【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ

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ジンさんと一緒。おしまい

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 いつもより一人多い食卓は、より賑やかで楽しくて、好きな人が増えるほど食事が美味しくなるんだなって改めてそう思ったんだ。

 食事を終えてからしばらくして、ジンさんはまたなって帰っていってしまったけど……まだ、少し力が残っているのかな? いまだに部屋の中を好き勝手に動き回っている折り紙達を眺めていると、ふとした疑問が頭に過った。

「……そういえば、セイが勝ったら俺とソウに何をお願いするつもりだったの?」

「あーそれ俺も気になってた!」

 何となく尋ねた俺の疑問に、ソウが俺を抱えたまま身を乗り出す。少し見上げた先にある切れ長の瞳がきょとんと見開いてから、口の端がふわりと持ち上がった。

「別に、大したことじゃないぞ? 二人とも俺の側でずっと元気にいて欲しい、と願うつもりだったんだ」

 これまた想像の斜め上をいく回答だ。確かにお願いだし、俺達にして欲しいことではあるんだけれどさ。

「……それってさ……願いは願いでも、ちょっと違わない? ま、セイらしいけどさ」

「そうか? 俺としては、これ以上ないほど大切な願いなんだがな」

 なんでもないような顔をして俺達が大切だと伝えてくるセイに、言われている俺の方が恥ずかしくなってきてしまう。

ソウも多分、俺と同じ気持ちなんだろうな。俺の肩口に埋めるように後ろから寄せてきた頬は熱く。視界の端に映る赤い尻尾はそわそわと揺れながら、先っぽで落ち着きなく床をぺしぺし叩いている。

「ところで肩車で庭を一周するのはいつしようか、天気が良ければ明日にでもするか?」

「え、引き分けだったのに……いいの?」

「いつでもするって言ったじゃないか。それにお前だって、どんな結果になろうがサトルの願いを叶えるつもりだったんだろう?」

「それ、ホント?」

 振り向いた俺の目に映ったソウの表情はどこかばつが悪そうで、宝玉みたいな瞳が忙しなく泳いでいた。

「だって……俺達……もっと沢山、君のこと幸せにしたいんだもん……ダメ?」

 ぽつぽつと、どこか申し訳なさそうに紡がれる温かい我が儘に、目の奥の方が熱くなる。上手く言葉が出なくて、それでもなんとか彼の想いに応えたくて首を横に振ると、全身が赤い腕に包まれた。

 続けて背中と頭に重みを感じて、セイが俺達をまとめて抱き締めてくれているんだと。気付いた時にはソウの胸元を、溢れた滴で濡らしてしまっていた。




 俺と比べて一回りも二回りも小さな手が、淡々と四角い紙を折っていく。

 三角から四角をへて細長いひし形へと変わり、最終的には三角の羽と尖った嘴、直立した尾を持つ一羽の鶴が出来上がった。

 掌にそれを乗せ、木の板が交差して出来た小さな四角い隙間へと細い腕を伸ばす。板に仕切られた部屋の外に居た、顔の見えない誰かが鶴を受け取って微笑んだ気がした。




「おっはよー! って大丈夫? 何か、怖い夢でも見ちゃった?」

「よしよし……もう大丈夫だぞ。俺達が居るからな?」

 心配そうな声で俺を覗き込む、二人の顔がぼやけて見える。青い手に優しく抱き上げられ、赤い指に目元をそっと拭われて初めて、自分が泣いていたんだって気が付いた。

 なんだろう……なにか、とても懐かしい夢を見ていた気がするんだけどな……よく、思い出せないや。

 一つだけ分かるのは、とても嬉しい気持ちとそれと同じくらいに悲しい気持ちが、俺の中でごちゃ混ぜになって、胸が潰れそうなくらいに苦しいってことだけだ。

「……俺達も、アイツみたいに夢の世界に干渉出来るんだったら、今すぐにでも君を泣かせたヤツらをぶっ飛ばしてやるのに」

「一時的にでも力を借りてみるか? 二度とサトルの眠りを妨げないように、徹底的に叩きのめしてやらないとな」

 ……なんか、ちょっと懐かしいなこの感じ。

 心臓が凍りついてしまいそうなくらいに冷たい目をした二人の握った拳から、骨や筋肉の悲鳴が聞こえ。彼等の発する地を這うような低い声に空気が震え、全身を冷たい風が吹き抜けたみたいに鳥肌が立つ。

 いつもだったらなんとか二人の気を引かなくちゃとか、どうにかして機嫌を直してもらわないとって慌てちゃってるけど。

 今は、なんでだろう……なんだか安心するな。

「もう大丈夫だよ……セイ、ソウ」

「ホント? 我慢しなくていいんだからね?」

「たとえ、それが夢の中のことだろうと、俺達が必ず君の憂いを晴らしてあげるからな?」

 何度も俺を撫でてくれる二人の掌の温もりに、ぐちゃぐちゃだった心の中が和らいでいく。

 俺を労るような優しい響きを含んだ高めの声と、頼もしく力強い低めの声に、さっきまでの苦しさが嘘だったみたいになくなった。

「……ありがとう。それじゃ、さっそく二人にお願いしたいことがあるんだけど……」

「なになに? なんでも言ってよね!」

「遠慮せずに言っていいぞ!」

「朝ごはんは、焼きたてのパンと目玉焼きがいいな、ベーコンつきで。あと、デザートにショートケーキが食べたいんだけど」

 ほっとしたからかな。さっきからお腹が空いて仕方がないんだよね。

 二人とも口を開けたまま固まっちゃったけど……やっぱり、朝からケーキが食べたいだなんて我が儘だったかな? 普段はハムの目玉焼きだけど、ベーコンがいいだなんて言っちゃったし。

「もー! ベーコンくらい、いくらでもつけるよ! 何枚がいい?」

「お前達、聞いていたか!? 今すぐ取りかかってくれ! イチゴと生クリームたっぷりで頼むぞ!!」

 ぎゅうぎゅうと筋肉質の腕に抱き締められて、すべすべの頬が俺の頬に押し付けられる。

 セイの呼び掛けに壁際で整列していた赤と青の蜥蜴達が、任せて! と言いたげに力強く声を揃えて鳴いてから、慌ただしく部屋の外へと駆けていった。

「あとさ、朝の挨拶まだだったよね?」

 四つの穏やかな光を帯びた瞳が俺に向けられて、左右の頬にそっと触れた柔らかさに胸の中がいっぱいになる。

 二人にお返しのキスをしている最中に、俺の腹の虫が堪えられずに大きな声で鳴いてしまって。思わず笑ってしまった俺に釣られた二人から笑顔がこぼれた。
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