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1265 ズレ
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「ジャロン団長、今の四人は何ですか?」
ジャロン・リピネッツの前に膝を着いていた四人組がいなくなると、隣に立つトリッシュが顔を向けて問いかけた。
「バーフラム、ルーベン、グレゴリオ、アンディ、俺の直属の部下だ。バージルは副団長として第二師団に貢献していたが、あの四人は俺のためだけに動く存在だ」
「・・・そんなのがいたんですね?全然知りませんでした。やけに忠誠心が強そうでしたね?団長のためだけに動くって言いますけど、どういう関係なんですか?」
踏み込み過ぎかと思わないでもなかったが、トリッシュは昨日からの今日までジャロンの近くで行動して、ジャロン・リピネッツはよほどの事でなければ、聞けば答えると感じていた。
そしてトリッシュの思った通り、ジャロン・リピネッツは質問に平然と答えた。
しかしそれはトリッシュが思いもしなかった話しだった。
「ヤツらは俺が金で買った。師団長の座に着いた時、皇帝から就任祝いとして望みを聞かれたんだが、そこで俺は金をもらったんだ。あの四人は元々軍人ではなかったが、優れた力を持っていて目を付けていたんだ。俺が師団長の座に就いた時、絶対に裏切らない手駒が欲しかったからな」
「・・・絶対に裏切らないなんて、どうして言えるんですか?そんなの分かりませんよね?金で買ったんなら、もっと大金を積まれれば簡単に寝返るんじゃないんですか?」
「裏切らないさ。なんせ俺はあいつらの家族を助けてやったんだからな。帝国は国民に手厚い保障をしているし、浮浪孤児もいない。とは言っても商売で失敗して借金を抱えたり、本当に最低限の暮らししかできないヤツらも、少なからずいる事は確かだ」
そこでジャロンは一度言葉を切ると、眼下で始まった帝国対クインズベリーの戦いに目を向けながら話しを続けた。
「バーフラムは人の良い男だ。だがお人良しと言っていいくらいに良すぎたんだな。頼まれれば金を貸し、返ってこなくても催促もしなかったそうだ。そこに付け込まれてどんどん自分の家が貧しくなっていった。女房子供にもひもじい思いをさせてしまい、いよいよどうにもならなくなった時に俺が金を出して助けた。その上一家が立て直せるだけの援助もしてやったんだ。涙ながらに俺の手を取り、感謝の言葉を述べたあいつが裏切ると思うか?」
まさかそんな繋がりだとは思いもしなかったトリッシュは、さすがに驚きを隠せずに目を見開いた。
「他の三人も似たようなものだ。大切な誰かを護るために金がいる。しかし自分には金が無い。そんな時に手を差し伸べてくれた恩人を裏切るか?まぁいないとも言えんが、その辺りの人間性は前もって調べておいたからな、今のところ心配はしていない」
そこまで話すと、ジャロンは少しだけ顔を動かしトリッシュに目を向けた。
「あいつらは強いからな、他の仕事をしているより俺の下で戦った方がいいと思ってたんだ。恩返しがしたいと言うから丁度良かったよ」
「ジャロン団長・・・あなた、まさか?」
感情が顔に出ないジャロン・リピネッツの目に、微かに見えた歪な光。
それを見てトリッシュは悟った。
全てはあの四人を手に入れるために、ジャロン・リピネッツが仕組んだ事なのだと。
そしてそれに気が付いた時のトリッシュの反応は、人への関心が薄いジャロンでさえ少なからず驚かされるものであった。
「素晴らしいですね、ジャロン団長。目的のためには手段を選ばない、性根が歪んでますよ、私達気が合いそうですね」
瞳の奥に冷たい光をたたえながら、トリッシュは妖しく微笑んだ。
ここまでトリッシュは口が悪いながらも、部下として最低限の礼儀は守った態度をとっていた。
だがジャロン・リピネッツの話しを聞き終えると、仮初の礼節さえ取り払ったようだ。
「・・・急にずいぶんと雰囲気が変わるんだな?それが本性か?」
「そんな事はどうでもいいじゃないですか?元々口が悪かったんだし、些末な事ですよ。それよりジャロン団長の血も涙もないところは気に入りました。私も同類です。研究のためには情などいりませんよね?さぁ、一緒に見届けましょう。あなたに忠誠を誓ったあの四人が、どんな戦いをするのか」
「・・・そうだな」
ジャロン・リピネッツは短く一言だけ返した。
無礼な口ぶりを咎める事もしないため、トリッシュは機嫌が良さそうにジャロンの隣に立ったまま、帝国軍とクリンズベリー軍の戦いに目を向けていた。
トリッシュは一つ思い違いをしていた。
トリッシュは自分とジャロンが同類だと感じ、自分の本性をさらけ出して距離を縮めたつもりになった。
だがジャロン・リピネッツは違う。そもそも同類かどうかなど興味も無い。
あの四人に対しての自分の企てを喜んだり、突然雰囲気が代わった事には確かに少しばかり驚きは感じた。だがそれで気を許すだとか、心が揺れる事は無い。
だからジャロンにとってのトリッシュの存在意義は、なに一つとして変わっていないのだ。
・・・何を勘違いしているようだな。
まぁいい、利用価値のある間は好きにさせてやるさ。
冷めきった目で自分を見下ろすジャロンに、トリッシュが気が付く事はなかった。
ジャロン・リピネッツの前に膝を着いていた四人組がいなくなると、隣に立つトリッシュが顔を向けて問いかけた。
「バーフラム、ルーベン、グレゴリオ、アンディ、俺の直属の部下だ。バージルは副団長として第二師団に貢献していたが、あの四人は俺のためだけに動く存在だ」
「・・・そんなのがいたんですね?全然知りませんでした。やけに忠誠心が強そうでしたね?団長のためだけに動くって言いますけど、どういう関係なんですか?」
踏み込み過ぎかと思わないでもなかったが、トリッシュは昨日からの今日までジャロンの近くで行動して、ジャロン・リピネッツはよほどの事でなければ、聞けば答えると感じていた。
そしてトリッシュの思った通り、ジャロン・リピネッツは質問に平然と答えた。
しかしそれはトリッシュが思いもしなかった話しだった。
「ヤツらは俺が金で買った。師団長の座に着いた時、皇帝から就任祝いとして望みを聞かれたんだが、そこで俺は金をもらったんだ。あの四人は元々軍人ではなかったが、優れた力を持っていて目を付けていたんだ。俺が師団長の座に就いた時、絶対に裏切らない手駒が欲しかったからな」
「・・・絶対に裏切らないなんて、どうして言えるんですか?そんなの分かりませんよね?金で買ったんなら、もっと大金を積まれれば簡単に寝返るんじゃないんですか?」
「裏切らないさ。なんせ俺はあいつらの家族を助けてやったんだからな。帝国は国民に手厚い保障をしているし、浮浪孤児もいない。とは言っても商売で失敗して借金を抱えたり、本当に最低限の暮らししかできないヤツらも、少なからずいる事は確かだ」
そこでジャロンは一度言葉を切ると、眼下で始まった帝国対クインズベリーの戦いに目を向けながら話しを続けた。
「バーフラムは人の良い男だ。だがお人良しと言っていいくらいに良すぎたんだな。頼まれれば金を貸し、返ってこなくても催促もしなかったそうだ。そこに付け込まれてどんどん自分の家が貧しくなっていった。女房子供にもひもじい思いをさせてしまい、いよいよどうにもならなくなった時に俺が金を出して助けた。その上一家が立て直せるだけの援助もしてやったんだ。涙ながらに俺の手を取り、感謝の言葉を述べたあいつが裏切ると思うか?」
まさかそんな繋がりだとは思いもしなかったトリッシュは、さすがに驚きを隠せずに目を見開いた。
「他の三人も似たようなものだ。大切な誰かを護るために金がいる。しかし自分には金が無い。そんな時に手を差し伸べてくれた恩人を裏切るか?まぁいないとも言えんが、その辺りの人間性は前もって調べておいたからな、今のところ心配はしていない」
そこまで話すと、ジャロンは少しだけ顔を動かしトリッシュに目を向けた。
「あいつらは強いからな、他の仕事をしているより俺の下で戦った方がいいと思ってたんだ。恩返しがしたいと言うから丁度良かったよ」
「ジャロン団長・・・あなた、まさか?」
感情が顔に出ないジャロン・リピネッツの目に、微かに見えた歪な光。
それを見てトリッシュは悟った。
全てはあの四人を手に入れるために、ジャロン・リピネッツが仕組んだ事なのだと。
そしてそれに気が付いた時のトリッシュの反応は、人への関心が薄いジャロンでさえ少なからず驚かされるものであった。
「素晴らしいですね、ジャロン団長。目的のためには手段を選ばない、性根が歪んでますよ、私達気が合いそうですね」
瞳の奥に冷たい光をたたえながら、トリッシュは妖しく微笑んだ。
ここまでトリッシュは口が悪いながらも、部下として最低限の礼儀は守った態度をとっていた。
だがジャロン・リピネッツの話しを聞き終えると、仮初の礼節さえ取り払ったようだ。
「・・・急にずいぶんと雰囲気が変わるんだな?それが本性か?」
「そんな事はどうでもいいじゃないですか?元々口が悪かったんだし、些末な事ですよ。それよりジャロン団長の血も涙もないところは気に入りました。私も同類です。研究のためには情などいりませんよね?さぁ、一緒に見届けましょう。あなたに忠誠を誓ったあの四人が、どんな戦いをするのか」
「・・・そうだな」
ジャロン・リピネッツは短く一言だけ返した。
無礼な口ぶりを咎める事もしないため、トリッシュは機嫌が良さそうにジャロンの隣に立ったまま、帝国軍とクリンズベリー軍の戦いに目を向けていた。
トリッシュは一つ思い違いをしていた。
トリッシュは自分とジャロンが同類だと感じ、自分の本性をさらけ出して距離を縮めたつもりになった。
だがジャロン・リピネッツは違う。そもそも同類かどうかなど興味も無い。
あの四人に対しての自分の企てを喜んだり、突然雰囲気が代わった事には確かに少しばかり驚きは感じた。だがそれで気を許すだとか、心が揺れる事は無い。
だからジャロンにとってのトリッシュの存在意義は、なに一つとして変わっていないのだ。
・・・何を勘違いしているようだな。
まぁいい、利用価値のある間は好きにさせてやるさ。
冷めきった目で自分を見下ろすジャロンに、トリッシュが気が付く事はなかった。
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