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2人の名前が書きたくて(前編)
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黒い液体に真っ白な筆先を沈めると、じわじわ黒く染まっていく。垂らしてしまわないように、黒い器に少し落としてから先端を紙に押し付けた。
青い鱗に覆われた手が、俺の手を包み込むように優しく支えてゆっくりと導いていく。斜めの線を引き、時には半円を描くように曲線を引いて、ゆっくりと一つずつ正確に、まっさらな紙へ黒い線を走らせていく。
最後にくるりと柄を回して、紙から筆先をそっと離した。
「出来た!」
紙に大きく書かれた三文字を掲げると、赤い鱗に覆われた手から盛大な拍手を送られる。
「すごいすごい! 上手に書けたねぇ」
「ほとんどセイに手伝ってもらっちゃったけどね」
初めて文字を書けた喜びに、つい自分の手柄みたいにはしゃいじゃったけど……俺はただ筆を持って、セイの動きに合わせてただけだもんな。
「最初は皆そうだぞ。見よう見まねでやるよりも、感覚で覚えた方が身に付きやすいからな」
ゆるりと金色の瞳が細められて、大きな手が俺の頭を撫でてくれる。
「後は、練習あるのみだ。もう一回、書いてみようか」
励ますように俺の肩を優しく叩くと、再び一回り大きな彼の手が俺の手を包みこんだ。
「うん!」
俺の名前が書かれた紙を、俺達の傍らに座っていたソウが受け取り、新しい紙がテーブルの上に広げられる。ガッチリとした膝の上で姿勢を正し、再び筆を手に取った。
事の始まりは、数時間前に遡る。
◇
赤い腕に抱き抱えられ、青い指に頬を撫でられながら長く広い木造の廊下を進んでいく。しばらくすると、金の装飾が施された大きな扉の前へと行き着いた。
左右で色が異なっていて左側は赤色、右側は青色に塗られていて、まるでソウとセイみたいだ。よく見ると青い方のノブの色は白く、赤い方のノブの色が黒くなっている。二人の角の色と一緒だな。
「ねぇ、ここは?」
「入ってからのお楽しみ、だよ!」
「長い年月をかけて俺達が集めた、珠玉の品々ばかりだからな。君が気に入るものも、きっとあるだろう」
かたや悪戯っぽい笑顔を浮かべ、かたや得意気に逞しい胸を張る。
開かれた扉の先には天井に届くほどの大きな本棚が、部屋の壁一面に設置されており。ぎっしりと隙間なく、色とりどりの本が敷き詰められていた。
スゴい……こんなに沢山の本、初めて見たな。
あまりの多さに目を回しそうになっていると、部屋の中央に整列している本棚から分厚い本を一冊、セイが取り出して俺に手渡した。
「俺のお勧めだ! 実際の歴史とは異なっているのだが、三国を舞台にした群像劇でな、彼等が織り成すドラマが大変素晴らしく……」
「俺のはねーファンタジーなんだけど、一匹のドラゴンと少年のお話で、二人の種族間を越えた友情が滅茶苦茶尊くてハンカチなしでは……」
牙の生え揃った大きな口を開け、熱弁し始めるセイ。彼に対抗するかのようにソウが、長い尻尾で器用にカラフルな表紙の本を取り出し、熱く語り始める。
二人の熱量がスゴい。宝玉みたいな瞳がキラキラ輝いて、とってもキレイだ。
よっぽどその本が好きなんだろうな……無邪気な、子供みたいな笑顔で各々の物語の魅力を説明してくれている。でも……
「ごめんね……俺、文字読めないんだ」
俺のたった一言で、部屋から音が全て消えさったみたいに静まりかえってしまった。
「読み書きなんて、肉体労働には一切関係ないからさ……家に帰っても、明日の仕事に備えて寝るだけだったし」
村のじいさんが大事そうに抱えていたボロボロの本を、見せてもらったことがあったけど。難しすぎて、ただミミズがのたうっているようにしか俺には見えなかったっけ。
思い出したらなんだか少しおかしくなって、口元が自然に緩んでしまう。ほのぼのと思い出に浸っていた俺を突然、凍てつく寒さが襲った。
穏やかな優しいあの眼差しが、恐ろしく鋭い目付きに変わっていく。いつも温かい言葉をくれる口からは、鈍く光る尖った牙が剥き出しになっていた。
「もうさぁ……アイツらの魂、砕いた方がいいんじゃない?」
「地獄に落とすだけでは生温いからな……粉々にすり潰して、何処にも還らぬ虚無へと送ってしまおう」
へぇー……魂って、物理的に粉々に出来るもんなんだぁ……
ダメだ。今完全に現実逃避してたな、俺。
正直なところ、俺達村の人間を家畜同然に扱っている村長一家に対しては、俺も思うところがないわけではない。ちょっとくらい痛い目を見ればいいのにとか、よくない考えが頭を過ちゃったこともあるし。
でも、だからといってそんなことは望んでいない。
だって、なんか後味悪いし。そもそもあんな奴らの為なんかに、大好きな彼等の手を汚して欲しくない。
「ねぇ、俺に文字を教えてくれないかな? 二人が好きな本、俺も自分の力で読んでみたいんだ」
二冊の本を抱き締めて、二人の顔を交互に見つめる。四つの瞳とかち合って、つり上がっていた目尻がとろんと下がった。
「勿論っ! 俺達が手取り足取りバッチリ教えてあげるからね!」
「折角だから、一緒に書く練習もしようか。覚えておいて損はないだろう」
よかった、いつものセイとソウだ。
俺の大好きな笑顔を浮かべる二人に、内心ほっとする。
「だったら、道具が必要だよね? 墨は俺が使ってるのと一緒でいいにしても」
「蔵に昔、森の神から貰った筆があっただろう? 硯は岩の神から無理矢理押し付けられたのでいいんじゃないか? 一応、品としてはどちらも良いものだぞ」
長い指を顎に当てて唸っていたソウに、良いことを思い付いた! と言わんばかりの満面の笑みでセイが提案する。
え? 神様が渡すような品って、いわゆる国宝になっちゃうような貴重な物なんじゃないの?
そんな物を軽々しく俺に渡そうとしないでよ! 滅茶苦茶使いづらいんだけど!
「あのさっ! 俺……二人のお下がりが欲しいな。ダメ?」
俺のお願いがよっぽど思いがけなかったのか、切れ長の彼等の瞳が大きく見開かれた。二人で何やらアイコンタクトをすると、飛ぶような勢いで部屋を出て、何処かへと俺を運んでいく。
「うわっセイ!? ソウ!?」
速すぎて目が開けられず、必死に広い背中にしがみつく。筋肉質の腕が俺を守るように包み込んで、安心させるみたいに頭を撫でてくれた。
嵐のような突風が収まってから、恐る恐る瞼を開くと大きな真紅の扉が目に映る。
すぐ近くにある群青の扉の中へ、太く青い尻尾をご機嫌そうに揺らしながら、いそいそと入っていく厳つい後ろ姿が見えた。
「あっちはセイの部屋で、俺の部屋はこっち」
そう説明しながら、赤い鱗を纏った手が扉を開く。
部屋の壁には至るところに、風景や動物を描いた掛け軸や屏風が飾られており。一番目立つ所には、俺のよく知っている金色の短髪に金の瞳。白い角を生やし、青い鱗を纏った尻尾を持つ龍の神様が、威風堂々と大きな掛け軸に描かれていた。
「格好いいでしょ? 自画自賛になっちゃうけどさ、よく描けてると思うんだよねー」
「これ、全部ソウが描いたの!? スゴい!」
確かにこれを見ちゃうと、前に貰った俺やセイの似顔絵は落書きに見えちゃうかも。
実物も勿論格好いいんだけど、なんて言ったらいいんだろう……目が釘付けになっちゃうというか、まるで生きているみたいだ。
「今度隣に、サトルちゃんの絵を描いて飾るからね」
俺の頬を撫でていた指が、セイの絵の隣に不自然に空けられたスペースを指差す。
「ソウの絵は?」
「俺の? どうして?」
「絵でも……三人一緒がいいなって……」
セイとお揃いの金色の瞳がぱちぱちとしばたく。健康的な色をした頬が、彼の目元を彩る鱗以上に真っ赤に染まった。
「ソウ?」
何かを堪えるようにきゅっと口をつぐんだまま、プルプルと大きな身体が震えている。
長い沈黙に不安を覚えた俺は、彼の金糸のような長い髪に手を伸ばす。二人がしてくれるみたいに優しくその頭を撫でていると、凄い力で抱き締められた。
「描くよっ! 君も、俺自身の絵も、魂を込めて全力で描くからねっ!!」
すべすべしたソウのほっぺたが、俺の頬にすりすりと何度もすり寄せられる。なんだかとっても胸の奥がふわふわして、彼の太い首に腕を回した。
扉の開く音がしたかと思うと、青い腕が俺達をまとめて抱き締め、閉じ込める。
「また俺は、仲間外れか?」
拗ねたような低い声で訴えてくるセイの頬に触れると、俺の手にゴツゴツした手が重なって、掌に頬をすり寄せてきた。
仕草から表情までさっきのソウとそっくりだ。双子だと、こういうところも似ちゃうんだろうか。
「セイ……サトルちゃんの彫像作るとき、絶対セイのも作んないとダメだからね!」
「俺の像を? 何でだ?」
俺の手を握りしめたまま首を傾げる彼の耳元で、何やらソウが囁く。途端に耳の先まで真っ赤になったセイが、胸を押さえながら小さな呻き声を上げた。
「どうしたの? 大丈夫?」
反対の手で彼の頭を撫でていると、分かるよその気持ち……と頬を緩ませたソウが、うんうんと何度も頷いていた。
結局セイからは硯を、ソウからは筆を貰って二人の指導のもと、文字を書くための練習が始まったんだ。
青い鱗に覆われた手が、俺の手を包み込むように優しく支えてゆっくりと導いていく。斜めの線を引き、時には半円を描くように曲線を引いて、ゆっくりと一つずつ正確に、まっさらな紙へ黒い線を走らせていく。
最後にくるりと柄を回して、紙から筆先をそっと離した。
「出来た!」
紙に大きく書かれた三文字を掲げると、赤い鱗に覆われた手から盛大な拍手を送られる。
「すごいすごい! 上手に書けたねぇ」
「ほとんどセイに手伝ってもらっちゃったけどね」
初めて文字を書けた喜びに、つい自分の手柄みたいにはしゃいじゃったけど……俺はただ筆を持って、セイの動きに合わせてただけだもんな。
「最初は皆そうだぞ。見よう見まねでやるよりも、感覚で覚えた方が身に付きやすいからな」
ゆるりと金色の瞳が細められて、大きな手が俺の頭を撫でてくれる。
「後は、練習あるのみだ。もう一回、書いてみようか」
励ますように俺の肩を優しく叩くと、再び一回り大きな彼の手が俺の手を包みこんだ。
「うん!」
俺の名前が書かれた紙を、俺達の傍らに座っていたソウが受け取り、新しい紙がテーブルの上に広げられる。ガッチリとした膝の上で姿勢を正し、再び筆を手に取った。
事の始まりは、数時間前に遡る。
◇
赤い腕に抱き抱えられ、青い指に頬を撫でられながら長く広い木造の廊下を進んでいく。しばらくすると、金の装飾が施された大きな扉の前へと行き着いた。
左右で色が異なっていて左側は赤色、右側は青色に塗られていて、まるでソウとセイみたいだ。よく見ると青い方のノブの色は白く、赤い方のノブの色が黒くなっている。二人の角の色と一緒だな。
「ねぇ、ここは?」
「入ってからのお楽しみ、だよ!」
「長い年月をかけて俺達が集めた、珠玉の品々ばかりだからな。君が気に入るものも、きっとあるだろう」
かたや悪戯っぽい笑顔を浮かべ、かたや得意気に逞しい胸を張る。
開かれた扉の先には天井に届くほどの大きな本棚が、部屋の壁一面に設置されており。ぎっしりと隙間なく、色とりどりの本が敷き詰められていた。
スゴい……こんなに沢山の本、初めて見たな。
あまりの多さに目を回しそうになっていると、部屋の中央に整列している本棚から分厚い本を一冊、セイが取り出して俺に手渡した。
「俺のお勧めだ! 実際の歴史とは異なっているのだが、三国を舞台にした群像劇でな、彼等が織り成すドラマが大変素晴らしく……」
「俺のはねーファンタジーなんだけど、一匹のドラゴンと少年のお話で、二人の種族間を越えた友情が滅茶苦茶尊くてハンカチなしでは……」
牙の生え揃った大きな口を開け、熱弁し始めるセイ。彼に対抗するかのようにソウが、長い尻尾で器用にカラフルな表紙の本を取り出し、熱く語り始める。
二人の熱量がスゴい。宝玉みたいな瞳がキラキラ輝いて、とってもキレイだ。
よっぽどその本が好きなんだろうな……無邪気な、子供みたいな笑顔で各々の物語の魅力を説明してくれている。でも……
「ごめんね……俺、文字読めないんだ」
俺のたった一言で、部屋から音が全て消えさったみたいに静まりかえってしまった。
「読み書きなんて、肉体労働には一切関係ないからさ……家に帰っても、明日の仕事に備えて寝るだけだったし」
村のじいさんが大事そうに抱えていたボロボロの本を、見せてもらったことがあったけど。難しすぎて、ただミミズがのたうっているようにしか俺には見えなかったっけ。
思い出したらなんだか少しおかしくなって、口元が自然に緩んでしまう。ほのぼのと思い出に浸っていた俺を突然、凍てつく寒さが襲った。
穏やかな優しいあの眼差しが、恐ろしく鋭い目付きに変わっていく。いつも温かい言葉をくれる口からは、鈍く光る尖った牙が剥き出しになっていた。
「もうさぁ……アイツらの魂、砕いた方がいいんじゃない?」
「地獄に落とすだけでは生温いからな……粉々にすり潰して、何処にも還らぬ虚無へと送ってしまおう」
へぇー……魂って、物理的に粉々に出来るもんなんだぁ……
ダメだ。今完全に現実逃避してたな、俺。
正直なところ、俺達村の人間を家畜同然に扱っている村長一家に対しては、俺も思うところがないわけではない。ちょっとくらい痛い目を見ればいいのにとか、よくない考えが頭を過ちゃったこともあるし。
でも、だからといってそんなことは望んでいない。
だって、なんか後味悪いし。そもそもあんな奴らの為なんかに、大好きな彼等の手を汚して欲しくない。
「ねぇ、俺に文字を教えてくれないかな? 二人が好きな本、俺も自分の力で読んでみたいんだ」
二冊の本を抱き締めて、二人の顔を交互に見つめる。四つの瞳とかち合って、つり上がっていた目尻がとろんと下がった。
「勿論っ! 俺達が手取り足取りバッチリ教えてあげるからね!」
「折角だから、一緒に書く練習もしようか。覚えておいて損はないだろう」
よかった、いつものセイとソウだ。
俺の大好きな笑顔を浮かべる二人に、内心ほっとする。
「だったら、道具が必要だよね? 墨は俺が使ってるのと一緒でいいにしても」
「蔵に昔、森の神から貰った筆があっただろう? 硯は岩の神から無理矢理押し付けられたのでいいんじゃないか? 一応、品としてはどちらも良いものだぞ」
長い指を顎に当てて唸っていたソウに、良いことを思い付いた! と言わんばかりの満面の笑みでセイが提案する。
え? 神様が渡すような品って、いわゆる国宝になっちゃうような貴重な物なんじゃないの?
そんな物を軽々しく俺に渡そうとしないでよ! 滅茶苦茶使いづらいんだけど!
「あのさっ! 俺……二人のお下がりが欲しいな。ダメ?」
俺のお願いがよっぽど思いがけなかったのか、切れ長の彼等の瞳が大きく見開かれた。二人で何やらアイコンタクトをすると、飛ぶような勢いで部屋を出て、何処かへと俺を運んでいく。
「うわっセイ!? ソウ!?」
速すぎて目が開けられず、必死に広い背中にしがみつく。筋肉質の腕が俺を守るように包み込んで、安心させるみたいに頭を撫でてくれた。
嵐のような突風が収まってから、恐る恐る瞼を開くと大きな真紅の扉が目に映る。
すぐ近くにある群青の扉の中へ、太く青い尻尾をご機嫌そうに揺らしながら、いそいそと入っていく厳つい後ろ姿が見えた。
「あっちはセイの部屋で、俺の部屋はこっち」
そう説明しながら、赤い鱗を纏った手が扉を開く。
部屋の壁には至るところに、風景や動物を描いた掛け軸や屏風が飾られており。一番目立つ所には、俺のよく知っている金色の短髪に金の瞳。白い角を生やし、青い鱗を纏った尻尾を持つ龍の神様が、威風堂々と大きな掛け軸に描かれていた。
「格好いいでしょ? 自画自賛になっちゃうけどさ、よく描けてると思うんだよねー」
「これ、全部ソウが描いたの!? スゴい!」
確かにこれを見ちゃうと、前に貰った俺やセイの似顔絵は落書きに見えちゃうかも。
実物も勿論格好いいんだけど、なんて言ったらいいんだろう……目が釘付けになっちゃうというか、まるで生きているみたいだ。
「今度隣に、サトルちゃんの絵を描いて飾るからね」
俺の頬を撫でていた指が、セイの絵の隣に不自然に空けられたスペースを指差す。
「ソウの絵は?」
「俺の? どうして?」
「絵でも……三人一緒がいいなって……」
セイとお揃いの金色の瞳がぱちぱちとしばたく。健康的な色をした頬が、彼の目元を彩る鱗以上に真っ赤に染まった。
「ソウ?」
何かを堪えるようにきゅっと口をつぐんだまま、プルプルと大きな身体が震えている。
長い沈黙に不安を覚えた俺は、彼の金糸のような長い髪に手を伸ばす。二人がしてくれるみたいに優しくその頭を撫でていると、凄い力で抱き締められた。
「描くよっ! 君も、俺自身の絵も、魂を込めて全力で描くからねっ!!」
すべすべしたソウのほっぺたが、俺の頬にすりすりと何度もすり寄せられる。なんだかとっても胸の奥がふわふわして、彼の太い首に腕を回した。
扉の開く音がしたかと思うと、青い腕が俺達をまとめて抱き締め、閉じ込める。
「また俺は、仲間外れか?」
拗ねたような低い声で訴えてくるセイの頬に触れると、俺の手にゴツゴツした手が重なって、掌に頬をすり寄せてきた。
仕草から表情までさっきのソウとそっくりだ。双子だと、こういうところも似ちゃうんだろうか。
「セイ……サトルちゃんの彫像作るとき、絶対セイのも作んないとダメだからね!」
「俺の像を? 何でだ?」
俺の手を握りしめたまま首を傾げる彼の耳元で、何やらソウが囁く。途端に耳の先まで真っ赤になったセイが、胸を押さえながら小さな呻き声を上げた。
「どうしたの? 大丈夫?」
反対の手で彼の頭を撫でていると、分かるよその気持ち……と頬を緩ませたソウが、うんうんと何度も頷いていた。
結局セイからは硯を、ソウからは筆を貰って二人の指導のもと、文字を書くための練習が始まったんだ。
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