【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ

文字の大きさ
上 下
16 / 90

初めてのお出掛け、2人の友達。おしまい

しおりを挟む
大通りをそれて、細く暗い道を進んでいく。

しばらくすると煉瓦の壁に、数種類の色の硝子を貼り合わせたような窓のついた家が目に入った。

この家だけ他と雰囲気が違うな。目立っているというか、浮いているというか。

どうやら、ここが目的地…二人のお友達?のお店だったみたいだ。木製の扉を青い手が開く。

来客を知らせているのかな。鈴のような金属を打ち付ける音が、明るい響きで俺達を出迎えたんだ。

部屋の中は、色んな形や色をした物であふれている。ぶつけずに歩くのが難しいくらい、棚やテーブルの上にぎっちり並んでいたんだ。

何だかとっても素敵だ。見たこともない、使い方が分からないものばかりだけど、皆生き生きと輝いているように見えたから。

「…おう、遅かったじゃねぇか。何処で道草食ってやがったんだ?」

地を這うような低い声のする方へ、部屋の奥へと、自然と目が向いていた。

ぼんやりとした明かりが照らす中、背中から二本の腕が生えた四本腕の大柄な男が、鋭い目で俺達を睨み付けている。

鴉みたいに真っ黒な髪に緑色の瞳。左右で髪の長さが異なっていて、右は短く左は肩につくほど長く綺麗に編まれている。

精悍な顔立ちは見る影もなく、不機嫌そうにくしゃりと歪んでいた。

「すまない、その…」

「ちょっとーサトルちゃんが怯えちゃうでしょ!俺達一応客なんだよ?営業スマイルの一つくらいしたらどうなのさ!」

謝罪の言葉を遮って、ソウが効果音がつきそうな勢いで男に向かって指を指す。

つり上がった眉がピクリと震えて、への字に曲がっていた口が大きく開いた。

「時間を守れない奴等にやる笑顔はねぇ!」

「そんなんだから閑古鳥が鳴くんだよ、折角物がいいのに」

「どれもこの世に一つとない名品なのにな」

「うるせぇ!ありがとな!」

怒った顔はそのままに、男が二人に向かって感謝の言葉を叫ぶ。

やっぱり仲良しなんじゃないの?

三人のテンポのいい掛け合いに、肩の力が一気に抜けてしまう。

分厚い胸板に寄りかかっていると、男の蛇のような瞳がギョロリと俺を捉えた。

「そいつが人の子か?御大層に加護までつけやがって…逆に目立っちまうんじゃねぇのか!?」

「そんなに心配しなくても大丈夫だぞ」

「俺達が守ってるんだよ?そんな簡単に手は出せないよ。それより、ほら可愛いでしょー俺達のお嫁さん!」

苛立つようにカウンターから身を乗り出す男を、穏やかな声でセイが宥める。

得意気に笑ったソウが彼に近寄って、見せびらかすみたいに俺を抱えたまま腕を伸ばした。

あー…今の心配してくれてたのか、怒鳴られたんじゃなくて。

見た目は少し怖そうだなって思っちゃったけど、実はスゴくいい人なんじゃ…

つい、まじまじと眺めてしまっていると、三角になった目がじとりと俺をねめつけてくる。

褐色の節くれだった指がぬうっと迫ってきて、俺の頬を恐る恐るつついてきた。

指先が優しく押し当てられてはびくりと震えて離れいき、再びゆっくりと近づいてくる。

「素晴らしい触り心地だろう!これからもっと良くなるぞ!スキンケアをしているからな」

「もっちもちでしょ?つい、ふにふにしたくなっちゃうよね、分かるよ」

自慢気に声を大にするセイと、何度も頷くソウに顔が熱くなってしまう。

男の両手が慎重に俺の頬を包み込んで、背中から生えた二本の手が伸びてきて、俺の頭を優しく撫でた。

「可愛いなぁ…俺みてぇなおっかねぇのに触られても泣いたりしないし、いい子だなぁ…」

ゆるりと目尻を下げた男が、さっきとは打って変わった柔らかい声で噛み締めるように呟く。やっぱり、この人良い人だ。

四つの手からよしよし、わしゃわしゃ撫で回されるがままになっている俺の頭上で、二人の温かい笑い声が響く。

「ふふ、ねぇジン、抱っこしてみる?」

高めの明るい声からの提案に、ジンと呼ばれた男の身体がビクリと跳ねた。

顔を上げれば微笑む二人と、前を向けば戸惑うような瞳とかち合う。

「…ジンさん、抱っこして?」

そっと彼に向かって手を伸ばすと、四本の腕が壊れ物でも扱うかのように優しく俺を抱き上げた。

二本の太い腕の中に収まっている俺を、残りの手が頬や頭をゆるゆる撫で回す。

「サトルは優しい子だなぁ…セイとソウはいい奴等だ。きっとお前を幸せにしてくれるだろうよ、俺が保証するぜ」

「うん!俺、二人のお嫁さんになってから毎日嬉しくて、心がふわふわするんだ」

そりゃあ、保証するまでも無かったなぁ…と俺の頬をひと撫でしてから二色の腕の元へと俺を返す。

俺を抱き締める二人の顔が、いつの間にか尖った耳の先まで真っ赤に染まっていた。


カウンターの後ろの大きな棚から黒い丈夫そうな箱を取り出して、俺達の前でその蓋を開く。

中には大きな指輪が二つと、その真ん中に小さな指輪が一つ仲良く並んでいた。

金色をベースに赤い宝玉と白い宝玉が半分ずつ、混ざるように真ん中にあつらえられていて、輪の部分には波のような模様が幾重にも刻まれている。

「嵌めてみてくれ。万が一合わねぇ場合は、直ぐに整えるからな」

青い指が真ん中にある指輪を慎重に摘まんで、赤い手が俺の左手を取る。

二人の手によって俺の薬指に、小さな指輪が収まった。

ピタリと、まるでそこにあるのが当然だというように綺麗に嵌まってキラキラと輝く。

ぶわりと胸の中に何かが込み上げて、じんと目の奥が熱くなって、勝手に涙がこぼれていた。

「似合ってるぞ…」

「綺麗だよ、サトルちゃん…」

二人へ何か応えたいのに、言葉が出てこない。

二人が何度も拭ってくれているのに、全然涙が止まらない。

それでも二人は俺が泣き止むまでずっと、優しく撫で続けてくれたんだ。


大きな指輪を手に取って、差し出された青い指に嵌める。残ったもう一つも慎重に赤い指に嵌めた。

「どうだろうか?」
「えへへー似合ってる?」

「二人とも格好いいよ!」

指輪の輝きに負けないくらい、彼等の顔がぱあっと輝く。

俺達の指に並んだお揃いの指輪に、頬が緩みっぱなしになってしまう。

「良かった、問題無さそうだな。そのままつけていくんだろう?」

ほっとしたように微笑むジンさんが、ケースを風呂敷に包んでからセイへと手渡す。

腹に響くような低い声は相変わらずだけど、何となく柔らかいような優しい響きがするな。

「ありがとう、ジン」

「今度遊びにおいでよ、サトルちゃんも喜ぶからさ」

「…いい、のか?」

おずおずと、期待に満ちた瞳がちらりと俺を見る。

顔を見合わせたセイとソウが、俺の肩を軽く叩いて目配せした。

「ジンが作った折り紙にサトルちゃん、興味津々だったんだよねーだからさ、折り方教えてあげてよ、ね?」

「俺達じゃあ、命を吹き込むほど綺麗には折れないからな。俺からも頼むぞ」

「俺、ジンさんみたいに折れるようになりたいです」

畳み掛けるように二人が手を合わせる。彼等の意図を察した俺もそれに続いた。

「そこまで言われちゃあ、仕方ねぇな…連絡すっからよ、その…またな!」

腕を組んでふいっと顔を背けたものの、残りの二本の腕がぶんぶんと俺達に向かって手を振っている。

扉が閉まる寸前まで、俺達が見えなくなるまでずっと振り続けてくれていた。


「ありがとね、サトルちゃん。アイツ変に頑固なところがあるからさ」

「合わせてくれて助かったぞ」

「ううん、俺も折り紙教えて欲しかったのは本当だからさ」

ソウの腕に抱えられて、セイと並んで歩く。

ふと左手を見ると、提灯の灯りに照らされて指輪が淡く輝いた。

「ジンが来たらさ、お祝いしようよ!」

「いいな!美味しいものを沢山用意しないと、サトルは何が食べたい?」

「お肉と果物と、野菜も美味しいし…でも魚も食べたいし…」

「全部作っちゃおう!」
「全部作るか!」

同時に響いた弾んだ声に、俺の胸いっぱいにふわふわしたものが広がっていく。

腕をめいいっぱい伸ばして二人に向かって抱きつくと、優しく抱き締め返してくれた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。 妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。 ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。 しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。 父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。 父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。 ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。 野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて… そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。 童話の「美女と野獣」パロのBLです

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】泡の消えゆく、その先に。〜人魚の恋のはなし〜

N2O
BL
人間×人魚の、恋の話。 表紙絵 ⇨ 元素🪦 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定です ※◎は視点が変わります(俯瞰、攻め視点etc)

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」 すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。 王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。 発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。 国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。 後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。 ――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか? 容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。 怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手? 今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。 急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…? 過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。 ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!? 負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。 ------------------------------------------------------------------- 主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。

処理中です...