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semper crescis aut decrescis;(汝は常に満ち欠けを繰り返す)
別離
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─どうにも居心地が良くないわ。
冷たい月の光が降り注ぐ中庭に、ぽつんと佇む四阿にアディはいた。御殿からは異国の旋律と甘い香りが微かに伝わって来るも、夜風にあたるうちに身も心も冷えたようだ。
「あら、今の─」
中庭から見える廊下に、薄ぼんやりと白く浮かび上がるドレス─確かジャンヌではなかっただろうか?
だが目を凝らすより早く影は消えてしまい、彼女は再び吐息をつく。兎にも角にもエクトールに会うのが先だ、と赤いドレスを整えて四阿を出ようとしたその時。
「アディ!」
当のエクトールの声が投げかけられ反射的にそちらを振り向くと、いくつもの勲章が鈍い光を放つ漆黒の軍服に身を包んだ恋人がこちらへとやって来るところだった。
「エクトール!やっと会えたわね!」
アディは小走りに駆け寄り、その腕を握る。エクトールはいつもの穏やかな声で「心配をかけたね、済まない」とアディの憂い顔を見て謝罪した。
「おや、そのネックレス…。女優ともあろう君がセンスを疑われてしまう」
「あなたからのプレゼントよ。他人からどう思われようと構わないわ」
「それも当代一の人気女優に相応しくない台詞だな」
赤い薔薇の花弁を幾重にもしたようなドレスに、深い青のネックレスは贈り主のエクトールから見ても異質だった。それでも身につけてくれた美しい恋人に、感謝を込めた軽口を叩く。
「ねえ、エクトール…。本当に前線に行くの?」
アディは怖々、切り出した。肯定することは理解している。果たしてどうやって止めればいいのだろうか…
「もちろんだ。前線で活躍すれば、君との仲も認めてくれるだろう。幸いなことに、元帥の奥方…マノン様が君のファンでね。彼女からも口添えしてくれるそうだから、きっと上手くいくよ」
「でも、危険よ。なんでも、前線の兵士が敵軍に連れ去られてるという噂があるわ─私たちはいろいろな場所を巡るし、よくない話も耳に入ってくるの」
「─ただの噂さ。それに、僕は今までいくつもの危険を乗り越えてきている。その証拠がこの勲章というわけだ。アディ、信じて待っていてくれ。必ず栄誉と共に君のもとへ帰る」
微笑みを浮かべ、エクトールは優しくアディの頬を撫でる。恋人に酷なことを言っているのは100も承知だが、この国の置かれている状況からしても、自分は立たねばならない。家名と美しい恋人の為に。
「そう…。そこまで言うのなら…エクトール、あなたの無事を毎日神様に祈るわ。どうか、ご武運を」
泣いても喚いても無駄だと悟り、彼女はその場に跪いて十時を切り、恋人の帰還を神へ祈る。至聖所から見下ろすだけの神と違い、悪魔は偏在することに気づきもせずに─
冷たい月の光が降り注ぐ中庭に、ぽつんと佇む四阿にアディはいた。御殿からは異国の旋律と甘い香りが微かに伝わって来るも、夜風にあたるうちに身も心も冷えたようだ。
「あら、今の─」
中庭から見える廊下に、薄ぼんやりと白く浮かび上がるドレス─確かジャンヌではなかっただろうか?
だが目を凝らすより早く影は消えてしまい、彼女は再び吐息をつく。兎にも角にもエクトールに会うのが先だ、と赤いドレスを整えて四阿を出ようとしたその時。
「アディ!」
当のエクトールの声が投げかけられ反射的にそちらを振り向くと、いくつもの勲章が鈍い光を放つ漆黒の軍服に身を包んだ恋人がこちらへとやって来るところだった。
「エクトール!やっと会えたわね!」
アディは小走りに駆け寄り、その腕を握る。エクトールはいつもの穏やかな声で「心配をかけたね、済まない」とアディの憂い顔を見て謝罪した。
「おや、そのネックレス…。女優ともあろう君がセンスを疑われてしまう」
「あなたからのプレゼントよ。他人からどう思われようと構わないわ」
「それも当代一の人気女優に相応しくない台詞だな」
赤い薔薇の花弁を幾重にもしたようなドレスに、深い青のネックレスは贈り主のエクトールから見ても異質だった。それでも身につけてくれた美しい恋人に、感謝を込めた軽口を叩く。
「ねえ、エクトール…。本当に前線に行くの?」
アディは怖々、切り出した。肯定することは理解している。果たしてどうやって止めればいいのだろうか…
「もちろんだ。前線で活躍すれば、君との仲も認めてくれるだろう。幸いなことに、元帥の奥方…マノン様が君のファンでね。彼女からも口添えしてくれるそうだから、きっと上手くいくよ」
「でも、危険よ。なんでも、前線の兵士が敵軍に連れ去られてるという噂があるわ─私たちはいろいろな場所を巡るし、よくない話も耳に入ってくるの」
「─ただの噂さ。それに、僕は今までいくつもの危険を乗り越えてきている。その証拠がこの勲章というわけだ。アディ、信じて待っていてくれ。必ず栄誉と共に君のもとへ帰る」
微笑みを浮かべ、エクトールは優しくアディの頬を撫でる。恋人に酷なことを言っているのは100も承知だが、この国の置かれている状況からしても、自分は立たねばならない。家名と美しい恋人の為に。
「そう…。そこまで言うのなら…エクトール、あなたの無事を毎日神様に祈るわ。どうか、ご武運を」
泣いても喚いても無駄だと悟り、彼女はその場に跪いて十時を切り、恋人の帰還を神へ祈る。至聖所から見下ろすだけの神と違い、悪魔は偏在することに気づきもせずに─
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