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好きなのは、お互い様(前編)
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ゴツゴツした褐色の手が白い卵を手に取り、シンクのかどに軽く叩きつけてヒビを入れる。
銀色のボウルの口に向けて両手で割り開くと、ぷくりとした黄身と白身がつるんと綺麗に着地した。
続けて小さい手が、卵を恐る恐るかどにぶつける。躊躇したせいだろう、ほとんど亀裂が入っていない。
ほんの少しひび割れた表面を、今度は思いっきり叩きつける。
もう分かると思うけど……今度は力が強すぎだ。ぐしゃりとつぶれて中身が掌に飛び散ってしまった。
小さな手から、床に向かってこぼれ落ちる白と黄色の液体を、足元に居た赤い蜥蜴が小さな口を開いて受け止める。
満足そうに殻もろとも平らげたその子の後ろから、てちてち駆けてきた青い蜥蜴が、布巾に巻きつけた細い尻尾をしならせて褐色の手に向かって投げつけた。
受け取った布巾で殻と卵にまみれた小さな手を、褐色の手が丁寧に拭っていく。
ひと通りキレイにしてから、されるがままになっていた、申し訳なさそうに俯いている白い頭を励ますように撫でた。
その後も……中身と一緒に殻がボウルに入ってしまったり、黄身がつぶれたりしながらも。
四度目の挑戦で無事に卵が割れ、紫色の光の中に俺の笑顔が大きく映った時。
一斉に、俺の頭の上からは喜びの声が、部屋の壁際からは嬉しそうな鳴き声が上がった。
「よかったぁ……綺麗に割れて! 分かっていてもついハラハラしちゃうよー」
「何度見ても素晴らしいな! 特にこの達成感に満ちた笑顔が最高なんだぞ!」
所々に赤い鱗が模様みたいに散りばめられた、筋肉質の腕が俺の身体を抱き締める。
このシーンは是非とも写真にしてもらおう!と青い鱗を纏った手が、宙に映像を浮かび上がらせている黒い雲を白い爪でつつく。
途端に俺の笑顔のところでピタリと映像が止まり、右上の方に赤い印がついた。
……恥ずかしい。
映像の中の俺が何かをやり遂げる度に、二人から褒めてもらえるのはとても嬉しいんだけどさ。
一体、何回見るつもりなんだろう?
最初は俺も、二人に師匠……カミナから教えてもらったことを説明したり。
俺の頑張りを二人にも見て欲しくて、その、褒めて欲しかったから……
つい……これはね、そこはね、とはしゃいでしまっていたからさ。
ゆっくり見る余裕なんて、なかったんだと思うけど。
さすがに三度目ともなると、嬉しさよりも気恥ずかしさが上回ってきてしまう。
しかも二人のお気に入りのシーンなんかは、繰り返し巻き戻しちゃうせいで、この初めて卵を割ったところとか……もう何回見たか分かんないんだよね。
いや、嬉しいんだよ?二人からいっぱい撫でてもらえるし。
映像を一緒に見ることで、二人が居ない間にした俺の体験を、二人と共有出来ている様な気分になるからさ。
でもさ、何事にも限度ってものがあると思うんだよね……
「ねーえーセイ、俺、もう一回サトルちゃんがパンケーキひっくり返すとこ見たい!」
「分かった分かった、その次は皿に俺達の名前をデコレーションしてるところだからな」
甘えるような声を上げながら、赤い尻尾が催促するみたいに、俺達の隣に腰かける厳つい肩をちょんちょんつつく。
低い穏やかな声が、擽ったそうに小さく笑ってから黒い雲に再び青い手を伸ばす。
節くれだった指をもやの中に突っ込んで、混ぜるようにくるりと回すと、映像の中のいる俺とカミナがギリギリ俺が目で追えるくらいの速さで動き始めた。
何かを見極めているみたいに、金色の瞳が映像を注視する。
突然、切れ長の瞳が大きく見開かれて、素早く指が引き抜かれたかと思うと、丁度俺がお玉を使ってボウルから生地を掬っている場面になっていた。
いやいや、それ、もう見たじゃん!つい数十分前にも!
そう、ツッコミかけた口を閉じて、思わず出そうになった言葉を飲み込む。
やっぱり俺には無理だ……
まるで、今初めて見るみたいに真剣な眼差しを向けながら大きな身体を強ばらせては、過去の俺が満面の笑みを浮かべる度に、眩しい笑顔で俺以上に喜んでくれている二人に……
恥ずかしいから、もう見るのは止めよう?だなんて言えるわけがない!
もういっそのこと開き直って、セイとソウの顔だけ見てよっかな。
それなら恥ずかしくはないし、むしろチャンスなんじゃないか?
こんな間近で大好きな二人の笑顔を、好きなだけ眺めていられるんだからさ。
あ、なんかちょっと……いや、滅茶苦茶楽しくなってきたかも。
途端に賑やかになった心臓の音を宥めるように呼吸を静かに整えてから、二人の表情をそっと見つめる。
いつもキリッとしている目尻はふにゃりと下がっていて、頬もゆるりと綻んでいる。
いつもの格好いい彼等とは異なる柔らかい微笑みに、急に顔の中心に熱が集まって、収まりかけていた鼓動が再び激しくなってしまった。
それでも目が離せずに、むしろ食い入るように見つめてしまっていると、四つの瞳とかち合う。
一瞬だけ丸くなって、穏やかな光を帯びて……その、俺の自惚れかもしれないけど。
好きだよって、目で言われている様な気がして……胸の奥からきゅんって音が聞こえたんだ。
銀色のボウルの口に向けて両手で割り開くと、ぷくりとした黄身と白身がつるんと綺麗に着地した。
続けて小さい手が、卵を恐る恐るかどにぶつける。躊躇したせいだろう、ほとんど亀裂が入っていない。
ほんの少しひび割れた表面を、今度は思いっきり叩きつける。
もう分かると思うけど……今度は力が強すぎだ。ぐしゃりとつぶれて中身が掌に飛び散ってしまった。
小さな手から、床に向かってこぼれ落ちる白と黄色の液体を、足元に居た赤い蜥蜴が小さな口を開いて受け止める。
満足そうに殻もろとも平らげたその子の後ろから、てちてち駆けてきた青い蜥蜴が、布巾に巻きつけた細い尻尾をしならせて褐色の手に向かって投げつけた。
受け取った布巾で殻と卵にまみれた小さな手を、褐色の手が丁寧に拭っていく。
ひと通りキレイにしてから、されるがままになっていた、申し訳なさそうに俯いている白い頭を励ますように撫でた。
その後も……中身と一緒に殻がボウルに入ってしまったり、黄身がつぶれたりしながらも。
四度目の挑戦で無事に卵が割れ、紫色の光の中に俺の笑顔が大きく映った時。
一斉に、俺の頭の上からは喜びの声が、部屋の壁際からは嬉しそうな鳴き声が上がった。
「よかったぁ……綺麗に割れて! 分かっていてもついハラハラしちゃうよー」
「何度見ても素晴らしいな! 特にこの達成感に満ちた笑顔が最高なんだぞ!」
所々に赤い鱗が模様みたいに散りばめられた、筋肉質の腕が俺の身体を抱き締める。
このシーンは是非とも写真にしてもらおう!と青い鱗を纏った手が、宙に映像を浮かび上がらせている黒い雲を白い爪でつつく。
途端に俺の笑顔のところでピタリと映像が止まり、右上の方に赤い印がついた。
……恥ずかしい。
映像の中の俺が何かをやり遂げる度に、二人から褒めてもらえるのはとても嬉しいんだけどさ。
一体、何回見るつもりなんだろう?
最初は俺も、二人に師匠……カミナから教えてもらったことを説明したり。
俺の頑張りを二人にも見て欲しくて、その、褒めて欲しかったから……
つい……これはね、そこはね、とはしゃいでしまっていたからさ。
ゆっくり見る余裕なんて、なかったんだと思うけど。
さすがに三度目ともなると、嬉しさよりも気恥ずかしさが上回ってきてしまう。
しかも二人のお気に入りのシーンなんかは、繰り返し巻き戻しちゃうせいで、この初めて卵を割ったところとか……もう何回見たか分かんないんだよね。
いや、嬉しいんだよ?二人からいっぱい撫でてもらえるし。
映像を一緒に見ることで、二人が居ない間にした俺の体験を、二人と共有出来ている様な気分になるからさ。
でもさ、何事にも限度ってものがあると思うんだよね……
「ねーえーセイ、俺、もう一回サトルちゃんがパンケーキひっくり返すとこ見たい!」
「分かった分かった、その次は皿に俺達の名前をデコレーションしてるところだからな」
甘えるような声を上げながら、赤い尻尾が催促するみたいに、俺達の隣に腰かける厳つい肩をちょんちょんつつく。
低い穏やかな声が、擽ったそうに小さく笑ってから黒い雲に再び青い手を伸ばす。
節くれだった指をもやの中に突っ込んで、混ぜるようにくるりと回すと、映像の中のいる俺とカミナがギリギリ俺が目で追えるくらいの速さで動き始めた。
何かを見極めているみたいに、金色の瞳が映像を注視する。
突然、切れ長の瞳が大きく見開かれて、素早く指が引き抜かれたかと思うと、丁度俺がお玉を使ってボウルから生地を掬っている場面になっていた。
いやいや、それ、もう見たじゃん!つい数十分前にも!
そう、ツッコミかけた口を閉じて、思わず出そうになった言葉を飲み込む。
やっぱり俺には無理だ……
まるで、今初めて見るみたいに真剣な眼差しを向けながら大きな身体を強ばらせては、過去の俺が満面の笑みを浮かべる度に、眩しい笑顔で俺以上に喜んでくれている二人に……
恥ずかしいから、もう見るのは止めよう?だなんて言えるわけがない!
もういっそのこと開き直って、セイとソウの顔だけ見てよっかな。
それなら恥ずかしくはないし、むしろチャンスなんじゃないか?
こんな間近で大好きな二人の笑顔を、好きなだけ眺めていられるんだからさ。
あ、なんかちょっと……いや、滅茶苦茶楽しくなってきたかも。
途端に賑やかになった心臓の音を宥めるように呼吸を静かに整えてから、二人の表情をそっと見つめる。
いつもキリッとしている目尻はふにゃりと下がっていて、頬もゆるりと綻んでいる。
いつもの格好いい彼等とは異なる柔らかい微笑みに、急に顔の中心に熱が集まって、収まりかけていた鼓動が再び激しくなってしまった。
それでも目が離せずに、むしろ食い入るように見つめてしまっていると、四つの瞳とかち合う。
一瞬だけ丸くなって、穏やかな光を帯びて……その、俺の自惚れかもしれないけど。
好きだよって、目で言われている様な気がして……胸の奥からきゅんって音が聞こえたんだ。
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