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1243 頭上の敵
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「始まったね」
クインズベリー軍の後方では、ケイトが結界を張ってレイジェスのメンバーを護っていた。
転がり落ちてきた大木を凌いだ後、クインズベリー軍を襲ったのは、雨あられの如く降り注いできた無数の爆裂弾だった。
今は前線の兵達が応戦しているため、後方のレイジェスはその戦いの様子を見ていた。
「ああ、大木を落としてきた後は爆裂弾の集中砲火だ。敵の作戦は単純明快だな、上から撃ち続ける。だがこの単純な戦法が、理にかなっていて有効だから困る」
誰に言うでもないケイトの言葉を拾うと、レイチェルは顔を前線に向けて自分の見解を口にした。
上から降り注ぐ敵の集中砲火に対して、クインズベリー軍は結界と風魔法を駆使して防御に徹している。
青魔法使いがサーチを行い帝国軍のおおよその位置は掴んでいるが、まだ肉眼では確認がとれていない。
しかし帝国軍は肉眼でクインズベリー軍の姿を捕捉できていた。
高い位置から山全体を見渡す事ができる事に加え、事前に斥候として送り込んだ兵によって、クインズベリーの動向を把握していた事も大きい。
いつ、どこから山へ入ってくるか、全てが筒抜けだったからだ。
そして何より、枝葉が枯れ落ちた雪の山中で、五万人という数は隠しきれるものではない。
だがそれは帝国にも同じ事が言える。
ジャロン・リピネッツ率いる第二師団も、五万の軍勢なのだ。
下から見上げた時、その姿が誰の目にも止まらないなどありえるだろうか?
最初にその疑問を口にしたのはアゲハだった。
「・・・おかしくないか?制空権を取っている帝国が有利なのは分かる。上から見ればこちらの全体像など丸わかりだろう。だけどこれだけ激しく攻撃をしかけてきているのに、後方にいる私達が見上げても、敵の姿がまるで見えない。たったの一人もだ。これはどういう事だ?」
山の上を睨みつけるアゲハの言葉に、ミゼルも顔を上げた。
「そう言えば・・・前線があれだけ爆裂弾を浴びせられているのに、敵の姿が全く見えねぇ。これはどういう事だ?帝国はどっから撃ってんだよ?」
クインズベリー軍を撃ちつける無数の破壊の光弾によって、前線では雪煙が巻き上がり、爆風の如く吹き荒れていた。
それは五万の軍勢の後方に立つ、レイジェスにまで届く程であった。
だが、それほどの攻撃をしかけているにも関わず、敵の姿が一切見えない。
攻撃魔法は確実に撃たれている。サーチでも居場所は捉えられている。
けれど出どころが見えない、分からない。
「おいおい、言われてみりゃそうだよな?敵も五万人だって聞いてるぜ。それがなんで一人もいねぇんだよ?雪ん中で隠れんぼか?」
「落ち着いてリカルド。多分、魔道具。なにかの魔道具で姿を隠してる。そこにいなければ攻撃はできない。だから敵はそこにいる。でもどうやって姿を消しているかが分からない。だから前線は防戦一方。攻めに転じられない」
眉間にシワを寄せるリカルドとは反対に、ユーリは落ち着いていた。
五万もの人間が一人も見えないなどありえない。そして姿を消す魔法が存在しない以上、考えられる事は魔道具だけだった。そこまで分析してレイチェルに顔を向ける。
「レイチェル、どうする?敵は絶対に上にいる。でも見えない。多分このままじゃここに釘付けになる。雪崩を考えたら位置的に魔法は撃てない。接近するしか道はないと思う」
そう、敵の姿は見えないが、今の状況では接近するしか道はなかった。
ユーリの言葉通り、雪山で下から上へ、攻撃魔法での応戦は危険である。雪崩はもとより、土砂やへし折れた樹が降って来て、結局は自軍がダメージを受ける事になる。
しかし頭上を取っている帝国は、クインズベリー程、山へのダメージを気にする必要はない。
崩落に巻き込まれる危険性を考えて、中級や上級魔法の使用は控えているが、初級魔法だけでも十分に戦場を支配する事が出来ている。
このまま撃ち続けていれば、いずれはクインズベリー軍を殲滅する事ができるだろう。
ユーリは身軽な自分達なら、この爆裂弾の弾幕を潜り抜けて敵に近づく事ができる。そうすべきではないのか?そうレイチェルにうったえかけているのだ。
「ユーリ、気持ちは分かるが、私達の出番はまだ先だ。私達が出れば突破口は開けるかもしれない。けれどここで力を消耗させるわけにはいかない。師団長やそれに準ずる敵が出てくるまでは、私達は力を温存しておかなければならない。そう決めただろ?」
レイチェルは首を横に振った。
それは山に足を踏み入れる前に、決めておいた事だった。
レイジェスの戦力は、個人で戦局を変えられる程のものである。
セドコン村での戦いから、それを認めたカルロス・フォスターは、勝利のためにレイジェスの力を温存すると決めたのだった。
「でも・・・・・うぅん、分かった。レイチェルの言う通りにする」
「ユーリ、安心しろ。クインズベリー軍は強い。それに前線にはあいつらもいるだろ?」
そう言ってレイチェルはニヤリと笑うと、前線に顔を向けた。
「オォォォォォーーーーーーーーーーッツ!」
光り輝くオーラが膨れ上がる!
それは頭上から降り注ぐ爆裂弾など物ともせずに消し飛ばした!
「レイマート!俺とお前で道を開くぞ!」
ゴールド騎士のアルベルト・ジョシュアが、剣を掲げて闘気を放出する!
「りょーかい、ちょっとこの爆裂弾がうっとおしいと思ってたんスよ」
アルベルトの闘気に当てられたゴールド騎士レイマート・ハイランドは、口の端を持ち上げてニヤリと笑うと、両手で剣を握り直した。
「ハァァァァァァァーーーーーーーーーーッツ!」
青く長い髪が闘気に呼応するように逆立っていく。
レイマートのそれは、アルベルトに勝るとも劣らない、大きくて力強いオーラだった。
ゴールド騎士に昇格したての頃には、フェリックスやアルベルトと比べて見劣りするところがあった。だが前回ここパウンド・フォーで闇蛇と闘い、死線を越えた今のレイマートは、先の二人に並ぶ程の成長を遂げていた。
「いくぞ!レイマート!」
「おう!」
二人の黄金の騎士の闘気が重なり合うと、山の上にいるはずの姿の見えない帝国軍に向かって駆け出した!
クインズベリー軍の後方では、ケイトが結界を張ってレイジェスのメンバーを護っていた。
転がり落ちてきた大木を凌いだ後、クインズベリー軍を襲ったのは、雨あられの如く降り注いできた無数の爆裂弾だった。
今は前線の兵達が応戦しているため、後方のレイジェスはその戦いの様子を見ていた。
「ああ、大木を落としてきた後は爆裂弾の集中砲火だ。敵の作戦は単純明快だな、上から撃ち続ける。だがこの単純な戦法が、理にかなっていて有効だから困る」
誰に言うでもないケイトの言葉を拾うと、レイチェルは顔を前線に向けて自分の見解を口にした。
上から降り注ぐ敵の集中砲火に対して、クインズベリー軍は結界と風魔法を駆使して防御に徹している。
青魔法使いがサーチを行い帝国軍のおおよその位置は掴んでいるが、まだ肉眼では確認がとれていない。
しかし帝国軍は肉眼でクインズベリー軍の姿を捕捉できていた。
高い位置から山全体を見渡す事ができる事に加え、事前に斥候として送り込んだ兵によって、クインズベリーの動向を把握していた事も大きい。
いつ、どこから山へ入ってくるか、全てが筒抜けだったからだ。
そして何より、枝葉が枯れ落ちた雪の山中で、五万人という数は隠しきれるものではない。
だがそれは帝国にも同じ事が言える。
ジャロン・リピネッツ率いる第二師団も、五万の軍勢なのだ。
下から見上げた時、その姿が誰の目にも止まらないなどありえるだろうか?
最初にその疑問を口にしたのはアゲハだった。
「・・・おかしくないか?制空権を取っている帝国が有利なのは分かる。上から見ればこちらの全体像など丸わかりだろう。だけどこれだけ激しく攻撃をしかけてきているのに、後方にいる私達が見上げても、敵の姿がまるで見えない。たったの一人もだ。これはどういう事だ?」
山の上を睨みつけるアゲハの言葉に、ミゼルも顔を上げた。
「そう言えば・・・前線があれだけ爆裂弾を浴びせられているのに、敵の姿が全く見えねぇ。これはどういう事だ?帝国はどっから撃ってんだよ?」
クインズベリー軍を撃ちつける無数の破壊の光弾によって、前線では雪煙が巻き上がり、爆風の如く吹き荒れていた。
それは五万の軍勢の後方に立つ、レイジェスにまで届く程であった。
だが、それほどの攻撃をしかけているにも関わず、敵の姿が一切見えない。
攻撃魔法は確実に撃たれている。サーチでも居場所は捉えられている。
けれど出どころが見えない、分からない。
「おいおい、言われてみりゃそうだよな?敵も五万人だって聞いてるぜ。それがなんで一人もいねぇんだよ?雪ん中で隠れんぼか?」
「落ち着いてリカルド。多分、魔道具。なにかの魔道具で姿を隠してる。そこにいなければ攻撃はできない。だから敵はそこにいる。でもどうやって姿を消しているかが分からない。だから前線は防戦一方。攻めに転じられない」
眉間にシワを寄せるリカルドとは反対に、ユーリは落ち着いていた。
五万もの人間が一人も見えないなどありえない。そして姿を消す魔法が存在しない以上、考えられる事は魔道具だけだった。そこまで分析してレイチェルに顔を向ける。
「レイチェル、どうする?敵は絶対に上にいる。でも見えない。多分このままじゃここに釘付けになる。雪崩を考えたら位置的に魔法は撃てない。接近するしか道はないと思う」
そう、敵の姿は見えないが、今の状況では接近するしか道はなかった。
ユーリの言葉通り、雪山で下から上へ、攻撃魔法での応戦は危険である。雪崩はもとより、土砂やへし折れた樹が降って来て、結局は自軍がダメージを受ける事になる。
しかし頭上を取っている帝国は、クインズベリー程、山へのダメージを気にする必要はない。
崩落に巻き込まれる危険性を考えて、中級や上級魔法の使用は控えているが、初級魔法だけでも十分に戦場を支配する事が出来ている。
このまま撃ち続けていれば、いずれはクインズベリー軍を殲滅する事ができるだろう。
ユーリは身軽な自分達なら、この爆裂弾の弾幕を潜り抜けて敵に近づく事ができる。そうすべきではないのか?そうレイチェルにうったえかけているのだ。
「ユーリ、気持ちは分かるが、私達の出番はまだ先だ。私達が出れば突破口は開けるかもしれない。けれどここで力を消耗させるわけにはいかない。師団長やそれに準ずる敵が出てくるまでは、私達は力を温存しておかなければならない。そう決めただろ?」
レイチェルは首を横に振った。
それは山に足を踏み入れる前に、決めておいた事だった。
レイジェスの戦力は、個人で戦局を変えられる程のものである。
セドコン村での戦いから、それを認めたカルロス・フォスターは、勝利のためにレイジェスの力を温存すると決めたのだった。
「でも・・・・・うぅん、分かった。レイチェルの言う通りにする」
「ユーリ、安心しろ。クインズベリー軍は強い。それに前線にはあいつらもいるだろ?」
そう言ってレイチェルはニヤリと笑うと、前線に顔を向けた。
「オォォォォォーーーーーーーーーーッツ!」
光り輝くオーラが膨れ上がる!
それは頭上から降り注ぐ爆裂弾など物ともせずに消し飛ばした!
「レイマート!俺とお前で道を開くぞ!」
ゴールド騎士のアルベルト・ジョシュアが、剣を掲げて闘気を放出する!
「りょーかい、ちょっとこの爆裂弾がうっとおしいと思ってたんスよ」
アルベルトの闘気に当てられたゴールド騎士レイマート・ハイランドは、口の端を持ち上げてニヤリと笑うと、両手で剣を握り直した。
「ハァァァァァァァーーーーーーーーーーッツ!」
青く長い髪が闘気に呼応するように逆立っていく。
レイマートのそれは、アルベルトに勝るとも劣らない、大きくて力強いオーラだった。
ゴールド騎士に昇格したての頃には、フェリックスやアルベルトと比べて見劣りするところがあった。だが前回ここパウンド・フォーで闇蛇と闘い、死線を越えた今のレイマートは、先の二人に並ぶ程の成長を遂げていた。
「いくぞ!レイマート!」
「おう!」
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