【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ

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ジンさんと一緒。褒め殺し耐久戦

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 料理って不思議だなってつくづく思っちゃうよ。

 作り方次第でただの粉がふわふわの綿あめになったり、とろりとした液体がふかふかのパンケーキになったり。

 今、俺の目の前の透明な箱の中に並んでいる、手のひらにちょこんと乗りそうな、綺麗で可愛い置物みたいなものも。全部食べられる物だけで作られてるっていうんだから、驚きだよね。

 ホントにスゴいなぁ……これなんか本物のお花みたいにいっぱい花びらがついてて。色も赤一色ってわけじゃなくて、花びらの先にいくにつれて白っぽくなってるや。

 こっちの葉っぱの形のは、オレンジから黄色に色が途中で変わっちゃってるし。丸くて模様みたいに細かく線がついてるのは水色、ピンク、紫、黄色の四色が綺麗に塗られてるし。白いウサギと黄緑の鳥は丸っこくて可愛くて、食べるのが申し訳なくなってしまうな。

 ホント、どうやったらこんな形にしたり、色をつけたり出来るんだろう?

 俺は知らなかったけど、人間の町でも普通に売っているものらしい。ということは、神様だから作れるってわけじゃないってことだよね。

 ……頑張ったら俺でも作れるようになるのかな? 今度カミナに、師匠に聞いてみようかな。

「サトルが何が好きか、分からなかったからよ。結局、俺の好きなものを買って来ちまったが……気に入ってくれたみてぇで良かったよ」

 安心したように息を吐く低い声に顔を上げると、穏やかな光を帯びた緑色の瞳が俺を見つめていた。蜥蜴達が運んできた湯呑みを大きな手で包み込み、背中から生えた二本の腕の一つで照れ臭そうに笑いながら自分の頬を掻く。

「うん! ありがとうジンさん。練りきり……って言うんだっけ?」

「おう、和菓子の中でも見た目が好きなんだ。行き詰まっちまってる時に気分転換でよく買うんだけどな、見てると創作意欲が湧いてくるんだ。俺もこんな綺麗なのを作りてぇなぁって、な」

 意外だな、こんなに素敵な指輪を作れるジンさんでもそんな風に悩むことがあるだなんて。

 自分の左手を見るといつもそこで輝いている赤と白と金色は、俺にとって幸せが形になったみたいなもので。いつ見ても自然に口元が緩んでしまって、不思議と元気が湧いてくるもので、だから、

「このお菓子もスゴいけど、ジンさんが作ってくれた指輪、俺は大好きだよ」

 あの時は、ただただ二人のお嫁さんの証が貰えたのが嬉しくて、胸の中がいっぱいで、ちゃんとお礼を言えてなかったもんな。

 褐色の頬が赤らんで、蛇の目みたいな縦長の黒目がさらに細長くなる。きゅっと結ばれていた口からこぼれた白い牙に、俺の気持ちが伝わった気がした。

「……ありがとなぁ、その言葉だけで後、千年はやってけそうだ!」

 テーブルの上に身を乗り出していた俺の身体を、正面から伸びてきた厳つい腕が抱き抱える。

 太い首に腕を回すと、綺麗に編まれた黒髪が頬に当たって少し擽ったかったけど。嬉しそうに、幸せそうに目尻を下げるジンさんを見てると俺もなんだか嬉しくて、回した腕に力を込めた。

 ぎゅうぎゅう抱きつく俺の背中を二本の腕が包み込んで、他の二本が俺の頭や頬を優しく撫でてくれる。セイやソウの手よりゴツゴツしていて固いけど、やっぱり温かくて心がぽかぽかするや。

「よしよし、サトルは可愛いなぁ……それにしてもあいつら遅いな。見せたいもんがあるってんなら、自分の眷属にでも取りにいかせりゃいいのによ」

 大事な嫁さん放って何処まで行ってんだ……と呆れたように目を細め、俺の身体を撫でくり回す。

 噂をすれば……というやつなんだろう。ジンさんが溜め息を吐くのとほぼ同時に、大量の文字が書かれた紙と分厚い冊子を何冊も抱えた二人が、器用に尻尾で戸を開けて入ってきた。

「……なんだそりゃ?」

 いそいそと、とてもいい笑顔でテーブルの上にそれらを並べる二人に向かってジンさんが、なんとも言えない表情で、吐き出すように尋ねる。

 いや、まぁ、そんな反応になっちゃうよね。俺はなんとなく分かってるから、もうすでに……ちょっぴり恥ずかしいんだけどさ……

「なんだって、そんなの俺達のサトルちゃんコレクションに決まってるじゃん!」

「これは初めて俺達の名前を書いた時の写真でな、これは初めてケーキを食べた時ので、これは……」

 俺が書いた、二人の名前が書かれた紙を見せびらかすようにジンさんの前に突きつけながらソウが。分厚いアルバムの一つを広げて、ページに貼られた俺の写真を指差しながら、満面の笑みを浮かべてセイが。お揃いの金色の瞳を輝かせ、明るく弾んだ声でジンさんに向かって説明し始める。

 思わず手で顔を覆ってしまった俺の頭を、大きな手が慰めるみたいに優しくぽんぽんと撫でてくれた。



「でねー俺がさ、何か欲しいものないのって聞いたらさ、なんて答えたと思う?」

「なんて答えたんだ?」

「ウチの子達があげたお花を元気にしてって言ったんだよ! 滅茶苦茶可愛くない!?」

「そしてこれが、その花で押し花を作った時のサトルだ。どうだ、この愛らしい笑顔! 天使のようだろう? いやまごうことなく天使だぞ!」

 ……ヘソで茶を沸かすって言葉があったけど、今の俺なら顔の熱だけでお湯を沸かせられる気がするよ。だって滅茶苦茶熱いんだもん、湯気が出ていそうなくらいに。

 ホントにそろそろ勘弁してよ……最初はさ、まだジンさんに俺のこと自慢してる二人は可愛いなって。そう思える余裕があったってゆーか、二人の笑顔を見るのに集中して耐えようと頑張っていたんだけどさ。

 もう、無理です……恥ずかし過ぎるよ……二人に褒められるのは嬉しいんだよ? でもさ、限度ってものがあるじゃん?

 いまだにソウは俺が言ったことや、してきたことを一から十までこと細かく話しているし。俺が覚えてない言葉まで一言一句覚えてるのってスゴくない? 聞いたら思い出したけどさ。セイがそれに補足しながら広げているアルバムはまだあと三冊はあるし、俺から見える範囲では。

 ジンさんも聞き上手過ぎるよ……ずっと二人に相づち打ちながらも、時々話を引き出すように尋ねてみたりしてさ。

 だから、二人も余計におしゃべりになっちゃって、おまけにスゴく楽しそうだから止めようにも止められなくなっちゃったじゃん!

 こんな時にカミナが居てくれたらな……なんだかんだ言って気配り上手だし、その辺にしとけよって止めてくれそう。

……いや、止めないな、俺の反応見ながらお茶啜ってケラケラ笑ってるわ、絶対。むしろ二人を煽って状況を悪化させてるよ、きっと……優しいのに意地悪だもんな、カミナって。

 ということは、ただ耐えるしかないってことか俺は、この褒め殺しという名の拷問に。
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