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1250 かき乱される心

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クインズベリーが優勢に進めていた戦況は、一気にひっくり返った。

異形の左腕を身に着けたバージル・ビジェラの猛攻は凄まじく、屈強なクインズベリーの兵士達をもってしても、盾として耐える事すらできず、ボロ雑巾のように斬り裂かれ引きちぎられていった。

勢いづいた帝国の兵士達と、バージルに気圧されたクインズベリー軍では、気迫の差は歴然だった。
そして精神面で後れをとってしまえば、勝てるものも勝てなくなって当然だった。

「む、無理だ!あんなの勝てるわけねぇって!」
「だ、ダメだ!このままじゃ殺される!」

「ひ、怯むな!ここで我々が下がるわけにはいかんのだ!」

前線で戦う体力型の兵士達が一歩、また一歩と後ろに下がり始める。部隊長の男が声を上げるが、恐怖にかられた兵達の耳には届かない。


「くっくっく!こんなもんかよ?こんなもんかよクインズベリー?情けねぇなぁぁぁ!びびってんならそのまま死ねよ!」

もはや自分に対して向かってくる事さえできないクインズベリー兵士を見て、バージル・ビジェラはえも言えぬ精神の高揚を感じていた。

体力型としてずばぬけた腕力を持っていたバージルは、その腕一本でこの地位まで上がってきた。だからこそ腕力に関しては大きな自信を持っていた。だがこの左腕はそんなバージルからしても、異常な程のパワーだった。

例えるならば耳元で飛び回る虫を追い払う。その程度の感覚でふるっただけなのに、兵士の体は真っ二つに引き裂かれてしまった。最初こそこの左腕の驚異的なパワーに感動さえ覚えた。だがここまで極端に強い力では、日常生活はとてもまともにおくれないだろう。スープを入れるための皿なんて、触れただけで割ってしまうのではないか?


バージルは異形と化した、己の左手に目を落とした。

左の肩口から生えている新たな左腕は、赤黒い筋繊維が剥き出しになっている。
皮膚は無いが痛みは感じない。操作も問題なく、自分の意思通りに動かす事はできる。
だが前述の通り力加減は非常に難しい。そして異物感は大きかった。痒みや痛みがあるわけではないが、まったく馴染んでいない。魔道具を取り付けた時から感じていたが、自分の物ではない何かが植え付けられている。その感覚がずっと残っていて一向に落ち着かない。

元々が四肢を失った者の補助のために作られた魔道具だった。だがこれでは明らかに失敗作だ。開発が中止になった事は当然だろう。

しかし戦闘の道具だと考えれば、これは強力な武器になる。
ここまで圧倒的なパワーなのだ。使わなければもったいないだろう。

「へっ、トリッシュよぉ、俺が何も知らねぇとでも思ったか?これだけ強力なのに誰も使いたがらねぇって事は、それだけ危ねぇって事だろ?使用後の反動は覚悟の上だ。それでも俺はあの青い髪のゴールド騎士をぶち殺すって決めたんだよ。これがてめぇの思い通りの結果だったとしても、てめぇに踊らされて動いたわけじゃねぇッツ!」

沸々ふつふつと沸き起こる苛立ちに、バージルは声を荒げて左腕を振り上げた!

そして一度沸き起こった苛立ちは、バージルの心を一気にかき乱した。

なんだよこのムカつきは!いつもなら聞き流せるトリッシュの皮肉も、今日はやけに苛々する!左腕も落ち着かねぇし、なんなんだよコレは!?さっきまで気持ちよくクインズベリーをぶっ殺してたのに今はムカつきが止まらねぇぞ!
もうなんでもいい!とにかく誰でもいいからぶっ殺してぇ!そうだ!まずは目の前のこいつらをミンチにしてやらぁぁぁぁぁーーーーーーーーッツ!


よほど恐ろしい顔をしていたのだろう。
バージルが拳を振り上げた時、目の前に立つクインズベリーの軍の兵士達は、一歩も動く事ができず、顔を青くして立ち尽くしてしまった。

バージルの左腕を防ぐ事は不可能。
それはここまでの戦いで十分に分かっている。だからこそ、クインズベリーの兵士達は死を覚悟した。

しかしバージルの左拳が、兵士達に振り下ろされたその時だった。


突如クインズベリー兵達の間を、何者かが音も出さずにかいくぐり、そして空気を斬り裂く程の鋭さを持って飛び出した!

「なっ!?」

なにかが光ったと思ったその時、バージルの右腕に深々と片手剣が突き刺さり、大きく体制を崩された。

「おい、あんま調子に乗ってんじゃねぇぞ」

黄金の鎧を身に着けるその男は、突き刺した片手剣を引き抜くと、一歩大きく後ろに飛んで兵士達の前に立った。

「ぐっ!き、貴様ぁ・・・・ッツ!」

バージルは右腕を押さえながら、憎々し気に睨みつけてくる。

「ここからは俺が相手だ。かかってこい」

ゴールド騎士のアルベルト・ジョシュアが、巨躯の男バージル・ビジェラの前に立った。
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