上 下
1,248 / 1,277

1247 想定外

しおりを挟む
こ、こいつ、なんだその右手は?

このオーラ、初めて見るが魔法や魔道具の類じゃねぇ。感じられるプレッシャーが一気に強くなるし、実際このオーラがあるのと無いので、パワーもスピードもだいぶ変わりやがる。

だが弱点もある。あまり長くは持たないみたいだ。途中でへばったのかオーラが消えたら、そのとたん息が上がりやがった。一時的な身体能力の上昇、それがこのオーラの力ってところだろう。

もう限界だと思ったんだが、まさかまだ出せるとは思わなかった。
しかも右手にだけオーラを集中させたってのか?とんでもねぇプレッシャーだ。



「受けてみろ!レオンクローーーーーーーーッツ!」

レイマートの闘気に気圧され、それまで果敢に攻めていたバージルの足が止まった時、レイマートは地面を蹴ってバージルに飛び掛かった。

全闘気を集中させた右手は、獲物を狩る獅子の爪のように指を立てられていた。
その指先はバージルの首ではなく、的の大きい胴体に向けられており、レイマートは叫び声を上げて必殺のレオンクローを繰り出した!



「ッ!」

バージルが己が失態に気付いた時には、すでにレイマートは地面を蹴っていた。

しまった!こいつのオーラに一瞬だが目を奪われた!どこだ!?どこにくる!?
首、いやこの軌道は腹だ!身長差を考えれば顔面への攻撃は腕を伸ばす分、浅くなりやすい。
腹を狙うって事は、こいつはこの一発を確実に入れる気だって事だ。当然普通なら腕でガードされる事を計算に入れるだろうが、このオーラの爪はダメだ!こいつは腕で防げるものじゃねぇ!

先手を取られた分一手遅れちまってる。反撃は間に合わねぇし、防御もできねぇ攻撃だってんなら、あとは躱すしかねぇ!

地面を後ろに蹴って体をのけ反らすと、弧を描くレイマートの右腕の範囲から、バージルの体が離れて行く。それでも完全に攻撃の範囲外に抜け出せたわけではない。後手に回ってしまった分、このままレイマートが右腕を振り抜けば、バージルの腹部に爪が当たる事は当たる。だがそれはかなり浅い。
深紅の鎧を斬り裂いたとしても、肉体へのダメージは、せいぜい薄皮一枚を斬られた程度のものだろう。


残念だったな、一瞬ヒヤリとさせられたが、この間合いならてめぇの攻撃は届かねぇぞ。
当たってもぜいぜい深紅の鎧を削るくらいだ。
そしてこれだけのオーラをかき集めての攻撃なんだ、平気な振りをしているが、これを外せばテメェも終わりなんだろ?
この一撃を躱したら、てめぇにはこの俺がトドメをくれてやるぜ!



ニヤリと笑うバーシルを見て、レイマートは嘲るように口の端を持ち上げて笑い返した。

へっ、馬鹿が!てめぇの考えなんざお見通しなんだよ!
確かにこのまま振り抜いても、てめぇにダメージは与えられねぇだろうな。
だがな、俺のレオンクローは闘気で斬り裂く技だ。放出する闘気が大きければ大きい程、爪もまた大きさを増していく。これがどういう意味か分かるか?

「オォォォォォォォーーーーーーーーーーッツ!」

レイマートが声を張り上げると、右手に纏う闘気の爪も、その大きさを一回り以上増した。
そしてそれは、後ろに飛んだバージルの体にも十分に届く。


「な、にィィィィィッツ!?」

目を見開くバージル。

「終わりだ、死ね」

もはや距離を詰める必要はない。
腹どころか上半身が斬り飛ばされそうなくらい、巨大な闘気の爪が振り抜かれた!




くっ!ま、まずい!これは駄目だ!絶対にくらったら駄目だ!
だがどうする!?この体勢じゃ躱せねぇ、防御もできねぇ!くらえば死ぬ!


迫りくる闘気の爪を前にして、バージルの脳内では思考が超高速で駆け巡った。
回避は不可能。防御も不可能。では防ぐ方法はないのか?

いいや、一つだけある・・・だが、これをやるには覚悟がいる。
うまくいく保証はないし、自殺するようなものかもしれない。
だがやらねば絶対に死ぬ。どうする?いや、迷っている場合ではない!

「なにッ!?」

回避にしろ防御にしろ、それはレイマートが想定した行動のどれでもなかった。

「ぐっ!うがぁぁぁーーーーーーーッツ!」

鋭い痛みとともに、バージルの左腕が肩口から斬り飛ばされた。

バージルのとった選択は、回避でも防御でもなく体当たりだった。
着地と同時に腹筋を使い、力で体を前に起こす。そのままレイマートのレオンクローに自らぶつかっていった。

バージルは左腕を犠牲にしてレイマートの懐に入り、命だけは守り抜いた。
距離を取るのではなく詰める。さらに自ら腕を差し出す事で、レイマートの攻撃範囲を制限したのだ。

そして覚悟があれば痛みには耐えられる。
左腕を斬り飛ばされる痛みは想像を絶していたが、覚悟を持っていたバージルは痛みに屈する事なく、次の行動を起こしていた。

「ぐがァッツ!」

レイマートの懐に潜りこんだバージルはそのまま頭を突き上げて、レイマートの顔面を打ち付けた!


野郎、あそこで前に出てくるだと!?こいつ不意打ちだけじゃねぇ!
土壇場で覚悟を決められる気迫がある!


鼻が潰され、血を吹き散らされる。
顔面への強烈な一撃によって、レイマートは条件反射で一瞬だが目を瞑ってしまった。
このレベルの戦いでは、一瞬でも相手から注意を外せば、次の瞬間に殺されてもおかしくない。

だがレイマートが次に目を開けた時、すでにバージルの姿は無かった。

「ぐっ、はぁ・・・ぜぇ・・・野郎、逃げやがったか・・・」

潰された鼻からボタボタと落ちる血をぬぐい、レイマートは口に入った血液混じりの唾を吐き捨てた。

腕一本を失ったバージルは、頭突きからの追撃を選ばず、この場からの離脱を選択した。
頭突きによってレイマートは一瞬だが両目を閉じた。バージルがその気ならば、もう一発拳を叩き込む事は可能だった。だがバージルが選んだ選択は逃走である。

いくら力に自信があっても、もう一発拳を叩き込んで決着がつく保証はない。
大量出血している中、戦闘を長引かせるわけにはいかない。

それにあれだけの深手を与えたのだ。しばらくは回復に専念せざるをえないだろう。
生き延びればいずれまた相まみえる事もあるはずだ。


「はぁ・・・ふぅ・・・俺も、限界だ」

一度大きく息をつくと、レイマートはその場にどかりと腰を下ろした。

「アルベルトさん・・・俺はちょっと休むんで、あとは頼みます」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

幼少期に溜め込んだ魔力で、一生のんびり暮らしたいと思います。~こう見えて、迷宮育ちの村人です~

月並 瑠花
ファンタジー
※ファンタジー大賞に微力ながら参加させていただいております。応援のほど、よろしくお願いします。 「出て行けっ! この家にお前の居場所はない!」――父にそう告げられ、家を追い出された澪は、一人途方に暮れていた。 そんな時、幻聴が頭の中に聞こえてくる。 『秋篠澪。お前は人生をリセットしたいか?』。澪は迷いを一切見せることなく、答えてしまった――「やり直したい」と。 その瞬間、トラックに引かれた澪は異世界へと飛ばされることになった。 スキル『倉庫(アイテムボックス)』を与えられた澪は、一人でのんびり二度目の人生を過ごすことにした。だが転生直後、レイは騎士によって迷宮へ落とされる。 ※2018.10.31 hotランキング一位をいただきました。(11/1と11/2、続けて一位でした。ありがとうございます。) ※2018.11.12 ブクマ3800達成。ありがとうございます。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

処理中です...