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第一章 気まぐれな白き虎

06話 唐揚げ定食

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 家庭料理の定番といえばそう唐揚げである。優の大好物の一つにして最も得意な料理が唐揚げだ。

「明日の分も漬けて置いたけど今日中には無くなりそうだな」

 あらかじめもも肉を明日用にと多めに自家製だれに漬けて置いたのが功を奏した。四人前なら余裕で作れる。ちょびっと悲しくはあるが仕方ない。

 優は早速調理を開始する。

 因みに下味はとてもシンプルに、すりおろしニンニク、すりおろし生姜、塩こしょう、しょうゆ、酒、そして我が家ではマヨネーズを入れている。マヨネーズを加えることで味がマイルドになり、よりジューシーに仕上がるからだ。

 サックリとした食感にするために片栗粉と小麦粉で衣を作り、お肉を衣の上でさっと転がすようにまぶす。そして、170度まで温められた油に投入し、茶色く焼き色がつくまで揚げたら、一旦取り出して3分ほどバットの上で休ませる。油の温度を190度前後まで上がったら休ませた唐揚げを再度油で揚げるいわゆる二度揚げという奴だ。こんがりときつね色に、カラッと揚がれば唐揚げの完成である。

「ふむ、今日も綺麗に揚がったぜ」
 
 僕のテンションはいまだに上がり続けてるがね。

 千切りキャベツとマヨネーズ、唐揚げを皿に盛り付けご飯と豆腐の味噌汁をお盆の上に置いたら唐揚げ定食の完成だ。

「配膳がめんどくさいな」

 そこで優は考えた。自身が転移できるならその他のものでも転移が可能なのではと。

 結果、読みは当たり水の入ったコップが無事転移することができたため唐揚げ定食を宴会場大広間へと転移させた。

「17:30か少し早く作り過ぎたかな?」

 当時の18:00より早めだが優は皆んなを宴会場大広間へ来るよう呼びかけた。そして最初に到着したのは、ずっとフロント脇にスタンバッてた魔人、ジン・オルカだ。匂いに釣られ見に来たらしい。

その後、ジンに続いて二人組がやって来た。

「すごい良い匂い」

「腹が減った……」

 二人は腹を鳴らし自分たちの席へと着く。

「それじゃあ食べようか。いただきまぁす!」

 優とジンは箸を取りその他二人組の人はフォークを取る。ジンさん曰く箸は風の国でよく使うからということで箸の扱い方をマスターしたらしい。朝食の時も思ったけど持ち方がとても綺麗だ。

 カラッとした触感が箸に伝わり優の期待は高まる。だが慌ててはならない。まず、味噌汁で箸を湿らせ喉を潤し気持ちを鎮める。

 そしていざ、優は唐揚げを口に頬張った。

 うん、上手い。期待以上だ。衣はサクッとして中は肉汁で溢れ出す。プリッとした肉感がたまらなく良い。流石は僕だ。

 唐揚げの旨さに心の中で自画自賛する優だがふとあることに気がつく。

「皆さんどうかしましたか?」

 皆、唐揚げを一口食べた後何故か硬直している。

「ハッ!美味過ぎて意識が飛びかけただと?!」

 最初に動き出したのはジンさんだった。てか流石に言い過ぎでは?

「肉ってこんな柔らかいのか?」

「それにこの食欲を掻き立てる味付け、初めてだわ」

 二人も動き出し、唐揚げの旨さに感動していた。
 こいつらかなり重症だ。

「おかわりはまだありますからね」

 それを聞いた3人は食べるスピードを上げた。しかし、もっと味わうべきだと適正のスピードでテキパキとフォークと箸を進める。

 全員が食べ終わり、おかわりの催促を受けた優は指をパチンと鳴らし台所にある唐揚げと白米をそれぞれの皿に転移させた。

 その光景を見た全員は一瞬驚きはしたが食欲には抗えず黙々と食べ始める。

「この白いソースがまた唐揚げとよく合う」

 ジンさんはどうやらマヨラーのようだ。唐揚げにべっちょりとつけちゃって……最早マヨネーズが主役になっちゃってる。

「それはマヨネーズって言います」

「マヨネーズか……素晴らしい」

 僕のせいで豚さんになったらどうしよう。あの顔はマヨネーズに堕ちた顔だ。

「ジンさんはお子ちゃまです。やっぱり唐揚げにはレモンが一番合います」

 それを聞いたジンはフッと笑う。

「昨日生まれた大精霊様にお子ちゃまって言われたぜ」

 む?今揶揄われたのかな?後でツノを揉みしだいてやる。

「この茶色のスープ……味噌汁って言ったっけ?これもすごく優しい味わいで上手いな」

 二人組の片割れである男性の方はなんと味噌汁がお好みらしい。

「そうね。クラウトもシャッキリとしていてこのマヨネーズにとても合う」

 クラウトってキャベツのことかな?女性は野菜が好き なんだね。

 その後、満足したのかおかわりの催促は無くなり全員は食事を終えた。

「そうだ、自己紹介がまだだったよな」

 男は腹をさすりながら口を開いた。この人もジンさん並みに食ってたからな。……吐くなよ

「そうだね。二人の事情に関してはある程度ジンさんから聞いたよ。僕はお家の大精霊の優って言います。因みにこの【大精霊の宿木亭】は僕のマイホームです。なので旅館のような内装や見た目だけど運営とかお金をもらって経営してるわけじゃないんで宿泊料は貰いません」

「宿屋じゃないってことね。でも、なんだか勿体無いわね」

 女性は「こんな素敵な旅館なのに」と呟く。

「まぁ、流石に今後宿泊者が増えるようならお金は貰うようにするけどね。それじゃあ、お次は二人の番だよ」

 優がそう言うとまず男性の方から自己紹介が始まった。

「俺はカイン・クラーク。ギルド暁の星所属のAランク冒険者だ。種族はハイヒューマンで長剣士だ」

 トップギルドのAランクってことはかなり強いってことだよね。確かにガタイが良い。脳筋タイプと見た。

「私はフラン・コールソン。カインと同じギルド暁の星所属のAランク冒険者よ。種族はハイヒューマンで聖魔導師をしてるわ」

 ふむ、白い聖堂服を着てるから何処かの教会のシスターに見えるな。この人もすごい冒険者なのだろう。

 「二人はパーティーを組んでるんじゃないの?」

「人数条件が最低2名のクエストだったからカインに手伝ってもらったのよ」

 そうなんだ。二人は仲が良いのかな?

「結局俺がフランの足を引っ張っちまったがな。くそ!情けねー」

「アレは私が気を抜いていたからよ。最後まで探知魔法を継続していたらもう1匹のキングボアに気づけていたもの」

 ……仲は良さそうだな。

「そういえば、キングボアを素手で仕留めたあんたは一体何者なんだ?」

 話はジンさんに振られた。

「ん?おれか?俺は……」

「ただのヒモ男です」

「おい?!」

「どうせ、「ただの旅人です」とか正体はぐらかすんだからヒモ男でも良いでしょ?」

「正体はぐらかすとか言っちゃダメなやつ言っちゃってんじゃん?!」

「訳ありなんだな」

「ほら、カイン君に怪しまれてるよ?誤解されてるじゃん。俺は良い魔人さんだからね?」

 あたふたしてるところがさらに怪しさを増してるのが分かっているのだろうか。ジンさんは称賛されるのは嫌だが世間体は気にするタイプみたいだな。

「ジンさんは私たちの命の恩人。良い魔人さんなのは分かっていますよ」

「あぁ、その通りだ。それにジンさんとユウさんのやりとりを見てれば悪い人だなんて思えねーよ」

「良かったですね。誤解が解けましたよ」

「お前が話をややこしくしたんだからな?」

 「全く」と言ってジンは優のほっぺたをムニムニと引っ張り懲らしめる。むー!

「ふふ。本当に仲が良いですね」

「お前さんらは今後どうするんだ?」

 ジンはムニムニを辞め二人の今後の動きを聞き出す。

「明日にはクラークに戻ろうかと思います」

「そうだな。ギルマスに心配はかけられないしな。それとキングボアについてなんだが……」

「キングボアのことなら気にしなくて良いぞ。素材は全て譲る。その代わり無闇矢鱈にこの旅館については言いふらさないようにな。変な輩が噂を聞きつけ此処に来られたらユウが可哀想だ」

 ムニムニは酷いけどジンさんの心遣いはすごく嬉しい。確かに変な人が来たら少しヤダ。

「わかったよ。それでも二人は俺たちの命の恩人に変わりはない。微力ではあるが何か困ったことがあれば必ず力になる」

 微力って言うけどすごい心強い。トップギルドのAランク冒険者二人の力を借りれるだなんてすごいことだと思う。

「ありがとう。二人ならいつでも泊まりに来てくれて良いからね」

「「本当に!?」」

「うん。二人は良い人そうだしいつでも歓迎するよ」

 二人ば破顔しとても喜んだ。またあの料理が食べれることを想像して。

 そこで、優はふと時計に視線を移すともう既に19時を回っていることに気がついた。

「もうこんな時間か。三人はもうお風呂を済ませましたか?」

 それを聞いた3人は首を傾ける。

 ……嫌な予感

「此処には風呂があるのか?」

 最初に聞いて来たのはジンさんだ。

「ありますけど。他の宿屋にはないんですか?」

「ないな。風呂があるのは貴族の屋敷か、教会、たまに見かける大衆浴場だけだな」

「普段はどうしてるんですか」

「湿らせたタオルで体を拭くか近場の井戸か川で水浴びをするな」

 フランさんは冒険者兼教会に勤めているとのことで毎日お風呂に入っているらしい。

 もしかしてお風呂の大精霊さんはお生まれで無い?そんなバカな!いや、居るはずだ。探せば何処かに居るはず。

「今すぐお風呂に入ってください」

 フランさんは問題ないかもしれないけど男どもはアウトだ。早く入れ!

 その後、温泉の快楽を知った三人は【大精霊の宿木亭】の常連として名を連ねるのであった。

 
 
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