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ジンさんと一緒。開催! 紙飛行機レース!

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「じゃあ、俺はサトルのサポーターをするぜ? お前らと違って初心者なんだからな。ハンデってやつだ」

「確かに、その方が互いにフェアだな。ところで優勝した時の賞品はどうするんだ?」

「ふっふーん、そんなの決まってるじゃん! 負けた二人に何でも1個、お願いが出来る権利だよ!」

「それは……負けられないな!」

 ソウの言葉に、穏やかだったセイの声に力がこもり、あの二人がいつもしている真剣勝負の時みたいな、肌がピリピリとするような緊張感が部屋に漂い始める。

 さっきソウに「何でも勝負事に結びつけるな」ってちょっと呆れていたわりには、わざわざ優勝賞品を決めようとするセイも、なんだかんだ言って好きなのかも知れないな。勝負事ってやつが。

 それにしても、いくらジンさんが手伝ってくれるとはいえ……本気の二人に俺が勝てるのかな?

 まぁ、二人のことだから……たとえ負けちゃったとしても、俺が困るような難しいお願いは絶対にしてこないだろうから、大丈夫とは思うけどさ。

「因みに俺が優勝したら、サトルちゃんには俺が満足するまで俺だけに甘えてもらって、セイにはサトルちゃんを肩車した俺を肩車して、庭を一周してもらうから覚悟してね!」

 ……想像を遥かに上回る簡単さだった。

 というかそれお願いになるの? ソウに好きなだけ甘えられるなんて……俺からしたら完全に、ただのご褒美なんだけど?

 それにセイに対してのお願いもなんだか楽しそうで、むしろ負けたくなっちゃいそうなくらい心が揺らいじゃってるんだけど、俺。

「ああ、そういえば昔はよく肩車してってお前に強請られていたな……そんなにして欲しかったんだったら別にいつでもするぞ?」

「いいの!? ……って違う違う、俺が勝ったらだから!でないと勝負の意味がないでしょ! ……でも、ありがと」

 少しだけ、どこか遠い目をしていたセイが微笑んで、意気揚々と宣戦布告をしたソウの頭を優しく撫でる。

 少し恥ずかしそうに口を尖らせながらも、俺には見せたことのないような表情で、ふにゃりと笑うソウと。そんな彼を見つめて笑みを深めるセイとの間に、俺のとは違う二人だけの繋がりみたいなのを感じてしまって……少しでも二人の気を引こうと、赤と青の手をそっと握りしめた。

「じゃあ、俺が勝ったら二人に交互に肩車してもらおうかな……」

「そんなの、言ってくれたらいつでもするのに!」
「それくらい、言ってくれたらいつでもするぞ!」

 握った途端に握り返してくれる二人の温もりに、口にした途端に応えてくれる二人の想いに。胸の中に広がっていたもやもやが、あっという間になくなっていく。

 代わりに湧いてきたふわふわした気持ちのまま見つめていると、二人の目尻がゆるりと下がった。

「やれやれ、さっきそれだと勝負になんねぇって自分が言ってたじゃねぇか……」

「ごめんごめん、サトルちゃんのお願いは全部叶えて上げたいからさーつい、ね」

「強請られること自体が嬉しくてな」

「気持ちは分かるけどな……取り敢えず作り始めねぇか? 勝ち負けの意味はあまりなさそうだが……勝負は、するんだろ?」

「意味はあるよ、楽しいんだからさ!」

「分かった分かった。んで、どの紙にするんだ?」

「むー……じゃあ、赤いの全部見せて」

 ジンさんから受け取った、明るさや濃さの違う赤色をうんうん唸りながらソウが見比べている。

 改めて紙を選ぼうとしていた俺の耳元でセイに、

「……心配しなくても、俺達の一番は君だけだからな」

 と囁かれ。思わず持っていた折り紙を、くしゃくしゃになるまで握りしめてしまった。




一面に広がる草の絨毯を踏みしめる度に、サクサクと音が鳴る。

 ふわりと香る花の甘い香りに、頬を撫でていく風の心地よさに。ここが家の中にある庭だっていうことを忘れてしまいそうだ。

 最初にここに連れて来てもらった時は、びっくりしたもんな……

 扉を開けると広い芝生と、花壇にたくさんのお花が咲き乱れていて。なんで家の中心に外があるんだ? ってさ、こういうのを中庭っていうらしいんだけどね。

「ここから、あっちの方に向かって飛ばそうか」

 セイが反対側の壁を指差す。頷いて俺の隣に立った赤い手には、同じくらいに鮮やかで真っ赤な、先端が鋭く尖った紙飛行機が。青い手には所々が角張っていて、左右の羽が立つように折られた深い青の紙飛行機が。そして、俺の手元には白い先っぽが曲がってしまった紙飛行機が握られている。

 やっぱり、二人が作ったものの方がカッコいいな……一応、これでも何度も折り直して、一番綺麗に折れた方なんだけどな。

 なんでかは分からないんだけど、ジンさんと同じように折っているはずなのに。最終的に出来上がったものを見ると左右の羽の大きさが違っていたり、ずれてたり、歪んじゃってたりするんだもんなぁ……

「大丈夫だサトル。さっきも教えたが、どれだけ上手く作れたとしても、投げ方を間違えちまったらよくは飛ばねぇからな。まだ十分勝てる見込みはあるぜ」

 四本の腕が俺の肩を励ますように優しく叩いて、背中と頭をそっと撫でてくれる。

 そうだよな。部屋の中でだけど投げる練習をしたし、上手く飛んだ時は部屋の端まで飛んでくれたんだから。

 しっかりしないと、まだ始まってもいないのに負けた気分でいたら手伝ってくれたジンさんにも、俺と真剣に勝負をしようとしてくれている二人にも悪いもんな。

「みんなでせーので飛ばして、一番遠くまで飛んだ人が勝ちだよっ! 準備はいーい?」

「ああ、いつでも構わないぞ!」

「俺も、大丈夫だよ……絶対に負けないからね!」

「おっ、二人とも気合い十分だね! よーし、じゃあいくよ? せーの!」

 元気よく響いた高い声を合図に、教えてもらった通りに、紙飛行機を押し出すように斜め上に向かって投げる。

 風を受けてふわりと宙に浮かんだ紙飛行機が、晴れ渡った空に赤、青、白の三色の放物線を描くように飛んでいって……

 ほぼ同時に、反対側の壁際へと着地した。

「……えーっと、これって誰の勝ち?」

「……引き分け、じゃないか?」

「ほとんど同じ場所だね……ジンさんはどう思う?」

 芝生の上に綺麗に並んだ、俺達の紙飛行機から目を離して振り返ると、顔を真っ赤にして口元とお腹を押さえるジンさんが目に映った。緑色の瞳にはうっすらと涙が滲んでいて、大きな身体が小刻みに震えている。

「ジンさん?」

「くっくっ……悪い。まさか、三つともおんなじ所に落ちるなんてよ。仲良すぎるだろ、お前ら」

「いやーホント参っちゃうよねー! 作った物にまで、俺達のラブラブっぷりが反映されちゃうなんてさ!」

「ああ。勝負の結果としては残念だが、これはこれで嬉しいものがあるな」

 緑の上に並ぶ、赤と青の紙飛行機とそれらに挟まれている白が、まるで俺達みたいでなんだか胸の辺りがくすぐったくなる。

 三色の紙飛行機は新たな俺達の思い出として、赤と白の押し花が入ったガラスフレームの隣に並べられた。
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