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顔も、名前も思い出せない。それでも……
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二人にたっぷり甘やかされてしまったせいだ。
いまだに心臓が壊れそうなくらいドキドキしてるのも。身体が熱くて力が入らなくて、二人の膝の上でだらんと寝転がっちゃてるのも。
「ズルいよ……二人してさ。今日は、俺が二人のこと甘やかすつもりだったのに……」
「ごめんね、君があんまりにも可愛いことを言ってくれたからさ」
「愛おしくて止まらなくなってしまったんだ……ごめんな」
やっぱりズルいや……ふにゃりと笑う二人の瞳は、大好きだよって言ってくれているみたいに温かい光を帯びていて。そんな目で、背中の辺りがぞくぞくするような甘ったるい声で、また頬が勝手に下がっちゃうくらいに嬉しい言葉を言われてしまったら、許しちゃうじゃんか。
別に、ちょっと残念だなって思っていただけで、全然、これっぽっちも怒ってなんかいなかったんだけどさ。
「……ねぇ、セイ……俺」
「……ああ、分かっている。俺も今、同じ気持ちだ」
二人の雰囲気が、がらりと変わる。
どこか切なそうな表情は、俺じゃない別の何かを見ているような瞳は、最近感じていた違和感と繋がったような気がして。震える二人の手を、大丈夫だよって伝わるようにそっと握った。
「……サトルちゃん。聞いて欲しいことがあるんだ……きっと、君を傷つけてしまう……悲しませてしまうけど……でも……」
「いいよ、聞きたい。ずっと、黙ってくれていたんでしょ? 俺の代わりに、二人で背負ってくれていたんでしょ?」
大きく見開いた四つの瞳は、何で分かったの? って言っているみたいで。びっくりしている二人がなんだか可愛くて、知らず知らずのうちに頬が緩んでしまう。
「俺にも、分けて欲しいんだ。嬉しいことだけじゃなくて辛いことも。三人一緒がいいんだ……家族だから」
優しい二人はいつも俺のことを考えてくれて。悲しいことや嫌なことから俺を守ろうとしてくれる。それは、とても嬉しいけれど、同じくらい寂しかった。
俺だって男だもん、大好きな二人を守りたいって思うのは当然だろ?
二人の顔がくしゃりと歪んで、金色の瞳からポロポロと透明な滴がこぼれ落ちる。
こんな時に思っちゃいけないのに、涙に濡れてキラキラと光る四つの瞳が。とても綺麗だなって思ってしまったんだ。
◇
震える声で紡がれたお話は、俺にとって胸が苦しくなって、泣いちゃってもおかしくないくらいのものだったのに……なんでだろう?
やっと心の中で引っかかっていた何かが取れたような、ずっと探していた物が見つかったような……そんな気がして。不思議と落ち着いて、最後まで聞くことが出来たんだ。
「ごめんね……俺達、何も出来なくて……それどころか、君が、記憶を失っちゃうくらい嫌なことなのに……無理矢理思い出させるようなこと、しちゃって……」
「辛い話をしてしまってごめんな……しかし、やはり知って欲しかったんだ。たとえ、君が覚えていなくとも……もう、彼は人ではなくなってしまっているけれど……それでも……」
目元を真っ赤に腫らした二人は、俺よりも辛そうで、苦しそうで。大きな身体を縮こませて震える二人を見ていると、胸が潰れそうになっちゃうのに。俺の為に泣いてくれる二人の温かい気持ちがとても嬉しくて、幸せだなって思ってしまったんだ。
「セイ、ソウ、話してくれて、ありがとう……自分でもびっくりしてるんだけどさ……俺、結構平気みたい」
二人もびっくりしたのかな? 俺と一緒で。あんなに止まらなかった涙が、あっという間に引っ込んじゃったや。
「無理してるんじゃないよ? それに、覚えてないから何とも思わない……ってわけでもないんだ。……なんでかな? 俺、愛されてたんだなって、そう思ったんだ。父さんと母さんに」
理由は分からない。でも、何故かそう確信できた。
最後に見たあの不思議な夢のお陰かな? 目覚めた時に、いつもと違って胸が温かいもので満たされていて……ああ、覚めちゃったのかって、少し残念な気持ちになったあの夢の。
「変、だよね? まだ、二人の顔も……名前も、思い出せていないのにさ……」
「……変じゃない! 全然変じゃないよ! じゃなきゃ、人神になんてならないよ! 君のことを愛してたから、呪いたくなるくらい悔しかったんだよ……」
「ソウの言う通りだ。でなければ、君は今、ここにいないだろう……二人が君を大事に育て、お父さんが全てをかけて守ってくれた。だから、俺達は出会えたんだ」
「ありがとう……セイとソウのお陰で俺、スゴく自信が湧いてきたよ」
二人の言葉はいつも俺に元気をくれる、いつも俺を支えてくれる。繋いだ手から伝わってくる温もりが、俺に勇気を、力をくれる。だから……
「あのさ……二人に、手伝って欲しいことがあるんだ」
まだ少し潤んでいるけど、その瞳には強い光が宿っていて。静かに頷いた二色の手が俺の背中を押すように、ぎゅっと強く握り返してくれた。
「……俺、父さんに会いたい。とても危ないだろうし、会いに行ったところで解決することじゃないって分かってる」
人神様は、この世の全てを呪ってしまうらしい。元の人間の意思に関係なく。
だから、きっと父さんも……俺のことだって……
「でも……会いたいんだ。会って、伝えたいんだ。俺は今、幸せだよって……もう、大丈夫だよって……ダメかな?」
「ダメじゃないに決まってるじゃん! 行こう、三人で! 君のお父さんのところへ!」
「君がちゃんと話が出来るように、俺達が全力で守ろう。なに、心配はいらないさ。俺達は強いからな!」
「うんうん! 呪いなんか、俺達がまとめてぶっ飛ばしちゃうよ!!」
元気のいい高めの声に励まされ、頼もしい低めの声にほっとする。
「ありがとう……セイ、ソウ」
こぼれるような笑みに胸がいっぱいになって、俺を優しく包む二人の温もりに思いがこみ上げてきて。
涙が止まらなくなってしまった俺を、いっぱい抱き締めてくれて、撫でてくれて。俺が元気づけるつもりだったのに、また二人から温かいものをたくさんもらってしまったんだ。
いまだに心臓が壊れそうなくらいドキドキしてるのも。身体が熱くて力が入らなくて、二人の膝の上でだらんと寝転がっちゃてるのも。
「ズルいよ……二人してさ。今日は、俺が二人のこと甘やかすつもりだったのに……」
「ごめんね、君があんまりにも可愛いことを言ってくれたからさ」
「愛おしくて止まらなくなってしまったんだ……ごめんな」
やっぱりズルいや……ふにゃりと笑う二人の瞳は、大好きだよって言ってくれているみたいに温かい光を帯びていて。そんな目で、背中の辺りがぞくぞくするような甘ったるい声で、また頬が勝手に下がっちゃうくらいに嬉しい言葉を言われてしまったら、許しちゃうじゃんか。
別に、ちょっと残念だなって思っていただけで、全然、これっぽっちも怒ってなんかいなかったんだけどさ。
「……ねぇ、セイ……俺」
「……ああ、分かっている。俺も今、同じ気持ちだ」
二人の雰囲気が、がらりと変わる。
どこか切なそうな表情は、俺じゃない別の何かを見ているような瞳は、最近感じていた違和感と繋がったような気がして。震える二人の手を、大丈夫だよって伝わるようにそっと握った。
「……サトルちゃん。聞いて欲しいことがあるんだ……きっと、君を傷つけてしまう……悲しませてしまうけど……でも……」
「いいよ、聞きたい。ずっと、黙ってくれていたんでしょ? 俺の代わりに、二人で背負ってくれていたんでしょ?」
大きく見開いた四つの瞳は、何で分かったの? って言っているみたいで。びっくりしている二人がなんだか可愛くて、知らず知らずのうちに頬が緩んでしまう。
「俺にも、分けて欲しいんだ。嬉しいことだけじゃなくて辛いことも。三人一緒がいいんだ……家族だから」
優しい二人はいつも俺のことを考えてくれて。悲しいことや嫌なことから俺を守ろうとしてくれる。それは、とても嬉しいけれど、同じくらい寂しかった。
俺だって男だもん、大好きな二人を守りたいって思うのは当然だろ?
二人の顔がくしゃりと歪んで、金色の瞳からポロポロと透明な滴がこぼれ落ちる。
こんな時に思っちゃいけないのに、涙に濡れてキラキラと光る四つの瞳が。とても綺麗だなって思ってしまったんだ。
◇
震える声で紡がれたお話は、俺にとって胸が苦しくなって、泣いちゃってもおかしくないくらいのものだったのに……なんでだろう?
やっと心の中で引っかかっていた何かが取れたような、ずっと探していた物が見つかったような……そんな気がして。不思議と落ち着いて、最後まで聞くことが出来たんだ。
「ごめんね……俺達、何も出来なくて……それどころか、君が、記憶を失っちゃうくらい嫌なことなのに……無理矢理思い出させるようなこと、しちゃって……」
「辛い話をしてしまってごめんな……しかし、やはり知って欲しかったんだ。たとえ、君が覚えていなくとも……もう、彼は人ではなくなってしまっているけれど……それでも……」
目元を真っ赤に腫らした二人は、俺よりも辛そうで、苦しそうで。大きな身体を縮こませて震える二人を見ていると、胸が潰れそうになっちゃうのに。俺の為に泣いてくれる二人の温かい気持ちがとても嬉しくて、幸せだなって思ってしまったんだ。
「セイ、ソウ、話してくれて、ありがとう……自分でもびっくりしてるんだけどさ……俺、結構平気みたい」
二人もびっくりしたのかな? 俺と一緒で。あんなに止まらなかった涙が、あっという間に引っ込んじゃったや。
「無理してるんじゃないよ? それに、覚えてないから何とも思わない……ってわけでもないんだ。……なんでかな? 俺、愛されてたんだなって、そう思ったんだ。父さんと母さんに」
理由は分からない。でも、何故かそう確信できた。
最後に見たあの不思議な夢のお陰かな? 目覚めた時に、いつもと違って胸が温かいもので満たされていて……ああ、覚めちゃったのかって、少し残念な気持ちになったあの夢の。
「変、だよね? まだ、二人の顔も……名前も、思い出せていないのにさ……」
「……変じゃない! 全然変じゃないよ! じゃなきゃ、人神になんてならないよ! 君のことを愛してたから、呪いたくなるくらい悔しかったんだよ……」
「ソウの言う通りだ。でなければ、君は今、ここにいないだろう……二人が君を大事に育て、お父さんが全てをかけて守ってくれた。だから、俺達は出会えたんだ」
「ありがとう……セイとソウのお陰で俺、スゴく自信が湧いてきたよ」
二人の言葉はいつも俺に元気をくれる、いつも俺を支えてくれる。繋いだ手から伝わってくる温もりが、俺に勇気を、力をくれる。だから……
「あのさ……二人に、手伝って欲しいことがあるんだ」
まだ少し潤んでいるけど、その瞳には強い光が宿っていて。静かに頷いた二色の手が俺の背中を押すように、ぎゅっと強く握り返してくれた。
「……俺、父さんに会いたい。とても危ないだろうし、会いに行ったところで解決することじゃないって分かってる」
人神様は、この世の全てを呪ってしまうらしい。元の人間の意思に関係なく。
だから、きっと父さんも……俺のことだって……
「でも……会いたいんだ。会って、伝えたいんだ。俺は今、幸せだよって……もう、大丈夫だよって……ダメかな?」
「ダメじゃないに決まってるじゃん! 行こう、三人で! 君のお父さんのところへ!」
「君がちゃんと話が出来るように、俺達が全力で守ろう。なに、心配はいらないさ。俺達は強いからな!」
「うんうん! 呪いなんか、俺達がまとめてぶっ飛ばしちゃうよ!!」
元気のいい高めの声に励まされ、頼もしい低めの声にほっとする。
「ありがとう……セイ、ソウ」
こぼれるような笑みに胸がいっぱいになって、俺を優しく包む二人の温もりに思いがこみ上げてきて。
涙が止まらなくなってしまった俺を、いっぱい抱き締めてくれて、撫でてくれて。俺が元気づけるつもりだったのに、また二人から温かいものをたくさんもらってしまったんだ。
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