【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ

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【番外編】ドキドキバレンタインデート大作戦!!その5

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 機械や道具ってすばらしい。ホントに。

 混ぜると焼くしか出来ない俺でも、オーブンを使えば唐揚げが。電子レンジを使えば温野菜が。おまけに型抜きを使えば、みんなに切ってもらった丸いニンジンがハートや星の形に出来るんだから。

 驚く俺に、おめぇ達の世界にも有るもんだぜ? って昨日唐揚げの仕込みを手伝ってくれた師匠は笑っていたけど。今の今まで全く縁がなかった俺にとっては、頼もしさを通り越して拝みたくなるくらいだ。

「後は、お握りの上にチーズを飾れば完成かな?」

 俺の問いかけに、きゅう! と応えた子達のくりくりした黄色の瞳は、二つの大きな弁当箱に注がれている。

 一つの方には唐揚げと玉子焼きがみっちり詰まって、もう一つにはお握り、ブロッコリー、ハートと星の形のニンジンが並ぶ。

「あのさ、デートだからってさ、チーズもハートにするのってどう思う? やり過ぎにならないかな?」

 ニンジンの時も、ホントは全部ハートにしたかったんだけど……星もあった方がにぎやかでいいのかな? って同じ数にしちゃったんだけどさ。出来れば……その……好きだよって気持ちを、お弁当にもいっぱい込めたいんだよね……

 きゅっ!! と自信満々に鳴いた二匹の尻尾が示すのは、ハートの型抜きで、

「ホントに? 二人とも、喜んでくれるかな……?」

 もう一度尋ねてみても、彼らの意見は勿論変わらず、俺の背中を押してくれているような力強い鳴き声に、

「……よしっ」

 気合いを入れて押したせいで、ハートが少し歪んでしまった。




「セイ、ソウ、ごめんね。お待たせ」

「んーん、全っ然大丈夫だよ!」

「お疲れ様、サトル。……ソウ、取り敢えずその口元をなんとかしたらどうだ?」

 長い尻尾を揺らし、金の瞳を輝かせるソウの視線は俺が抱える風呂敷包みにじーっと向けられていて。大きな手が俺の頭を撫でてから包みを持ってくれても、見つめ続けるその口の端からは待ちきれないのかよだれが溢れそうになっている。

「ごめん、ごめん、スッゴく美味しそうな匂いがしてたからさぁ……」

 照れくさそうに頬をかくソウの口元を、気持ちは分かるけどな、と困ったような笑みを浮かべたセイがハンカチで拭う。

「車に乗ったら食べよう? 俺も冷めないうちに食べて欲しいし……」

「やったぁ! 早く行こうよ! セイ、サトルちゃん!」

「全くお前は仕方ないな……行こうか、サトル」

「うん!」

 赤い手が俺の左手をぎゅっと握り、青い手が右手をそっと繋いでくれる。二色の腕に手を引かれながら、俺達のバレンタインが始まった。




 玄関の戸が閉まる寸前までずっと、細い尻尾をぴこぴこ振ってくれていたみんなに、いってきます! と手を振って。車を引く為に馬の姿に変身した子達の頭を、今日はよろしくね! と撫でてから乗り込んだ。

 おっ弁当ーおっ弁当ーと上機嫌に歌うソウの鼻歌を聞きながら風呂敷の結びを解いて広げ、蓋を開ける。

 途端に両側から上がった拍手と喜びの声に、俺の中で渦巻いていた不安なんて一気に吹き飛んでしまって。緊張のドキドキが、嬉しいドキドキにあっさり変わっちゃったんだ。

「はい、ソウ……あーん」

 赤い尻尾を揺らしながら、あーんと大きな口を開けて待っている彼に、唐揚げを掴んだ箸を近づける。まだ熱いそれを一口で頬張ると、切れ長の瞳が大きく開いてキラキラと輝いた。

「美味しい?」

「メッチャ美味しいよ! え? これホントに揚げてないの?」

「うん。衣をつけて、オーブントースターで焼いただけだよ」

 ふふ、スッゴくびっくりしてるなぁ……ソウ。でも気持ちは分かるや。俺も、お手本で師匠が焼いてくれたのを食べた時、驚き過ぎて言葉が出なかったもんなぁ。

「こんなにカリッとしててジュワッてなるのに……もしかしなくても、俺達のお嫁さんって料理の天才なんじゃ……」

「そんな、褒めすぎだよ……嬉しいけどさ」

「だってホントに美味しいんだもん! ねぇ? セイ」

「全くだ……止まらなくなってしまうぞ」

 もっきゅもっきゅと白い頬をリスみたいに膨らませているセイが夢中になっているのは、彼好みに味付けをした甘い玉子焼きだ。

 みっちり詰めていた黄色の面積は、すでに三分の一が彼の胃に収まっている。茶色の面積はソウの胃に。いくら二人が好きなおかずだからって、作りすぎちゃったかなって心配してたけど……正解だったかも。

「良かった……二人とも喜んでくれて。あのさ、セイ、これも食べてみてくれない?」

 あーんして? とお握りを口元へと運ぶと、ふにゃりと目尻が下がり大きな口が開く。俺の掌に収まるお握りは、二人にとって一口サイズみたい。ぱくんと綺麗に飲み込んでしまった。

「どうかな?」

「とっても美味しいぞ! 昆布の甘さとご飯の塩加減が丁度いいな。ところで……その、ずっと気になっていたんだが……」

 ゆるりと綻んでいたセイの頬が、ほんのり赤く染まる。もごもごと恥ずかしそうにしていた彼の疑問を代弁するかのように、俺に抱きつき頬を寄せてきたソウが口を開いた。

「今日は、いつもよりハートがいっぱいで可愛いよね! やっぱりバレンタインだから?」

 特に深い意味はなく、不思議に思ったから聞いただけってのは分かってる。分かってるんだけど。俺自身が意識していたせいもあってか、顔が急に熱くなり、喉が震えて途切れ途切れになってしまう。

「あ、う……えっと……二人のこと、好きだよって、俺の気持ちをいっぱい込めたくて……その……」

 ピタリと時間が止まったみたいな静けさの後に、息を呑むような音と、悶えるような短いうめき声がして。俺の足にしゅるりとすべすべしたものが巻きつく。

 俺を抱き締めていた赤い腕にはさらに力が込められ、さらには反対側から青い腕が勢いよく伸びてきて、もぎゅっと弾力のある二人の身体に挟まれてしまった。
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