前世聖女の私は、追い出された先で日々を謳歌する!〜どうやら私が聖女だったようですが、今更実家に戻る気はありませんので!〜

アルト

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一話

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 それは偶然だった。
 偶然にも、様々な事情が重なってしまったが為に起きてしまったアクシデント。

 偶々、その日に行われていた『聖女選定』にて、私ではなく、両親の愛を一身に受けた妹が選ばれ、私が選ばれなかった事。

 そして、やはりお前は不出来な姉であると両親からいつものように蔑まれ、ならばと魔物が蔓延る僻地、ランドブルグ辺境伯の当主に嫁いでこいと強引に政略結婚を押し付けられ、精神的に不安定であった事。

 更に、私が通ろうとしていた道が磨いたばかりで普段よりも滑りやすくなっていた事。

 それらが偶然にも重なってしまった事により、

「ふべっ」

 私は前につんのめるようにバランスを崩し、盛大に頭から床にダイブした。
 そして、そのまま階段からずっこけた。

 転げた拍子に頭でも打ったのだろう。
 鈍痛に表情を歪める羽目になった私であったけど、そんな時、何故か私は前世の記憶を思い出した。

 それは、『聖女』と呼ばれていた女性の記憶。
 溢れる魔物を『聖女』の力を用いて仲間の者と共に討ち倒す姿が脳裏にありありと蘇る。

 次いで、かつての人格と、記憶と、今の人格。そして記憶が重なり合い、同化。
 やがて、精神的に不安定でしかなかった筈の私の心境が落ち着きを取り戻し、己が置かれた現実を俯瞰。

 するとつい先程までは欠片すら見えなかった筈の事実が見えてくる。その現実を前に、私は身体を苛む痛みすら忘れてつぶやいた。

「……聖女選定って、これただの茶番じゃない?」

 『聖女』に選ばれた者には、国の王太子と婚約をする義務が生じる事になっている。
 今回の聖女選定は、その義務を逆手に取り、人形のように綺麗な容姿であるからと散々甘やかされて育った妹と王太子が婚約したいだけのただの茶番であったのだ。

 魔力値。『聖女』の適性。
 そんなものはお構いなしに、これは、ただただ王太子が生家の爵位からして周囲から反対が出るやもしれない妹と是が非でも婚約したかったが為の茶番であり、そこに私の両親の思惑も入り込み、出来上がったのが今回の出来レース。

 落ち込む必要が何処にあるのだと、先程までの自分を問い質してやりたかった。

「————で、私はランドブルグ辺境伯に嫁いでこい、と」

 『聖女選定』の儀は一応、それなりに保有魔力が高い人間を集めた上での出来レースであった。
 そして、偶然にもそこに私も入っていた為、『聖女』には選ばれなかったけど、魔力値が高いなら、魔法も使えるだろうし、魔物が溢れるランドブルグ辺境伯に嫁いでこい。
 話は既にまとめてあるから。

 と、言う事らしい。

 『聖女選定』の儀が終わったその日に言ってくるあたり、前々から絶対にお前ら話進めてただろ。そこはせめて出来レースじゃなかったって否定する為にも数日はあけて言えよ。

 などなど、言いたい事は沢山、それこそ山のようにあったが、己を散々適当に扱い、虐げてくれた家を出れるなら万々歳ではなかろうか。

 そんな事を思いながら、私は階段から転げ落ちた状態のまま、プラスに考える事にした。

 そしてそこには、神に愛されたとしか言いようがない美貌を持って生まれた妹と比べられ続けた事により両親から虐げられ続けていた儚い少女の姿はなかった。

 一縷の望みを胸に、『聖女』に選ばれて両親からの期待に応えたい。そう願っていたにもかかわらずその祈りは届かず、茫然自失となっていた筈のルナ・メフィストは何処にもいなかった。
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