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1272 リカルド&ユーリ 対 グレゴリオ

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影の四人衆、グレゴリオ・モンティエルは目を剥いた。

たった今、潜った兵士の影の中から飛び出したのだが、まるで待っていたかのように矢が差し迫ってきたからだ。


な、なんだと!?このタイミング、ありえん!まさか俺の動きを読んでいたと言うのか!?
バカな!できるわけがない、だがどうする!?この距離ではかわす事はできない、このままではッ!
ぐ、うぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーっ!

グレゴリオの爪先が影から飛び出るのとほぼ同時に、リカルドの放った矢がグレゴリオの右肩に突き刺さった。


「ッ!・・・ちっ、面倒くせぇな」

リカルドは舌を打った。自分の放った矢はグレゴリオに確かに刺さった。
だが狙い通りなら顔面を貫くはずだったその矢を、グレゴリオは顎を挟むように肩を上げ、肩に矢を刺さらせる事で致命傷を回避したのだ。

躱す事もできず、腕を上げて振り払う事も間に合わない。辛うじてできた防御手段がこれだった。


「ぐっ、くそっ!」

右肩に突き刺さった矢を引き抜き、グレゴリオは矢が飛んで来た方を睨みつけた。
自分に矢を放った者が誰かはすぐに分かった。数十メートル程先に、緑色の髪をして弓を構えている小柄な男だ。まだ少年のようなあどけなさを残しているが、その目は鋭く、グレゴリオを完全に捉えている。

「あいつか!」

自分に矢を突き刺した男を認識し、グレゴリオの目に怒りの炎が宿る。


矢で刺された事で、グレゴリオの動きが数秒だが停止していた。
たった今まで殺戮(さつりく)の限りを尽くしていたグレゴリオが、突然横から飛んで来た矢で射抜かれた事で、クインズベリー軍の兵士達も足を止めてしまった。だがすぐに状況を理解し一斉に仕掛けた!

「今だッ!」
「ウォォォォォーーーーーー!」
「くらえぇぇぇーーーーーッ!」

体力型の兵士が斬りかかり、黒魔法使いが風や氷の魔法を撃ち放つ!

だが影の四人衆は、影さえあれば無敵といっていい力を発揮する。

クインズベリーの兵士達に囲まれ、一斉攻撃を繰り出された状態にもかかわらず、その動きは実に落ち着いたものだった。
慌てず冷静に、そして素早く手近な兵士の影に触れると、煙に消えるかのように一瞬にしてその影の中に潜り込んだ。

「くそっ!また消えたぞ!」
「今度はどこだ!?」

攻撃が外され兵士達が辺りを見回す中、グレゴリオはすでに周囲の影と影を移り渡りながら、自分を撃った緑色の髪の弓使いに向かって行った。



「野郎、こっちに向かってやがる」

一撃で仕留めるつもりだったが手負いにしてしまった。
土の精霊の力まで借りたのに、無様な姿を見せてしまったとリカルドは眉間にシワを寄せた。

グレゴリオは人、樹、岩の影を、高速で移動しながら向かって来ている。
肩を刺された事で警戒心が増しているのか、影から飛び出す時も姿勢を低く頭を下げ、近距離の影を刻むように移っている。そして出て来たと思った次の瞬間には、次の影に飛び込んでいる。
これだけ早い動きに対して、矢で狙いを付ける事は至難の業だった。

「ちっ、くそ面倒くせぇな!あっちこっち飛び回りやがって!」

的を絞らせないようにするため、縦横無尽に飛び回りながら、徐々に距離を詰めて来るグレゴリオに、リカルドが舌を打つ。

「リカルド、大丈夫。惜しかったけど狙いは完璧だった。次は大丈夫」

「当たり前だろ?俺を誰だと思ってんだよ?本当は一発でも良かったんだ、きっちり決めてやんよ」

ユーリが落ち着かせるように声をかけると、リカルドは心外だとでも言うように、真顔でユーリに言葉を返し、流れるような動きで弓を構え矢をつがえた。

「おう、土の精霊よぉ、見せてやろうぜ。俺らの力を」

再び目を閉じて、精神を集中させる。
すると、肉眼では追い切れない程のスピードだったグレゴリオの動きが、まるで手に取るように読める。

右・・・左・・・三歩分後ろ、次は斜め左、そこから右に跳んで・・・・・


「そこだハゲェェェェェーーーーーーーーーッツ!」


グレゴリオが岩影から頭を出したその瞬間だった。

グレゴリオの目に矢尻が映り、グレゴリオがそれを矢と認識しかたどうか、それほどの刹那の一瞬の後、リカルドの放った矢はグレゴリオの右目を抉り、そのまま後頭部を貫いた。

そのまま矢の勢いに押され、影の中から引っ張り出されるように地上に飛び出ると、グレゴリオはその体を地面に投げ出された。


「ふぅ・・・どうよ、ユーリ?どんなもんよ?」

頭の下に血だまりを作り、ビクビクと全身を痙攣させるグレゴリオを一瞥すると、リカルドは腰に手を当て胸を張りながら、ニヤニヤとユーリに顔を向ける。

「・・・弓の腕はすごかった。それは認める。でも顔が気持ち悪い。ニヤニヤしないで」

「・・・・・は?・・・・・はぁぁぁぁぁぁーーーーーー!?お、おまっ!それが一生懸命戦った男に言う言葉かよ!?取り消せよ!俺のどこが気持ち悪ぃってんだよ!」

「顔」

「お、おまっ!お前!ふざけんなよ!ふっざけんな、うおっ!?」
「どいて!」

ユーリは額に青筋を浮かべてわめき散らすリカルドの肩を掴むと、ぐいっと横に押し退けた。

「ガァァァァァァァーーーーーーーーッツ!」

背中に聞こえた猛獣のような叫びにリカルドが振り返ると、右目に矢が突き刺さったままのグレゴリオが、抉られた右目から真っ赤な血を撒き散らしながら、両手を前に出して掴みかかってきた!


リカルドの放った矢は、グレゴリオの右目から後頭部まで貫いている。
生きているはずがない。完全に殺したはずだ。その混乱がリカルドを硬直させた。

「しまっ・・・!」

反撃も防御も間に合わない。そう悟った時、リカルドの脇から飛び出したのはユーリだった。

「ヤァァァァァァーーーーーーーッツ!」

掴みかかろうとするグレゴリオの両手をかいくぐり、ユーリの右の拳がグレゴリオの顔面にめり込んだ。
そしてその小さな拳に伝わってくる骨が砕ける感触とともに、ユーリはグレゴリオを殴り飛ばした!

華奢な女の子が振り抜いた拳が、大柄な男を宙に浮かせる。それは衝撃的な光景だった。

グレゴリオは十数メートルは遠くまで飛ばされ、そのまま頭から地面に落下すると、首が本来曲がらない方向に曲がり、それきり動かなくなった。


「ふー、危なかった。リカルド、油断しちゃダメだよ?頭を撃ち抜いても即死しない事もあるって、前に店長から聞いた事がある。分かった?」

今度こそ決着を確信すると、ユーリはくるっと振り返って、ビシっとリカルドに指先を突き付けた。

「・・・お、おう。き、気をつける」

ユーリのパンチのあまりの威力、リカルドは何も反論ができず、余計な事を言わずに素直にうなずく事にした。

「ん、分かればいい」

拳から血を滴らせながら、ニッコリほほ笑むユーリを見て、リカルドはひきつった笑いを浮かべた。

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