【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ

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初めてのお出掛け、2人の友達。その1

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ふと、俺の頬を撫でていた赤い指が止まって、何かに気づいたのか障子の方をじっと見つめた。

音もなく両方の戸が開き、真っ白な鳥が一羽入ってくる。

くるくる俺達の頭上を旋回していたかと思うと突然、俺の手元に飛び込んできた。

「うわっ!あれ?」

これ…鳥じゃない。

紙だ、鳥の形に折られた。

「お店から?」

「だろうな、ついに出来上がったんだろう」

二人にとってはいつものこと、なのかな?

つい大きな声を出してしまった俺とは違って平然と、さも当たり前かのように普通に話している。

一体どういう仕組みなんだろ、これ?

さっきまで、生きてるみたいに羽ばたいていた紙を回す。

表と裏を確認しながら、ない頭を働かせていると、青い指が俺の手の中にある折り紙の端を、尖った白い爪でちょんとつついた。

すると何故か、小さな鳥の鳴き声がして、一枚の紙へと姿を変える。

何て書いてあるかは、文字を絶賛練習中の俺には、ほとんど分からないけど…

その紙にはぎっしりと、セイと同じくらい達筆な文字が綺麗に並んでいたんだ。

「やった!サトルちゃん、俺達の指輪出来たってよ!」

横から紙を覗き込んでいたソウが、嬉々とした声で俺の手をぎゅっと握った。

指輪…ソウが描いてくれた意匠に二人の色と俺の、俺と彼等のお揃いの色を、あつらえてもらった夫婦の証。

思い出しただけで、心が温かいものでいっぱいに満たされていく気がする。

「可愛い…照れてるの?ほっぺた真っ赤にしちゃって」

甘ったるい声が頭の上から降ってきて、赤い手が俺の頬を、輪郭をなぞるみたいにゆったり撫でていく。

全身の熱が集まるみたいにますます顔が熱くなって、胸の奥がきゅうっと締め付けられた。

「ふふっそんなに喜んでくれるなんて俺達も嬉しいよ。ねぇセイ…セイ?」

俺達がわいわいしてると、いつも寂しそうな声で仲間に入れてくれっ!て抱きついてくるのに。

ソウの呼び掛けも聞こえていないのか、真剣な目線を紙にむけたまま動かない。

「ねーえーどうしちゃったの?せぇーいー」

頬を膨らましたソウが、彼のがっちりした腕を掴んで俺ごと揺さぶる。

俺も手を伸ばして彼の頬に触れると、ゆるりと細められた金色の瞳が俺を捉えた。

「三人で、来て欲しいらしい…」

形のいい唇がゆっくり動く。

身体の揺れが止まったかと思うと大きな声が、俺の鼓膜を激しく揺らした。

「えぇーっ!?どうすんの!?てゆーか何で!?」

矢継ぎ早に投げ掛けられる質問とともに再び、俺の身体が揺れ始める。

青い尻尾が宥めるみたいに、俺達を揺さぶり続けている腕を軽く叩いた。

「俺達はまだしも、人の子の指輪を作るのは久しぶりらしくてな。サイズの確認をしたいらしいぞ」

「でも、俺ちゃんとサイズ測って送ったじゃん!デザインと一緒に!」

「大事な物だから、念には念を入れたいらしいが…まぁ半分は建前だろうな」

頬を思いっきり膨らませたソウが、長い尻尾を床に叩きつける。

その振動に驚いちゃったんだろう。壁際に整列していた赤と青の蜥蜴達が、ぴょんと一斉に飛び上がった。

「どういうこと?」

「君に興味津々ということさ」

「サトルちゃん見たいなら素直にそう書けばいいのに、ホントにアイツ昔っから面倒臭いよねー」

腕はいいのに勿体無いよ、とぶつくさ言いながらソウが口を尖らせて、頭の後ろで腕を組んだ。

そんな彼の頭を撫でながら、片方の眉を下げたセイが苦笑いを浮かべている。

「二人の…友達?」

なんだろう、文句を言っている割りには、彼等の間に漂う空気が柔らかい気がする。

だから仲がいいのかな?と思って尋ねてみたんだけど。

「ただの腐れ縁だよ」
「ただの腐れ縁だぞ」

息ぴったりに、そう返されてしまった。

「理由は分かったけどさぁ、何で悩んでんの?難しい顔して」

いまだに顔をしかめているセイに疑問を持ったのか、彼の眉間に刻まれている深い皺を伸ばすみたいに長い指が撫で回す。

「道中においての身の安全のことだ…俺達と違ってサトルは人間なんだぞ?」

「あー…そっか」

うつったみたいにソウの顔もくしゃりと歪む。

互いに顔を見合わせたまま黙りこくってしまった。

「人間だと、何か不味いの?」

指輪を取りに行くってことは、神様達が住む街に行くってことだよな。

多分、いや絶対、人間が簡単に来れるような場所じゃないだろうし。

息が出来ないような高い所だったりするんだろうか。

俺の問いかけに、二人の視線が同時に向けられる。

何やら目配せをしたセイが短く息を吐いた。

「よくて口説かれるだけだが…最悪、拐われるだろうな」

「へ?」

「サトルちゃん可愛いもんねー絶対目ぇ付けられちゃうよ…まぁ、君のこと変な目で見るような奴等がいたら、俺達が全力で潰すけど」

想像の斜め上の回答に、なんとも間抜けな声が出てしまった。

口説かれる?俺が?

セイとソウじゃなくて?何で?

二人と違って何処にでもいるような普通の顔なのに。

白い髪と赤い目は二人とお揃いの色だから、綺麗かもしれないけどさ。

「昔から神にとって、人間を娶ることは一種のステータスみたいなものなんだ。自分が、どれだけ多くの人間から信仰されているかを示す為のな」

「俺達みたいに、ただ惚れたからって奴もいるんだけどね。やっぱりまだ、自分の地位のことしか考えてない奴が多いみたいでさ、平気で何人も侍らせたりするんだよ」

俺の疑問に答えるようにセイがゆっくりと丁寧に、ソウがぼやくみたいに呆れた声で説明してくれる。

数ばっかり気にしてさ、一途に愛せないから弱いんだよ!と吐き捨てるみたいにソウが締めくくった。

「でも…俺、セイとソウのお嫁さんだよ?」

俺の全部は、頭の天辺から爪先まで二人のものだ。

それ以外でも、俺があげられるものなら何でもあげようと、心に強く決めている。

もし、万が一…他の神様に口説かれるようなことがあったとしても。

絶対に、彼等以外のものになったりなんかしない。

二人の、セイとソウ以外のお嫁さんになるなんて…考えられないのに。

「ああ、そうだ。だから俺達が全力で守る。髪の毛一本触れさせたりはしない、だが…」

「無理矢理奪おうとするバカがいるんだよねぇ…」

青い腕が俺を包み込むように抱き締めて、赤い手が背中をそっと撫でてくれた。

柔らかい光を帯びた瞳に見つめられ、胸がふわりと軽くなる。

そんな、穏やかな空気が流れたのもつかの間で。

溜め息混じりに紡がれたソウの言葉に、ただ言葉尻を濁していたセイの顔も、また難しそうな、曇った表情に戻ってしまったんだ。
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