【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ

文字の大きさ
上 下
34 / 90

【番外編】初めてのハロウィン、犬猫論争は突然に

しおりを挟む
身動きひとつ、指の先を動かすことすら躊躇われるような空気が部屋を占めている。

元凶たる男は我が物顔でソファーを陣取り、にやつく口元を隠そうともせずに、長い足を組んでそれは愉しそうにこちらを遠巻きに眺めている。

……彼にこの事態を収拾する気はなさそうだ、絶対に。

かといって、こっちはこっちでマイペースというか……我関せずって感じだけれど。

テーブルの近くで座っている男の方へ、ちらりと顔を向ける。

二本の腕と、厳つい背中から生えている二本の腕の計四本が、各々別々に忙しなく動き、その手元からは次々と、色とりどりの紙を使った飾りが生み出されていく。

オレンジと紫の細い紙で作られた輪っかが交互についた飾り、カボチャの形に折られたものや羽を広げたコウモリ、白いお化けと様々だ。

ひと度彼の手によって折られたモノは、命を吹き込まれたかのように飛び回り。

天井をくるくると旋回していたり、勝手にくっついて部屋の白い壁を彩っている。

彼にとって二人の言い争いなど、見慣れたものなのか。特に気に止めることもなく、黙々と部屋の飾りを作り続けている。

仲良しみたいだし……別に止めるまでもない、いつものことって感じなのかな、やっぱり。

本人達は頑なに腐れ縁だって言い張っているけどさ。

……さて、そろそろ現実から目を逸らすのは止めようか。

この張りつめた空気の原因へと視線を戻す。

互いの主張を言い合いながら、二人の男が対峙している。

赤い鱗に覆われた手には猫耳の飾りと尻尾が、青い鱗に覆われた手には狼の耳飾りと尻尾が握られていた。

普段は壁際でお行儀よく整列している彼等の召し使い、赤と青の蜥蜴達。

赤い蜥蜴達は頭の上に小さな猫耳を、青い蜥蜴達はこれまた小さな狼の耳の飾りを付け、各々のご主人様を応援するかのように、彼等の足元できゅうっきゅうっと高い鳴き声を上げている。

「絶っ対に黒猫の方が可愛いって!」

「いや、狼の方が愛らしいに決まっている! 尻尾もモフモフなんだぞ!」

お揃いの金色の瞳を三角にして二人が睨み合う。

同意するみたいに各々の蜥蜴達も声高に鳴いた。

「……あのさ、いつもみたいに真剣勝負で決めたらいいんじゃないの?」

双子の龍の神様で、いつも仲良しな二人も今みたいに意見が合わない時もある。

そんな時は真剣勝負もとい、じゃんけんで勝った方の意見を優先にしているのだけれど。

恐る恐る声をかけた途端、ぐるりと二人の顔が俺の方へと向けられる。

仲良く同時に、鋭い牙の生え揃った口を大きく開いた。

「これだけは譲れないの!」
「これだけは譲れないんだ!」

「いつの世も……猫派か犬派かの論争は絶えねぇもんだ」

黙って大量の折り紙を生産していた男、ジンさんが誰に言うでもなくぼそりと呟く。

左右非対称の、綺麗に編まれた左側の黒髪を揺らしながら、こちらを一瞥してから再び紙の方へと視線を落とした。

つまり、万が一負けたら滅茶苦茶凹むから言い負かそうとしている、ってことなのかな。

猫は猫の、狼は狼の仮装の魅力を語って。

さっきから互いの主張がずっと平行線なんだけどさ。

「お二人さんよぉ、他の選択肢もあるんだぜ?」

全ての元凶である男がほくそ笑みながら声をかける。

二人と俺の視線が注がれたその男の周りには、黒い雲が漂っていて、ごつごつした褐色の腕がその中へと突っ込み、何かをまさぐるように動いた。

男の片方の眉がぴくりと上がって口元がつり上がり、そこから鋭い八重歯が覗く。

取り出された手には黒くとんがった帽子、大きなリボンが襟の部分についたマントと膝丈のズボンに長い靴下。

襟の大きなマントと白いひらひらしたものが首元についた長袖の服と、袖のない赤い服に黒い長ズボン。

各々形やデザインが異なる衣装が二着、握られていた。

「こっちは魔法使い、そんでこれは吸血鬼だ。サトルが着たらさぞ可愛いだろうなぁ」

そう言って紫色の瞳がニンマリと細められる。

無造作に束ねられた男の長い髪が、新たな論争の始まりを告げるかのようにバチバチと音を立てた。

だからそうやって、わざわざ追加で火種を投げ込まないでよ!完全に煽ってるじゃん!

二人も、セイもソウもその手があったかみたいな顔してさ。

青い手には吸血鬼の衣装が、赤い手には魔法使いの衣装が追加されて、ますますややこしくなっちゃったよ!

もとはと言えばカミナが言い出したことなのに!

それは数時間前の出来事で、いつものようにかわりばんこに二人の膝の上で寛いでいた時だ。

突然、窓の外が紫色に光って、直後に耳をつんざくような轟音が玄関の方で響いた。

反射的に広い背中に腕を回し、逞しい胸元に顔を埋めると、大きな手に頭と背中を優しく撫でられる。

「よしよし、びっくりしたな。怖がらなくても大丈夫だぞ」

「全く、いっつも突然すぎだよねーアイツ。挙げ句に、サトルちゃんを怯えさせてさぁ……」

穏やかな低めの声が、宥めるように俺を抱き締めながらぽんぽんと背中を叩き。

不機嫌そうな高めの声が、俺の短めの白い髪の毛をすくように撫でた。

「トリックオアトリート!!」

部屋の障子が勢いよく開け放たれたかと思うと、荒々しい大声と共に大柄な男が入ってきた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。 妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。 ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。 しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。 父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。 父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。 ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。 野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて… そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。 童話の「美女と野獣」パロのBLです

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】泡の消えゆく、その先に。〜人魚の恋のはなし〜

N2O
BL
人間×人魚の、恋の話。 表紙絵 ⇨ 元素🪦 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定です ※◎は視点が変わります(俯瞰、攻め視点etc)

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」 すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。 王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。 発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。 国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。 後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。 ――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか? 容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。 怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手? 今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。 急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…? 過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。 ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!? 負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。 ------------------------------------------------------------------- 主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。

処理中です...