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semper crescis aut decrescis;(汝は常に満ち欠けを繰り返す)

『野犬収容所』

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『野犬収容所』

「アシュトン将軍が行方知れずになったそうだ」
「あの将軍がむざむざマノンの手に落ちるとは考えづらいですね…。中佐殿、何か掴めましたか?」
「将軍であれば、心配することもないかと考えますが…。ところで、歌妓たちから聞いたのですが、近々ベルトラン元帥の愛妾の屋敷で宴を催すそうです。もちろん─」
「アドリエンヌとロアン伯爵か。目的はその2人だな」
「これ以上の『失踪』を拱手傍観するわけにはいきません。あの悪魔の夫婦にはまだまだ余裕があるのでしょうが、我々は本格的に動かねば」
「悪魔、か。少尉も青いことを言うものだ…。私には元帥より執事の方が余程悪魔に思えるが。むしろ悪魔を世に送り出した『造物主』と呼んで差し支えなかろう」
「混ぜっ返さないでください。─差し当っての任務は?」
「ロアン伯から目を離すな。恐らく、宴でヤツは愛妾に篭絡させるつもりだ。絶対に阻止しろ、わかったな?」
「然し恋人のアドリエンヌが一緒ですし、何よりロアン伯は文武両道の優れた騎士…そんなことは不可能なのでは?」
「ジョセフはロアン伯の上官です、断れるはずがありません。断ったら断ったで彼の人生は幕を下ろしますから」
「正攻法では、ロアン伯を拐取出来ぬだろう。月香といったか、あれは異邦の女だ。どんな手練手管を使うか知れたものでは無い。─ふん、結局誰からも目が離せぬか。見慣れぬ者がいれば、そちらにも注意を払わねばならん」
「あの、一つお伺い致します。ベルトラン元帥に我々『野犬』の顔が割れていないのは確かなのでしょうか?」
「そうだろうな。妻のマノンと執事のフランツ、軍のことはアシュトン将軍に任せ切りなのだから、分からんだろうよ。だが、宴の場でアドリエンヌに既視感を覚えるかもしれん」
「お言葉ですが大佐。元帥がそこまで勘のいい男とも思えませんが…。ここにアシュトン将軍がいないのが悔やまれます…」
「まあ、それは仕方ない。次の手を考えるだけだ…。中佐、君はマノンの『親友』を監視してくれ。命令があるまで、決して手を出すな。目の前で何が行われようとだ」
「畏まりました、大佐」
「─我々はどちらの味方でもない、心せよ」

    その言葉に『野犬収容所』の「野犬たち」は一斉に姿勢を正して『大佐』に敬礼する。そして、一人、また一人と暗夜の中へ溶けていった─
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