異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

文字の大きさ
上 下
1,243 / 1,370

1242 奇襲

しおりを挟む
バイロン・ロサは勘の良い男だった。

人の感情の機微もだが、とりわけ敏感なのが場所、環境の変化にである。
昨日までは普通に歩けた場所でも今日は違う、ここから先へは行きたくない。そう感じて立ち止まると、危険を避ける事ができた。

軍の遠征でロサが提言した事により、台風を避ける事ができた。
吊り橋の縄の痛みを見つけ、事故を未然に防ぐことができた。
深い森で迷った時も、ロサが道を示せばそこは出口に続いていた。


それが何度も続くと、次第に周囲もロサの勘の良さを噂するようになり、それはやがて軍の上層部にも伝わる事となった。

ロサがそんな能力を身につけたのは、彼の複雑な家庭環境が要因だったのかもしれない。
幼い頃に両親を亡くしたロサは、親戚の家に引き取られるも、人見知りが災いしてかなかなか馴染む事ができず、短い期間にいくつもの家を回される経験をしている。

生来大人しい性格のロサは、環境が変わる度に更に自分の殻に閉じこもるようになっていった。
やがて人の顔色ばかりを窺(うかが)うようになったロサは、嫌がらせをされる事も多くなり、その経験から常に周囲へ意識を向けるようになった。

どこに行けば安全か?誰の近くにいれば安心できるか?

そればかりを考え大人になったロサは、本人も意識せぬまま、無類の危険察知能力を身につける事となった。




「ロサ、どうだ?」

クインズベリー軍がパウンド・フォーに足を踏み入れ、三十分程登った頃、カルロス・フォスターは、先頭を歩くバイロン・ロサの背中に声をかけた。

「まだ大丈夫です。嫌な感じはしません。もう少しこのまま進みましょう」

足を止めずに顔だけ振り返ると、ロサは迷いの無い目で言い切った。
かつては人に怯えながら生きていた。だが軍に入り幾つもの戦場を駆け抜け、多くの経験を重ねたロサは、今や自分の勘に絶対の自信を持っている。

「そうか、ならばそうしよう」

ロサの返事を聞いて、カルロスは一つの疑問さえ挟む事なく決定を下した。
ロサの危険回避能力に、全幅の信頼を置いている証である。


五万の軍勢が隊列を組んで雪の山中を登っている。
パウンド・フォーの西峰はゆるやかだが、それでも雪山が危険な事に変わりはない。雪に慣れているクインズベリー軍も、足を滑らさないように慎重に一歩を踏んでいた。

ロサの先導がある中で、各自も警戒を怠らずに進軍しているのだから、敵の奇襲にも即座に反応できる。

クインズベリー軍は、順調に進んでいたはずだった。



それは山を登り始めて一時間が過ぎた頃だった。
先頭を歩くバイロン・ロサがふいに足を止め、山の上を睨むように見据えると、声を大にして叫んだ。

「来るぞ!結界を張れェェェェェーーーーーーーーーーッツ!」


訓練された青魔法兵は即座に動いたが、誰よりも早く行動を起こしたのは、カルロス・フォスターだった。
黒魔法使いのカルロスが結界を張る事はできない。だが黒魔法使いにも結界同様の防御方法はある。

振り返ったロサの顔を見た瞬間、カルロスはすでに風の魔力を発動し、ロサの前方に風の盾を作り出していた。
それは巨大な風の盾だった。ロサだけでなくその後ろにいるカルロス自身、その更に後方に立つ兵達も護れるくらいに大きな風の盾だった。

カルロスは山に入ってから一瞬たりとも気を抜かず、常に魔力を放出できるように備えていた。
そしてその魔力は、攻撃にも防御にも生かせる風の魔力である。
風ならば先制攻撃にも、不意を突かれた奇襲にも対応できる。
だからこそ振り返ったロサの表情を見た瞬間に、カルロスは誰よりも早く行動を起こす事ができた。

そして一瞬遅れて後方の青魔法使い達が結界魔法を使うと、瞬く間に青く輝く結界が五万人を包み込んだ。

これは一つの大きな結界を張ったわけではない。
青魔法使い一人一人が、あらかじめどの範囲まで結界を張るのかが決められていたのだ。
そのためクインズベリー軍五万人を覆う結界は、小さな結界の集合体という事になる。

そしてクインズベリー軍が防御膜を張った直後、足元が大きく揺れて、まるで雷でも落ちたかのような轟音と共に、何かが山の上から落ちて来た。


「なッ!?き、木だ!木が落ちてくるぞーーーーーッツ!」

前方に立つ兵士が山の上を指さして叫ぶ。
そう、揺れと轟音の正体は、山の上から転がり落ちてくる、何十、いや何百本もの大木だった。

「うろたえるなッ!これまでの訓練を思い出せ!お前達ならこの程度防ぎきれる!」

結界を張っているとはいえ、巨大な大木が頭の上に落下してくる光景は、いかに訓練られた兵であろうと恐怖をもたらすには十分であった。
だが最前線に立つカルロス・フォスターの一喝は、怯みそうになった兵達の気持ちを持ち直らせるには十分だった。

青魔法使い達は頭上に降ってくる大木から、目を逸らす事なく結界の維持に集中する。

大木が結界に衝突する衝撃は凄まじいものだった。
だが防御に全魔力を集中させた青魔法使い達は、打ち付けてくる何百本もの大木を全て防いで見せた。



敵の奇襲を凌ぎきった事で歓声を上げるクインズベリー軍。
その様子を数百メートル上から見下ろしているのは、帝国軍第二師団副団長、バージル・ビジェラ。

「へぇ、全部防ぎやがった。思ったよりやるじゃねぇか、ちょっとは楽しめそうだな」

バージルはニヤリと笑うと、右手を前に出して声高に号令を発した。

「黒魔法兵!一斉射撃だ!」

横一列に並び立っていた黒魔法使い達が、号令と共に破壊の光弾を撃ち放った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~

新米少尉
ファンタジー
「私は私の評価を他人に委ねるつもりはありません」 多くの者達が英雄を目指す中、彼はそんなことは望んでいなかった。 ただ一つ、自ら選択した道を黙々と歩むだけを目指した。 その道が他者からは忌み嫌われるものであろうとも彼には誇りと信念があった。 彼が自ら選んだのはネクロマンサーとしての生き方。 これは職業「死霊術師」を自ら選んだ男の物語。 ~他のサイトで投稿していた小説の転載です。完結済の作品ですが、若干の修正をしながらきりのよい部分で一括投稿していきますので試しに覗いていただけると嬉しく思います~

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~

夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。 全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。 適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。 パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。 全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。 ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。 パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。 突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。 ロイドのステータスはオール25。 彼にはユニークスキルが備わっていた。 ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。 ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。 LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。 不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす 最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも? 【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

隣国から有能なやつが次から次へと追放されてくるせいで気づいたらうちの国が大国になっていた件

さそり
ファンタジー
カーマ王国の王太子であるアルス・カーマインは父親である王が亡くなったため、大して興味のない玉座に就くことになる。 これまでと変わらず、ただ国が存続することだけを願うアルスだったが、なぜか周辺国から次々と有能な人材がやってきてしまう。 その結果、カーマ王国はアルスの意思に反して、大国への道を歩んでいくことになる。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...