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教えて欲しいんだ、二人にとって立派なお嫁さんになりたいから

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 何枚もの肉が重なったフォークが、俺の前に差し出される。どれも程よく脂が乗っていて美味しそうだ。

「はい、あーんして?」

 真似をしてくれと言うように、ソウが自分の口を開いて俺に指し示す。彼に倣って大きく口を開けると、フォークの先端がゆっくり口の中に入ってきた。

 口を閉じて肉の層を噛み締める。溢れる肉汁と広がる旨味に、勝手に頬が緩んでしまう。

「ふふ、美味しい?」

 調子に乗って、全部頬張ってしまったせいだ。期待に輝く瞳に応えることが出来ない。代わりに何度も頷くと、今度は赤くて半透明なぷるぷるがたっぷり盛られたスプーンが差し出された。

 確か、二人が苺のゼリーだよって教えてくれたやつだ。果汁を絞って、ぜらちんで固めたとかなんとか言ってたっけ。

「こら、ソウ」

 咎めるような低い声が右から聞こえて、大きく青い手が俺の頭を優しく撫でてくれる。セイの手だ。

「次は、俺が食べさせるんだからな」

 そう言って、一口では到底入りきれない大きさにちぎられたパンを、俺の口元へと運んでくる。まぁ、元の大きさが俺の顔より一回りも大きいから、仕方ないんだろうけどさ。

 それにしても、てっきり止めてくれるもんだとばかり思っていたのに。

 口を必死に動かしながらそっと見上げると、わくわくを隠しきれていない彼と目が合う。これは……なんとしてでも、期待に応えなければ。

 急いで口の中身を飲み込んでから、青い指が摘まんでいるパンの塊に噛みついた。もちもちとした食感を楽しんでいると、すかさず先程のゼリーを乗せたスプーンが目の前にやってくる。

 忙しい、口がもう一つ欲しいくらいだ。

 ついこの前までは、食べるものが無くて困ってたってのに。今は食べきれなくて困ってるなんて、贅沢過ぎる悩みだな、本当に。

 何だか無性に可笑しくなって口元を押さえていると、二色の手に背中をゆるゆるとさすられる。

「大丈夫? もしかして、むせちゃった?」

「お茶飲むか? ごめんな、美味しそうにご飯を頬張る君が可愛くてつい……」

 彼等の瞳が心配そうに細められる。赤と青の蜥蜴達が慌てた様子で、大きなガラスのコップに並々と注がれた水やお茶を、頭のお盆に乗せて運んできてくれた。

 青い腕がそれらを受け取ると、ストローがささったジュースのコップをどけて、次々と俺の前に並べていく。取り敢えず昨日飲んでみて美味しかった麦茶をもらってから、残っていたパンの欠片を流し込んだ。

「ありがとう。考え事してたら、ちょっと笑っちゃいそうになってさ。ごめんね心配かけて」

 曇っていた二人の表情が、ぱあっと晴れやかになってホッと胸を撫で下ろす。二本の腕が伸びてきて、俺の頭を優しく撫で回してくれた。

「そうか、良かった……とはいえ、少し俺達がやり過ぎたのは事実だからな」

「そうだねーこれからは、ちゃんとサトルちゃんが食べやすいように量を調整しなきゃね!」

 そう言って、真剣な目を料理の乗った皿へと向ける。これくらいでいいかな? いや、もっと少な目の方が……とフォークやスプーンを用いながら、二人でなにやら盛り上がり始めてしまった。

 結局、俺にあーんするのは止めないんだな。別に嫌じゃないし、どちらかといえば嬉しいのだけれど。

 ただ、何だか子供扱いされているような気がして少し、いや大分恥ずかしいんだよね。

 ふと、控え目な鳴き声が耳に届く。目線を下ろすと、つぶらな黄色い瞳とかち合った。

 先程、飲み物を運んでくれた子達だろう。珍しく俺のすぐ側で、そわそわと小さな身体を揺らしながらじっと俺を見つめている。

「いつも、ありがとう。さっきは助かったよ」

 もう大丈夫? と尋ねているみたいに不安げに、首を傾げていた蜥蜴達の頭を順番に撫でていく。嬉しそうな高めの鳴き声を上げてから、部屋の端の方へと向かい、再び綺麗に整列し始めた。

 ご機嫌そうに尻尾を振って下がっていく蜥蜴達に手を振っていると、胸と腰の辺りに何かがしゅるりと巻きついた。尻尾だ、セイとソウの。

 気づいた時には軽々と俺の身体を抱き上げてから、二色の腕の中へとそっと下ろされる。両肩に重みを感じたかと思うと二人同時に左右から、頬をむぎゅっと押し付けられた。

「ズルいよ……俺達、まだ君に撫で撫でしてもらったことないのに……」

「サトルの初めてが……俺達以外のものに奪われてしまった……」

 ちょっと頭撫でたくらいで大げさ過ぎない!?

 二人してそんな、この世の終わりみたいな暗い声出さないでよ! ほら、蜥蜴達が痙攣してるみたいにめっちゃプルプル震えてるじゃん!

 いや、元はといえば俺のせいなんだけどさぁ……

 今にも泣き出しそうな彼等の頭を抱き締めて、金糸の様なサラサラした髪の毛にそっと触れる。

 さっきあの子達を撫でた時は、何ともなかったのに。どうしてだろう……寒くもないのに指先が勝手に震えてしまう。

 静かに呼吸を整えてから左手でセイの頭を、右手でソウの頭を優しく撫でた。

「ごめんね、俺、家族とか友達とか……ましてや恋人なんていたこと無くて……そういう人が出来るなんて思ってもみなかったからさ」

 どう、接するのが正解なのか。

 どうしたら、二人が喜んでくれるのかよく分からない。

「だから、俺に教えてくれないかな? 二人が俺にして欲しいことを……」

 黙ったまま、俺の言葉に耳を傾けている彼等の頭を、その形を確認するように指でなぞる。

 慣れてきたのかな。何だか楽しくなってきちゃったや。少しだけ、二人が俺を撫でまくる気持ちが分かったかも。

「俺が出来ることなら何でもするし、あげられるものは全部二人にあげたいんだ。セイとソウが大好きだから」

 部屋が静まりかえっているせいだろうか。心臓がまるで耳元にあるみたいにバクバクと煩い。

 筋肉質の腕が俺をそっと引き離す。セイの左足とソウの右足の太股を、丁度跨ぐように座らされた。二人とも俯いてしまっているから表情が分からなくて、不安で胸が潰れそうになる。

 どうしよう、俺……変なこと言っちゃったのかな?

「……何この子、可愛すぎて直視出来ないんだけど」

「危険だ……心臓がいくつあっても足りないぞ」

 赤い掌で顔を覆いながら、喉から絞り出すような声でソウが呟く。指の隙間からちらちらと金色の瞳が覗いていて、目が合っては何故か逸らされてしまう。セイはセイで胸を押さえたまま悶えてるし。

 二人ともどうしちゃったんだろう? もしかして、俺の撫で方が足りなかったのかな。

 そう思って左手でセイの頭を、右手でソウの頭を撫で回していたら。真っ赤になった二人から、凄い勢いで抱き締められてしまった。

 俺にして欲しいことは焦らなくても少しずつ、二人が手取り足取り教えてくれると約束してくれた。

 二人が言うには「徐々にやっていかないと刺激が強すぎる」とか「理性がもたない」とか。俺にはよく分からなかったけど……ゆっくりでいいから彼等に喜んでもらえるような。胸を張って、セイとソウのお嫁さんだって言える日が来るように頑張ろうと、そう思った。
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