25 / 30
25 魔法使いは諦めない
しおりを挟む
友が話し終えると、重苦しい沈黙だけが残った。
友は肩をすくめ一口水を飲んだ後、俺達を一瞥し、自分の説明に対しての言葉を待つように腕を組みそれきり黙ってしまった。
どのくらい待っただろうか。口火を切ったのは魔法使いだった。
「・・・ねぇ、あんたが雪女の言葉を大切にしてるのはよく分かったわ。でも、結果的に魔王を倒せるんなら、それはコイツと一緒じゃなくてもいいんじゃないの?」
魔法使いが友の鼻先に指を突きつける。
指差しとコイツ呼ばわりされた事は、友のプライドを刺激したようだ。
みるみる顔つきが険しくなり、友が激怒しそうになった瞬間、僧侶がカバーに入った。
「まぁまぁ勇者様、怒らないでくださいな。はい、一杯どうぞ」
そう話しながら笑顔でお酌をすると、納得できた顔ではないが、友もとりあえずの怒りは抑えたようだ。
「・・・それは、そうかもしれないが・・・」
魔法使いの言う通り、魔王を倒す事が最重要であり、それができるのであれば友と旅をする事にこだわり続ける必要はないのかもしれない。
しかし、俺には雪女がそれだけではなく、友と俺が友情を取り戻す事を願っていたのではないかとも考えていた。
「・・・ねぇ、あんたこだわり過ぎてんのよ。自分自身の考えに縛られ過ぎて、何がなんでもそうしなきゃいけないって頭になってる。てきとうにって言うのは言い方悪いかもしれないけど、もうちょっと楽に考えていいんじゃない?あんた真面目過ぎんのよ」
魔法使いの言葉が俺の胸に突き刺さる。
今まで自分をそんな風に見た事はなかったけれど、その通りかもしれない。
「・・・そう、なのかな?」
「そうよ!もうね、あんたは本当に頭固いのよ!石よ石!うぅん、鉄よ!鉄頭よ!」
魔法使いは勢いよく立ち上がると、指先を俺に突きつけて声高く言い放った。
「・・・鉄、頭?」
「そうよ、カッチカチの鉄頭よ」
言われた言葉をそのまま問い返すと、魔法使いは腕を組んで俺を見下ろしながら大きく頷いた。
「・・・ぷっ、あははははは!なにそれ面白い!」
「うふふ、確かに彼は真面目過ぎるかもしれませんね。何回水が零れても拭くのを手伝ってくれますし」
僧侶が笑い出すと、つられたように店員さんも口を押さえてクスクス笑い出した。
魔法使いも、どうだと言わんばかりに得意気な顔で俺を見ると、イスに腰を下ろした。
「・・・そっか・・・うん、キミの言う通りだよ。俺は雪女の言葉を大切に守っているつもりだったけど、彼女の言葉だけを聞いて、気持ちを考えていなかったのかもしれない・・・」
今言われた言葉だけで割り切れたわけではないけれど、少しだけ心が軽くなったような気がした。
店員さんはそんなの俺の表情をじっと見つめた後、魔法使いに顔を向けて微笑んだ。
「・・・本当に・・・あなたは彼の事を、とてもよく見ていらっしゃるんですね」
「そりゃそうよ、だってこの人さ、私が見てないとなんか危なっかしいんだもん。どこか自分の命を軽く考えてるとこあるのよ。前から思ってたけど、もうハッキリ言うわ。あんた雪女を引きずり過ぎなのよ」
魔法使いがあらためて俺を見てそう断言すると、店員さんはとても悲し気に目を伏せてうつむいた。
「ねぇ、あんたが雪女を今でも大切に想ってるのは分かるわ。あんたから聞いた話しで、雪女がとっても優しくて綺麗な心を持ってたのも分かった。でもさ、もう何年?雪女だって、あんたがこのまま死ぬまで引きずってるのを望んでると思う?忘れろなんて言わないわ。でも、そろそろ前を向いたらどう?」
魔法使いの声ははっきり届いている。
だけど、自分の気持ちに整理をつけるには、まだ少し時間がかかると思う。
だからすぐに返事はできなかった。
「・・・なんてね、偉そうに言っちゃったけど、私もまだ諦めてないから、あんたに何か言う資格はないわ」
「え?・・・なにを諦めてないの?」
返事に困り下を向いてしまうと、急に冗談めかした言い方で話す魔法使いに、顔を上げて聞き返す。
「なにって、決まってるでしょ?」
魔法使いは俺を真っ直ぐに見て、人差し指を向けてきた。
「あんたよ、あんた」
友は肩をすくめ一口水を飲んだ後、俺達を一瞥し、自分の説明に対しての言葉を待つように腕を組みそれきり黙ってしまった。
どのくらい待っただろうか。口火を切ったのは魔法使いだった。
「・・・ねぇ、あんたが雪女の言葉を大切にしてるのはよく分かったわ。でも、結果的に魔王を倒せるんなら、それはコイツと一緒じゃなくてもいいんじゃないの?」
魔法使いが友の鼻先に指を突きつける。
指差しとコイツ呼ばわりされた事は、友のプライドを刺激したようだ。
みるみる顔つきが険しくなり、友が激怒しそうになった瞬間、僧侶がカバーに入った。
「まぁまぁ勇者様、怒らないでくださいな。はい、一杯どうぞ」
そう話しながら笑顔でお酌をすると、納得できた顔ではないが、友もとりあえずの怒りは抑えたようだ。
「・・・それは、そうかもしれないが・・・」
魔法使いの言う通り、魔王を倒す事が最重要であり、それができるのであれば友と旅をする事にこだわり続ける必要はないのかもしれない。
しかし、俺には雪女がそれだけではなく、友と俺が友情を取り戻す事を願っていたのではないかとも考えていた。
「・・・ねぇ、あんたこだわり過ぎてんのよ。自分自身の考えに縛られ過ぎて、何がなんでもそうしなきゃいけないって頭になってる。てきとうにって言うのは言い方悪いかもしれないけど、もうちょっと楽に考えていいんじゃない?あんた真面目過ぎんのよ」
魔法使いの言葉が俺の胸に突き刺さる。
今まで自分をそんな風に見た事はなかったけれど、その通りかもしれない。
「・・・そう、なのかな?」
「そうよ!もうね、あんたは本当に頭固いのよ!石よ石!うぅん、鉄よ!鉄頭よ!」
魔法使いは勢いよく立ち上がると、指先を俺に突きつけて声高く言い放った。
「・・・鉄、頭?」
「そうよ、カッチカチの鉄頭よ」
言われた言葉をそのまま問い返すと、魔法使いは腕を組んで俺を見下ろしながら大きく頷いた。
「・・・ぷっ、あははははは!なにそれ面白い!」
「うふふ、確かに彼は真面目過ぎるかもしれませんね。何回水が零れても拭くのを手伝ってくれますし」
僧侶が笑い出すと、つられたように店員さんも口を押さえてクスクス笑い出した。
魔法使いも、どうだと言わんばかりに得意気な顔で俺を見ると、イスに腰を下ろした。
「・・・そっか・・・うん、キミの言う通りだよ。俺は雪女の言葉を大切に守っているつもりだったけど、彼女の言葉だけを聞いて、気持ちを考えていなかったのかもしれない・・・」
今言われた言葉だけで割り切れたわけではないけれど、少しだけ心が軽くなったような気がした。
店員さんはそんなの俺の表情をじっと見つめた後、魔法使いに顔を向けて微笑んだ。
「・・・本当に・・・あなたは彼の事を、とてもよく見ていらっしゃるんですね」
「そりゃそうよ、だってこの人さ、私が見てないとなんか危なっかしいんだもん。どこか自分の命を軽く考えてるとこあるのよ。前から思ってたけど、もうハッキリ言うわ。あんた雪女を引きずり過ぎなのよ」
魔法使いがあらためて俺を見てそう断言すると、店員さんはとても悲し気に目を伏せてうつむいた。
「ねぇ、あんたが雪女を今でも大切に想ってるのは分かるわ。あんたから聞いた話しで、雪女がとっても優しくて綺麗な心を持ってたのも分かった。でもさ、もう何年?雪女だって、あんたがこのまま死ぬまで引きずってるのを望んでると思う?忘れろなんて言わないわ。でも、そろそろ前を向いたらどう?」
魔法使いの声ははっきり届いている。
だけど、自分の気持ちに整理をつけるには、まだ少し時間がかかると思う。
だからすぐに返事はできなかった。
「・・・なんてね、偉そうに言っちゃったけど、私もまだ諦めてないから、あんたに何か言う資格はないわ」
「え?・・・なにを諦めてないの?」
返事に困り下を向いてしまうと、急に冗談めかした言い方で話す魔法使いに、顔を上げて聞き返す。
「なにって、決まってるでしょ?」
魔法使いは俺を真っ直ぐに見て、人差し指を向けてきた。
「あんたよ、あんた」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり

十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。
味のないお茶
恋愛
中学三年の終わり、俺。桜井霧都(さくらいきりと)は十年間片思いしていた幼馴染。南野凛音(みなみのりんね)に告白した。
十分以上に勝算がある。と思っていたが、
「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!」
と完膚なきまでに振られた俺。
失意のまま、十年目にして初めて一人で登校すると、小学生の頃にいじめから助けた女の子。北島永久(きたじまとわ)が目の前に居た。
彼女は俺を見て涙を流しながら、今までずっと俺のことを想い続けていたと言ってきた。
そして、
「北島永久は桜井霧都くんを心から愛しています。私をあなたの彼女にしてください」
と、告白をされ、抱きしめられる。
突然の出来事に困惑する俺。
そんな俺を追撃するように、
「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」
「………………凛音、なんでここに」
その現場を見ていたのは、朝が苦手なはずの、置いてきた幼なじみだった。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる