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1269 青魔法使いの自信と挑発
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「ぐあぁぁぁぁぁーーーーーー!」
また一人、致命傷を負わされた兵士の叫び声が耳に届いた。
「な、なんなんだこいつは!?」
「このっ!ぐ、うぐぁぁぁっ!」
ここはレイチェルがバーフラムと戦った場所とは反対方向、拠点を中心に見ると南方面の戦線である。
ここでクインズベリー軍は帝国軍と交戦していた。
万全の編成を組み、帝国軍との戦いに臨んでいた。戦況は途中までは互角だった。
だがその拮抗を破ったのは、たった一人の男だった。そいつは突然クインズベリー軍の中に現れた。
一切の気配を感じさせず、いつの間にか溶け込むように軍の中に入り込んでいたその男は、あっという間に何人もの兵達を葬り去ったのだ。
実害が出て初めて敵の侵入に気付いたクインズベリー軍だったが、大きな動揺はなかった。
不測の事態への備え、想定外の状況に立った時、平常心を失わないように訓練をしてきたからである。
訓練された兵達は取り乱さず、冷静に体勢を立て直した。
だが相手はあまりにも異質過ぎた。
「この野郎!また消えやがった!どこだ!?どこに隠れたぁぁぁーーーーっ!」
「うわぁぁぁーーーーー!」
「落ち着け!同士打ちになるぞ!」
煙のように消え、そして音もなく現れる。気が付いた時には仲間が一人、また一人と血を流して倒れている。それは何度も何度も繰り返された。
雪の山中はクインズベリー軍の兵士が流した血で真っ赤に染まり、死体の山が積み上がっていく。
最初こそ落ち着いて攻撃に備えていた兵士達だが、徐々に崩れ始める者が出て来た。
正面から戦って死ぬのならまだいい。少なくとも立派に戦ったという誇りは持てる。
だが背後から刺されて死ぬのでは、戦うどころの話しではない。仲間がみんないつの間にか殺されているのだ。
・・・次は自分の番なのか?
心の弱い者から徐々に精神を削られ、クインズベリー軍の防衛戦は崩れていった。
「くそっ!このままでは!」
この部隊を指揮する部隊長の男は、焦りを隠せなくなっていた。
敵はこの消える男一人ではない。数千人は数える帝国の兵士達が目の前にいるのだ。
今はまだ前線に出ている兵達が持ちこたえている。
だがどうやったのか分からないが、この陣地の内部に入り込んだたった一人の男によって、今クインズベリー軍は内部から崩壊させられようとしていた。
「部隊長、ちょっと落ち着いて。あなたが慌てたら勝てる者も勝てないですよ」
「な、なんだお前は?」
ふいに背中にかけられた声に振り返ると、そこには明るいベージュ色の髪を風になびかせた、青いローブ姿の女が立っていた。
「あ、やっぱりレイチェル意外は印象薄いのかな?アタシはレイジェスのケイト・ハワード。青魔法使いです。戦いが始まったんでこっちの応援に来たんですよ」
「ん、ああ、レイジェスか、いやお前達の情報はもらっている。腕が立つと言うが、しかしこの状況で何かできるのか・・・敵の攻撃が全く見えないんだ。いや、気が付いたら仲間が殺られている。あまりにも早過ぎて反撃が全く追いつかないんだ。このままでは・・・」
部隊長が眉間にシワを寄せて戦況を説明する。
ケイトも口を挟む事なく黙って最後まで聞いたが、何かを思いついたように両手を叩き合わせた。
「なるほど!そういう敵なら青魔法使いが相性いいと思いますよ。アタシに任せてください」
背中に聞こえる仲間の悲鳴に振り返るが、敵の姿は影も形も無くなっていた。
姿が見えたのは最初の一瞬だけだった。いつの間にか自軍の中に入り込んでいたあの男は、瞬く間に大勢の仲間を切り殺していった。次々に倒れていく仲間達の死体を見て、クインズベリーの兵士達は戦意を失いかけていた。
「あ・・・あぁ・・・も、もう無理だ、なんだよこいつ、早過ぎる・・・も、もう・・・」
この年の若い兵士は、目の前で仲間の首が斬り裂かれ、返り血を顔面に浴びてしまった。
もうダメだ・・・次は自分の番だ・・・・・
絶望が心をしめたその時、突然背後に現れた殺気に振り返った。
そこには・・・・・
「フッ、貴様らクインズベリーは雑魚ばかりだな」
年齢は三十代半ばくらいだろう。さっぱりと清潔感のある短い金髪、堀の深い顔立ち、長身で均整のとれた体付きのその男は、漆黒の鎧を身に着けていた。
右手には短剣を握っており、それは今まさに目の前の若い兵士の胸に振り下ろされようとしていた。
恐怖に身を縛られた若い兵士に、抵抗などできるはずがない。
「死ね」
まるで道端のゴミでも見るような冷たい目でそう告げると、漆黒の鎧の男は短剣を振り下ろした。
・・・しかし、漆黒の男のナイフが、若い兵士の胸を抉る事はなかった。
なぜなら青く輝く結界が、短剣を刃を受け止めていたからだ。
「おっと、危ない危ない」
「・・・結界だと?」
場にそぐわない明るい声を出す女性は、若い兵士の前に飛び出し、間一髪結界を張ったのだ。
仕留められたと思ったこのタイミングで止められた事に、漆黒の鎧の男の眉間が強く寄せられ、表情が険しくなる。だがすぐに冷静さを取り戻すと、後ろに地面を蹴って距離をとった。
「・・・貴様、ただの青魔法使いじゃないな?何者だ」
漆黒の鎧の男は、目の前の明るいベージュ色の髪の女に短剣を差し向ける。
「アタシはリサイクルショップレイジェスのケイト・ハワード。あんたの曲芸はここまでだよ」
ケイトは右手の平を前に出し、結界を維持したまま漆黒の鎧の男の問いに答える。
「リサイクルショップ、だと?ふざけているのか?」
「いや、大真面目なんだけど?あんたの相手はアタシがしてやるよ」
平然と言葉を返すケイトに、漆黒の鎧の男の目が吊り上がる。
「まぐれで今の一撃を止めた程度で、調子に乗っているようだな?この影の四人衆、ルーベン・マドリモフをなめるな!」
叫び声を上げると、ルーベンは固く握った短剣をさらに強く握りしめた。
また一人、致命傷を負わされた兵士の叫び声が耳に届いた。
「な、なんなんだこいつは!?」
「このっ!ぐ、うぐぁぁぁっ!」
ここはレイチェルがバーフラムと戦った場所とは反対方向、拠点を中心に見ると南方面の戦線である。
ここでクインズベリー軍は帝国軍と交戦していた。
万全の編成を組み、帝国軍との戦いに臨んでいた。戦況は途中までは互角だった。
だがその拮抗を破ったのは、たった一人の男だった。そいつは突然クインズベリー軍の中に現れた。
一切の気配を感じさせず、いつの間にか溶け込むように軍の中に入り込んでいたその男は、あっという間に何人もの兵達を葬り去ったのだ。
実害が出て初めて敵の侵入に気付いたクインズベリー軍だったが、大きな動揺はなかった。
不測の事態への備え、想定外の状況に立った時、平常心を失わないように訓練をしてきたからである。
訓練された兵達は取り乱さず、冷静に体勢を立て直した。
だが相手はあまりにも異質過ぎた。
「この野郎!また消えやがった!どこだ!?どこに隠れたぁぁぁーーーーっ!」
「うわぁぁぁーーーーー!」
「落ち着け!同士打ちになるぞ!」
煙のように消え、そして音もなく現れる。気が付いた時には仲間が一人、また一人と血を流して倒れている。それは何度も何度も繰り返された。
雪の山中はクインズベリー軍の兵士が流した血で真っ赤に染まり、死体の山が積み上がっていく。
最初こそ落ち着いて攻撃に備えていた兵士達だが、徐々に崩れ始める者が出て来た。
正面から戦って死ぬのならまだいい。少なくとも立派に戦ったという誇りは持てる。
だが背後から刺されて死ぬのでは、戦うどころの話しではない。仲間がみんないつの間にか殺されているのだ。
・・・次は自分の番なのか?
心の弱い者から徐々に精神を削られ、クインズベリー軍の防衛戦は崩れていった。
「くそっ!このままでは!」
この部隊を指揮する部隊長の男は、焦りを隠せなくなっていた。
敵はこの消える男一人ではない。数千人は数える帝国の兵士達が目の前にいるのだ。
今はまだ前線に出ている兵達が持ちこたえている。
だがどうやったのか分からないが、この陣地の内部に入り込んだたった一人の男によって、今クインズベリー軍は内部から崩壊させられようとしていた。
「部隊長、ちょっと落ち着いて。あなたが慌てたら勝てる者も勝てないですよ」
「な、なんだお前は?」
ふいに背中にかけられた声に振り返ると、そこには明るいベージュ色の髪を風になびかせた、青いローブ姿の女が立っていた。
「あ、やっぱりレイチェル意外は印象薄いのかな?アタシはレイジェスのケイト・ハワード。青魔法使いです。戦いが始まったんでこっちの応援に来たんですよ」
「ん、ああ、レイジェスか、いやお前達の情報はもらっている。腕が立つと言うが、しかしこの状況で何かできるのか・・・敵の攻撃が全く見えないんだ。いや、気が付いたら仲間が殺られている。あまりにも早過ぎて反撃が全く追いつかないんだ。このままでは・・・」
部隊長が眉間にシワを寄せて戦況を説明する。
ケイトも口を挟む事なく黙って最後まで聞いたが、何かを思いついたように両手を叩き合わせた。
「なるほど!そういう敵なら青魔法使いが相性いいと思いますよ。アタシに任せてください」
背中に聞こえる仲間の悲鳴に振り返るが、敵の姿は影も形も無くなっていた。
姿が見えたのは最初の一瞬だけだった。いつの間にか自軍の中に入り込んでいたあの男は、瞬く間に大勢の仲間を切り殺していった。次々に倒れていく仲間達の死体を見て、クインズベリーの兵士達は戦意を失いかけていた。
「あ・・・あぁ・・・も、もう無理だ、なんだよこいつ、早過ぎる・・・も、もう・・・」
この年の若い兵士は、目の前で仲間の首が斬り裂かれ、返り血を顔面に浴びてしまった。
もうダメだ・・・次は自分の番だ・・・・・
絶望が心をしめたその時、突然背後に現れた殺気に振り返った。
そこには・・・・・
「フッ、貴様らクインズベリーは雑魚ばかりだな」
年齢は三十代半ばくらいだろう。さっぱりと清潔感のある短い金髪、堀の深い顔立ち、長身で均整のとれた体付きのその男は、漆黒の鎧を身に着けていた。
右手には短剣を握っており、それは今まさに目の前の若い兵士の胸に振り下ろされようとしていた。
恐怖に身を縛られた若い兵士に、抵抗などできるはずがない。
「死ね」
まるで道端のゴミでも見るような冷たい目でそう告げると、漆黒の鎧の男は短剣を振り下ろした。
・・・しかし、漆黒の男のナイフが、若い兵士の胸を抉る事はなかった。
なぜなら青く輝く結界が、短剣を刃を受け止めていたからだ。
「おっと、危ない危ない」
「・・・結界だと?」
場にそぐわない明るい声を出す女性は、若い兵士の前に飛び出し、間一髪結界を張ったのだ。
仕留められたと思ったこのタイミングで止められた事に、漆黒の鎧の男の眉間が強く寄せられ、表情が険しくなる。だがすぐに冷静さを取り戻すと、後ろに地面を蹴って距離をとった。
「・・・貴様、ただの青魔法使いじゃないな?何者だ」
漆黒の鎧の男は、目の前の明るいベージュ色の髪の女に短剣を差し向ける。
「アタシはリサイクルショップレイジェスのケイト・ハワード。あんたの曲芸はここまでだよ」
ケイトは右手の平を前に出し、結界を維持したまま漆黒の鎧の男の問いに答える。
「リサイクルショップ、だと?ふざけているのか?」
「いや、大真面目なんだけど?あんたの相手はアタシがしてやるよ」
平然と言葉を返すケイトに、漆黒の鎧の男の目が吊り上がる。
「まぐれで今の一撃を止めた程度で、調子に乗っているようだな?この影の四人衆、ルーベン・マドリモフをなめるな!」
叫び声を上げると、ルーベンは固く握った短剣をさらに強く握りしめた。
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