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6話

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 †

 それから、一日、二日、三日と毎日のようにカレンがゼフィールに付き纏い、初めこそ鬱陶しがっていたものの、流石に諦めたのか。
 カレンがゼフィールに付き纏いながら王城で暮らすようになって三週間ほど経過したある日、王城に位置するとある私室にて舌打ち混じりに会話をする声があった。


「────実に、鬱陶しい。そうは思いませんか、ハーヴェン公爵閣下」


 ノールド王国には、四大公爵と呼ばれる四つの公爵家が存在する。
 うち一つは、カレンの生家であるルシアータ公爵家。そして、クヴァルが当主を務めるバレンシアード公爵家。
 そして、ハーヴェン公爵家と、ルシェル公爵家。それら四つの家を一纏めにして、四大公爵家と呼ばれていた。

 この場には、その四大公爵家の一つに数えられるハーヴェン公爵家の当主と、その子飼いである貴族家の人間、あわせて五名が同席していた。

「確かに、〝魔法使い〟は有用な存在ではあります。ですがそれは、〝兵器〟としての話。バレンシアード公爵は何を考えているのやら。……彼はゼフィール殿下を本気で後継に据えようと考えているのでしょうか」

 続けられた貴族達の言葉に、ハーヴェン公爵閣下と呼ばれた緑髪の初老の男性は「まさか」と言うように余裕に満ちた笑みを浮かべる。

「流石にバレンシアード公爵とはいえ、そこまで阿呆ではなかろう……と、言いたいところだが、彼の実子も確か〝魔法使い〟であったか」

 ノヴァ・バレンシアード。

 それは八年後、ゼフィールと犬猿の仲となっていた魔法使いの名前であり、バレンシアード公爵家当主となる人物。

「……まさか、ゼフィール殿下の地位を確固たるものにする事で、実子の立場も向上させるおつもりか……!!」
「あり得ない話ではなかろうて」

 バレンシアード公爵には、ゼフィールを庇う動機がある。
 ゼフィールの地位が向上する事で誰が一番得をするのか。
 それは、間違いなくバレンシアード公爵であった。

「だが、それはあってはならない事よ。そうならない為に、儂は十五年前のあの日より準備をしてきたのだ。あの事件を引き起こしたのだ。今更、今更、それが覆されるなど、あってはならん……!! 魔法使いは、〝兵器〟であって人間ではないのだ……!!」

 憎しみと、悲壮と、怒りと────負の感情が詰め込まれたハーヴェン公爵の言葉に、居合わせた貴族達は射竦められたように口を真一文字に引き結んだ。

 ハーヴェン公爵が語る十五年前に起きた事件によって、現王妃は当時、公爵位を賜っていた一人の男────実に兄に殺され掛けている。

 魔法使いの暴走。

 理性を無くした魔法使いによって、甚大な被害が齎されたその事件の傷痕は今も尚、残っている。

 だがそれは、魔法使いに恨みを持つ一人の男によって意図的に引き起こされたものであった。

「……しかし、魔法使いでもあるゼフィール王子殿下はルシアータ公爵家と縁を結びました」
「そんなもの、バレンシアード公爵が勝手に推し進めただけの張りぼてよ。あやつが失脚すれば、即座に白紙に戻ろうて」
「ですが、積極的に地盤固めを行っているバレンシアード公爵の失脚など見込めますかね……」
「真っ当な手段では無理であろうな。が、あくまでそれは真っ当な、、、、手段をとった場合よ。手段を選ばなければ、やりようなど幾らでもあるわい」
「手段を選ばなければ、ですか」
「そうよのう。例えば……彼が目を掛けているゼフィール王子殿下が十五年前と同様、暴走を起こしたとすれば……どうであろうか」

 その場に居合わせた人間全てが、ごくりと唾を嚥下する。

「魔法使いであるゼフィール王子殿下を擁護する立場であったバレンシアード公爵は間違いなく失脚する上、後継者が魔法使いしかいないバレンシアード公爵家は、そのまま取り潰しになるやもしれんなあ? くふふ、ふふふはは、はははははは!!」

 悪辣な奸計を口にするハーヴェン公爵は、ニヒルに口角を歪めながら、懐から妖しく輝く小さな鉱石を取り出してそれを手の上で転がし嗤った。
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