それに……」

 ゆるりと目元を緩ませたタツミさんは、俺達を出迎えてくれた時の、ふにゃふにゃした声にころりと戻ったかと思えば……

「僕ごときの威圧に怖じ気づいてちゃ、人神の前に立つことすら出来ないだろうからね」

 また、さっきと同じ身体の芯まで凍ってしまいそうな雰囲気をちらつかせてくるもんだから……勝手に肩の力が抜けたり、跳ねたりしてしまう。

「確かに……呪いは俺達の加護ではねのけられても……恐怖心には、サトル自身が打ち勝つ必要があるからな」

「それはそうだけどさぁ……もうちょっと、やり方ってもんがあるじゃん?」

 渋い顔をしながらも、納得して頷くセイに対してソウはどこか不満気みたい。長い尻尾の先でペシペシ畳を叩きながら、俺の頭を労るみたいによしよし撫で回してくれる。

「まーまー君達さえ側に居れば、サトルちゃんの気持ちが折れないって分かったんだからさ」

 あそこまでやたらめったら怖がらせなくてもさぁ……とブツブツ呟いていたソウも、

「本当に君達愛されてるよね」

 と自分のことのように嬉しそうな笑顔を向けられてしまえば、悪い気はしないみたい。

「えへへーそんなの当たり前でしょ? 俺達ラブラブだもん! ね?」

「ああ、勿論だ! サトルへの愛は、誰にも負けるつもりはないからな!」

 すっかり上機嫌になったのか、弾んだ声で赤い尻尾を俺の腰の辺りに巻きつける。続けて握った俺の手に力を込めた青い尻尾も、しゅるりと巻きついた。

「へぇ……照れないんだね、サトルちゃん」

「なにがですか?」

 タツミさんが意外そうに、海を閉じ込めたような瞳をぱちぱちさせる理由が分からなくて素直に尋ねたんだけど……

「いや、さっき二人がのろけてた時は、顔真っ赤にしてもじもじしてたからさ。てっきり今回も、可愛らしくはにかむ君が、見られると思っていたんだけど」

 聞いてみてもいまいちよく分からなかった。単純に、俺の理解力が足りていないだけなのかもしれないけど。

「だって、ホントのことですから」

 残念そうに下がっていた眉がぴょんと跳ねる。もしかして、驚いているのかな?

「ホントのことって?」

 今度はタツミさんの方が分からなかったみたい。俺の言葉をそのまま返され首を傾げられてしまった。

「え? 勿論二人の、セイとソウのことを、俺が愛してるってことですけど……」

 じゃあ、思っていることをそのまま言っちゃった方が早いかな? って心の内を全部話したんだけど……

「だから、別に照れることもないというか……」

 ますます目を丸くしちゃったんだ。何でだろう? 頭を捻っていると突然、俺の両側から凄まじい打撃音が鳴る。慌てて左右を見ると何故か、二人がテーブルに向かって顔面から倒れこんでしまっていた。

「だ、大丈夫? セイ、ソウ」

「あー……大丈夫大丈夫。嬉しすぎて悶えてるだけだから」

「いやそれ、大丈夫じゃないですよね?」

 悶えるってさ、苦しんでるってことだよね? 実際、二人とも小さい声で唸りながら小刻みに震えてるし。顔どころか、少し尖った耳の先まで真っ赤になっちゃってるしさ。

「しばらくしたら自然と治るよ。だからさ、一緒にメロンでも食べて待ってよーよ、ね?」

 真珠色のテーブルに頬杖をつき、なんだか楽しそうに口の端を持ち上げているタツミさんが、瑞々しいメロンを俺にすすめてくる。

 とくに焦った素振りを見せることのない落ち着いた様子に、だったら大丈夫なのかな? と上げていた腰を下ろし、クッションの上に座り直した。

「だったら俺、待っててもいいですか? みんなで食べた方が美味しいから……その、良ければタツミさんも……」

「ふふ、勿論構わないよ。まぁ、その必要も無さそうだけどね」

 意味ありげに目を細めた彼に、どういうことですか? と尋ねる間もなく、温かくて弾力のあるものに左右からむぎゅっと挟まれ、そのまま逞しい腕の中に閉じ込められる。セイとソウだ。

「あ、治ったんだね? 良かった。大丈夫?」

 返事の代わりなのかぎゅうぎゅう抱きしめられ、なんだか胸の辺りがくすぐったくなってしまう。つい吹き出してしまった俺に釣られたのか、クスクスと両側から笑い声がこぼれてきた。

「ほらほら君達、いつまでそうしてるつもりなんだい?」

 食べないんだったら僕が全部食べてもいいんだよ? と俺達を急かすように、銀のフォークでお皿を鳴らすタツミさんは、呆れたように軽く息をついていたけど。なんとなく、その表情は、俺達に向けられた眼差しには、優しい光が宿っていた気がしたんだ。
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