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1255 目覚めて

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「・・・ぐ・・・うぅ・・・・・」

呻き声を上げて、赤い髪の女戦士レイチェル・エリオットは瞼を開けた。

「う・・・く・・・・・はぁ・・・はぁ・・・わ、私は・・・」

最初に目に映ったのは、薄暗い灰色の空だった。
ほんの数秒程度だが、そのまま空を見つめていると、ぼんやりとした頭が少しづつハッキリとしてきた。

頭や背中に感じる冷たい感触から、自分が地面に倒れている事を理解した。
腕を着いて上半身を起こそうとすると、ズキッと体のあちこちが痛んだ。そして頭からパラパラと落ちる砂や土、どうやら全身に砂や土を被っているようだ。

「はぁ・・・ふぅ・・・そうだ、あの爆発で私は、私達は・・・」

額に手を当て、今自分がおかれている状況、そしてなぜこうなったのかを思い起こした。




・・・あの時、前線で窮地に陥ったアルベルトを助けるために、レイジェスのメンバー達は走った。
だが途中まで足を進ませた時、突然アルベルトの大きな叫び声が聞こえて、足を止める事になった。

何があったと前方に目を向ける。まだある程度の距離はあったが、アルベルトが真紅の鎧を身に着けた、異形の男に体を締め上げられている事が確認できた。

そう、異形の男としか言いようがない。なぜならその男は、頭が割られ脳髄を垂れ流しながら立っているのだ。
どう見ても死んでいる。人間である以上、死んでいなければならない。だが立っていた。

前線の兵士達も少しづつ後退を始めている。そしてそれは帝国軍も同じだった。
アルベルトと異形の男を残し、両軍が距離を取り始めているのだ。

ざわめく兵士達の言葉が耳に入り、その原因が分かった。

間もなくあの異形の男は爆発する。
そう、まだ状況を把握しきれていないが、あの異形の男が死んでいる事は間違いないようだ。
だがどういうわけか立ち上がって力を振るっている。私達の知らない魔法で操っているのか、それとも魔道具か?原理は分からないが、すでに死んでいるあの男が、自爆してアルベルトを道連れにしようとしている事は分かった。

状況を理解した上でもう一度注意して前に目を向けると、異形の男の体内で凄まじいエネルギーが増大している事が感じ取れた。

魔法使いでなくとも分かる。
上級魔法さえ上回るであろう膨大なエネルギー。あれが解放されれば、いったいどれほどの被害になるだろうか?この山だって崩壊する事は想像に難くない。


兵士達が下がる事は当然だ、巻き込まれればただでは済まない。今のうちに敵を倒せばいいという話しでもない。あそこまで膨れ上がったエネルギーを内に抱えているんだ。少しの衝撃でも爆発しかねない。
言うなればあれはもう人ではない。人の形をした爆弾なのだ。


どうする?
アルベルトを助けるために走って来た。その気持ちは変わらない。だが力押しでなんとかできる状況でもなかった。無策で飛び掛かっても敵の自爆を誘発しかねない。策を練らねばならなくなった。


しかしそんな危険な状況下でも、ただ一人、兵士達が撤退する中でただ一人だけ残っている男がいた。
ゴールド騎士のレイマート・ハイランドである。

レイマートだけはまだ諦めていなかった。
逃げろと叫ぶアルベルトを必死に説得し、この状況を打破するために戦う姿勢を見せていた。

あれだけ近くにいれば、異形の男が内包するエネルギーがどれほどのものか、十分過ぎる程感じ取っているはずだ。まともに浴びればいかにゴールド騎士といえど、ただではすまない。
だが危険を承知の上でそこに留まるその姿に、レイチェル達は感じ入るものがあった。

一旦は止めてしまった足を動かし、レイチェル達は再び前へ走り出した。

具体的な策があるわけではない。だが自分達も加わる事で、なにか突破口が見つけられるかもしれない。
その思いだけで、後退してくる兵士達の波をくぐり抜けて走った。


だが遅かった。


レイマートに追いついたその時、突如異形の男の体が大きく膨れ上がった。
そして目も眩む強烈な光を発して・・・・・・・





「・・・そうだ、爆発したんだ・・・・・」

思い出した。
あの強烈な光が発せられた直後、物凄い衝撃を受けて意識が遠退いたんだ・・・・・

「・・・闘気を出していた事が幸いしたな・・・」

自分の両手に目を落とし、ぐっと握りしめる。
あの異形の男に突撃するつもりだったから、最初から闘気を出していた。爆発の瞬間も咄嗟(とっさ)に闘気を全開にして、防御に全力を尽くした。

さらに言えばアルベルトは闘気で異形の男を包み込み、そのエネルギーが外に漏れないように抑え込んでいた。

「そこまでやって、なんとか・・・というところか・・・」


立ち上がり、頭や体に乗っている土や砂を払い落とす。そしてゆっくりと辺りを見回した。

倒木した樹々、抉れた地面、あちこちから濛々(もうもう)と立ち上げる黒い煙、山は元の形など分からないくらい崩壊している。異形の男の自爆がどれだけすさまじい威力だったかを、まざまざと見せつけられた。

そして土砂に埋もれている、数えきれないほどの両軍の兵士達・・・・・

「・・・・・こんなに・・・」

ある者は大岩に潰され、またある者は消し炭のように黒く焼かれていた。無残な死体の山々にレイチェルは目を伏せた。

・・・・・いったいどれほどの犠牲を出した?千や二千ではきかないだろう。


「レイチェル」

あまりに凄惨な光景に立ち尽くしていると、ふいに背中に声がかけられた。
聞き覚えのある声に振り返ると、長い黒髪の女が、自分の背丈よりも長い得物を手に、ゆっくりと歩き近づいて来た。

「アゲハ!よかった、無事だったか」

「ああ、まぁ、無事と言えば無事だけど・・・まさか風の盾を破ってくるとは思わなかった。吹っ飛ばされて、山壁に思い切りぶつけられたんだ。結構けっこうしんどいよ)

得物を杖替わりに地面に立て、アゲハは頬をひきつらせた。

「そうか、私も似たようなものだ。まずはお互いに怪我を治療しよう。ユーリを見なかったか?」

「見てないが、爆発前にいた場所を考えると、多分あっちに飛ばされていると思う」

そういってアゲハは西の方角を指さした。

「そうか・・・よし、行くか」

「ああ、行こう」


二人はユーリがいると思われる方角に向かって、歩き出した。
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