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理太郎

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1275 ジャロン・リピネッツの自信

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「ぐっ・・・はぁ、ふぅ・・・くそっ!危なかった・・・」

影の四人衆アンディ・ルースが動かなくなった事を確認すると、カルロス・フォスターは片膝を着いた。

右腕は切断され、左腕には五つも穴が空けられている。脳天に突き刺さる強烈な痛み、そして出血の多さに意識が遠くなる。

勝つには勝った。だが最後の瞬間、アンディが五本の指をカルロスの右腕ではなく、首や心臓を狙って撃っていたとしたら、どうなっていたか分からない。
しかしアンディ・ルースの過剰なまでの自信、そして加虐(かぎゃく)的な性格が、結果として仇となった。

「カ、カルロス副団長!」
「大丈夫ですか!?」
「おい!白魔法使いを呼べ!早くしろ!」

戦いを見ていた兵士達が駆け寄り、大きな声を上げる。だがカルロスに言葉を返す余裕はなく、前のめりに倒れそうになった。その時・・・・・


「おっと、これは酷いな。すげぇやられたね?カルロスさん」

スっと伸びた腕が、倒れそうになったカルロスの腕を支えた。

「うっ・・・はぁ、はぁ・・・お、前は・・・」

聞き覚えのある声に、浅い呼吸を繰り返しながら顔を向ける。
そこにいたのは、一見すると少年と見紛う男だった。

「待ってな、すぐに治してあげるよ」

少し長めの赤茶色の髪、小顔で丸みのある目元にはあどけなさが見える。ダークブラウンのパイピングがあしらわれた白いローブを羽織っているその男は、四勇士エステバン・クアルトである。

左腕でカルロスの体を支えながら、右手をカルロスの左腕に当てる。すると淡く光る癒しの魔力が、カルロスの傷口をみるみるとふさぎ始めた。

「ク、クアルト・・・お前が来たのか」

「うん、昨日すごい爆発があったよね?中間地点まで伝令が来て、だいたいは聞いたよ。負傷者の数がヤバそうだったから、白魔法使いの僕が来たんだ。外から見れば分かるけど、パウンド・フォーの形が変わってたよ。はい、左腕は終わったよ、あ、そこのキミ、カルロスさんの右腕持ってきて。うん、そこに落ちてるでしょ」

「はぁ、はぁ・・・そうか・・・お前、だけか?」

「ん?ああ、僕だけじゃないよ。もう一人・・・あ、はいはい、ありがとう。カルロスさん、すげぇ血が出てるから先に腕くっつけちゃうね?」

兵士の一人が切断されたカルロスの右腕を持ってくると、受け取ったクアルトは切断面を合わせて、ヒールをかけた。

「うっ・・・」

「はいはい、ちょっと待ってね、すぐくっつきますんで」

切断された部位を繋げることは、非常に高度な治療である。本来であれば、王宮使えの白魔法使いが数人で行うものだが、クインズベリーで最も優れた白魔法使い、四勇士のエステバン・クアルトは、一人でやってのけるだけの力がある。

ほんの数分でカルロスの右腕を繋げて見せると、周囲で見守っていた兵士達が歓声を上げた。

「はぁ、はぁ・・・クアルト、すまんな、助かった」

「いやいや、これが僕の仕事なんですね。あ、でも失った血液だけは戻せないんで、これ飲んどいてください」

そう言ってローブの内側から取り出したのは、10センチ程度の細い筒にはった赤い液体だった。
それは充血剤(じゅうけつざい)と言って、失われた血を補う薬である。

カルロスが薬を受け取り飲み込むと、クアルトは満足そうにうなずいた。

「はい、じゃあこれで終わりね。カルロスさん、分かってると思うけど、あなたしばらくは戦えないんで、安静にしててください」

ヒールで怪我は治せても、消耗した体力や失われた血は戻せない。
カルロスのダメージを考えれば、数日は休養が必要だった。


「はぁ・・・はぁ・・・ああ、俺も、足手まといに・・・なる、つもりはない。クアルト、あとは、任せる・・・」

多くの血を失ったからか、青白い顔を向けるカルロスに、クアルトは、分かった、と言葉を返した。

「そうそう、ここに来たもう一人の四勇士だけどさ、青魔法のフィゲロアだよ。あいつは敵のボス、師団長のジャロン・リピネッツの元に向かってる。フィゲロアなら大丈夫だと思うよ、だからあとの事は任せてゆっくり休みなよ」

「・・・そう、だな・・・・・」

カルロスがそう一言だけ答えると、近くにいた兵士達がカルロスの体を支えて、ゆっくりとこの場を離れて行った。ここはカルロスとアンディの戦いで、天幕は剥がされ、砕かれた地面の砂や石で荒れている。
どこかゆっくりと、体を休める場所へと連れて行ったのだろう。


兵士に体を支えられながら、小さくなっていくカルロスの後ろ姿を見送ると、エステバン・クアルトは両手を打ち合わせて声を上げた。

「はい!じゃあみんな突っ立ってないで仕事に戻ってねー!あ、そこのキミは役職あるよね?今現在の戦況を教えてよ、ここからは僕が采配するからさ」






クインズベリー軍の拠点に送り込んだ影の四人衆が、全滅したと報せを受けた時、ジャロン・リピネッツとトリッシュ・ルパージュの反応は、どちらも冷めたものだった。

だが、まだ人間味があったのは、一度しか面識のないトリッシュの方だった。

「え?全滅?それ、本当なの?・・・へぇ、ジャロン団長、あなたの忠実な部下が死んじゃったみたいですよ?ずいぶん目をかけていたみたいですけど、あっけないものですね」

影の四人衆が戦場に出て、ほどなくしての報告だっただけに、トリッシュには多少の驚きはあった。
だがジャロン・リピネッツにはそれすら無かった。

「そうか、ならばもう俺が出るしかないか」

「え?それだけ?・・・へぇ・・・ジャロン団長、あの四人にけっこう思い入れありそうでしたけど?」

「思い入れ?・・・そうだな、あいつらを手に入れるために、時間と金はかかったな。そういう意味では確かに思い入れはある。一応四人で三千から四千の兵は削ったようだが、期待外れだったな。まぁ、クインズベリーが俺の想定を上回る戦力を持っていたという事だ」

自分のためだけに動く、絶対の忠誠心を持った四人衆を失ったにも関わらず、ジャロン・リピネッツの反応はあまりにも淡泊なものだった。
率直に言えば、どうでもいい、そうとしか思えない程、関心の無い態度だった。
トリッシュもここまでだとは思っていなかったのか、怪訝な表情を見せるが、ジャロンは淡々と言葉を続けた。

「副団長のバージルも、影の四人衆も失った今、このまま戦闘を続ければこちらが負けるだろう。あっちには力のある兵が多そうだからな。だが確固撃破をすれば話しは別だ」

「確固撃破、ですか?それはつまり、影の四人衆を倒した連中を一人一人潰していくって事ですか?」

総力戦を続ければ帝国軍が不利だ。
だが力のある者を一人づつ潰していけば、まだ逆転できる。そして自分ならばそれが可能だ。

「そうだ。俺にはそれができる。クインズベリーには手練れが多いようだが、一対一なら絶対に俺が勝つ。手始めにあいつから始末してやろう」

ジャロンはトリッシュには目を向けず、真っすぐに前だけを見て答えた。
トリッシュがその視線の先を追って見ると、樹々の間から、目つきの悪いずる賢そうな男が歩いて来た。

青いローブを身にまとい、クセの強そうな茶色い髪を後ろに縛っているその男は、青魔法使いの四勇士ライース・フィゲロアだった。


「よぉ、お前か?ジャロン・リピネッツってのは?ぶっ殺しに来てやったぞ」

フィゲロアは不敵な笑みを浮かべながら、ジャロン・リピネッツを睨みつけた。
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