4 / 7
四話
しおりを挟む
†
「……どこにもいないんだけど」
それから一夜明けた翌日。
今日がお披露目パーティーという事もあり、朝から続々と多くの貴族家当主達が城へとやって来る。
不幸中の幸いは、私が婚約者になった事がまだ、伝えられていないようで、注目を浴びずに済んだ事だろうか。
ただ、部屋に避難していていいのか。
はまたま、挨拶する為に部屋から出てた方がいいのか。
その疑問を解消する為に私は朝からレイを探していたのだが、部屋を訪ねた時、既にレイは部屋を後にしていた。
食堂をはじめとした場所を巡ってはみたものの、やはり見つからない。
もしや、多くの貴族を出迎えているのかと思えば、勿論そこにもいなかった。
一体どこで何をしているのだろうか。
半ば諦めに似た感情を抱きながら、私は溜息を吐いた。
「今回のパーティーの主役でしょうに、一体何をしているんだか」
もちろん、行き先は私に告げられていない。
お飾りなのだし、別に伝えなくてもいいと思われたのだろう。
……よし。何かを言われたらレイのせいにしよう。
私は最低限、レイを探して指示を仰ごうと試みたし、責められる事はないだろう。
お飾りの婚約者である私が、下手な事をするべきではないと思いました。
この言い訳で問題ない。
そうと決まれば、部屋に閉じこもって避難しておこう。
そう決めた時だった。
「あぁっ。やっと見つけました。メル・ミレニアム殿」
背後から声が聞こえた。
漸く出会えたという安堵の色が込められたその発言は、間違いなく私に向けられたものだった。
振り返ると、そこには紺色の髪を持った貴族然とした男性がいた。
でも、私の知らない人物。
にもかかわらず、どうして彼は私の名前を知っているのだろうか。
「殿下の婚約者である貴女に、お願いしたい事がありまして」
城に赴いている貴族の大半が知らないであろう情報。
つまり目の前の彼は、元々城にいた人間で、レイから私を婚約者として指名したと聞かされている人間という事になる。
「お願い、ですか」
「殿下を、城へ連れ戻しに向かっていただけませんか」
話が全く見えてこなかった。
レイを連れ戻す、とは一体どういう事なのだろうか。
「……多くの来賓の貴族方がお越しになられる中、やはり殿下が不在というのは、その、色々とまずいのです」
「それは分かりますけど、私にも肝心の殿下の居場所が」
分からないからどうしようもない。
私がそう告げようとしたところで、彼は紙のようなものを差し出してきた。
「……えっ、と、これは?」
「恐らく殿下は、この霊園にいらっしゃると思うのです」
どうしてそんな場所にいるのか。
一瞬疑問に浮かぶけれど、霊園に向かう理由なぞ一つしかない。
同時、居場所を知ってるなら私を探す前に自分達で連れ戻したら良いじゃないかと思わずにはいられなかった。
「我々は、その、殿下に避けられている……といいますか」
私の視線から言いたい事を感じ取ったのか。
目を逸らしながら彼は言い辛そうに教えてくれる。
少なくとも、第一王子派と呼ばれていた者達と、第二王子派だった人間達の事をレイは毛嫌いしている事だろう。
それに関係が少なからずある貴族も、また。
となると、レイが嫌っていない貴族家など片手で事足りるほどしかいないかもしれない。
……成る程。
だから私がレイを連れ戻す役目をこうして押しつけられようとしているのか。
でも。
「にしても、こんな天候の中で霊園ですか」
外は雨音が小さく響いている。
勢いは緩やかではあるが、外に出るには適さない天候であった。
余程に大切な人だったのだろう。
レイの義理堅さというか。
真っ直ぐな性格をしている事は私も知るところだったので、次第にレイらしいかと納得出来てしまう。
何というか、一度決めた事はやり通す性格のレイはたまに周りが見えなくなる事がある。
他の貴族の人だと不機嫌になるっぽいし、それだと折角のお披露目パーティーがぶち壊し。
だから、出来る限り当たり障りのない私を選んだ、という事か。
「でも、分かりました。そういう事なら、私が殿下を連れ戻してきます」
その霊園までは少し遠くはあるけど、元々他にやる事もない。
貴族とあまり関わりたくない思考の私としてはむしろ望むところでもあった。
そんな訳で、私はレイを城に連れ戻すべく霊園へと向かう事にした。
「……これで良いんですよね」
にしても、誰のお墓参りなのだろうか。
王族だとすれば、国王陛下も同行してるだろうし、そうでないあたり、レイの個人的な付き合いがあった人……?
そんな考え事をしていたせいで、先の貴族の男性の呟きに私が気付く事はなかった。
「……どこにもいないんだけど」
それから一夜明けた翌日。
今日がお披露目パーティーという事もあり、朝から続々と多くの貴族家当主達が城へとやって来る。
不幸中の幸いは、私が婚約者になった事がまだ、伝えられていないようで、注目を浴びずに済んだ事だろうか。
ただ、部屋に避難していていいのか。
はまたま、挨拶する為に部屋から出てた方がいいのか。
その疑問を解消する為に私は朝からレイを探していたのだが、部屋を訪ねた時、既にレイは部屋を後にしていた。
食堂をはじめとした場所を巡ってはみたものの、やはり見つからない。
もしや、多くの貴族を出迎えているのかと思えば、勿論そこにもいなかった。
一体どこで何をしているのだろうか。
半ば諦めに似た感情を抱きながら、私は溜息を吐いた。
「今回のパーティーの主役でしょうに、一体何をしているんだか」
もちろん、行き先は私に告げられていない。
お飾りなのだし、別に伝えなくてもいいと思われたのだろう。
……よし。何かを言われたらレイのせいにしよう。
私は最低限、レイを探して指示を仰ごうと試みたし、責められる事はないだろう。
お飾りの婚約者である私が、下手な事をするべきではないと思いました。
この言い訳で問題ない。
そうと決まれば、部屋に閉じこもって避難しておこう。
そう決めた時だった。
「あぁっ。やっと見つけました。メル・ミレニアム殿」
背後から声が聞こえた。
漸く出会えたという安堵の色が込められたその発言は、間違いなく私に向けられたものだった。
振り返ると、そこには紺色の髪を持った貴族然とした男性がいた。
でも、私の知らない人物。
にもかかわらず、どうして彼は私の名前を知っているのだろうか。
「殿下の婚約者である貴女に、お願いしたい事がありまして」
城に赴いている貴族の大半が知らないであろう情報。
つまり目の前の彼は、元々城にいた人間で、レイから私を婚約者として指名したと聞かされている人間という事になる。
「お願い、ですか」
「殿下を、城へ連れ戻しに向かっていただけませんか」
話が全く見えてこなかった。
レイを連れ戻す、とは一体どういう事なのだろうか。
「……多くの来賓の貴族方がお越しになられる中、やはり殿下が不在というのは、その、色々とまずいのです」
「それは分かりますけど、私にも肝心の殿下の居場所が」
分からないからどうしようもない。
私がそう告げようとしたところで、彼は紙のようなものを差し出してきた。
「……えっ、と、これは?」
「恐らく殿下は、この霊園にいらっしゃると思うのです」
どうしてそんな場所にいるのか。
一瞬疑問に浮かぶけれど、霊園に向かう理由なぞ一つしかない。
同時、居場所を知ってるなら私を探す前に自分達で連れ戻したら良いじゃないかと思わずにはいられなかった。
「我々は、その、殿下に避けられている……といいますか」
私の視線から言いたい事を感じ取ったのか。
目を逸らしながら彼は言い辛そうに教えてくれる。
少なくとも、第一王子派と呼ばれていた者達と、第二王子派だった人間達の事をレイは毛嫌いしている事だろう。
それに関係が少なからずある貴族も、また。
となると、レイが嫌っていない貴族家など片手で事足りるほどしかいないかもしれない。
……成る程。
だから私がレイを連れ戻す役目をこうして押しつけられようとしているのか。
でも。
「にしても、こんな天候の中で霊園ですか」
外は雨音が小さく響いている。
勢いは緩やかではあるが、外に出るには適さない天候であった。
余程に大切な人だったのだろう。
レイの義理堅さというか。
真っ直ぐな性格をしている事は私も知るところだったので、次第にレイらしいかと納得出来てしまう。
何というか、一度決めた事はやり通す性格のレイはたまに周りが見えなくなる事がある。
他の貴族の人だと不機嫌になるっぽいし、それだと折角のお披露目パーティーがぶち壊し。
だから、出来る限り当たり障りのない私を選んだ、という事か。
「でも、分かりました。そういう事なら、私が殿下を連れ戻してきます」
その霊園までは少し遠くはあるけど、元々他にやる事もない。
貴族とあまり関わりたくない思考の私としてはむしろ望むところでもあった。
そんな訳で、私はレイを城に連れ戻すべく霊園へと向かう事にした。
「……これで良いんですよね」
にしても、誰のお墓参りなのだろうか。
王族だとすれば、国王陛下も同行してるだろうし、そうでないあたり、レイの個人的な付き合いがあった人……?
そんな考え事をしていたせいで、先の貴族の男性の呟きに私が気付く事はなかった。
0
お気に入りに追加
663
あなたにおすすめの小説

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った
五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」
8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。
頑張らない政略結婚
ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」
結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。
好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。
ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ!
五話完結、毎日更新

【完結】円満婚約解消
里音
恋愛
「気になる人ができた。このまま婚約を続けるのは君にも彼女にも失礼だ。だから婚約を解消したい。
まず、君に話をしてから両家の親達に話そうと思う」
「はい。きちんとお話ししてくださってありがとうございます。
両家へは貴方からお話しくださいませ。私は決定に従います」
第二王子のロベルトとその婚約者ソフィーリアの婚約解消と解消後の話。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
主人公の女性目線はほぼなく周囲の話だけです。番外編も本当に必要だったのか今でも悩んでます。
コメントなど返事は出来ないかもしれませんが、全て読ませていただきます。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ
青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人
世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。
デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女
小国は栄え、大国は滅びる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる