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11 その手の温もり
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「続けんのかよ?」
「あぁ、俺はまだお前と話さなければならない」
「ハッ・・・お前は俺の人生で一番付き合いが長いヤツだけどよ。あの雪女の一件以来、全く理解できなくなったぜ。お前何考えてんだよ?勇者の俺と一緒なら魔王を倒す確率は一番高いだろうけどよ、普通ここまでこじれて一緒にいるか?協力も連携もねぇ、かえって足ひっぱりあってるだけじゃねぇか?」
「あぁ・・・そうだよな。お前と離れた方が、お互いのためかもしれないな。だけど・・・俺はできればお前との関係を修復したいとも思ってる」
魔王を倒すためだけの打算ではない。
お前が俺を一番知っているように、俺もお前を一番知っているんだ。
もうお前と笑い合うのは無理だろう。雪女の事も目をつむる事はできない。
だが、それでもせめて、最後まで旅をやりとげるくらいはできるのではないか?
こんな中途半端に終わるのではなく、俺とお前の最後の旅をやりとげる事は・・・・・
「お前の大好きな雪女を殺すようにしむけた俺とか!?あぁ!?遺言だかなんだかしらねぇがいつまでそんなもんにこだわってんだよ!馬鹿じゃねぇのか!?気持ち悪ぃんだよ!」
友の大声に酒場中の視線が一斉に集まった。
勇者として世界の期待を一身に集めている友が、酒場で仲間を罵倒している。
しかも物騒な事も口走っているんだ。当然だろう。
「黙れ。彼女を侮辱する事だけは許さん」
俺を睨み付ける友を、俺も睨み返す。
一触即発の状況に酒場に緊張が走る。
そして・・・・・
先に目を逸らしたのは俺だった。
友の視線に怯んだわけではない。彼女を理由に俺と友が喧嘩をしたら、彼女が悲しむと思ったからだ。
「・・・落ち着け。とりあえず台拭きをもらおう」
テーブルを強く叩きつけたせいで、グラスの酒がぶちまけられて友の膝にボタボタと零れている。
これで何回目だ?
4・・・いや5回?6回か?
いや、もう何回目でもいいな。何度諫めても友は聞く耳を持たないだろう。
お店には悪いが、何回でも拭かせてもらうしかない。
帰りに多めに代金を払って勘弁してもらおう。
カウンターに目を向けると、いつもの女性店員さんが、悲し気な表情で俺を見つめていた。
さっきは先回りするように笑顔で台拭きを用意してくれていたのに、今は何であんな泣きそうな顔をして俺を見ているのだろう・・・
とりあえず席を立ち、カウンターに台拭きをもらいに行くと、彼女は俯きながらそっと手渡してくれた。
「あ、ありがとう・・・ 」
「・・・・・」
「どうして・・・泣いてるの?」
「・・・・・なんでも、ないです」
なんでもないはずがない。そんなに辛そうに涙を流しているじゃないか?
キミはいったい・・・・・
だが、それを聞く事はためらわれた。
代わりに・・・
「・・・え!?」
「いきなりすみません。でも、落ち着くでしょ?落ち込んでる時に、誰かに手を握ってもらえると安心するって、前に教えてもらった事があるんだ・・・」
代わりに店員さんの手をそっと握っていた。
普通は付き合ってもいない女性の手を、いきなり握るなんて絶対にしない。
俺に手なんて握られて、気持ち悪がられるかもしれないし。
だけど、この店員さんの涙を見て、なぜかどうしようもなく切ない気持ちになってしまい、考えるより先に手を握ってしまっていた。
それに、なぜかこの店員さんにはそうしなければならないと思った。
「前にね、俺に・・・そう教えてくれた人がいたんだ・・・・・」
「・・・お、兄さん・・・あなたは・・・・・」
店員さんは少しだけ驚いた顔をしたけれど、俺の手を離そうとはしなかった。
「何が原因か分からないけど・・・元気出してください」
そう言って俺は席へと戻って行った。
「あぁ、俺はまだお前と話さなければならない」
「ハッ・・・お前は俺の人生で一番付き合いが長いヤツだけどよ。あの雪女の一件以来、全く理解できなくなったぜ。お前何考えてんだよ?勇者の俺と一緒なら魔王を倒す確率は一番高いだろうけどよ、普通ここまでこじれて一緒にいるか?協力も連携もねぇ、かえって足ひっぱりあってるだけじゃねぇか?」
「あぁ・・・そうだよな。お前と離れた方が、お互いのためかもしれないな。だけど・・・俺はできればお前との関係を修復したいとも思ってる」
魔王を倒すためだけの打算ではない。
お前が俺を一番知っているように、俺もお前を一番知っているんだ。
もうお前と笑い合うのは無理だろう。雪女の事も目をつむる事はできない。
だが、それでもせめて、最後まで旅をやりとげるくらいはできるのではないか?
こんな中途半端に終わるのではなく、俺とお前の最後の旅をやりとげる事は・・・・・
「お前の大好きな雪女を殺すようにしむけた俺とか!?あぁ!?遺言だかなんだかしらねぇがいつまでそんなもんにこだわってんだよ!馬鹿じゃねぇのか!?気持ち悪ぃんだよ!」
友の大声に酒場中の視線が一斉に集まった。
勇者として世界の期待を一身に集めている友が、酒場で仲間を罵倒している。
しかも物騒な事も口走っているんだ。当然だろう。
「黙れ。彼女を侮辱する事だけは許さん」
俺を睨み付ける友を、俺も睨み返す。
一触即発の状況に酒場に緊張が走る。
そして・・・・・
先に目を逸らしたのは俺だった。
友の視線に怯んだわけではない。彼女を理由に俺と友が喧嘩をしたら、彼女が悲しむと思ったからだ。
「・・・落ち着け。とりあえず台拭きをもらおう」
テーブルを強く叩きつけたせいで、グラスの酒がぶちまけられて友の膝にボタボタと零れている。
これで何回目だ?
4・・・いや5回?6回か?
いや、もう何回目でもいいな。何度諫めても友は聞く耳を持たないだろう。
お店には悪いが、何回でも拭かせてもらうしかない。
帰りに多めに代金を払って勘弁してもらおう。
カウンターに目を向けると、いつもの女性店員さんが、悲し気な表情で俺を見つめていた。
さっきは先回りするように笑顔で台拭きを用意してくれていたのに、今は何であんな泣きそうな顔をして俺を見ているのだろう・・・
とりあえず席を立ち、カウンターに台拭きをもらいに行くと、彼女は俯きながらそっと手渡してくれた。
「あ、ありがとう・・・ 」
「・・・・・」
「どうして・・・泣いてるの?」
「・・・・・なんでも、ないです」
なんでもないはずがない。そんなに辛そうに涙を流しているじゃないか?
キミはいったい・・・・・
だが、それを聞く事はためらわれた。
代わりに・・・
「・・・え!?」
「いきなりすみません。でも、落ち着くでしょ?落ち込んでる時に、誰かに手を握ってもらえると安心するって、前に教えてもらった事があるんだ・・・」
代わりに店員さんの手をそっと握っていた。
普通は付き合ってもいない女性の手を、いきなり握るなんて絶対にしない。
俺に手なんて握られて、気持ち悪がられるかもしれないし。
だけど、この店員さんの涙を見て、なぜかどうしようもなく切ない気持ちになってしまい、考えるより先に手を握ってしまっていた。
それに、なぜかこの店員さんにはそうしなければならないと思った。
「前にね、俺に・・・そう教えてくれた人がいたんだ・・・・・」
「・・・お、兄さん・・・あなたは・・・・・」
店員さんは少しだけ驚いた顔をしたけれど、俺の手を離そうとはしなかった。
「何が原因か分からないけど・・・元気出してください」
そう言って俺は席へと戻って行った。
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