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【番外編】みんなとクリスマス、いきなりサンタクロース
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大きな足が地面を蹴る度に、白い粉が宙へと舞う。
日差しの中で煌めくそれらに思わず見惚れていると、俺を抱き締める腕に力がこもる。次の瞬間、目に映っている景色が一瞬、涙でぼやけた時みたいにぶれて見えた。
着地の振動と共にクリアになった視界の先に、おそらくさっきまで俺達が居たであろう場所に。いくつもの白い玉が駆け抜けて、地面や木の幹にぶつかり、砕け散る。
危なかったな……セイが咄嗟に避けてくれたから良かったものの。そのまま走っていたら、抱えられている俺はともかく、セイの身体には確実に直撃していただろうな。
「セイ、サトルちゃん! こっちだよ!!」
少し先にある白い壁の後ろから高めの声が響いて、赤い手が手招きする。縦横無尽に俺達を狙ってくる白い玉を掻い潜り、雪を固めて作られた壁の影へと飛び込むように、セイが俺を抱えたまま大きな身体を滑らせた。
「大丈夫? 二人とも、メッチャ狙われてたけど」
「俺は大丈夫だよ。セイが守ってくれていたから」
「何とかな。それにしても、全く隙がないな……完全に防戦一方だぞ」
俺達が話している間も途切れることなく、玉が砕ける音が後ろで響き。身を潜めている岩の横を凄まじい、俺からは白い残像にしか見えないくらいの速度で飛んでいく。
「おいおい、おめぇら隠れてばっかじゃ俺様には勝てねぇぜ? それとも降参するか? 参りましたカミナ様ってなぁ!」
「うっざー……いくら三対一だからってさ、雲から無限に連射するとかズルくない?」
「全くだ。いくらなんでも容赦が無さすぎる……たかだか雪玉とはいえあの速度だぞ? 万が一、サトルに当たったらどうするつもりだ」
寒空の下に轟く高笑いに、心配そうな顔で俺の頭を撫でていたソウが小麦色の頬をぷくーっと膨らませる。大きな手で俺の背中を撫でながら、セイが口をへの字に曲げた。
人数だけでみたら俺達の方が有利なんだけどな……まぁ、俺は今のところ完全にお荷物だから、実質二対一みたいなもんなんだけどさ。相変わらず万能過ぎるよ、あの雲。雪の神様から借りてきた力のお陰ってのもあるんだろうけど。
それにしても、なんか……カミナが一番楽しんでない? この状況。一応、俺へのクリスマスプレゼントだったはずなんだけどなぁ。
◇
それは、朝食を済ませた後の事だった。
今朝はいつもより、何故かとても寒くて……二人から半纏っていう防寒着を着させてもらっていたんだけど。いつものごとく、突然に、紫色の光と轟音と一緒にカミナが俺達の家にやってきたんだ。
「メリークリスマス!!」
……なんか前にも見たことあるな、この感じ。
先端とツバの部分に白いもこもこがついた真っ赤なとんがり帽子に、同じく裾や袖の部分がもこもこで縁取られた真っ赤なコートにズボン。黒いベルトとブーツを身につけて、勢いよく障子を開け放ったカミナの姿は、つい最近読んだ本に出てきたサンタそのものだ。
確か、ハロウィンの時は悪魔の仮装をしてきていたんだっけ? ということは、また何か企んでいるのかな? 俺達を巻き込んだ遊びを。
「あのさー毎回大声出さないといけない決まりでもあるわけ?」
「いつもながら唐突だな……一体今度は何を始めるつもりなんだ?」
「んなの決まってんだろ? 今日の俺様はサンタクロースだぜ? 可愛い一番弟子に、クリスマスプレゼントを届けに来たに決まってんだろうが!」
そう言って親指で自分の姿を俺達に指し示しながら分厚い胸板を張り、鋭く尖った八重歯を見せる。
そんな彼の姿をぼんやり眺めながら瞬きをした時にはすでに、俺の身体はソウの膝の上から丸太のように硬い腕の中へと移動していた。相変わらずの手際の良さに、慣れてきたとはいえ言葉が出ない。
「びっくりすんぜ? なんせ俺様、今回はお前の為に奮発したからな!」
抱き上げた俺に額をこつんと合わせると、得意気に口角を釣り上げてカミナが笑う。そのまま厳つい肩の上に俺を乗せ、窓に向かって歩き始めてしまった。
もう十分びっくりしているのに、これからもっとびっくりすることになっちゃうのか、俺は。まぁ、プレゼントって言うくらいだから悪いものじゃあないだろうし。なんだかんだ言っても、こないだカミナがしてくれたハロウィン、楽しかったもんな。
「ちょっとカミナ! 俺達の許可なくサトルちゃんにベタベタ触らないでよね!」
「わりいわりい、つっても抱っこだけだろ? ちっとは大目に見てくれよな」
窓際に立つ俺達の隣に来たソウが唇を尖らせて、俺を抱えるカミナの脇腹を赤色鱗に覆われた尻尾で叩く。そこそこ鈍い音がしたにも関わらず、眉ひとつ動かさずにカラカラと笑うカミナに、ますますソウの眉間にシワが刻まれた。
普段は見上げているソウを見下ろすだなんて、なんだか新鮮だな……少し手を伸ばせば簡単に頭に手が届きそうだし。
不満げに口を尖らせて唸っている彼の金色の髪にそっと触れて、撫でる。ぱちぱちとしばたたかせた同色の瞳が俺を捉えてから、ふにゃりと頬が綻んだ。
「……そっちは外だろう? そのプレゼントは、部屋に入りきれないほど大きな物なのか?」
カミナを挟むように反対側にいつの間にか立っていたセイが、尋ねながらソウとお揃いの金色の瞳を期待に輝かせている。空いている方の手を伸ばすと、俺が撫でやすいように頭を傾けてくれた。
「んー……入らねぇこたねぇがよ、部屋でやっちまうと大惨事になっちまうからな」
「大惨事って……一体どんなプレゼント用意してくれたの?」
なんか急に不安になってきたんだけど。まさか生き物とかじゃないよね? 自分がサンタだからソリ引くためにトナカイ連れてきたとか。……それはそれで見たいかも、空飛ぶトナカイ。
「まー見りゃ分かるって! ほら、おめぇらも腑抜けた面してねぇでしっかと見ろよ!」
ゴツゴツした手が、勢いよく障子を開けた先に見えた景色には、いつもの緑や色とりどりの花はなく。地面にたっぷりの生クリームを塗り広げたように、一面真っ白なものに覆われていた。
日差しの中で煌めくそれらに思わず見惚れていると、俺を抱き締める腕に力がこもる。次の瞬間、目に映っている景色が一瞬、涙でぼやけた時みたいにぶれて見えた。
着地の振動と共にクリアになった視界の先に、おそらくさっきまで俺達が居たであろう場所に。いくつもの白い玉が駆け抜けて、地面や木の幹にぶつかり、砕け散る。
危なかったな……セイが咄嗟に避けてくれたから良かったものの。そのまま走っていたら、抱えられている俺はともかく、セイの身体には確実に直撃していただろうな。
「セイ、サトルちゃん! こっちだよ!!」
少し先にある白い壁の後ろから高めの声が響いて、赤い手が手招きする。縦横無尽に俺達を狙ってくる白い玉を掻い潜り、雪を固めて作られた壁の影へと飛び込むように、セイが俺を抱えたまま大きな身体を滑らせた。
「大丈夫? 二人とも、メッチャ狙われてたけど」
「俺は大丈夫だよ。セイが守ってくれていたから」
「何とかな。それにしても、全く隙がないな……完全に防戦一方だぞ」
俺達が話している間も途切れることなく、玉が砕ける音が後ろで響き。身を潜めている岩の横を凄まじい、俺からは白い残像にしか見えないくらいの速度で飛んでいく。
「おいおい、おめぇら隠れてばっかじゃ俺様には勝てねぇぜ? それとも降参するか? 参りましたカミナ様ってなぁ!」
「うっざー……いくら三対一だからってさ、雲から無限に連射するとかズルくない?」
「全くだ。いくらなんでも容赦が無さすぎる……たかだか雪玉とはいえあの速度だぞ? 万が一、サトルに当たったらどうするつもりだ」
寒空の下に轟く高笑いに、心配そうな顔で俺の頭を撫でていたソウが小麦色の頬をぷくーっと膨らませる。大きな手で俺の背中を撫でながら、セイが口をへの字に曲げた。
人数だけでみたら俺達の方が有利なんだけどな……まぁ、俺は今のところ完全にお荷物だから、実質二対一みたいなもんなんだけどさ。相変わらず万能過ぎるよ、あの雲。雪の神様から借りてきた力のお陰ってのもあるんだろうけど。
それにしても、なんか……カミナが一番楽しんでない? この状況。一応、俺へのクリスマスプレゼントだったはずなんだけどなぁ。
◇
それは、朝食を済ませた後の事だった。
今朝はいつもより、何故かとても寒くて……二人から半纏っていう防寒着を着させてもらっていたんだけど。いつものごとく、突然に、紫色の光と轟音と一緒にカミナが俺達の家にやってきたんだ。
「メリークリスマス!!」
……なんか前にも見たことあるな、この感じ。
先端とツバの部分に白いもこもこがついた真っ赤なとんがり帽子に、同じく裾や袖の部分がもこもこで縁取られた真っ赤なコートにズボン。黒いベルトとブーツを身につけて、勢いよく障子を開け放ったカミナの姿は、つい最近読んだ本に出てきたサンタそのものだ。
確か、ハロウィンの時は悪魔の仮装をしてきていたんだっけ? ということは、また何か企んでいるのかな? 俺達を巻き込んだ遊びを。
「あのさー毎回大声出さないといけない決まりでもあるわけ?」
「いつもながら唐突だな……一体今度は何を始めるつもりなんだ?」
「んなの決まってんだろ? 今日の俺様はサンタクロースだぜ? 可愛い一番弟子に、クリスマスプレゼントを届けに来たに決まってんだろうが!」
そう言って親指で自分の姿を俺達に指し示しながら分厚い胸板を張り、鋭く尖った八重歯を見せる。
そんな彼の姿をぼんやり眺めながら瞬きをした時にはすでに、俺の身体はソウの膝の上から丸太のように硬い腕の中へと移動していた。相変わらずの手際の良さに、慣れてきたとはいえ言葉が出ない。
「びっくりすんぜ? なんせ俺様、今回はお前の為に奮発したからな!」
抱き上げた俺に額をこつんと合わせると、得意気に口角を釣り上げてカミナが笑う。そのまま厳つい肩の上に俺を乗せ、窓に向かって歩き始めてしまった。
もう十分びっくりしているのに、これからもっとびっくりすることになっちゃうのか、俺は。まぁ、プレゼントって言うくらいだから悪いものじゃあないだろうし。なんだかんだ言っても、こないだカミナがしてくれたハロウィン、楽しかったもんな。
「ちょっとカミナ! 俺達の許可なくサトルちゃんにベタベタ触らないでよね!」
「わりいわりい、つっても抱っこだけだろ? ちっとは大目に見てくれよな」
窓際に立つ俺達の隣に来たソウが唇を尖らせて、俺を抱えるカミナの脇腹を赤色鱗に覆われた尻尾で叩く。そこそこ鈍い音がしたにも関わらず、眉ひとつ動かさずにカラカラと笑うカミナに、ますますソウの眉間にシワが刻まれた。
普段は見上げているソウを見下ろすだなんて、なんだか新鮮だな……少し手を伸ばせば簡単に頭に手が届きそうだし。
不満げに口を尖らせて唸っている彼の金色の髪にそっと触れて、撫でる。ぱちぱちとしばたたかせた同色の瞳が俺を捉えてから、ふにゃりと頬が綻んだ。
「……そっちは外だろう? そのプレゼントは、部屋に入りきれないほど大きな物なのか?」
カミナを挟むように反対側にいつの間にか立っていたセイが、尋ねながらソウとお揃いの金色の瞳を期待に輝かせている。空いている方の手を伸ばすと、俺が撫でやすいように頭を傾けてくれた。
「んー……入らねぇこたねぇがよ、部屋でやっちまうと大惨事になっちまうからな」
「大惨事って……一体どんなプレゼント用意してくれたの?」
なんか急に不安になってきたんだけど。まさか生き物とかじゃないよね? 自分がサンタだからソリ引くためにトナカイ連れてきたとか。……それはそれで見たいかも、空飛ぶトナカイ。
「まー見りゃ分かるって! ほら、おめぇらも腑抜けた面してねぇでしっかと見ろよ!」
ゴツゴツした手が、勢いよく障子を開けた先に見えた景色には、いつもの緑や色とりどりの花はなく。地面にたっぷりの生クリームを塗り広げたように、一面真っ白なものに覆われていた。
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