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大好きなのは、二人だけ
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目の前で、男の人が微笑んでいる。夢の最後に必ずこの子から、折り鶴を受け取っている人だ。
ということは、またいつもの夢かな? いや、でもちょっと違うかも。
今日は、隣に女の人もいるや。二人で覗き込むみたいに、こっちを見てる。この人もぼんやりとしか顔が見えないな……それになんだろう?
二人の周りで色んな人達が嬉しそうに笑ってる。賑やかな、温かい響きをもった言葉が聞こえる。
可愛いね、いい子だね、元気で大きくなってね、大好きだよ。
柔らかい声色で紡がれたそれらが、ふわふわと降ってきて。俺に向けられた言葉じゃないはずなのに、泣きたくなるくらいに嬉しくて、幸せで。
目が覚めたら大好きな二人に会えるのに。このまま覚めちゃうのが勿体ないなって、少しだけそう思ったんだ。
◇
「ごめんね……折角、タツミさんに招待してもらったのに……」
久々に、心地よい目覚めを迎えた俺の目に映ったのは、見慣れた部屋の天井と二人の笑顔で。スッキリとした頭ですぐさま理解した。結局、俺はあのままぐーすか寝続けてしまったんだと。
タツミさんお気に入りの、七色の珊瑚礁があるっていうお庭も見れなかったし。俺と同じ人間のお嫁さん達にも会えなかった。
それどころか、二人の大事な友達の前で寝ちゃうだなんて……もしかしなくても俺、お嫁さん失格じゃない? どうしよう……
「大丈夫だよーアイツ、うっきうきでサトルちゃんの寝顔撮りまくってたしさ!」
「君を起こせなかった俺達も悪いからな……ごめんな」
いつでも遊びにおいでって言ってたからさ、また三人で行こうよ! と元気な高めの声が、俺を励ますように背中を撫でて。最近ちゃんと眠れていなかっただろう? 起こしてしまうのが忍びなくてな……と穏やかな低めの声が、申し訳なさそうに俺の頭を撫でる。
やっぱり二人には敵わないな……俺としては隠していたつもりだったのに、すっかりお見通しだったみたいだ。あの不思議な夢のせいで、あまり眠れた感じがしなくてちょっと疲れちゃってたのが。
……あれ? でも、おかしいな。さっきも同じような夢を見た気がするのに、なんでいつもみたいな胸がズンと重たくなる感じも。お腹の中を、ぐちゃぐちゃにかき回されたみたいな気持ち悪い感覚も、ないんだろう?
「良かった! 今日は調子、良さそうだね。なにかいい夢でも見たの?」
「寝ている間も、にこにこしていたからな……とても可愛いらしかったぞ」
ふにゃりと目尻を下げた二人から左右の頬に朝の挨拶をしてもらい、俺も返す。
二人が嬉しそうだと俺まで嬉しくなっちゃって。だから、ついちゃんと考えないで、頭の中に残っていた言葉をそのまま口にしてしまったんだ。
「うーん、あんまり覚えてはいないんだけど……大好きだよ、って色んな人から言われたような……」
「「……大好きだよ? 色んな人から?」」
頭の上で綺麗に重なった二人の言葉に慌てて顔を上げると、切れ長の四つの瞳が大きく見開かれていて。
壁際からきゅう……きゅう……と蜥蜴達のか細い悲鳴が聞こえるほど、部屋の空気がほのぼのとした温かいものから、肌がピリピリするような重苦しいものへと変わってしまっていた。
「あの……セイ? ソウ?」
「やはり、早急に手を打つ必要がありそうだな……」
「サトルちゃんのお休みの時間を邪魔していただけじゃなくて、今度は俺達の目を盗んで口説こうだなんて……いい度胸だよね、ホント」
眉間に深いシワを刻んだセイが、太い指を顎に当ててギリリと鋭く尖った歯を食いしばり。鋭い目をしたソウが唇をわなわな震わせながら、握りこぶしを反対の手で包みこんでポキポキと鳴らしている。
二人とも完全に怒ってる……うっすらとしか覚えていない夢の話で。
「えっと……夢の中のことだしさ。それに俺、口説かれてなんて……」
「口説かれてるよ!」
「口説かれてるぞ!」
再び綺麗に揃った二人の声に言葉を遮られ、目を三角にした二人から感じる圧に、思わず身体が縮こまりそうになる。
「でも、二人が言ってくれる時みたいに、ドキドキして心臓が壊れちゃうような感じはしなかったし……胸の奥から、きゅんっていう音も聞こえなかったし……」
二人から大好きだよって言われた時はいつも身体のどこかが熱くなったり、むずむずしちゃうのに。そんな感じは全然しなかったもんな……胸がぽかぽかはしたけどさ。
「そもそも俺が大好きなのは、セイとソウだけなんだからさ。仮に口説かれていたんだとしても、何とも思わないよ」
なにか息を飲むような、声にならないような短い悲鳴が俺の耳に届いた後に。ぽふんっと勢いよく二人が顔から、身体を起こしていた俺の太ももの辺りに埋まるみたいに倒れこんでくる。
「大丈夫!? セイっ、ソウっ」
掛け布団がクッション代わりになってくれたから良かったけど……いきなりどうしたんだろう? 二人とも耳の先まで真っ赤だし……尻尾は、ご機嫌な時みたいに揺れてるけど。
固まっちゃったみたいに、顔を埋めたまま動かない二人の頭を撫でてみる。いつも俺にしてくれているみたいに、髪をすくように優しく。
サラサラとした感触が心地よくて何度も撫でていると、二色の腕が同時に伸びてきた。赤い腕が俺の腰に、青い腕は俺の胸元にするりと回って、飛びつくように抱きついてきた二人を受け止めきれずに、三人一緒にベッドに倒れこむ。
いつの間にか、笑顔になっていた二人から
「俺達も大好きだよ、サトルちゃん」
「大好きだぞ、サトル」
といつもよりとびきり優しく、甘い声で言われたもんだから。身体中の熱が集まったみたいに、顔が熱くなってしまった。
ということは、またいつもの夢かな? いや、でもちょっと違うかも。
今日は、隣に女の人もいるや。二人で覗き込むみたいに、こっちを見てる。この人もぼんやりとしか顔が見えないな……それになんだろう?
二人の周りで色んな人達が嬉しそうに笑ってる。賑やかな、温かい響きをもった言葉が聞こえる。
可愛いね、いい子だね、元気で大きくなってね、大好きだよ。
柔らかい声色で紡がれたそれらが、ふわふわと降ってきて。俺に向けられた言葉じゃないはずなのに、泣きたくなるくらいに嬉しくて、幸せで。
目が覚めたら大好きな二人に会えるのに。このまま覚めちゃうのが勿体ないなって、少しだけそう思ったんだ。
◇
「ごめんね……折角、タツミさんに招待してもらったのに……」
久々に、心地よい目覚めを迎えた俺の目に映ったのは、見慣れた部屋の天井と二人の笑顔で。スッキリとした頭ですぐさま理解した。結局、俺はあのままぐーすか寝続けてしまったんだと。
タツミさんお気に入りの、七色の珊瑚礁があるっていうお庭も見れなかったし。俺と同じ人間のお嫁さん達にも会えなかった。
それどころか、二人の大事な友達の前で寝ちゃうだなんて……もしかしなくても俺、お嫁さん失格じゃない? どうしよう……
「大丈夫だよーアイツ、うっきうきでサトルちゃんの寝顔撮りまくってたしさ!」
「君を起こせなかった俺達も悪いからな……ごめんな」
いつでも遊びにおいでって言ってたからさ、また三人で行こうよ! と元気な高めの声が、俺を励ますように背中を撫でて。最近ちゃんと眠れていなかっただろう? 起こしてしまうのが忍びなくてな……と穏やかな低めの声が、申し訳なさそうに俺の頭を撫でる。
やっぱり二人には敵わないな……俺としては隠していたつもりだったのに、すっかりお見通しだったみたいだ。あの不思議な夢のせいで、あまり眠れた感じがしなくてちょっと疲れちゃってたのが。
……あれ? でも、おかしいな。さっきも同じような夢を見た気がするのに、なんでいつもみたいな胸がズンと重たくなる感じも。お腹の中を、ぐちゃぐちゃにかき回されたみたいな気持ち悪い感覚も、ないんだろう?
「良かった! 今日は調子、良さそうだね。なにかいい夢でも見たの?」
「寝ている間も、にこにこしていたからな……とても可愛いらしかったぞ」
ふにゃりと目尻を下げた二人から左右の頬に朝の挨拶をしてもらい、俺も返す。
二人が嬉しそうだと俺まで嬉しくなっちゃって。だから、ついちゃんと考えないで、頭の中に残っていた言葉をそのまま口にしてしまったんだ。
「うーん、あんまり覚えてはいないんだけど……大好きだよ、って色んな人から言われたような……」
「「……大好きだよ? 色んな人から?」」
頭の上で綺麗に重なった二人の言葉に慌てて顔を上げると、切れ長の四つの瞳が大きく見開かれていて。
壁際からきゅう……きゅう……と蜥蜴達のか細い悲鳴が聞こえるほど、部屋の空気がほのぼのとした温かいものから、肌がピリピリするような重苦しいものへと変わってしまっていた。
「あの……セイ? ソウ?」
「やはり、早急に手を打つ必要がありそうだな……」
「サトルちゃんのお休みの時間を邪魔していただけじゃなくて、今度は俺達の目を盗んで口説こうだなんて……いい度胸だよね、ホント」
眉間に深いシワを刻んだセイが、太い指を顎に当ててギリリと鋭く尖った歯を食いしばり。鋭い目をしたソウが唇をわなわな震わせながら、握りこぶしを反対の手で包みこんでポキポキと鳴らしている。
二人とも完全に怒ってる……うっすらとしか覚えていない夢の話で。
「えっと……夢の中のことだしさ。それに俺、口説かれてなんて……」
「口説かれてるよ!」
「口説かれてるぞ!」
再び綺麗に揃った二人の声に言葉を遮られ、目を三角にした二人から感じる圧に、思わず身体が縮こまりそうになる。
「でも、二人が言ってくれる時みたいに、ドキドキして心臓が壊れちゃうような感じはしなかったし……胸の奥から、きゅんっていう音も聞こえなかったし……」
二人から大好きだよって言われた時はいつも身体のどこかが熱くなったり、むずむずしちゃうのに。そんな感じは全然しなかったもんな……胸がぽかぽかはしたけどさ。
「そもそも俺が大好きなのは、セイとソウだけなんだからさ。仮に口説かれていたんだとしても、何とも思わないよ」
なにか息を飲むような、声にならないような短い悲鳴が俺の耳に届いた後に。ぽふんっと勢いよく二人が顔から、身体を起こしていた俺の太ももの辺りに埋まるみたいに倒れこんでくる。
「大丈夫!? セイっ、ソウっ」
掛け布団がクッション代わりになってくれたから良かったけど……いきなりどうしたんだろう? 二人とも耳の先まで真っ赤だし……尻尾は、ご機嫌な時みたいに揺れてるけど。
固まっちゃったみたいに、顔を埋めたまま動かない二人の頭を撫でてみる。いつも俺にしてくれているみたいに、髪をすくように優しく。
サラサラとした感触が心地よくて何度も撫でていると、二色の腕が同時に伸びてきた。赤い腕が俺の腰に、青い腕は俺の胸元にするりと回って、飛びつくように抱きついてきた二人を受け止めきれずに、三人一緒にベッドに倒れこむ。
いつの間にか、笑顔になっていた二人から
「俺達も大好きだよ、サトルちゃん」
「大好きだぞ、サトル」
といつもよりとびきり優しく、甘い声で言われたもんだから。身体中の熱が集まったみたいに、顔が熱くなってしまった。
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