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俺達さえ黙っていれば

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「何それ……全っ然、意味分かんないんだけど……」

「追い詰められている連中に、正常な判断を期待するのは難しいからね」

「だからって殺そうとするなんて、そんな……そんなのまるで生け贄じゃん……」

 喉の奥から絞り出すようなソウの悲痛な叫びに、それまで童話でも語るように淡々と事実を紡いでいたタツミが口を閉ざす。

「……それで、その後はどうなったんだ?」

「……セイ?」

「俺達は、知らなければならないはずだ、サトルの旦那として。それに、お前は探してあげたいと思っていたんだろう?」

 それが、どれだけ悲しいことだとしても……俺達は知る必要があるはずだ。

 もし、サトルの記憶が戻ったり、彼が自分の両親のことを知りたくなった時に。少しでも彼の悲しみを受け止め、寄り添えるように。彼のことを支えてあげられるように。

「……うん、ここで逃げちゃダメだよね。言い出しっぺは俺なのに……ごめんねタツミ、また話の腰折っちゃって」

「……構わないよ、僕の方こそすまなかった」

 ガラス細工のような瞳が、俺達を静かに見つめる。小さな吐息を漏らした後に、再び彼の口が語り始めた。

「……彼を利用しようと目論んでいた男は、何とか村人達を止めようとした。自分の地位と利益を守るためにね。でも無理だった、多勢に無勢ってヤツさ」

 嘲笑うように、吐き捨てるように彼はこう続ける。「操ろうとしていた村人達に殺されるなんてさ、お似合いの最期だよね」と。

「村人達が男の屋敷に押し入った混乱に乗じて、父親は彼を連れて逃げ出した。しかし……」

 流れるように言葉を紡いでいた彼の口が、言い淀む。

……嫌な予感がした。ぶるりと震えた隣の背を優しく叩く。悲しげに揺れた瞳が俺を見て、小さく頷いてから前を向いた。

 でも、いくら俺がソウを勇気づけようとしても、いくら俺達が希望を持とうとしても、起きてしまった事実は覆らなくて。

「……村を逃げ出す際に父親は、彼を庇って致命傷に近い怪我を負った。そのせいで、道中で彼を残し、力尽きてしまったんだ」

「……それで、サトルは昔の記憶がないんだな」

 突きつけられた現実に。もう、サトルの両親は世界中、どこを探してもいない事実に。多少、覚悟はしていたものの胸が引き裂かれそうで。

「……ははっ何だよそれ。何でだよ、何で、サトルちゃんばっかりこんな……」

 片割れから伝わってくる激情に、俺の中で渦巻く悲しみと身を内側から焼かれているような怒りに、目の前が真っ赤に染まりそうになる。

「言っておくけど、村を滅ぼそうとしても無理だからな。なんせもう、とっくの昔に滅ぼされちゃってるんだからさ」

 滅ぼされている? 滅んだ、ではなくて?

 俺達の胸の内を見通されたことよりも、タツミの言葉が、村を滅ぼしたという誰かのことがひっかかって、血が上っていた頭が急に冷静さを取り戻す。

「……どういう意味だ?」

「小さな彼が、どうやって無事に別の村までたどり着けたのか……何故、追っ手を振り切れたのか……疑問に思わなかったかい?」

「……サトルちゃんのお父さんが、守ってくれたからじゃないの?」

「まぁ、概ねはその通りだね……なんせ死後、人神となった父親が村を滅ぼしたお陰で、彼は無事逃げおおせることが出来たんだからね」

「……人神、だと?」

「ウソでしょ? そんな、そんなのって……」

 俺達のすがるような問いかけに、タツミが静かに首を横に振って否定する。

 嘘ではないのだと。サトルの父親は、この世を呪う祟り神になってしまったのだと。




「一応、父親には会えるよ……もうアレを、彼の父親と呼んでいいのか、分からないけどね……」

 そう、締め括ったタツミの顔は、いつも以上に青白く、悲しみに歪んでいたのに。辛い役回りをさせてしまったことを俺達が謝ると「どうにかして、祟りを鎮める方法がないか、探してみるから」と逆に励まされてしまった。

「ねぇ……セイ」

「……なんだ?」

「言わなくても、いいよね? ……だって、俺達さえ黙ってたら分からないよね? 辛いことなんて、わざわざ思い出さなくてもいいよね? ……俺、間違って、ないよね?」

「……間違ってないぞ。お前は何も、間違ってなんかない」

 穏やかに眠るサトルを抱き締めながら、声を殺して泣き続けるソウを……震える彼を抱き締め、大丈夫だとその背中を撫で続けることしか、俺には出来なかった。
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