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第一章 気まぐれな白き虎

016話 動くオブジェ

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 無事モフモフを堪能した優はその後ジンさんと合流し、一旦家に帰ることにした。振り向けば城塞都市クラークの南門が夕暮れの中にきらきらと輝いている。

「濃い1日だったね」

「まったくだな。久々に大技を披露したから筋肉痛だわ」

 ジンは右腕を摩りトボトボと歩く。

「帰ったらマッサージをしてやろう」

「マジで?」

「マジで」

 優は(家族間で)神の癒し手と呼ばれるほどの超絶技巧の按摩術を会得している。その後優のマッサージを受けたジンは「天国を見た」と錯覚したとかなんとか。

 優達はクラークに赴く際森を少し開拓し獣道のような細道を作っておいた。
 細道を抜けた先には我が家【大精霊の宿木亭】があるのだが……

「なぁ、アレってまさか?」

「平和公園にあったやつだよね?」

 宿木亭の前に見覚えのある巨大な白猫のオブジェが鎮座していた。上空から降って来たのか地面が陥没している。

「そういえば瘴気が噴出した際どっかに吹き飛ばされてたね」

「なんで無傷なんだよ?」

 そうなんだよね。
 ここまで飛ばされたとして傷ひとつないのは明らかにおかし過ぎる。

 ガタッ!

「あっ!今動いた!」

 ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ!

「バイブレーション機能搭載だと!?」

「いや……あれ明らかに自我ありそうだぞ?」

 優達は恐る恐るオブジェへと近づき胴体へ触れてみる。「あばばばばば」と優も震えてしまったが胴体からはほのかに温もりを感じることができた。

「もしかしてこのオブジェも石化してるんじゃない?」

「んなバカな!」とジンさんは否定的だったが優の勘は告げている。新たなモフの予感と。

 優はすかさず《浄化》の魔法をオブジェにかけた。淡い光がオブジェを包み込むとみるみるうちにオブジェの本来の姿を取り戻していく。

 サラサラな毛並み。
 真っ黒な瞳。
 大きな肉球。

 優の目の前には大きな白猫……ではなく白虎と思われる大きな獣が佇んでいた。

 『ほう。貴様が我に《浄化》をかけてくれたのか?』

 優の勘は当たっていた。先程までの可愛らしい白猫のオブジェが威圧感満載の白虎へと姿を変えたのだ。

「その通りです」

『ふむ、小さき精霊よ。感謝するぞ』

 白虎は優を見下ろす形で頭を下げる。パクッとされちゃうんじゃないかとビビってた優は意外にも礼儀正しい白虎に好感を持った。そしてこれはチャンスなのではとも思っていた。

「あのう……良ければなんですが看板猫にご興味はありますか?」

 当時考えていた看板犬ならぬ看板猫について思い出した優はここぞとばかり勧誘を試みる。もちろん、看板猫に関する説明をしたが要はうちのペットにならないかと言う相談である。

『この聖獣であるカイゲツに貴様のペットになれと申すか?』

 あれ~?
 なんか空気悪い?
 なんかめちゃくちゃ睨まれてるんだけど?

 そこでジンは優にそっと耳打ちをする。

 (オイ!聖獣をペットって正気か?すぐ謝れー!)

 もしかして僕は知らずうちに虎の尾を踏んでしまったのか?……白虎だけに。

 優はこの場を乗り切ろうと思考を巡らすがモフモフが頭から離れない。どうにかして目の前の白虎……カイゲツさんをモフり、猫吸いをしたい。

『おい貴様!』

「こうなったらモフって死ぬぜ!」

 優は覚悟を決めカイゲツの腹にダイレクトアタック(体当たり)をかまして思う存分モフった。

『き、貴様何を?!……』

 しかし、ただモフるだけじゃあダメだ。【超絶技巧按摩術四十七の秘奥】を絶え間なく繰り出し懐柔作戦に移行する。前世ではコレを食らった人間や動物は皆一様に優の奴隷となっていた。優は中学生の頃コレでお小遣いを稼いだり他所のペットを懐柔していたのだ。

 数時間後石化の影響で凝り固まったカイゲツの肉体は優の【超絶技巧按摩術四十七の秘奥】により解きほぐれ今ではバターの様にとろけていた。

 そしてカイゲツは『ペットになりまひゅ……』と先程までの威厳がどこへやらと気の抜けた言葉を漏らす。

 ふっ。
 堕ちたな。

 

 
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