俺と友と追放と

理太郎

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08 雪に閉ざされた村で ③

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「お兄さんは私に、この村から出て行ってほしいんでしょ?」


彼女と話すようになって5日目の夜、いつものように森の中で話していると、唐突に彼女がそう切り出した。

この頃にはお互いの事をだいぶ話すようになっていた。

俺が友と一緒に村を出て、魔王を倒す旅に出ている事。
最近友とギクシャクしている事。

愚痴にもなっていたと思うけど、彼女は俺が話している間、口を挟まず最後まで黙って聞いてくれた。


「・・・それは・・・そう頼まれている。いや、せめて雪を止める事はできないか?そうすれば・・・」

「無理よ。雪女はいるだけで雪が降るの。よく雪を操るなんて勘違いされてるけど、実際は少し違うわ。確かに勢いを強めたり、弱めたりはできるわ。でも雪を止める事はできないの。雪女はいるだけで雪が降る。そういうものなのよ」


彼女は悲し気に眉を落とした。どこか諦めたようなその口ぶりに、彼女の苦悩が見えた気がした。
きっと、彼女は自分の意思ではどうにもならない力のせいで、辛い思いをしてきたのだろう。




彼女はこの森で生まれずっと一人だったらしい。

他所の土地に行こうと考えた事もあったと言うが、一人で森の外へ出る事への不安が大きく、決心がつかないまま今日まできたらしい。

村人の前に姿を見せていたのは、仲良くしたかったから、話しをしたかったと言うのだ。

しかし、それはとても難しい事だった。

話そうとしても、雪女という時点で怯え逃げられるのだ。

彼女は決して危害を加えず、できるだけ優しく話しかけたというが、誰一人まともに聞いてくれなかったそうだ。

村人と仲良くなる事をいまだ諦めず、時折姿を見せているそうだが、いまだそれは叶っていない。




「これでも、精一杯雪を弱めてはいるの。でも・・・やっぱり雪を止めない限り、誰も私とお友達にはなってくれないのかな」


「・・・俺が話してみるよ。人間の俺が間に入れば、キミとの仲を取り持つ事ができるかもしれない」

「え、でも・・・大丈夫?嬉しいけど、あなたが悪い目で見られないかしら?」

「大丈夫だよ。俺は、キミと村の人が仲良くなってくれたら嬉しいよ。キミに森から出て行ってもらうのではなく、共存する道があるのなら、そうなってほしい」


・・・・・ありがとう


ありきたりな一言かもしれない

けれど、心からそう口にしてくれている事が伝わってくる

そう言って笑う彼女はとても美しかった






結果から言えば、話し合いは失敗に終わった。

俺が何を言っても村人は聞く耳を持ってくれず、それどころか俺まで村を脅かす悪人という目で見られてしまった。

雪女が自分達と仲良くしたいと言うならば、今すぐこの雪を止めろ!

自分の意思では雪を止める事はできない。
いまでも一番弱めてはいる。

しかし、それは通用しなかった。
実際迷惑をしていると言われればそれまでだし、本当に村の事を考えてくれるならば、自分の都合ばかり言わずに、森から出て行く事も友好の証なのではないか?

そう言われてしまうと、俺は何も言い返せなかった。


この話し合いの間、友は俺をずっと睨んでいた。

俺と友の関係が決定的にダメになったのはこの時だったと思う。






「ふざけてんじゃねぇぞ!なんで俺に黙ってそんな勝手な事してやがった!」

滞在中に借りている空き家へ戻ると、友は俺を激しく責め立てた。

友の言い分はもっともだった。
俺は雪女に会う事を黙っていて、一人で村人との交渉も決めた。

明確な裏切りだった。

悪いのは全て俺だ。何を言われても謝る事しかできない。


「・・・つまり、お前はその雪女に同情したわけか?いや・・・お前、もしかして惚れたのか?」


薄笑いを浮かべ、俺に向ける友の言葉には、あざ笑うような含みがあった。


「・・・あぁ、俺は彼女が好きだ」


この時、俺を心配した彼女が、外から中の様子を見ていた事を俺は知らなかった。
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