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初めてのお出掛け、初めての屋台……後、強襲。その2

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お店に近寄ると、六つの目がぎゅるりと俺達を捉えた。

別に店員さんが三人居るってわけじゃない。

彼の目が、六つあるのだ。

俺達と同じ場所にある目の他に、小さな目が四つ、二列になっておでこの真ん中辺りに並んでいる。

背中からは、細長い先端が針のような、虫の足?みたいなのが、左右から四本ずつ生えていて。

それらが忙しなく動きながら、色んな色と形の綿あめを次々と器用に作り出している。

お花の形だったり、お星様、三日月と様々だ。

ぱかっと大きな口が笑顔の形で開くのと同時に、全部の瞳がニコッと細められる。

ハキハキとした快活な声が俺達の鼓膜を揺らした。

「いらっしゃいっ!別嬪のお兄さん方に可愛らしいお坊ちゃん、お好きな色と形を選んで頂戴な!内容にもよるが、オーダーメイドも受け付けてるよ!」

「…おーだー、めいど?」

「ここに並べてある以外の色の組み合わせでも形でも、坊っちゃんのお好みに合わせて作るってことだよ」

言葉をそのまま聞き返すと左の四つの足が、カウンターの横に置いてある木の板を指し示す。

板には四角い紙に、目に写ったものをそのまま切り取ったような絵がびっしり貼られている。

それらには、見たことのない動物の形の綿あめや、一緒に描かれている神様に似た形と色の綿あめなんかが描かれていた。

皆、笑顔で、幸せそうで、なんだかとっても素敵だ。見ているだけで…気持ちがわくわく、ふわふわしてきちゃうや。

この神様達もオーダーメイドってやつをしたんだな、きっと。

俺の、好きな色…か。

ちらりとセイとソウの顔を交互に見る。

二人とも、一瞬きょとんとしてから目尻がふにゃりと下がっていった。

「あの、赤と青の二色がいいんですけど…」

おそるおそる店員さんにそう告げると、俺を抱いていた赤い腕に僅かに力がこもる。

隣から低い、小さな呻き声が聞こえた気がした。

丸い六つの瞳がキョロキョロと左右に動いて、微笑ましいものでも見ているかのように細められる。

「成る程ねぇ…よしっ任せときな!坊っちゃんのお眼鏡に叶うような、とびきりの一品を作ってみせるからよ!」

威勢のいい声を上げた店員さんが、左右に一本ずつ細長い棒のような物を構え、不思議な円柱の容器にキラキラした赤い粒と青い粒が入れられる。

しばらくすると容器の中を踊るみたいに、細長い赤い糸と青い糸がくるりくるりと舞い始めた。

四本の足が目で追えない速さで巧みに動いて左の一本が青い雲を、右の一本が赤い雲を作り出す。

二つの雲が隙間なく綺麗にくっついて、一つの大きな雲になった。

さらに今度は、黒い粒と白い粒が容器の中へと追加されていく。

二色の雲を持っている足とは別の二本の足が、それぞれ三角形の小さな雲を作り出す。

あっという間に出来上がった三角形の雲が、二色の雲のちょうど頭にあたる部分に乗せられた。

赤い方には黒い三角が、青い方には白い三角が。

これって、まるで…

「どうだい、坊っちゃんにそっくりだろう?お兄さん方とお揃いの鱗と角をモチーフに作ってみたんだが」

ゆっくりと、俺の手元に綿あめが近づいてくる。

俺の大好きな、セイとソウの色の綿あめが。

「ありがとう!おにいさ」

「それっ俺達にも頂戴!」
「これと同じ物を二つ頼む!」

綿あめを受け取るのとほぼ同時だった。逞しい二色の腕が勢いよく、店員さんに向かって伸びたのは。


お兄さん方も坊っちゃんのことが大好きなんだねぇ、と微笑みながら手際よく、俺のと同じ綿あめが二つ作り上げられた。

何でだろう?手にした時はあんなにキラキラ輝いていた二人の顔が、何故か今は複雑そうに歪んでしまっている。

「どうしたの?」

声をかけると、じっと食い入るように綿あめを見つめていた、綺麗な金色の瞳に俺が映る。

心配させないようにしてくれてるのかな。ふわりと俺に微笑みかけてくれてから、互いに顔を見合わせると形のいい眉毛がへなりと下を向いてしまった。

「見れば見るほど、そっくりに見えてきちゃってさぁ…」

「食べてしまうのが、勿体なく思えてな…」

弱々しく呟いて、二人が同時に短く息を吐く。

確かにそうだ、食べちゃうと無くなっちゃうんだもんな。

当たり前だけど…そう思うと、ちょっと残念かも。

『出来立てが一番美味しいからな!出来るだけ早く食べてやってくれよ?』

ふと店員さんの明るい声と笑顔が頭に過って、気がつくと、ふわふわで甘い香りのする綿あめにそっとかぶりついていた。

青い部分を少しかじってから、赤い部分も続けて口に含む。

甘ったるさが口いっぱいに広がって、最初っから何も入ってなかったみたいに、あっという間に溶けて、消えていってしまった。

「わぁっこれ、美味しいよ!一緒に食べよう?」

びっくりする美味しさに顔を上げると、いつの間に眺めていたのか二人の瞳とかち合う。

「美味しいって、サトルちゃんが俺達の色を…」

「何だか、胸がドキドキするぞ…」

何故か顔を片手で覆ったソウが、喉の奥から絞り出すような声を出す。

噛み締めるように呟いたセイが、胸の辺りを押さえながら俯いた。

そのまま何やら二人共、ブツブツと口を動かしてるけど、声が小さすぎて上手く聞き取れない。

早くしないと、一番いい美味しさが逃げていっちゃうのに!

「セイお兄ちゃんっ、ソウお兄ちゃんっ」

練習通りに二人を呼ぶと、弾かれたみたいに二人の顔が俺に向けられる。

「はいっ!あーんして?」

そう言うと、示し合わせたかのように彼等の大きな口がパカリと開いた。

一口サイズにちぎった赤い綿あめをセイの口に、青い綿あめをソウの口に運ぶ。

もむもむと頬が動いてから、男らしい喉仏がゆっくり上下に動く。

「美味しい?」

言葉には出さずとも、ふにゃりと垂れ下がった二人の目尻が俺に応えてくれているみたいで、俺まで頬がだらしなく下がってしまう。

大好きな二人の笑顔に見惚れていると、二色の指が各々の綿あめから各々の色を摘まんで、俺の口元に近づいてくる。

口に含んだそれはとても甘くて、とろりと蕩けて…不思議だな、同じ綿あめのはずなのに。

二人に食べさせて貰った綿あめの方が、三人で一緒に食べた綿あめの方が。

思わず笑っちゃうくらいに美味しくて、温かいものが胸いっぱいに広がるような、そんなふわふわした気分になったんだ。


甘いものの後はやっぱりしょっぱいものだよねっ!と弾んだ高い声に絆されて。

仕方ないなぁって穏やかな低い声がすたすたと、一軒のお店に向かってから帰ってくる。

香ばしく焼けたお肉の香りと一緒に。

お腹がいっぱいになっちゃいけないからって、一本の大きな串焼きを三人で分けて食べて。

帰りを待っている蜥蜴達のお土産に、鈴の形をしたカステラっていう焼き菓子を紙で出来た袋一杯に詰めてもらった。

初めての買い物はちょっとだけ指が震えちゃったけど、それ以上にわくわくして。

二人と繋いだ手をソウの鼻歌に合わせて振っちゃうくらい楽しかったんだ。

賑やかな屋台の通りを過ぎて、入口にかかっている大きな橋の近くで…耳障りの悪い、がらがら声に引き止められるまでは。
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