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04 三本角の鬼 ②
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あの日、俺と友は三本角の鬼に立ち向かったが、まるで相手にならなかった。
その鋼鉄の体には俺達の剣は傷一つつけられず、なすすべもなく叩き伏せられたのだ。
だが、俺達も無策で挑んだわけではない。
三本角の鬼には一つだけ弱点がある。
泳げないのだ。
その巨体と硬い体では浮く事ができないため、水に沈めれば倒す事は可能なのだ。
だから俺達は、崖っぷちまで鬼を誘い込んで戦ったのだ。
しかし、問題は鬼をどうやって崖から落とすかだ。
当初は勝てないまでも、もう少し善戦できると思っていた。捨て身になれば崖から落とすくらいはできるだろうと。
だが圧倒的な力の差に、俺達はなにもできず倒されていた。
いよいよ俺達もお終いかと、そう覚悟を決めた時、鬼の顔に石がぶつけられ鬼の注意が俺達から逸れた。
俺達も石が飛んできた方向に顔を向けると、俺達から少し離れた場所になぜか村長の娘がいて、手にした籠には石を沢山詰めていたのだ。
今となっては、なぜ村長の娘があの危険な場所に来たのか?真相は分からない。
だが、あの時村長の娘は鬼に対して、出て行け!来るな!と言った怒鳴り声を上げていた。
そこから考えうる動機は、おそらく村を護るという正義感にかられての事だろう。
俺達に期待はしていたと思う。
だが、一方的にやられている姿を見て、耐えられず飛び出してしまったのだろう。
ふがいない俺達の責任だ。
「・・・そして村長の娘は三本角の鬼に殺された。娘を殺して背中を向けている隙に、俺とお前で無我夢中で体当たりをして、なんとか鬼を崖から落とす事に成功したんだったな・・・」
回想を終え、俺は正面に座る友に目を向けた。
友は顔を逸らして目を伏せている。
したくない話しをされて怒っているかと思ったが、意外にも落ち着いた顔付きだった。
「・・・それで?話は終わりか?」
俺が言葉を続けずにいると、友がゆっくりとこちらに向き直った。
そしてグラスに入った酒を口に含み、静かに言葉を切り出した。
「・・・いや、まだだ」
俺も酒を一口だけ含む。
「そうか、それでなんだ?お前はその話しをする事で、俺に何を伝えたかったんだ?俺の聞きたくない話しを聞かせたんだ。なにかあるんだろ?」
今度はグラスに残った酒を一気に煽る。
一口で飲み干すには強い酒だ。だが、落ち着いているように見えて、今の友はかなり感情的になっているらしい。
「怒らないで聞いてほしい。俺は、あの時の事を今もずっと後悔している。あの時、あの子に向かって行く鬼に、なぜ立ち向かえなかったのか・・・あの子の盾になってやればって・・・」
テーブルが強く叩かれ、友が俺を睨み付ける。勢いそのままに身を乗り出し、俺の胸倉を掴み上げた。
その目にはハッキリとした怒りの炎が見え、今にも殴り飛ばされるかと思うほどだった。
「ぐだぐだ言ってんじゃねぇよ!俺は割り切った!てめぇもいつまでも引きずってんじゃねぇよ!あの時俺達にはどうする事も出来なかった!誰がいてもあの子は助けられなかったんだよ!」
俺は、俺の胸倉を掴む友の腕を掴んだ。
力を込めて引き離すと、怒りに満ちた友の表情に驚きが浮かんだ。
俺が強く反応すると思ってなかったのだろう。
「・・・そうかもしれない、だが、俺が言いたいのは、心の問題だ。俺達はあの時立ち向かえなかった。あの子が殺されて、次は自分の番だと肌で感じた時、自分達の命が危険にさらされて、やっと体を動かせたんだ。俺達はあの子のために動けなかったんだ。あの子は俺達のために石を投げてくれたのに・・・友よ、お前もそれが分かっているから、この話しをしたくなかったんだろ?自分の弱さ、そして卑怯な言い訳をしてしまった自分を見ないようにするために」
俺は友の目を真っ直ぐに見て、この四年間抱え込んできた言葉をハッキリと告げた。
友は唇をわなわなと震わせ、その目が俺から外される。
明らかに動揺が見て取れる。
あの日、村へ帰った俺達は、村長へ娘の亡骸を渡し、事の一部始終を告げた。
俺達は嘘はつかなかった。
だが、娘が鬼に襲われた時、恐怖で体が動かなかった事は話せなかった。
村長は俺達を責めなかった。
ただ、泣き崩れるだけだった。
他の村人達からは、自分を責めないでと労わりの言葉までかけられ、俺達はいたたまれなくなって、そのまま逃げるように村を後にした。
その鋼鉄の体には俺達の剣は傷一つつけられず、なすすべもなく叩き伏せられたのだ。
だが、俺達も無策で挑んだわけではない。
三本角の鬼には一つだけ弱点がある。
泳げないのだ。
その巨体と硬い体では浮く事ができないため、水に沈めれば倒す事は可能なのだ。
だから俺達は、崖っぷちまで鬼を誘い込んで戦ったのだ。
しかし、問題は鬼をどうやって崖から落とすかだ。
当初は勝てないまでも、もう少し善戦できると思っていた。捨て身になれば崖から落とすくらいはできるだろうと。
だが圧倒的な力の差に、俺達はなにもできず倒されていた。
いよいよ俺達もお終いかと、そう覚悟を決めた時、鬼の顔に石がぶつけられ鬼の注意が俺達から逸れた。
俺達も石が飛んできた方向に顔を向けると、俺達から少し離れた場所になぜか村長の娘がいて、手にした籠には石を沢山詰めていたのだ。
今となっては、なぜ村長の娘があの危険な場所に来たのか?真相は分からない。
だが、あの時村長の娘は鬼に対して、出て行け!来るな!と言った怒鳴り声を上げていた。
そこから考えうる動機は、おそらく村を護るという正義感にかられての事だろう。
俺達に期待はしていたと思う。
だが、一方的にやられている姿を見て、耐えられず飛び出してしまったのだろう。
ふがいない俺達の責任だ。
「・・・そして村長の娘は三本角の鬼に殺された。娘を殺して背中を向けている隙に、俺とお前で無我夢中で体当たりをして、なんとか鬼を崖から落とす事に成功したんだったな・・・」
回想を終え、俺は正面に座る友に目を向けた。
友は顔を逸らして目を伏せている。
したくない話しをされて怒っているかと思ったが、意外にも落ち着いた顔付きだった。
「・・・それで?話は終わりか?」
俺が言葉を続けずにいると、友がゆっくりとこちらに向き直った。
そしてグラスに入った酒を口に含み、静かに言葉を切り出した。
「・・・いや、まだだ」
俺も酒を一口だけ含む。
「そうか、それでなんだ?お前はその話しをする事で、俺に何を伝えたかったんだ?俺の聞きたくない話しを聞かせたんだ。なにかあるんだろ?」
今度はグラスに残った酒を一気に煽る。
一口で飲み干すには強い酒だ。だが、落ち着いているように見えて、今の友はかなり感情的になっているらしい。
「怒らないで聞いてほしい。俺は、あの時の事を今もずっと後悔している。あの時、あの子に向かって行く鬼に、なぜ立ち向かえなかったのか・・・あの子の盾になってやればって・・・」
テーブルが強く叩かれ、友が俺を睨み付ける。勢いそのままに身を乗り出し、俺の胸倉を掴み上げた。
その目にはハッキリとした怒りの炎が見え、今にも殴り飛ばされるかと思うほどだった。
「ぐだぐだ言ってんじゃねぇよ!俺は割り切った!てめぇもいつまでも引きずってんじゃねぇよ!あの時俺達にはどうする事も出来なかった!誰がいてもあの子は助けられなかったんだよ!」
俺は、俺の胸倉を掴む友の腕を掴んだ。
力を込めて引き離すと、怒りに満ちた友の表情に驚きが浮かんだ。
俺が強く反応すると思ってなかったのだろう。
「・・・そうかもしれない、だが、俺が言いたいのは、心の問題だ。俺達はあの時立ち向かえなかった。あの子が殺されて、次は自分の番だと肌で感じた時、自分達の命が危険にさらされて、やっと体を動かせたんだ。俺達はあの子のために動けなかったんだ。あの子は俺達のために石を投げてくれたのに・・・友よ、お前もそれが分かっているから、この話しをしたくなかったんだろ?自分の弱さ、そして卑怯な言い訳をしてしまった自分を見ないようにするために」
俺は友の目を真っ直ぐに見て、この四年間抱え込んできた言葉をハッキリと告げた。
友は唇をわなわなと震わせ、その目が俺から外される。
明らかに動揺が見て取れる。
あの日、村へ帰った俺達は、村長へ娘の亡骸を渡し、事の一部始終を告げた。
俺達は嘘はつかなかった。
だが、娘が鬼に襲われた時、恐怖で体が動かなかった事は話せなかった。
村長は俺達を責めなかった。
ただ、泣き崩れるだけだった。
他の村人達からは、自分を責めないでと労わりの言葉までかけられ、俺達はいたたまれなくなって、そのまま逃げるように村を後にした。
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