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05 三年前
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「・・・あの日からだ。友よ・・・あの日から、俺とお前の間に壁ができた」
俺は言葉を続けるが、友は何も答えなかった。
ただ、俺と目を合わせずに俯き加減で黙っている。
「俺も共犯なんだ。お前だけが悪いわけじゃない・・・もっと早く話していたら、俺達は戻れたかもしれないな」
あの日、俺は・・・一度は正直に全て打ち明けようとした。
見殺しにした事に変わりはない。
だが、友の強い反対で、それは伏せる事になった。
友のせいにする気はない。話そうと思えば話せたんだ。
だが、結局俺も怖くて黙ってしまったんだ。
俺も同罪だ。
「・・・そうだな。お前の言う通りだ・・・俺達は戻れたかもしれない」
やがて、友はゆっくり俺に顔をむけると、静かに言葉を紡ぎ出した。
戻れたかもしれない・・・・・・・
「だが、もう遅いんだよ。それは、あの時・・・あの日のうちに話しあっておくべき事だったんだ。もう四年だ・・・なにもかも遅いんだよ」
そう話す友の目には、激しい後悔の色が宿っていた。僅かに濡れているようにも見える。
俺は何も言葉を返せなかった。
友はそんな俺を見て、話しは終わりだと判断したようだ。
「もういいな?これで話しは終わりだ。何も変わらない。お前は追ほ・・・」
「待て!」
まさかここで止められるとは予想だにしなかったのだろう。
友は目を開き、驚きの表情を浮かべている。
すぐに言葉を出せない程のようで、口を開けて固まっている。
「・・・なんだよ?これ以上何を待てって言うんだ?」
「まだだ・・・まだ、俺とお前の話しは終わらない。座ってくれ。結論がどうであろうと、今日一日は俺の話しに付き合ってくれるんだろ?」
そう。
まだだ・・・俺はまだ友と話さなければならない事がある。
まだ、終われない。
「・・・チッ、これ以上何を話すってんだよ?あ~、んだよこれ?酒が零れてるじゃねぇか!」
イスに腰を下ろすなり、友がテーブルに零れている酒に目くじらを立てる。
それはお前がテーブルを強く叩いたから零れたんだ。
これで三度目だぞ?ナッツも入れれば四度目だ。
俺は溜息を付いて、カウンターを見て手を挙げた。
最初と同じ女性店員さんと目が合う。
彼女は軽く頷くと、台拭きを持って小走りで来てくれた。
準備がしてあるところを見ると、俺達のテーブルの状況を把握していたようだ。
すぐに来なかったのは、俺達が深刻に話しているから、タイミングを伺っていたのだろう。
「何度もすみません」
俺が頭を下げると、女性店員さんは微笑みながら顔を横に振って、気にしないでください。と優しい声で返事をくれる。
こんなに優しい女性は他にいないだろう。
「・・・お兄さん、私が口を挟む事ではありませんが・・・あまり思い詰めない方がいいですよ」
テーブルを拭きながら、女性店員さんが小声で俺に話しかけてきた。
どうやら、先程の友との会話を聞かれていたようだ。
「あ、これは情けない話しを聞かれてしまいましたね」
「いえいえ、盗み聞きしてしまったみたいで、すみません」
女性店員さんが頭を下げるが、俺は慌てて、頭を上げてくださいと声をかける。
あれだけ大声を出せば、どこにいても聞こえるだろう。盗み聞きとは言えない。
それから、お互いに謝ったり謝られたりを繰り返し、それがなんだかおかしくなって、ふいに目があった拍子に一緒に笑ってしまった。
この女性店員さんと話すと、なぜかいつも懐かしさを感じて、とても優しい気持ちになれる。
一体なぜだろう・・・・・
「・・・おい、なにイチャついてんだよ?話しがねぇならもういいか?」
そんな俺達を見て、友が苛ただしげに口を挟んできた。
女性店員さんは少し残念そうに、失礼しました、と言い小走りにカウンターへ戻って行った。
彼女が離れて行くと、なぜか胸が締め付けられるように痛んだ。
とても懐かしい・・・いつもこうだ。
これはいったい・・・・・
「・・・すまなかった。お前との話しの最中に・・・つい」
色々気になる事はあるが、俺はまず夢中に話してしまった事を友に詫びた。
だが、もう遅いだろう。
この話しは俺が無理に続けているものだ。友としてもこのまま打ち切るには都合のいいタイミングだ。
だが、俺の予想に反し、友は自分から思い出話しをし始めた。
「・・・思い出すな。あの日もお前達は・・・別れを惜しみながら話していたよな」
それは俺達が三本角の鬼を倒してから更に一年後、今から三年前の話しだった。
俺は言葉を続けるが、友は何も答えなかった。
ただ、俺と目を合わせずに俯き加減で黙っている。
「俺も共犯なんだ。お前だけが悪いわけじゃない・・・もっと早く話していたら、俺達は戻れたかもしれないな」
あの日、俺は・・・一度は正直に全て打ち明けようとした。
見殺しにした事に変わりはない。
だが、友の強い反対で、それは伏せる事になった。
友のせいにする気はない。話そうと思えば話せたんだ。
だが、結局俺も怖くて黙ってしまったんだ。
俺も同罪だ。
「・・・そうだな。お前の言う通りだ・・・俺達は戻れたかもしれない」
やがて、友はゆっくり俺に顔をむけると、静かに言葉を紡ぎ出した。
戻れたかもしれない・・・・・・・
「だが、もう遅いんだよ。それは、あの時・・・あの日のうちに話しあっておくべき事だったんだ。もう四年だ・・・なにもかも遅いんだよ」
そう話す友の目には、激しい後悔の色が宿っていた。僅かに濡れているようにも見える。
俺は何も言葉を返せなかった。
友はそんな俺を見て、話しは終わりだと判断したようだ。
「もういいな?これで話しは終わりだ。何も変わらない。お前は追ほ・・・」
「待て!」
まさかここで止められるとは予想だにしなかったのだろう。
友は目を開き、驚きの表情を浮かべている。
すぐに言葉を出せない程のようで、口を開けて固まっている。
「・・・なんだよ?これ以上何を待てって言うんだ?」
「まだだ・・・まだ、俺とお前の話しは終わらない。座ってくれ。結論がどうであろうと、今日一日は俺の話しに付き合ってくれるんだろ?」
そう。
まだだ・・・俺はまだ友と話さなければならない事がある。
まだ、終われない。
「・・・チッ、これ以上何を話すってんだよ?あ~、んだよこれ?酒が零れてるじゃねぇか!」
イスに腰を下ろすなり、友がテーブルに零れている酒に目くじらを立てる。
それはお前がテーブルを強く叩いたから零れたんだ。
これで三度目だぞ?ナッツも入れれば四度目だ。
俺は溜息を付いて、カウンターを見て手を挙げた。
最初と同じ女性店員さんと目が合う。
彼女は軽く頷くと、台拭きを持って小走りで来てくれた。
準備がしてあるところを見ると、俺達のテーブルの状況を把握していたようだ。
すぐに来なかったのは、俺達が深刻に話しているから、タイミングを伺っていたのだろう。
「何度もすみません」
俺が頭を下げると、女性店員さんは微笑みながら顔を横に振って、気にしないでください。と優しい声で返事をくれる。
こんなに優しい女性は他にいないだろう。
「・・・お兄さん、私が口を挟む事ではありませんが・・・あまり思い詰めない方がいいですよ」
テーブルを拭きながら、女性店員さんが小声で俺に話しかけてきた。
どうやら、先程の友との会話を聞かれていたようだ。
「あ、これは情けない話しを聞かれてしまいましたね」
「いえいえ、盗み聞きしてしまったみたいで、すみません」
女性店員さんが頭を下げるが、俺は慌てて、頭を上げてくださいと声をかける。
あれだけ大声を出せば、どこにいても聞こえるだろう。盗み聞きとは言えない。
それから、お互いに謝ったり謝られたりを繰り返し、それがなんだかおかしくなって、ふいに目があった拍子に一緒に笑ってしまった。
この女性店員さんと話すと、なぜかいつも懐かしさを感じて、とても優しい気持ちになれる。
一体なぜだろう・・・・・
「・・・おい、なにイチャついてんだよ?話しがねぇならもういいか?」
そんな俺達を見て、友が苛ただしげに口を挟んできた。
女性店員さんは少し残念そうに、失礼しました、と言い小走りにカウンターへ戻って行った。
彼女が離れて行くと、なぜか胸が締め付けられるように痛んだ。
とても懐かしい・・・いつもこうだ。
これはいったい・・・・・
「・・・すまなかった。お前との話しの最中に・・・つい」
色々気になる事はあるが、俺はまず夢中に話してしまった事を友に詫びた。
だが、もう遅いだろう。
この話しは俺が無理に続けているものだ。友としてもこのまま打ち切るには都合のいいタイミングだ。
だが、俺の予想に反し、友は自分から思い出話しをし始めた。
「・・・思い出すな。あの日もお前達は・・・別れを惜しみながら話していたよな」
それは俺達が三本角の鬼を倒してから更に一年後、今から三年前の話しだった。
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