【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ

文字の大きさ
上 下
14 / 90

初めてのお出掛け、2人の友達。その2

しおりを挟む
「あっ!ねぇねぇ、俺良いこと思いついちゃった!」

重苦しい空気を吹き飛ばすように、はいはい!と手を勢いよく高くつき上げたソウが、明るい声を上げる。

「変装させるんだよっ、サトルちゃんを!俺達と兄弟に見えるようにね!」

「成る程…確かに。化粧に俺達の加護を加えれば…俺達よりも下位の神は、簡単に騙せるだろうな」

得意気な表情で、赤い鱗に覆われた人指し指を立てているソウは、少しだけ楽しそうというか、悪戯っぽい笑顔に見えるのは気のせいだろうか。

彼の提案に感心したんだろう。セイの表情にも明るさが戻っていく。

顎に指を当てて考えるような仕草をしてから、整列している蜥蜴達に向かって目で合図を送った。

それを見た蜥蜴達が一斉に、部屋の外へと一目散に駆けていく。

「あの辺じゃ、俺達より上の奴等なんてそうそう会わないんだし…名案じゃない?」

フフンと得意げに逞しい胸板を張り、鼻を鳴らすソウにセイが頷く。

褒めて褒めてっと言わんばかりに彼の頭が近づいてきたので、さらさらした金色の髪に手を伸ばした。

「だったらもう、やることは分かっているよな?」

ソウの頭を撫でていると、俺も撫でてくれ、と言いたそうにセイの頭が近づいてくる。

空いている方の手で、短い髪の毛をすくように撫でているとセイが、いつもより低い声でソウに問いかけた。

「勿論!俺が勝ったら赤だからね?」

「俺が勝ったら青だぞ」

二人がすくっと立ち上がって、青く太い尻尾が少し離れた場所へと俺を運んで下ろす。

肌を刺すようなピリピリとした空気が部屋に立ち込めて、いつもの真剣勝負が始まった。


青い二本の指を、振りかざすみたいに天井に向かって腕を伸ばした後に、歓喜の雄叫びを上げながら俺の身体を軽々と抱き上げる。

一方、自分の広げた掌を呆然と見つめながら、赤い尻尾がへにゃりと力なく垂れ下がった。

「俺の色に決まりだなっ!青い鱗の化粧に白い飾り角。俺とお揃いのサトルは、とびきり愛らしいだろうな…」

金色の瞳をキラキラと輝かせて、白い頬を上気させながら、うっとりと俺を見つめる。

セイとお揃いか。頬が勝手に下がっちゃうくらいに嬉しいな。でも…

「俺とお揃いのサトルちゃん…見たかったなぁ…」

悲しそうな弱々しい声で、膝と自分の長い尻尾を抱えているソウに、胸がきゅっと締め付けられる。

ふと、セイの方に視線を戻すと、先程とはうってかわってしょんぼりと男らしい眉を下げていた。

「…ねぇ、半分ずつじゃ駄目かな?」

俺の言葉に、はたとセイの目がしばたいて、弾かれたようにソウが顔を上げる。

「右側はセイの色にして、左側はソウの色にするって感じでさ…変、かな?」

これなら、どちらかが寂しい思いをすることもないし。

二人とお揃いだから、兄弟みたいに見えると思うんだけど。

「変じゃないぞっ、とても素敵だ!ソウも、それでいいだろう?」

「いいも何も大歓迎だよ!でも、セイはいいの?折角じゃんけん勝ったのに…」

「いつも元気なお前がしょげてると、俺もサトルも悲しいからな」

そう言ってセイが俺にパチンとウィンクする。

頷いて笑い合う俺達を、赤く筋肉質な腕がまとめて抱き締めた。


カシャッ、カシャッと二人の手に収まっている小さな箱から音がする度に、目をつぶってしまいそうになるくらいの眩しい光が俺を襲う。

「サトルちゃん、こっち向いて?」

「君の愛らしい笑顔を、俺達に見せてくれないか?」

言われた通りに彼等の方を向いて、頑張って口角を持ち上げてみる。

笑顔は苦手だけど、無邪気にはしゃいでいる二人の期待に応えたかったんだ。

「可愛い!いつも可愛いけど今日はとびきり可愛いよ!」

「緊張してるのか?そんな君も実に愛らしいな」

完成した俺の姿を鏡で確認した後からは、ずっとこんな感じだ。

隣に立っていたセイがぱあっと顔を輝かせ、俺の目では追えない速さで、いきなり部屋を飛び出したかと思うと、金の装飾が施された青い箱と赤い箱を手に持って、ほくほくとした顔で戻ってきたんだ。

それからだった。二人いわく、俺の撮影会とやらが始まったのは。


いい加減、言われ慣れてきたかな…って思ってたけど…やっぱり背中がむずむずするというか、顔が熱くなってしまう。

しかも今日の二人は、いつも以上に盛り上がっているというか…とっても楽しそうだから。

何だか…俺まで、とっても嬉しくなっちゃうな。

「あーっ!いいよーその表情!最高っ!!」

「はにかんだ笑顔が素敵だな!うっかり、シャッターを切るのを忘れて見入ってしまうぞ…」

彼等の盛り上がりと共に、箱から聞こえる音の回数も、瞬く光も増えていく。

「ところでさ…時間、大丈夫なの?」

ふと、頭に過った疑問を口にすると…二人が箱から顔を離して、きょとんとした顔で見つめ合う。もしかして、忘れているのかな?本来の目的を。

おもむろにセイが懐から、丸くてピカピカした金色の物を取り出してその蓋を開ける。

覗き込むようにソウが彼に頬を寄せて、二人の切れ長の瞳が大きく見開かれた。

「やっば!もうこんな時間!?」

「そろそろ準備しないと、流石に不味いな…」

やっぱり忘れていたみたいだ。バタバタ慌てる二人にてちてちと赤と青の蜥蜴達が駆け寄ってきて、彼等から箱を受け取り、別の子達が綺麗な羽織を代わりに手渡す。

手早くそれを身に纏った二人が同時に、俺の方を向いた。

「格好いい…」

普段の簡素な装飾だけが施された着物姿も綺麗だけど、こっちは裏地に二人の鱗みたいな模様の刺繍が施されている。

いつもより大人っぽいというか、色っぽいというか…見ていると、また心臓が暴れているみたいにおかしくなっちゃうや。

ついついぽーっと見惚れていると徐々に二人の顔が赤くなってきて、二色の尻尾が俺にするすると巻き付いていく。

勢いよく引き寄せられたかと思うと、二色の腕に全身を思いっきり撫で回されてしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。 妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。 ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。 しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。 父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。 父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。 ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。 野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて… そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。 童話の「美女と野獣」パロのBLです

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

【完結】泡の消えゆく、その先に。〜人魚の恋のはなし〜

N2O
BL
人間×人魚の、恋の話。 表紙絵 ⇨ 元素🪦 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定です ※◎は視点が変わります(俯瞰、攻め視点etc)

【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!

N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い 拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。 Special thanks illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560) ※独自設定です。 ※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

死に戻り騎士は、今こそ駆け落ち王子を護ります!

時雨
BL
「駆け落ちの供をしてほしい」 すべては真面目な王子エリアスの、この一言から始まった。 王子に”国を捨てても一緒になりたい人がいる”と打ち明けられた、護衛騎士ランベルト。 発表されたばかりの公爵家令嬢との婚約はなんだったのか!?混乱する騎士の気持ちなど関係ない。 国境へ向かう二人を追う影……騎士ランベルトは追手の剣に倒れた。 後悔と共に途切れた騎士の意識は、死亡した時から三年も前の騎士団の寮で目覚める。 ――二人に追手を放った犯人は、一体誰だったのか? 容疑者が浮かんでは消える。そもそも犯人が三年先まで何もしてこない保証はない。 怪しいのは、王位を争う第一王子?裏切られた公爵令嬢?…正体不明の駆け落ち相手? 今度こそ王子エリアスを護るため、過去の記憶よりも積極的に王子に関わるランベルト。 急に距離を縮める騎士を、はじめは警戒するエリアス。ランベルトの昔と変わらぬ態度に、徐々にその警戒も解けていって…? 過去にない行動で変わっていく事象。動き出す影。 ランベルトは今度こそエリアスを護りきれるのか!? 負けず嫌いで頑固で堅実、第二王子(年下) × 面倒見の良い、気の長い一途騎士(年上)のお話です。 ------------------------------------------------------------------- 主人公は頑な、王子も頑固なので、ゆるい気持ちで見守っていただけると幸いです。

処理中です...