【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ

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知りたくなかったぐるぐると、ちょっと残念なドキドキ

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 ゴロゴロと小石でも並べているみたいに無造作に、金の装飾が施されたガラスのテーブルの上に、眩いばかりの宝玉が並べられていく。赤、青、緑、紫…と色も大きさも様々だ。

「好きなのを選んでいいからね?」

「気に入るものが無ければ、眷属達に取りにいかせよう。なんせ君への婚約指輪だからな、素晴らしい物にしなければ」

 婚約、指輪……俺が、二人の、セイとソウのお嫁さんになったっていう証。

 どうしよう……顔が熱くなって、頬が自然と垂れ下がっちゃうや。

「ねぇ、金色は無いの?」

「金……か、黄色はあるんだが……」

「金色が好きなんだね! ピカピカして綺麗だもんねぇ」

 うんうんと唸りながら青い腕が、宝玉の山を掻き分けて、黄色に輝く玉を手に取った。無邪気な笑顔を浮かべたソウの大きく赤い手が、俺の頭を撫で回す。

「うん、セイとソウの目の色と同じだから。でも、二人の瞳の方が、とっても綺麗で好きだけど」

 思っていたことをそのまま口にしただけなのに。何故か、時が止まったみたいに二人が動かなくなってしまった。

「セイ? ソウ?」

 俺の両側に座る二人の顔を交互に見比べる。どちらも固まっているみたいだ。切れ長の瞳を大きく開いたまま。

 恐る恐る彼等の名前を呼ぶと、二人してテーブルに向かって倒れ伏してしまった。衝撃で転がり落ちる宝玉を、てちてちと駆け寄ってきた蜥蜴達が器用に頭で受け止めていく。

「俺、わりと褒め言葉ってゆーか、口説き文句には慣れてるつもりだったんだけどなぁ……」

「俺もだ……言われる相手が違うだけで、こうも差があるとはな……」

 ぐったりと項垂れたまま、互いに顔を見合わせてぼそぼそと話している。情けないことに俺はそんな二人の姿よりも、言葉の方が気になってしまって……

「二人とも、その……誰かに口説かれたり、してたの?」

 つい、何も考えずに尋ねてしまっていたんだ。

「あー……昔のことだけどね。俺達一応、神様の中では上の方ってゆーか……まぁ、龍で双子なのが珍しいってこともあったんだろうけどさ」

「何かにつけて人間を嫁として献上されたり、俺達より上位の神から、土地だの宝だの好きなだけくれてやるから嫁に来い、と言い寄られたりしてな……全くいい迷惑だったぞ」

 ぱちくりと目をしばたたかせた後に、至極忌々しそうに二人がぼやく。

 人間を、嫁として献上……まるで俺みたいだ。

 そりゃあ、セイもソウも俺みたいな何処にでもいるような顔じゃなくて、綺麗っていうか、格好いいから。色んな人が、それこそ神様だって放っておくわけないし、当たり前なんだろうけど。

 そもそも、俺よりとんでもなく長く生きているんだから。俺以外のお嫁さんがいたって、そんなの、仕方がないじゃないか……

「サトルちゃん?」

「サトル? どうしたんだ?」

 まただ……また、彼等に心配させてしまっている。

 笑っていて欲しいのに。こんな顔、させたくないのに。でも……

「嫌だ……ごめんなさい、どうしよう、俺……昔の話なのに、もう終わったことなのに……二人に、俺以外のお嫁さんが居たの……スゴく嫌だ……」

 その人は、俺以上に彼等から愛されていたのかもしれない。俺の知らない二人を……知っているのかもしれない。

 そう思うと胸にどす黒い何かがこびりついてきて……こんなの、知らない……知りたくもない。

 ぐるぐるして、気持ち悪くて、苦しくて……こんな気持ち……

「……もしかして、嫉妬してくれてるの?」

 ぽつりと溢れたソウの一言に、何故か身体中の熱が顔に集まったみたいに熱くなっていく。思わず両手で覆い隠してしまった。

「サトルが、俺達に……可愛いな……」

「……ねぇ、ちゃんと顔見せて?」

 初めて聞く甘ったるい声に、顔だけじゃなくて目頭まで熱くなる。

 こんな時にまで泣きそうになることも、知りたくなかったんだけど! 今は悲しくも、嬉しくもないのに!

「俺達がして欲しいこと、何でもしてくれるんだよね?」

 そう耳元で優しく囁かれて、背筋に不思議な感覚が走った。

 強請られるままに手をどけると、蕩けるような笑みを浮かべた二人と目が合う。金色の瞳が俺を映した途端、胸の奥できゅんって音が鳴ったような、そんな気がした。

「顔、苺みたいに真っ赤だね……」

「こんなに瞳を潤ませて……堪らないな……」

 赤い手が俺の頬を、青い指が俺の目尻をそっと撫でる。

 何でだろう……いつもしてもらってることと変わらないはずなのに。

 心臓が、おかしくなってしまったみたいにドキドキしてしまう。二人に触れられる部分がどんどん熱を持って、ジンジンしてきてしまう。

「セイ……ソウ……」

 そのせいだ。情けないような、変に上ずったような声で二人に助けを求めてしまった。

 凄い音と共に、二人が床に吸い込まれるみたいに頭から倒れ込む。

 衝撃に驚いた蜥蜴達が一斉に飛び上がって、頭に乗せていた宝玉が床の上に飛び散る。そのうちの一つがコロコロと進んで、ソウの黒い角にこつんと当たって止まった。

「……俺、今だけはサトルちゃんをこの世に生み出してくれたアイツに感謝するよ」

「……俺もだ……今度メロンをたくさん贈ろう。奴の好物だったからな」

 ゆらりと起き上がった二人が、互いに肩を寄せ合いながらうんうんと頷く。俺達の足元を忙しなく蜥蜴達が駆け回って、散らばってしまった宝玉を必死にかき集めていた。

 ……色んな事が起きすぎて、頭がついていかない。

 さっきの、全身が妙に熱くなるような、ウズウズするような変な感じも、いつの間にかなくなってしまっている。ちょっと寂しいような、残念な気がするのはどうしてだろう?

 すっかり大人しくなった胸に手を当てていると、スベスベしたものが腰に巻きついてきた。ふわりといつもみたいに身体が浮いて、赤い腕の中に閉じ込められる。

 青い腕が伸びてきて、俺の頭をぽんぽんと優しく撫でてくれた。

「誤解してるみたいだから言っておくけど。俺達、サトルちゃん以外のお嫁さん、貰ったことないよ?」

「今までこちらに来てしまった人間達は皆、バレないように別の安全な街や村へと、送ってやってたからな」

「じゃあ、俺が二人の……初めてのお嫁さんなの?」

 穏やかな、優しい眼差しを向けられて背中の辺りがむずむずしてしまう。同時に頷いた彼等から左右の頬にキスを贈られて、また顔が熱くなった。
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