お飾りの婚約者だった私が王子殿下に愛される事になったワケ

アルト

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四話

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 †

「……どこにもいないんだけど」

 それから一夜明けた翌日。
 今日がお披露目パーティーという事もあり、朝から続々と多くの貴族家当主達が城へとやって来る。
 不幸中の幸いは、私が婚約者になった事がまだ、伝えられていないようで、注目を浴びずに済んだ事だろうか。

 ただ、部屋に避難していていいのか。
 はまたま、挨拶する為に部屋から出てた方がいいのか。
 その疑問を解消する為に私は朝からレイを探していたのだが、部屋を訪ねた時、既にレイは部屋を後にしていた。
 食堂をはじめとした場所を巡ってはみたものの、やはり見つからない。
 もしや、多くの貴族を出迎えているのかと思えば、勿論そこにもいなかった。
 一体どこで何をしているのだろうか。

 半ば諦めに似た感情を抱きながら、私は溜息を吐いた。

「今回のパーティーの主役でしょうに、一体何をしているんだか」

 もちろん、行き先は私に告げられていない。
 お飾りなのだし、別に伝えなくてもいいと思われたのだろう。

 ……よし。何かを言われたらレイのせいにしよう。
 私は最低限、レイを探して指示を仰ごうと試みたし、責められる事はないだろう。
 お飾りの婚約者である私が、下手な事をするべきではないと思いました。
 この言い訳で問題ない。

 そうと決まれば、部屋に閉じこもって避難しておこう。
 そう決めた時だった。

「あぁっ。やっと見つけました。メル・ミレニアム殿」

 背後から声が聞こえた。
 漸く出会えたという安堵の色が込められたその発言は、間違いなく私に向けられたものだった。

 振り返ると、そこには紺色の髪を持った貴族然とした男性がいた。
 でも、私の知らない人物。
 にもかかわらず、どうして彼は私の名前を知っているのだろうか。

「殿下の婚約者である貴女に、お願いしたい事がありまして」

 城に赴いている貴族の大半が知らないであろう情報。
 つまり目の前の彼は、元々城にいた人間で、レイから私を婚約者として指名したと聞かされている人間という事になる。

「お願い、ですか」
「殿下を、城へ連れ戻しに向かっていただけませんか」

 話が全く見えてこなかった。
 レイを連れ戻す、とは一体どういう事なのだろうか。

「……多くの来賓の貴族方がお越しになられる中、やはり殿下が不在というのは、その、色々とまずいのです」
「それは分かりますけど、私にも肝心の殿下の居場所が」

 分からないからどうしようもない。

 私がそう告げようとしたところで、彼は紙のようなものを差し出してきた。

「……えっ、と、これは?」
「恐らく殿下は、この霊園にいらっしゃると思うのです」

 どうしてそんな場所にいるのか。
 一瞬疑問に浮かぶけれど、霊園に向かう理由なぞ一つしかない。

 同時、居場所を知ってるなら私を探す前に自分達で連れ戻したら良いじゃないかと思わずにはいられなかった。

「我々は、その、殿下に避けられている……といいますか」

 私の視線から言いたい事を感じ取ったのか。
 目を逸らしながら彼は言い辛そうに教えてくれる。

 少なくとも、第一王子派と呼ばれていた者達と、第二王子派だった人間達の事をレイは毛嫌いしている事だろう。
 それに関係が少なからずある貴族も、また。
 となると、レイが嫌っていない貴族家など片手で事足りるほどしかいないかもしれない。

 ……成る程。
 だから私がレイを連れ戻す役目をこうして押しつけられようとしているのか。
 でも。

「にしても、こんな天候の中で霊園ですか」

 外は雨音が小さく響いている。
 勢いは緩やかではあるが、外に出るには適さない天候であった。

 余程に大切な人だったのだろう。
 レイの義理堅さというか。
 真っ直ぐな性格をしている事は私も知るところだったので、次第にレイらしいかと納得出来てしまう。

 何というか、一度決めた事はやり通す性格のレイはたまに周りが見えなくなる事がある。
 他の貴族の人だと不機嫌になるっぽいし、それだと折角のお披露目パーティーがぶち壊し。
 だから、出来る限り当たり障りのない私を選んだ、という事か。

「でも、分かりました。そういう事なら、私が殿下を連れ戻してきます」

 その霊園までは少し遠くはあるけど、元々他にやる事もない。
 貴族とあまり関わりたくない思考の私としてはむしろ望むところでもあった。

 そんな訳で、私はレイを城に連れ戻すべく霊園へと向かう事にした。

「……これで良いんですよね」

 にしても、誰のお墓参りなのだろうか。
 王族だとすれば、国王陛下も同行してるだろうし、そうでないあたり、レイの個人的な付き合いがあった人……?

 そんな考え事をしていたせいで、先の貴族の男性の呟きに私が気付く事はなかった。
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