上 下
36 / 90

【番外編】みんなとハロウィン、犬猫論争円満解決

しおりを挟む
すぐ行くって言葉の通りに、ほんの数十分程度でジンさんがやって来た。大きな瓶を数本と、色とりどりの折り紙を鞄に詰め込んで。

なんでもカミナの雷雲が、超特急で運んでくれたらしい。それでかな、少し息切れしてたり、普段は綺麗に整えられている髪の毛が、色んな方向にぴょんぴょん逆立ってたのは。

セイとソウのとは種類が違うけど、やっぱり神様の加護っていうか、神力って万能だよね。

それだけみんなの、神様としての力というか格がスゴいってことなのかもしれないけどさ。

そんなこんなで食事の準備が終わるまでの間に部屋の飾り付けをしたり、ランタンを作ろうって話になってたんだけど。

そこでまた、仮装の問題が再燃しちゃって、今に至るというわけで。

「いっそのこと、サトルに決めてもらった方がいいんじゃねぇか? そもそもこの子の為のハロウィンだろう」

四本の腕を動かしながら、ジンさんがいまだに熱弁し続ける二人に向かって口を開く。

途端にぴたりと言い争いが収まって、二人の熱い視線が俺に注がれる。

いや、まぁ、そうなんだけどさ。着けるのも、着るのも俺なんだし。

でもさ、どっちかなんて選べないよ!絶対!!

前に変装した時だって、負けたソウが滅茶苦茶落ち込んだっていうのにさ。

もう、いっそのこと全部順番に着てしまえば……

「全部ってのは無しだぜ? 着替えたらいつもの撮影会が始まっちまうだろ。それなのに取っ替え引っ替えしてたら時間が足んねぇし、おめぇも疲れちまうしな」

唯一円満の解決手段が塞がれた!

しかもわりと事実だから反論出来ない……俺への優しさは半分くらい嘘だろうけど。

だって笑ってるし、楽しそうに!

口元を綻ばせている彼をじっと見ても、綺麗な笑顔を返されるだけで。なお見つめ続けても、パチンとウィンクを返されるだけだった。

「サトルちゃんは黒猫と魔法使いどっちがいーい?」

「俺の狼か吸血鬼の方が良いよな?」

二人の笑顔が眩しい。

これでもかってくらい、わくわくしてる気持ちが溢れていて。どっちかの表情を曇らせるなんて俺には出来ないよ……

「あのさ、全部の良いとこどりするってのは……ダメ、かな?」

何とか捻り出した提案に、二人が顔を見合わせる。

「俺、耳だけは譲れないんだけど」

「だったら尻尾は俺のでいいな?」

二色の手が重なって、力強い握手が交わされた。

真剣な光を帯びた四つの瞳が、それぞれの衣装を食い入るように見比べ始める。

「下は魔法使いのが可愛くない?」

「確かに……だったら上はこっちのでいいな?」

「うん! 襟の所も可愛いし、赤いベストも感じいいね」

さっきまでの空気が嘘のように和やかな、和気あいあいとしたものに変わる。

「やるじゃねぇか、アイツらの手綱を握ってるだけのことはあるな」

まただ、いつも速すぎて気づけない。

そのせいで俺からしたら突然カミナの膝の上に瞬間移動したような、不思議な気分になってしまう。

「カミナってさぁ、基本は優しいけど意地悪だよね」

「悪い悪い、好きな奴等にはつい、ちょっかいかけたくなっちまうんだよ」

特に悪びれる様子もなく、八重歯を覗かせる彼の頬をぐにっと摘まむ。

カミナにとっては痛くも痒くもないんだろう。カラカラと楽しそうに笑うどころか大きな掌に頬を挟まれ、逆にこねくりまわされてしまったんだ。



ふわりふわりと俺の周りを、折り紙で出来た飾りが舞い踊る。

少し離れた位置に浮かぶ、黒い雲からオレンジ色の淡い光が放たれて俺を照らした。

「あー可愛い! 俺達のサトルちゃん、可愛すぎるんだけど…」

「その場でゆっくり回ってみてくれないか? いいぞ! 最高だ!!」

言われた通りに回転すると、俺の後ろに付けられている尻尾がふわりと動く。

セイとソウに生えてるものとは色も形も違うけど、ちょっとだけ嬉しくなっちゃうな。

「おい! おめぇらシャッターチャンスだぜ!」

「分かってるよ! 集中してるんだから大きな声出さないでよね!」

「可愛いなぁ、後で焼き回ししてくれよ」

「勿論いいぞ! ジンの作ってくれた飾りのお陰で、いつも以上に愛らしい写真が撮れてるからな」

「おいおい、肝心の衣装と照明は誰のお陰だと思ってんだ?」

「一応、感謝はしてるよ?」

「ちゃんとお前の分も焼き回すから、大人しく照らしていてくれ」

俺様の扱い雑じゃねぇか!?と大きな抗議の声に連動するかのように、照明の色が変化して俺の全身が真っ赤に染まる。

二人はさして気にすることもなく、これはこれでいい写真が撮れるとシャッターを切り続けている。

日頃の行いってやつだろうな。

カミナはハロウィンなんて関係なしにイタズラしてくるし。

今だって構われないからって、デタラメに色変えてるし。

それでも相手にされてないんだから、何だか可哀想になっちゃうな。

「ねぇ、カミナも仮装してるんだからさ……一緒に写らない?」

そう、声をかけてまばたきをした時にはすでに、俺の身体は筋肉質の腕に抱き上げられていた。

ほんの少し前まで、への字に歪んでいた口がふにゃりと緩んでいる。

「おい、おめぇら俺様達が写るんだ! 格好よく撮れよ!」

「えー……ズールーいー! 俺達もサトルちゃんと一緒に写真撮ーりーたーいー!」

「くっ……こんなことなら余っていた狼の耳でも着けておけば良かったか」

構えていたカメラを下ろしてソウが口を膨らませる。隣にいたセイが、がくりと膝から崩れ落ちた。

「……俺も二人との写真、欲しいな。みんなとのも」

「だったら撮ればいいじゃねぇか」

そう言ったジンさんの手には、掌の形に折られた紙が握られていた。

宙に向かって放り投げると、勝手に四つの折り紙が浮かび上がって二人のカメラを持ち上げる。

「後はコイツらが勝手に動いて撮ってくれるぜ?」

「ジン、ナイス! カミナ、何枚か撮ったらサトルちゃん渡してよね!」

「次は俺で、その後はジンだな! 順番だぞ!」

「分かった分かった……ほら、さっさと並べよ」

明るいざわめきがオレンジ色に染まった室内に響く。

みんなに代わる代わる抱き抱えてもらって頬を寄せて、何度もシャッターを切ってもらう。

一人で撮ってもらっていた時も嬉しかった、二人が、みんなが楽しそうに笑っていたから。

でも、やっぱり一人よりみんなと一緒の方が何倍も嬉しくて、心がふわふわするんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18BL】世界最弱の俺、なぜか神様に溺愛されているんだが

ちゃっぷす
BL
経験値が普通の人の千分の一しか得られない不憫なスキルを十歳のときに解放してしまった少年、エイベル。 努力するもレベルが上がらず、気付けば世界最弱の十八歳になってしまった。 そんな折、万能神ヴラスがエイベルの前に姿を現した。 神はある条件の元、エイベルに救いの手を差し伸べるという。しかしその条件とは――!?

やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜

ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。 短編用に登場人物紹介を追加します。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ あらすじ 前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。 20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。 そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。 普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。 そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか?? ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。 前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。 文章能力が低いので読みにくかったらすみません。 ※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました! 本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!

迷子の僕の異世界生活

クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。 通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。 その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。 冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。 神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。 2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。

甥っ子と異世界に召喚された俺、元の世界へ戻るために奮闘してたら何故か王子に捕らわれました?

秋野 なずな
BL
ある日突然、甥っ子の蒼葉と異世界に召喚されてしまった冬斗。 蒼葉は精霊の愛し子であり、精霊を回復できる力があると告げられその力でこの国を助けて欲しいと頼まれる。しかし同時に役目を終えても元の世界には帰すことが出来ないと言われてしまう。 絶対に帰れる方法はあるはずだと協力を断り、せめて蒼葉だけでも元の世界に帰すための方法を探して孤軍奮闘するも、誰が敵で誰が味方かも分からない見知らぬ地で、1人の限界を感じていたときその手は差し出された 「僕と手を組まない?」 その手をとったことがすべての始まり。 気づいた頃にはもう、その手を離すことが出来なくなっていた。 王子×大学生 ――――――――― ※男性も妊娠できる世界となっています

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

俺は成人してるんだが!?~長命種たちが赤子扱いしてくるが本当に勘弁してほしい~

アイミノ
BL
ブラック企業に務める社畜である鹿野は、ある日突然異世界転移してしまう。転移した先は森のなか、食べる物もなく空腹で途方に暮れているところをエルフの青年に助けられる。 これは長命種ばかりの異世界で、主人公が行く先々「まだ赤子じゃないか!」と言われるのがお決まりになる、少し変わった異世界物語です。 ※BLですがR指定のエッチなシーンはありません、ただ主人公が過剰なくらい可愛がられ、尚且つ主人公や他の登場人物にもカップリングが含まれるため、念の為R15としました。 初投稿ですので至らぬ点が多かったら申し訳ないです。 投稿頻度は亀並です。

【完結】魔力至上主義の異世界に転生した魔力なしの俺は、依存系最強魔法使いに溺愛される

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 哀れな魔力なし転生少年が可愛くて手中に収めたい、魔法階級社会の頂点に君臨する霊体最強魔法使い(ズレてるが良識持ち) VS 加虐本能を持つ魔法使いに飼われるのが怖いので、さっさと自立したい人間不信魔力なし転生少年 \ファイ!/ ■作品傾向:両片思い&ハピエン確約のすれ違い(たまにイチャイチャ) ■性癖:異世界ファンタジー×身分差×魔法契約 力の差に怯えながらも、不器用ながらも優しい攻めに受けが絆されていく異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 魔法至上主義の世界で、魔法が使えない転生少年オルディールに価値はない。 優秀な魔法使いである弟に売られかけたオルディールは逃げ出すも、そこは魔法の為に人の姿を捨てた者が徘徊する王国だった。 オルディールは偶然出会った最強魔法使いスヴィーレネスに救われるが、今度は彼に攫われた上に監禁されてしまう。 しかし彼は諦めておらず、スヴィーレネスの元で魔法を覚えて逃走することを決意していた。

処理中です...